第15話 古城③
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これで最後です
「行き止まり……」
ミリアは立ち止まる。目の前には石壁があり、後ろにはゾンビの大群が迫ってきていた。逃げ場が完全に無くなってしまったのだ。
「ここが実は出口……なんて都合のいいことは無いわよね」
そうなら非常に嬉しいのだが、ミリアはそれを確かめる術を持たない。試してみてもいいが、間違っていた時のリスクが大きすぎた。
「覚悟を決めるしか無いわ……」
ミリアは振り返り、ゾンビと相対する。この数を相手にするのは嫌なのだが、やるしかあるまい。
「ハァァ!」
得意のヒットアンドアウェイを繰り返し、ゾンビ達を斬り飛ばしていく。だが……
「簡単に!倒れて!欲しい!わね!」
浄化系の魔法を使えないため、ゾンビはすぐには倒れない。腕を斬り飛ばしてもそのまま迫ってくるし、頭を落としてもそのままだ。縦だろうが横だろうが真っ二つにしても迫って来ていた。
神器となったためか、胴体から切り離されれば倒せるのが救いだが、迫ってくる方が早かった。
「こんなことだったら……ソラからファウガストを貰っておくべきだったわ……」
ミリアが持つもう1つの神器、アクレンティアの属性は水であり、アンデットに効果は無い。火のファウガストなら効いたのだが、それを持っているのはソラだ。鉱魔でファウガストを主に使っていたのはミリアだが、普段は必要無いだろうということでソラにあずけていた。1人きりになって戦うつもりなど無かったからなのだが、それが裏目に出てしまった。
「……酷い見た目、ねっ!」
逃げていた時とは異なり、今は腕や首を優先して落としている。足が攻撃手段として用いられることはほとんど無いためだ。攻撃してこないのなら、まだ壁として利用できる。
「っ⁉︎くぁ!」
だが、時折出てくる武器を持ったゾンビ。ここまで密集するとこいつらが厄介だ。ゾンビは味方に当たることなど気にせず振り回すため、肉の盾は意味が無く、さすがのミリアもくらってしまう。両腕は何度か剣によって切り傷がつけられていて、右の太腿には槍の穂先が刺さっていた。
「もうっ、さばけない……」
いくらミリアでも逃げ場が無く、無数の敵に押され続ければ、いずれ限界が来てしまう。
「ソラ!早く来てよ!」
迫りくる槍がミリアを貫く直前、無数の光弾が石壁から放たれ、ゾンビ達が倒れていく。武器を持っているものも持っていないものも、等しく消し飛ばされていった。
「え……?」
「ここにいたのか……すまん、遅くなったな」
石壁を……いや、鉄格子を斬り裂いて入って来たのは、ソラ。漸く、見つけることができた。タイミングが良すぎるが。
「ソラ?」
「ああ、顔を忘れたのか?」
「そんなわけ無いでしょ。さて、これはどうする?」
「先に傷を治すか。診せてくれるか?」
「ええ、お願い……早いわね」
「一応、練習してるからな」
「練習って……もしかして?」
「ぐ……それに関しては後で聞く」
ソラはミリアに回復魔法を、ルーメリアスに光の付加をかけた。回復魔法の練習とは……まあ、そういうことである。
「さっさと殲滅するぞ!」
「ええ!」
ソラ達にとって、1+1は2ではない。殲滅スピードは格段に上昇した。
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「もう諦めたら良いのに……」
フリスは周りをアンデットに囲まれている。だが、その歩みが止まることは無かった。
「あ、入ってくると……」
アンデットが何体も、フリス目掛けてやってくる。だが……
「あーあ、やっぱり」
横殴りに飛んできた火球と雷球により半分の骨が消され、もう半分はバラバラに飛び散った。
「ゾンビとかスケルトンとかだと、これは抜けられないよ」
フリスの周囲では火球と雷球が12個の軌道に各3つずつ、高速で旋回している。これが攻性防壁の役割を果たし、フリスにアンデットが寄り付けないでいるのだ。
「早くいなくなって欲しいんだけどな〜……これ、外が見づらいし……」
光る壁の外が見づらいのは当たり前だろう。もっとも、解除したら進めなくなってしまうのだが。
「どうしようかな?」
フリスが2人に合流するのはしばらく後になりそうだった。
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「ねえソラ、何で私のいる場所が分かったのよ?」
集まっていたゾンビを殲滅した後、ミリアはソラに問いかける。なお、地下牢への入り口はソラが何重にも土の壁を作って塞いだ。
「こんな風にしてたんだ」
「光球……これが?」
「前を見てみろ」
「え?……あ、なるほど、そういうことね」
ソラは4つの光球を作り出し、タイミングをずらして明滅させる。すると、いつまでも続くように見えた階段に出口が現れた。
「こういう風にすると、幻術が破れる範囲が増えるんだ。それに、魔力消費も少なくなる」
「幻術……魔法なのね?」
「ああ、闇魔法だろうな」
「だから光……ソラしか対処できないわね」
「確かにそうだな」
光魔法を使えるのはソラだけなため、合流できなければミリアもフリスも1つの空間から出られないだろう。だが、一般の冒険者はもっと悲惨だ。攻撃系の光魔法をソラほどの規模・精度で扱える人は少ない。突破できる者は限られてしまうだろう。
そのような話をしつつ、ソラとミリアは階段を上っていく。そして、階段を上りきると……
「あ、いた〜」
「え?あ、フリス!」
「よかった、無事だったんだな」
広間の真ん中にフリスがいた。なお、フリスの周りに大量のアンデットの残骸があることは、誰も気にしなかった。
3人は近くに集まると、これまでのことを話し合いながら休息する。
「ミリちゃん、大変だったんだね……」
「本当よ……ソラが来なかったらどうなっていたどうなっていたことか……フリスは良いわね」
「良いってわけじゃ無いけど、ミリちゃんと比べたらね〜」
が、ソラを抜いた2人ばかりで話している。ちなみにこの会話の中で、ソラが心配されることは無かった。最も緊急事態への対処能力が高いのはソラ、というのが2人の共通認識である。
なお周囲のアンデットは殲滅されたのか、作成された土壁が攻撃されることは無かった。……フリスへ近づいていって勝手に殲滅されたのだろうが。
「そういえばソラ、あの光で出口は見つけられないの?」
「無理だったな。幻術には3段階くらいあって、俺が解除できるのは1番下だけだ」
「そっか……これからどうするの?」
「やっぱり、この幻術の核を見つけるべきだろうな」
「核って、はぐれる前にソラが言ってたアレ?」
「ああ」
核を破壊、もしくは無力化しないと脱出はできないだろう。日本のそういった系統の話的には、要石のようなものだ。現実の要石でそんな話があるのはとある1ヶ所にある物だけだが。
「何処にいると思う?」
「恐らくは……この城の大会議室、普通の城だと玉座の間だとかが置いてある場所だろうな」
「そうだね……1番ありそうなのはここだけか〜」
「それに、わざわざ守りにくい場所に置く意味も無いわね」
「アンデットだからな。ここへ行くまでの道は数を生かしやすいな」
「じゃあ、行く?」
「そうだな。違ったらまた探せば良い」
すぐに行動を始めるソラ達。予想通り道中アンデットは多かったが、問題無く蹴散らしていく。
そして、扉の前に到着する。お約束と言うのか、3人ともこの中に高位の魔獣か魔人がいることを感じ取っていた。
「ここだね……」
「行きましょ、ここを進むしか無いのよ?」
「ああ、行くぞ!」
突入した3人が見たのは、鋭い爪のある長い腕と紫色の肌、さらに捻れた角とコウモリのような翼を持つ大柄の人型。ある意味で最も有名な魔獣の中の1種。
「グレーターデーモン……こいつが核だ」
「幻術を使ってるってこと?」
「いや……魔力循環の要ってとこだ。術が体に埋め込まれてる……?」
「そんな感じだね……不気味」
見た目は普通のグレーターデーモンだが、魔力的にはかなり変わった存在だった。体中を魔力の回路が巡り、周囲へ影響を与えていた。確実に、こいつが幻術の核、要だ。
「グガ……ココ、マモル……」
「……しゃべれるのか」
「Sランクだし、悪魔だもの。でも……変ね」
「オレ、バンニン……アノカタ、イッテタ」
「微妙に認識が違うな……囚われてる?」
「そうかもね。悪魔なのに動物っぽいし」
「ガァ……オマエタチ、コロス!」
「来るぞ!」
グレーターデーモンはソラへ向けて急加速し、右腕を振るってくる。その爪を、ソラは薄刃陽炎の峰で受け止めた。
「くっ!」
「ソラ!抑えておいてよ!」
「言われなく、ても!やっちまえ!」
「勿論!」
その状態から、ソラは腹部を蹴ってグレーターデーモンを宙へ打ち上げ、そこを狙ってミリアとフリスが攻撃した。当然ながらグレーターデーモンは瞬殺だ。流れるようか連携は流石である。
「解けた!」
「っ⁉︎アンデットどもが来るぞ!」
「え⁉︎急ぎましょう!」
グレーターデーモンか倒れると同時、古城を覆っていた幻術が解け、アンデット達がこの大会議室へ殺到し始めた。ソラ達はグレーターデーモンの死体を回収すると、急いで城の外を目指し、アンデットを倒しながら走っていく。
「外にもいるわね!」
「だが全部が来ているわけじゃ無い!撃退は楽だぞ!」
「前以外はわたしがやる!」
「頼むぞ!」
城の外にいたアンデットはソラ達に見向きもせず徘徊しており、ソラ達を追うのは城の中から出てくるもののみである。そのため3人は近くにいるもののみ鎧袖一触で倒し、他は気にせず駆けていく。だが、この数を無視することなどできない。
「燃えちまえ!」
城壁の中は木造の兵舎だけでなく、背の高い雑草や枯れ木なども大量にある。ソラの放った炎弾はそれらを燃やし、広がり、アンデットを飲み込んでいった。
「門は⁉︎」
「他3つは岩で覆った。後はあそこだけだ」
「じゃあ、急ごうよ!」
「ああ!」
そう危ないこともなく、アンデットを蹴散らしながら3人は脱出、門も岩で塞いだ。残ったのは引火し、燃える古城だけだ。
「ふう、大変だったな」
「本当、そうよね……」
「ソラ君といると退屈しないね……」
「……まあ、そうだな。さて、戻るか?」
「うん、美味しいご飯が食べたいもん」
「確かに、私も食べたいわね」
「はは。じゃ、バルクに働いてもらうか」
燃える城を後にし、3人はロスティアへ戻っていった。




