第4話 迷宮都市ウェイブス①
「やっと終わったか」
「結構時間がかかったわね」
「木が邪魔で狙いにくかったからじゃないかな?」
3人だけで道を進んでいたソラ達。しばらく足止めされていたが、ようやく片付いたところだ。そんなソラ達の周りにあるのは……
「オークばかりか……多すぎるよな」
「森の中だから燃やすこともできないし……ソラ、お願いできる?」
「ああ、当然だ。まあ、道に出てきてるのを回収してからだな」
「そうだね」
大量のオーガの死体だ。道の周りだけでなく、森の中にもかなりの数が倒れている。あまりにも数が多すぎるて回収するのも大変なため、指輪に入れるのは半分だけとなった。残りは魔法で土に埋めて処分する。
「それにしても、まだかな?」
「予定なら今日着くはずよね?」
「ああ……ん?あれか?」
「え?見えたの?」
「少しだけだけどな。多分あれだ」
「良かったわね」
「うん」
「そうだな。じゃあ、行くか」
かすかに見えた光景に気を良くし、3人は駆け出した。
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「ようやく着いたわね」
「結構遠かったよね」
「城壁が高くて、遠くからでも見えたからだろうな。タジニアとそう違うわけでもないし……ここの気風か?」
「さあ?私達にそういうことは分からないわ」
「まあそうだな」
この町ウェイブスにある城壁は、似た境遇であるタジニアに比べて高く厚い。防衛能力は圧倒的に上だ。町の中もその気風にそっているのか巡回する兵士が多く、市民はそれに安心しているようであった。
そしてその建物は古い中国のものに似ていた。
「ねえ、あれ何かな?」
「見たことない料理ね」
「春雨に餃子……中華料理か?」
「何それ?」
「説明は難しいけど、こんな料理だ。油が多いから、大量に食べたいとは思わないな」
「そうなんだ。それで、食べてきていい?」
「一緒に買わないか?俺も食べたいしな」
「私もよ」
中華料理は地域によって味などが大きく異なる。ここのものが大丈夫かどうか、試しに屋台で餃子と麻婆豆腐を買って食べてみた。
「お」
「どうしたのよ?」
「これ、日本人好みのやつだな」
「よく分からないけど、それだとどうなるの?」
「油が少なくなったり、辛さが酷く無くなったりするな。基本的に食べやすくなるぞ」
「えっと、いっぱい食べれる?」
「ああ」
「やった!」
日本人好み……日本人が魔改造した料理の評価は世界でも比較的高く、場所によっては逆輸入されているほどである。味覚が日本人に近いこの2人なら、問題無いだろう。
そうして屋台を巡りながら進んでいると、目の前に人混みが現れた。
「何かやってるみたいね」
「何だろうな、あの人だかりは」
「行く?」
「ああ、面白いことかもしれないしな」
人が多すぎるため、ソラ達は近くの家の屋根の上に登った。そこから見た人混みの先では……
『ランサーをGの4へ!』
『ならアーチャーをHの6へ』
『ちっ。なら持ち駒のファイターをIの5へ!』
少し古めかしい衣装を着た人達が、建物の2階にいる人の指示に従って動いていた。さらに時折攻撃のように武器を振り、その先にいた相手は反対側の人の下に歩いていく。
「何これ?」
「人間将棋……みたいなものか?」
「これ、レルガドールよね?」
「あ、そっか」
「レルガドール?これの名前か?」
「普通はボードゲームね。1辺11マスの盤の上で、片側27個の駒を動かして取り合うのよ」
「取った駒は自分が使えるんだよ」
「へえ、面白そうだな。ルールを覚えてみるか」
「でも、結構難しいよ。駒の動きと、取れる駒も複雑だし」
「2人はやれるんだろ?俺もやれた方が良いじゃないか」
「それもそうね。今のゲーム、最短だと9手くらいで詰むわ」
「え?……あ、本当だ」
「……2人とも結構強いんだな」
これが分かるということは、相当やり込んでいるということでもある。意外すぎてソラはしばらく口が塞がらなかった。
『ヒーローをDの2へ。チェンジしアーチャーをアタック』
『くそ!やられた!マジシャンをGの7へ!ファイターにアタック』
2番目に豪華な鎧を着た男が盤の端に近づくといきなりマントを着、剣を振ってその先の格闘家らしき女性を倒す。
それに対して相手側はローブと杖の魔術師風の人を動かし、弓士と騎士と最下級の兵士らしき3人を倒した。
「ヒーローが最強の駒か?」
「ええ、そうよ。チェンジすると移動範囲と攻撃範囲が倍以上になるもの」
「……強すぎないか?」
「他も十分強いもの。さっきのマジシャンは範囲攻撃ができるしね」
「それに、トルーパーを壁にすれば防げるもんね」
「なんかゲームみたいだな」
「ボードゲームよ?」
移動範囲と攻撃範囲が異なったり、進化のようなことがあったりと、将棋と言うよりは最後の物語ゲームのようなものである。考えるのが大変そうだが、面白そうだ。
「大まかなルールは分かってきたな。細かい所はまだまだだが」
「むしろもう分かったら怖いわよ。この状態なら……後3手ね」
「うん、でも逃げる手も……あ、逃げた。また伸びるよ」
「どっちにしろ、この不利は変わらないわ」
そのままゲームは進み21手後、ミリアの言った通りに不利は覆されず詰んだ。
「予想的中だな、ミリア」
「ヒマだった時にやってたものね。それでソラ、駒と盤を買うのよね?」
「ああ。ルールは教えてくれよ」
「勿論。ルールは教えるからね」
「……なんだその含みのある言い方は」
「せっかくソラに勝てるチャンスだもの。教えすぎるのは嫌よ」
「おいおい……まあ、戦術とかは自分で考えるものだからな」
この後ソラ達は雑貨屋でレルガドールのセットを買い、宿で遊び始める。当然ながら、ソラはボコボコに負けた。初心者相手に2対1というのも中々酷いとは思うが。
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「どうだ?」
「まあまあね。悪くは無いけど良くもないって感じよ」
「わたしも同じだよ〜」
「俺もだ。つまり、いつも通りってことだな」
「うん」
「まあ、そう変わったりはしないわね」
「それもそうか」
この町がタジニアと似た境遇というのは、ここもまた周囲にダンジョンが多いことについてだ。そしてソラ達がやって来た目的も同じ、未踏破ダンジョンである。
「基本的に環境が酷い、で合ってるよな?」
「ええ、その通りよ」
「未踏破で酷いのは、マグマと洞窟と氷だってね」
「もう1ヶ所は出てくる魔獣が厄介だし、難易度は似たようなものか」
「どういう順番で行く?」
「言った順番で良いだろ」
「やりやすい、やりにくいは無いもんね」
「まあ、そんなところだ。面倒なやつはあるけどな」
ソラ達の場合、というよりもソラは、対応可能な属性が多いため苦手な属性が無い。それゆえ純粋に相手の強さで順番などを決めるのだが、今回の場合は差がほとんど無かったため、適当に決めた。
「そうだ。食料とかが今どれくらいあるか、確認した方が良いよな」
「そうね。毎回使った分は補充してるけど、確認した方が良いと思うわ」
「場所は宿だよな。そこでしかやれない」
「もしも何か足りなかったりしたら、買うってことで良い?」
「ああ」
「じゃあ終わったら、レルガドールをやる?」
「そうだな。できれば1勝はしたい」
「ソラ、どんどん強くなってるもの。それが冗談に聞こえないわ」
「前の世界で似たようなやつはやってたからな。それと、本気だ」
「ミリちゃん」
「ええ、本気でやらないと負けるわね」
「おいおい、やめてくれよ」
宿で確認した後、またレルガドールを始める3人。残念ながらソラはまた勝てなかった。




