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異世界成り上がり神話〜神への冒険〜  作者: ニコライ
第3章 懐かしき日の本

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第16話 古都ロスティア④

「はぁ……」

「お疲れだな、ソラ」

「あれで疲れないわけが無いだろ……行ってみるか?」

「俺はゴメンだ」


ロスティアのバルクの料亭、そこで疲れた雰囲気を盛大に出しているソラ達。古城から帰ってきて疲れているのは分かるが、わざわざ3人そろって入り浸り、そろって和服というのはなんと言えば良いのか。


「帰ってきたら3日経ってたとか……浦島太郎かよ」

「中にいた時間は短かったのか?」

「あ〜……仮眠もしてたし、妥当なところか?」

「……私は分からないわよ?仮眠なんてほとんどできなかったんだから」

「わたしは……わかんない」


結界を使えないミリアは安心して休めない。そのため、疲れは3人の中で最も溜まっていた。疲労の色もも1番濃い。


「ミリアはしっかり休んでおけよ。疲れが残っていたせいで負傷なんて笑えないからな」

「ええ、そうね……マリーさん、ベットを借りても良いかしら?」

「ベット……布団ね、良いわよ。奥に敷いておくわ」

「ああ……お願い」


ここは宿屋では無いため、こういった会話がなされることは無い。ロスティアでは布団が一般的であり、ベットを知らない人もいたりする。

ミリアはマリーに案内され、奥の部屋へ行く。しばらく起きてこないだろう。


「それにしても……なあ、バルク」

「ん?どうした、ソラ?」

「あの古城っていつから人が入ってないんだ?」

「俺に聞くか?まあ、顔は広い方だが……」

「お前の顔が広いってのは情報屋としてやってけるレベルだろ。それで?」

「詳しく調べないと分からんけど、ここ200年で中に入ったなんてことは聞いてないな」

「定期的に調査するものじゃないのか?」

「近くにある砦の方は毎年調査されてるぞ。だから、あの城が何か特別なのか……」

「そうか……俺も調べてみよう。知ってそうなのは……ギルドマスターだな」

「おいおい、冒険者ギルドのマスターがそんなこと話すと思ってるのか?その前に、会えないだろ」

「いや、大丈夫だ。後で詳しい報告に行くからな」

「そういえば、簡単な報告しかしてなかったんだったか」

「3人とも見た目が酷かったらしいからな。明日来いってさ」

「その時に聞くか。確かに良いな」


悪巧(わるだく)みというほどでは無いが、公にされていないことを調べようとする2人。だが、理由自体は正当だ。自分や家族を守るためなのだから。


「なんか2人が黒いことやってる〜……」

「大丈夫よ。きっと私達のためでしょう」

「マリーさん。ミリちゃんは?」

「もう寝たわよ。ほんと、疲れてたのね」

「そっか。あ、着物は?」

「ちゃんと近くに置いてあるわ。寝巻きに着替えさせたもの」

「そっか〜」


が、その雰囲気は悪巧みを通り越して腹黒に見えたらしい。これを後で聞いた2人は思わず苦笑いしていた。


「さてまあ、今日はゆっくりするさ」

「客としてだよな?」

「ああ、どうせメシはここでとるしな」

「じゃ、豪華にいっとくか」

「お、ありがとな」


結局3人はこの日、バルクの店からほぼ動かなかった。








ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー









「……という感じです」

「そう……ご苦労様でした」


ロスティアの冒険者ギルド、まるで武家屋敷のような建物の3階、ここにギルドマスターの執務室がある。そしてソラ達は古城に関する報告をするため、ここに招かれていた。

ここのギルドマスターは、緑髪紫眼のダークエルフの女性である。見た目は20歳といったところだが、先代魔王が戦争を始めたころからギルドマスターをしているという歴戦の猛者だ。

なおダークエルフとは言えどロスティアに住んでいるため、和服を着ている。留袖では無く鎧下のような戦闘も意識した服装だが。


「それほど驚いていないんですね」

「ええ、予想はできたから」

「やはり……最近しか調査してないのはその根源が原因ですか?」

「ちょっとソラ⁉︎」


直球だが、回りくどい方法を取る意味は無い。第一、人生経験が違いすぎて駆け引きなど不可能なのだから。


「ふふ、この町へやってきて日は短いというのに、詳しいのね」

「良い友人に恵まれましたから。それにしても、隠す気なんてあったんですか?」

「このことは本来、この町の領主とその側近、冒険者ギルドの幹部しか知らないわ。けど、調査した貴方達なら知っていても問題無いから」

「つまり、この町に来て日が浅い私達は捨て駒だったってわけね」

「……残念ながら、その通りよ」

「まあ終わったことなんだし、もう気にしなくて良いだろ。さて、あそこで何があったか教えてもらえますか?」

「もちろん。あの場所には200年前、SSSランク魔獣のアンデットロードが出てきたのよ」


SSSランク、それは冒険者魔獣問わず最上位の戦闘能力を持つ証であり、一般人からすれば絶望クラスの存在だ。SSSランクの中にも実力に大きな開きがあるとはいえ、ソラ達もまだ勝てるとは思えなかった。


「アンデットロード……」

「ええ。しかも、先代魔王の側近の1人とされているわ」

「先代の?勇者は倒せなかったのですか?」

「相対していたのは勇者の仲間だったんだけど……先代魔王が倒されたと同時に逃げたそうなのよ。側近のもう1人の生き残りと一緒に行動している、私達はそういう見解よ」

「もう1人の生き残り?」

「残念ながらいるのよ。アンデットロードは魔法使いなんだけど、もう1人は接近戦を得意としていたわ。種族は分からないけど……」


話でしか聞いたことは無いが、最後の戦いは相当の激戦だったそうだ。それを生き抜いただけでも化け物クラスなのだが、その中でも強いとされる側近、相当レベルである。


「ちなみに……その時の被害は?」

「まず最初に、近くにいたCランク冒険者2パーティー11人、Bランク冒険者1パーティー7人が全滅。さらに調査に赴いたAランク冒険者3パーティー17人、Sランク冒険者1パーティー5人も全滅。そこで合同調査団を組織し、SSSランク冒険者3人、SSランク冒険者7人、Sランク冒険者15人が向かったけど、SSランク1人とSランク3人以外は死んだわ」

「そんなに……」

「だけど、生還者が出たおかげで存在を知ることができたのも事実よ。60人の命と等価かは分からないけど……」

「そうね……でもその結果がアンデットロード……」

「ええ、当時もかなりの騒動だったわ。知っているのが上層部だけとはいえ、相手が相手だから」

「だよね……」

「……なら何故今回の調査を?俺達の前に行った人達はランクが高いわけでは無かったと思いますが」


確かにその通りだ。200年もの間調査していなかったのに、なぜその禁を破ったのか。

その問いに対し、ギルドマスターは頭を痛そうに押さえ、苦い顔で語った。


「実は、最初に調査したのは男爵家に雇われた人達なのよ……古城の周りだけを探索して異常無しと言ってきて……よせば良いのに、今度は男爵家の嫡男自らが古城の中に……当然ながら行方不明。私達も探さないわけにもいかなかったのよ」

「なるほど……ではなぜ俺達に?この町にはSランクパーティーもいますし、貴女はそれ以上ですよね?」

「彼女達よりも貴方達の方が強いでしょう?それに、私にはパーティーがいないから。貴方達が1番良かったのよ」

「自信満々に言うんだね」

「事実なのよ、これが。それに私は光魔法を使えないから、結果的にも良かったわね」


ランクに比して強力、という存在は稀にいる。人側、魔側問わずだ。歴戦の猛者である彼女は何度もそういった存在を見てきた経験と対峙した時の雰囲気から、ソラ達の実力をかなり正確に推察していた。


「確かに。それで今回の結果、貴女はどう見ますか?」

「分からないわね……あれだけだと目的が何なのか……」

「ミリア、フリスは?」

「無理ね。権謀術数(けんぼうじゅっすう)なんて分からないわ」

「わたしもわかんないけど……ソラ君は何かあるの?」

「俺は……あれはテストケースなんだと思います」


ソラが持つ自分なりの考え、それはある意味で最悪の想定とも言えた。


「テストケース?」

「あそこの核となっていたのはグレーターデーモン、意識を囚われ弱くなっていたとはいえ、Sランクの大物でした。しかし他に出たのはゾンビやスケルトンなど、D・Cランクの小物だけ。あれが本命ならAランクやBランクもいるでしょうし、グレーターデーモンにも護衛がいるはず。それが無いってことは……」

「あの城はただの実験場、本命は他にある可能性が高い。そういうことね?」

「ええ、その通りです」

「そうね……確かに考えられるわ」


あれだけでもかなり厄介だったのに、それの上があるかもしれない。予想したくもないが、かなり説得力がある話だ。

だが今は、それも関係無い。そのような場所があるという報告は無いのだから。


「ありがとう。報告だけじゃなくて意見までもらっちゃったわね」

「いえ、この町には友人もいますし、彼らの安全の為ならこれで良いですよ」

「そういえば、そんなこと言ってたわね」

「ええ。ああそうだ、できれば勇者について教えてもらえませんか?」

「勇者って……私が知っている勇者はいないわよ?今勇者はいないのは知ってるわよね?」

「ええ。ですが強くなるという目標がある以上、いずれ関わってくるでしょう。その時のために知っておきたいんです」

「分かったわ。私が知っている限りで話しましょう」

「ありがとうございます」

「彼女はね……聖剣を持っていたわ。光魔法を使って仲間を守りつつ、光の付加をした聖剣で敵を斬り裂いていった。身体強化もかなりのレベルよ」

「具体的にはどれくらいだったの?」

「そうね……魔王と1対1で戦って勝つほど、ね。本当に、最後は1人で戦ったのよ?」

「劇のやつ、誇張じゃなく真実だったのか……」

「ええ。あの時はギルドマスターといえど結構戦っていたわ。そのせいで、当時は私もSSSランク並の力はあったわね。そんな私が手足も出ない、そう思ったのが勇者とその仲間達よ」

「仲間もなの?」

「彼女とパーティーを組んでいた人達も、勇者ほどでは無いけど強かったわ。さっき言ってたアンデットロードと戦っていたのは2人よ」

「そんなに強いんですか……」

「ええ、でも……きっと貴方の方が強くなるわ」

「「え?」」


いきなりきた爆弾発言。これに反応したのはミリアとフリスだけであり、ソラは黙ってギルドマスターを見ていた。


「……勇者はこちら側の最強ですよね?どういう理由かは分かりませんが」

「ええ、それは正しいわ」

「ソラが勇者だって言いたいの?」

「いいえ、違うわ」

「……どういうこと?」

「ただの勘よ。でも何故か外れる気がしないわね……ごめんなさい、おばさんの戯言よ」

「おばさんって……まだ十分お綺麗ですよ」

「あら、嬉しいわね。今晩一緒に、どう?」

「お断りします。というか、嫁の前で誘わないでください」

「あら、そこまで進んでいたのね。初々しいカップルの方が遊びがいがあるんだけど」

「やめてください。ミリアも乗せられるな」

「う……だ、大丈夫よ」


ミリアはギルドマスターの露骨な悪戯に反応してしまい、ルーメリアスに手をかけていた。惚気話に反応しなくなったのがこっちに来たか。


「まったく……では、俺達はこれで行きます」

「ええ、今日までありがとね」

「こっちはもうこりごりですよ……」

「報酬は増やしておくから。貴族からぶんどってやるわ」

「……ほどほどにしておいてくださいね?」


報告して楽になるどころか余計な爆弾を抱えてしまい、ソラは来る時より疲れていた。







ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー








「ソラ、もう行くのか」

「ああ、依頼も受けてるしな」

「もう少し長くいても良かっただろうに……」

「また来るさ。死ぬつもりは無いからな」


数日後、ソラ達とバルク達は門の前へ来ていた。1ヶ月ほど滞在したロスティアだが、ソラ達が次の町へ行くためだ。

なお、季節は冬だがベフィアはほとんど問題無い。幾つかの例外を除けばちゃんとした防寒具さえ持っていれば、野営しても凍死するようなことは無いためだ。むしろ魔獣の活動が沈静化するため、商人達の中には冬こそ稼ぎ時と言う人もいるほどだ。


「おねーちゃんたち、行っちゃうの?」

「ごめんね。でも、また来るから」

「ほんとう?」

「本当だよ。良い子にして待っててね」

「「うん」」

「……(なつ)かれたもんだな」

「あの2人ばっかだけどな。俺は子どもの相手はそんなに得意じゃない」

「教えるのと一緒に遊ぶのとは違うって言ってたな」

「そういうことだ」


メルとアルはミリアとフリスにかなり懐いていた。2人の子どもの扱いが上手というのもあるが、年上の従姉(いとこ)のような感覚でいたのが主な要因だろう。


「来たばかりの頃は慌ただしかったのに、最近はゆっくりしてたよな」

「まあ、古城で相当疲れたからな。あの後はそんなに依頼も受けなかったからさ」

「暇な時は基本ウチの店にいたけどな」

「良いだろう。従業員もやったんだから」

「まあそうだが」


ソラ達は古城を探索した後、日帰りできる依頼のみ受け、数も少なくしていた。結果休みの日が多くなったのだが、その休みの大半をバルクの店で過ごしたのだ。客としてだけでなく臨時の従業員として働いたりもして、ミリアもフリスも楽しんでいた。……ソラは力仕事兼皿洗い兼用心棒で、こき使われたり、騒動を起こした客をつまみ出したりしていたのだが。


「それにしても……客を威嚇するもんじゃ無いぞ」

「はっ、人の嫁に手を出す方が悪い」

「2人ともしっかり避けてただろ」

「それでも、だ。第一、あんなにマナーが悪い客は嬉しいもんじゃないだろ」

「いやまあウチは居酒屋じゃないが……酒呑んでああなる人はいるぞ?アレは酷かったが」

「だったら良いだろ」

「そうだな。その後の芸の方が盛り上がってたが」

「それは言うな」


ソラは騒がしくしたお詫びとして、簡単な芸を披露していた。と言っても凝った物ではなく、投げ上げたリンゴを居合で8等分にしたり、投げられた食材を斬って鍋に入れる、などだ。

お客からはかなり好評だったが。


「ああそうだ。ソラ、良いこと教えといてやる」

「良いこと?なんか(たくら)んでないだろうか?」

「大丈夫だ。実はバードンにはな……」

「……マジか?」

「マジだ」

「アレがあるのか?」

「アレがあるぞ」

「……よし」

「はは、やっぱりお前も楽しみか」

「当たり前だろ。日本人だぞ」

「まあそうだな」


バードンには日本に関係した何かがあるようだが、その正体はすぐに分かるだろう。

こんな風に話していると、隣にいた商隊が慌ただしくなる。どうやら間も無く出発するようだ。


「もう準備も終わったみたいだな」

「そうか……またな、ソラ」

「ああ。また来るぞ、バルク」


ソラ達3人は商隊に付き添い町を離れ、バルク達4人は地平線に隠れるまで見送った。




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