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異世界成り上がり神話〜神への冒険〜  作者: ニコライ
第4章 絶望と希望と新星と

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第2話 湖都レマン②


「そっちはどうだ?」

「駄目だ。普通のアタリもない」

「そうか……移動するべきだな」

「ああ」


湖の氷の上に集まった多くの人達。彼らの大半は長時間動かず、時折移動してはまた動かなくなる。

そんな中で数少ない動いている影、その内の3つはソラ達だった。


「みんな大変そうだね」

「釣れる確率は低いらしいからな。見つけづらいせいでAランクの依頼になっているそうだし」

「湖の魔獣が強いせいもあるそうよ。冬はこの氷のおかげで魔獣がこないから大丈夫らしいけど」

「おかげで冬はランク指定が無くなるんだったよね?」

「ああ。と言っても、受けれるからって成功する保証は無いそうだがな。違約金が発生しないだけでもおいしいか」


レマンの冬には、とある依頼のランク制限が無くなる。冬になって湖に氷が張り、魔獣との遭遇が少なくなることが理由だ。依頼の対象そのものに危険は無い。

だが、その成功確率はとてつもなく低いのだ。


「どのあたりが良いかな?」

「そうね、下の様子が分からないし……」

「そうなると、何処だろうと変わらないだろうな。他の人達と少し離れた場所で良いんじゃ無いか?」

「でも……本当に釣りしか無いのかな?」

「ここは比較的浅瀬らしいし、一応魔法で水を操ったり、全て凍らせることもできなくは無いが……」

「できるの⁉︎」

「相手の正確なサイズとか、魔力の特性とかを知らないからな……恐らくは外れに終わるだけだ」

「まあ、そうよね」

「それに氷を割れない程度でも魔獣はいるからな。地道に釣りをするだけだ」


氷魔法を利用し、氷に3ヶ所ほど穴を開ける。その穴の直径は30cmほどで、ギルドで受けた説明で指定されたサイズだ。つまり、ほぼそれくらいの大きさだということである。

そして3人はそれぞれの穴に釣り糸を垂らした。勿論氷の上に座るつもりなど更々(さらさら)無く、簡単な木の椅子を使っている。


「しばらくは来ないだろうな」

「そうね。この状態で落ち着かないと」


穴を開けた時、魚が驚いて逃げてしまう場合もある。そのため糸を垂らし、しばらく待つ必要があるのだ。

そうして待っている間、最初に変化があったのはフリスの竿だった。


「あれ、突っついてる?……後少しだね」

「フリスの方が先に来たか。問題無いよな?」

「ええ。私もフリスも釣りは時々なってたから」

「やり方は分かってるよ」

「じゃあ頼む」

「うん。まだ……今!」


この釣りでは竿を使わず、革手袋をつけた手で糸を直接操るやり方を取っている。人によっては苦手だったりもする釣り方だが、3人とも問題無い。

当たりを感じたフリスが糸を手で手繰り寄せていくと、魚の影が見えた。そこでフリスは一気に引き上げる。


「釣れた!……これ違う?」

「ああ、そうだな。まあ売れるし、保存しておけば大丈夫だろ」

「……ソラの保存の仕方は豪快よ」


針に食いついているのは青い鱗を持った全長約40cmのベラに似た魚だ。そしてソラはエラの部分を切って血抜きした後、魚の周りに氷のブロックを作り出して保存した。豪快すぎるが、間違ってもいない。


「よし釣れた!」

「こっちも来てるわね」

「頑張って、ってこっちも!」


その後しばらく入れ食いとなり、様々なサイズの魚が15匹釣れた。そしてそれだけの数の氷のブロックが置かれている。


「結構釣れたな」

「本当に大漁よね。依頼は達成できていないけど」

「いつになったら釣れるんだろうね?」

「さあな。途轍もなく確率が低いとしか聞いていないし」

「そう言っていたわね」

「じゃあ、ずっと釣りだね。でも、お腹すいた」

「あー、どうする?」

「この魚で料理も作れるわよ?」

「じゃあ、頼めるか?」

「ええ。私も食べたかったしね」

「お願い」


ソラは氷を溶かし、2匹をミリアに渡す。それをミリアは手際よく(さば)き、形にしていった。火に関してはソラの魔法で補う。

献立はご飯を主食に、おかずは刺身と煮物、そして鍋となっている。だが2つある鍋の片方は具が入っていなかった。


「この鍋は何だ?」

「しゃぶしゃぶよ。バルクさんのお店では肉だったけど、魚でもできるって聞いたから」

「美味しかったあれ?」

「ええ。寒い中で冷たいお刺身は少しね……」

「確かにそうだな」


中に入っているのは出汁らしく、これの合わせ方もバルクに聞いたらしい。熱心なことだ。

そんな話も短めに終え、3人は食べ始めた。


「美味しい!」

「ここまで再現するのか……凄いな」

「そんなこと無いわ。まだまだバルクさんの方が美味しいのよ?」

「あいつのが美味いのは当たり前だ。本職なんだからな。だが、ミリアは本職じゃないのにここまで作れてるんだ。それに毎日食べられる分、ミリアの方がポイント高いぞ」

「そ、そう……ありがと」


なおこの食事は周りにかなり見られており、いわゆる飯テロ状態だったのだが、3人とも気にしていない。周囲からしたらとんだ迷惑である。


「それにしても、目的のやつは釣れてないなあ」

「他の人達もそうみたいね」

「100人はいるよね?」

「ああ。これだけの数がいて釣れないなら……違約金を取らないのも納得か」

「そうなの?」

「ほとんど釣れないのに違約金を取るなんて馬鹿みたいだろ?」

「そうね。依頼じゃなくて買い取りみたいなものだし」


なおソラ達が後で聞いた話だと、10日に1匹釣れたら良い方らしい。確かに違約金なんか取れないような馬鹿な確率だ。それによって、この場には奇妙な均衡が生まれている。

が、そんな均衡はすぐに壊れた。


「あ、来っ⁉︎」

「フリス?どうしたの?」

「お、重いよ……」

「大丈夫か?」

「何とかなるけど……ちょっとつらいかも」

「ミリア、糸を上げるぞ」

「ええ、いつでも手伝えるようにした方が良いわね」

「お願い……」

「頑張れよ」

「うん」


竿が無いため分かりづらいが、今回の引きはかなり強い。後衛だが、フリスの身体強化は一般的に見れば高い部類に入る。そんなフリスが苦戦しているのだから、相手も相当だ。

そのためソラ達は交代しつつ、少しずつ引き上げていく。そして3回目のフリスの番で、ようやく釣り上げた。


「釣れたよ!」

「大当たりじゃないか⁉︎」

「えへへ、どう?」

「凄いわよ!本当に!」

「ああ凄いぞ。それにしても、綺麗な魚だな」

「うん、7色なんて凄いよね」

「本当、綺麗よ」

「レインボーフィッシュなんてそのまんまな名前だけどな」

「そのまんまって?」

「虹は7色だから……って、虹は7色か?」

「虹って……5色よね?」

「そうだよ」

「あー、地域差なのか日本準拠にしただけなのか……気にしなくても問題は無いな」


釣れた魚、これが今回の依頼の対象だ。体は細長く、幅が30cmほどなのに対して全長は2m近くある。まるでリュウグウノツカイのような姿だが、その鱗は虹色のグラデーションをしていた。本当に綺麗な魚である。

日本だったら各地の水族館にいそうな魚だが、ここレマンでは違う。この魚の鱗や骨は高位の魔法薬の材料になるのだ。これはレマンでは有名な話だそうで、特に秘密にされていない。表立って下手なAランク魔獣よりも高く買い取られるのだから、隠しようも無いのだが。

そのためソラは他の魚と同じようにレインボーフィッシュを氷に閉じ込めた。


「さて、この後はどうする?」

「うーん……今日は全部釣りしたいな」

「じゃあ、それで良いか」

「私も良いわよ」

「良いの?」

「久しぶりだし、もっと釣りたいもの」

「戻ったってやることは無いし、楽しいからな」


この後も釣りを続けたソラ達だが、レインボーフィッシュはフリスの1匹しか釣れなかった。それでも3人は楽しみ、意気揚々と町へ帰っていった。









ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー










「まさか中央部への指名依頼が来るなんてな」

「仕方が無いわよ。相手が相手だもの」

「わたし達以外に相手できる人は少ないと思うよ?」

「まあそうか」


数日後、3人は湖の中央を目指して歩いていた。レマンに来たばかりのソラ達が指名依頼を受け取るのは珍しいことだが、この町では仕方が無いのかもしれない。

レマンの冬は寒いため、魔獣の活動は鈍くなる。そのため高ランク冒険者の多くは他の町で冬を越しているのだ。そのため、来たばかりのソラ達にまで依頼がまわってきた。


「さて、どこにでてくるやら」

「本当、そうよね。今までで一番大変かも」

「見つけることならできるかもしれないけど……」

「もし、手出しができない場所にいたらな……」

「でも依頼が来たってことは、少なくとも見つけられたってことでしょ?」

「まあ、それはそうだっ、散らばれ!」

「来たよ!」


先ほどまでソラ達が立っていた場所、その下から突き上げられたのは巨大で長い口だ。湖面から上に出た部分だけでも2.5m、しかもその下にもまだ続いている。全長など想像もつかない。

ソラ達が受け取った情報と寸分違わぬその姿、想定はしていたが予想以上に厄介だ。


「モサアビス……早かったな」

「これは……戦いづらいわね」

「ああ。前にやったみたいに、氷に閉じ込めるなんてことはできないな」

「簡単に割られちゃいそうだね」

「Sランクじゃなかつただけマシかもしれないな。こんな場所じゃまず無理だ」

「Aランクでも難しいわよ。あんな大きさだとね」

「大きいけど速いし」

「それはまだやり方があるからマシだ。ん?今度は遠くにっ、魔法か!」


少し遠くに顔を出したモサアビスは口に集めた水をウォーターカッターのように撃ち、そのまま体ごと口を回して薙ぎはらう。3人ともギリギリ回避したが、反撃する時間は無かった。


「こんなのもあるのね」

「防ぐのは……ちょっと大変かも」

「火で蒸発させるくらいしか方法が無いからな。火力もかなり必要だし……避ける方が確実か」

「それで、どうするの?」

「避けて突き上げに合わせて当てる……これが一番確実か」

「そうね。じゃあ次はそうしましょうか」

「分かった」


パターンに当てはめやすい相手は、やり方さえ分かれば戦いやすい。再び飛び出してきたモサアビス、それをしっかり避けたソラ達は反撃に移る。

飛び出した口にソラとフリスが放った雷を直撃させた。だがモサアビスは、何も無かなかったかのように再び潜っていく。


「え⁉︎」

「……雷に耐えたわね」

「耐えた、のか?」

「どういうこと?」

「可能性の話だが……水を伝って雷が逃げたのかもな」

「そんなことがあるの?」

「ああ。だが、水というよりかは粘液か?厄介な……」

「どうする?」

「……次は俺だけでやってみる。俺の後ろにいろよ」

「うん」

「勿論」


飽きずにまた来たモサアビスの口を避け、ミリアとフリスが後ろにいることを確認したソラは、光を蓄えた薄刃陽炎を横に構え……


「はぁ!」


一閃して光の刃を飛ばす。十分な魔力を込めた光刃は、まるで豆腐のようにモサアビスの口を斬り飛ばした。沈んでいったモサアビスはしばらく暴れたようで氷が揺れたが、それもすぐに収まる。


「直接斬っても良かったんじゃないの?」

「流石に氷の上だと踏み込みがしづらいからな。確実性を求めた結果だ」

「確実性なら直接の方があったと思うわよ?」

「それと……」

「どうしたの?」

「こんな寒い中で血塗れなんて嫌だしな」

「確かにそれはそうね」


こんな寒い中、濡れるのは嫌だろう。それが血というのは流石のソラも遠慮するようだ。


「ねえ、この下にいるんだよね?」

「ああ、そうだろうな」

「どうやって確認するの?」

「割れば良いだろ」

「あ、そっか」

「あの穴から引き揚げるなんて面倒だしね」


ソラは火魔法を使って氷を溶かし、風魔法で氷を割っていく。2段構えでやったため、すぐに全体像を見ることができた。その姿は……


「……大きいわね」

「ああ、デカいな」

「こんなに大きくて大丈夫なのかな?」

「それだけこの湖は深いんだろうな。予想通りなら下にはもっといるぞ」

「え……」

「目撃談は少ないから上の方に来ることは少ないだろうけどな」

「……それなら大丈夫ね」


全長20mはあろうかという大きな魚のような死体だ。だがその口は長く、切断した部分を含めると4m近くあり、口の中には鋭い牙が幾本もあった。地球にいたモササウルスとはかなりかけ離れた、だがどこか似た姿である。

それを持ち帰ろうとしたソラ達だが、1つ重要なことを忘れていた。


「そう言えば……」

「どうした?」

「これだけの大きさ、指輪に入るかしら?」

「あ……どうだろうな?」

「中にたくさん入ってるもんね。食べ物とか、服とか、お金とか」

「まあ、無理だったら尾の先を切り取れば……」


ソラが少し身を乗り出してモサアビスに触れると……死体は光に包まれ、消えた。


「……入ったな」

「……入ったわね」

「……入ったね」

「どんな容量してるんだ、これ?」

「ソラ君は知らないの?」

「流石にな。最低でも城並の容量があることは分かってるが、限界を試すなんて恐ろしくてできないし……」

「中に入っていたものが一気に溢れる、なんて嫌ね」

「分かってる範囲内で使えば良いんじゃないかな?」

「その上で知ることができるように努力するべきよね?」

「そうだな。やるしかないか」

「頑張ってね」


このままソラ達は町へ帰り、数日後に次の町へ向けて旅立った。





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