第5話 初依頼
「……知らない天井だ……」
その翌日、ソラは霧隠亭の部屋で目が覚めた。
「昨日は大変だったな……転生して、ゴブリン倒して、ミリアとフリスに会って、儀礼テンプレ通過して、宴会が始まって……あれ?いつ終わったっけ?……「むう……」……ん?」
昨日の事をソラが思い出していると、胸の上から声が聞こえた。ソラがそこを見てみると……
「ミリア⁉︎」
「……ん……え?ソラ……?」
ソファの上で、ソラの更に上にミリアが寝ていた。服装は昨日の宴会の時と同じなのが救いか……
「え?え?え?」
「そ、ソラ?何でここに……?」
見回すと、部屋にはベットが2つ。どう考えても、ここはミリアとフリスの部屋だ。現にベットの上にはフリスが寝ている。
「ええと……ミリア、落ち着いて……」
「このバカーー!!!」
「がはっ!」
「……ん?にゃに……?」
羞恥で我を失ったミリアは、急に立ち上がり、身体強化まで使ったビンタでソラをぶっ叩いた。
流石に飛ぶまではいかなかったが、ソラはソファの背を軸に回転し、床に衝突して大きな音をたてた。そのせいで、フリスも起こしてしまったが。
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「ソラ、ごめん!」
「いや、こっちこそすまん」
ここは霧隠亭の食堂。あの後、フリスの協力によってミリアを大人しくすることに成功したソラは、昨晩の経緯を知っているであろうマーヤに話を聞くことにしたのだ。
「はあ、3人共酔い潰れて記憶が無いとか……」
「わたし、酔うと歌っちゃうのか……」
「にしても、せっかく部屋に入ったのにヤッて無いなんてね。勿体無いよ」
「ちょっと⁉︎マーヤさん⁈」
「ははははは」
「笑い事じゃないわよ!」
「うう……」
朝食をとりつつ昨晩の事を聞く3人。どちらかと言えば、マーヤに弄られているのだが。
今日の朝食はパンとコーンスープ、ベーコンエッグにサラダとドリンクだ。ドリンクは幾つかある種類から選べ、ソラはコーヒー、ミリアはリンゴジュース、フリスは牛乳を選んだ。
「さてソラ、今日はどうする?」
「そうだな……Eランクの依頼でもやっておくか」
「Eランク?ソラだけならそうだけど、私達も居るからDやCランクで良いのに」
冒険者は自分のランクの1つ上の依頼までしか受けることができない。だが、その制限はパーティーの場合となると、パーティー内で最もランクの高い者が基準となる。
また、冒険者の依頼で魔獣と戦うことが出来るのはEランクからだ。Fランクは町の中での簡単な依頼ばかりとなっている。
「順番にやっておいた方が良いだろ?それに薄刃陽炎も慣らしたいし」
「確かに、ソラ君の実力ならEランクは慣らしだよね」
「そういう理由なら私達は手を出さない方が良いわよね」
「ああ、それで頼む」
「じゃあ、行こー!」
朝食を食べ終わった3人は、冒険者ギルドへ向かった。
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「あ、おはようございます。ソラさん、ミリアさん、フリスさん。」
「ああ、ルーチェおはよう」
「おはよう、良い天気ね」
「おっはよー!」
「それにしても3人同時ですか。何かあったのですか?」
「パーティーを組むことになったんだ。別に変じゃ無いだろ?」
「まあ、そうですね。……(面白く無いな〜)」
ギルドに入った3人は、ルーチェに挨拶をしつつ、依頼板へと向かった。見ているのはEランクの依頼が貼られた部分だ。
「どれにするの?」
「どれでも良いんじゃない?」
「そうだな。他の人はいないみたいだし、多めに受けておくか」
ソラは次々と依頼の書かれた紙を選んで取っていく。そして受付へと向かった。
「ルーチェ、依頼の受理を頼む」
「分かりましたー……ってこんなにですか⁈」
「そうだが……何か問題でもあるのか?」
ソラが取った依頼の数は20枚。全体でもEランクは50枚程あったので大丈夫だろうとソラは考えていた。
「EやFランクの依頼はほぼ毎日あるので、多過ぎる訳ではありませんが……これだけの数を3人だけで大丈夫なんですか⁈」
「基本やるのは俺1人だな」
「大丈夫よ。ソラは強いしね」
「危ない事なんて無いよ」
「……分かりました。では、行ってらっしゃい」
「行ってくる」
「行ってくるわね」
「行ってきまーす!」
ソラ達はギルドを出て門を通り、魔獣の住む場所へと向かった。
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「あれか?」
「そう、あれがホーンラビットよ」
「狩るのは簡単だよ」
ソラ達の前30mの所に居るのは、見た目額に角の生えた野ウサギ達。
ちなみに3人は小高い丘の上にしゃがんで居る為、まだ見つかってい無い。
「えっと数は……19匹か」
「多いわね。逃がすと勿体無いし、私達もやる?」
「大丈夫だ。一気に殲滅する」
「自信あるの?」
「勿論だ」
そう言ってソラは薄刃陽炎を抜く。右手に刀を下げ、立ち上がると、身体強化も使い、体を倒すようにして一気に加速する。
そのままホーンラビットの群れに突っ込むと、逃げようとすらさせずに殲滅した。
「うわ、速いわね」
「何があったの?見えなかったよ」
「ただ身体強化で走って行っただけよ。まあ、速度は異常だけど」
「異常なのは諦めようよ」
先程ソラは、30mの距離を直ぐさま縮めた後、攻撃を群れの外側のものから加えていった。
その速度のためか、警戒心が強く知覚能力が高いはずのホーンラビット達は全く反応出来ていなかった。
ミリアとフリスは話をしながら、ソラの方へと向かって行く。
「お疲れ様」
「お疲れ〜」
「ああ、1人でやってすまん。それにしても、この薄刃陽炎って凄いな。簡単に斬れたぞ」
「当然よ。あのライガルが作った物なんだからね」
ソラは薄刃陽炎を振って付いた血糊を落とすと、ミリア、フリスと共にナイフを使ってホーンラビットの角を回収していく。
「さて、角は取ったし、燃やすか。そういえばフリス、魔法って自分でも作れたんだよな?」
「そうだよ。詠唱無しの魔法ならイメージだけで十分だね。でも、かなり難しいらしいし、大半の場合は詠唱も作るそうだけど」
「そっか、じゃあ……フレイムストーム!」
ホーンラビットの死体から離れた所で合流した後、ソラがそう言うと、目の前の平原を火災旋風が覆い、ホーンラビットを焼き尽くした。
「……それって、火風複合の高等魔法だよ⁉︎何で出来るの⁈」
「魔法はイメージなんだろ?俺には簡単だったぞ。でも、オリジナルじゃないのは残念だな」
「……異常だよね」
「繰り返しになるけど、諦めましょう」
「じゃ、次に行こうか」
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「お?いたいた」
「あれは……ウェアウルフね。でも、あれは珍しいわ」
「珍しい?何でだ?」
「あれはウェアウルフって言っててね、普通は2〜5匹の群れで居る事が多いんだよ」
「そうなのか。あれは……14匹だな。まあ、魔法も使えば殲滅できるだろ」
ソラ達は今森の中に居るが、その20m先の開けた場所に全長1m程の狼、ウェアウルフが居る。
普通ならこの距離では見つかってしまうが、ソラ達は風下にいるため、まだ見つかっていない。
「さて、これは流石にオリジナルだよな……エレメンタルビット、モードエアロ」
そう言うと、ソラの周りにバレットとは違う風の塊が生まれる。その数は10だ。
「うわ、何あれ?」
「わたしも知らないよ。ソラ君、それ何?」
「見ていれば分かるさ。さて、行くか」
薄刃陽炎を抜き、身体強化をした状態で歩いて行ったソラ。その周りには風の塊が着いていっている。
ソラは気配を消して居たが、流石に狼には勝てず、後5mの所で見つかってしまった。
「さて、実験台になってもらうぞ。エアロアロー!」
周りにあった風の塊が5つ変化し、矢となって奥に居たウェアウルフへと突き刺さり、切り刻む。
「魔法を待機させられるのね」
「結構魔力を使うのにね。凄いな〜」
「次、エアロランス!」
ソラは近くのウェアウルフを刀で切り裂きつつ、そう言った。
すると、風の塊が5つ変化し、槍となって離れた所のウェアウルフを引き裂く。
「え?さっきアローって言ってたよね?」
「今度はランス?どういう仕組みなの?」
2人の混乱を無視し、ソラは残りのウェアウルフを葬り去る。
それを確認し、ミリアとフリスはソラへと近づいて行く。
「ねえソラ、さっきの魔法って何?」
「ソラ君、何で1つの魔法が2つに分かれたの?」
「ああ、あれは単一の属性の魔力を纏めて、維持しておいただけなんだ。それで、使う時にそれぞれの魔法へと変換したって訳。とは言っても、威力の低い魔法でしか出来ないんだけどな」
この魔法は発想の転換によって生まれた物であり、ベフィアで体系化されていない事を不思議に思うソラだったが、これ以上考えても無駄なためすぐに気にするのを止めた。
3人はウェアウルフの右耳を切り取りながら話をする。ソラは何度か綺麗に切れず、苦労していたが。
「それでも凄いわよ。でも、何でこんな面倒な魔法を作ったの?」
「近接戦の時はこっちの方が楽だろうしな。前もって準備しておいた方が早いだろ?まあ、まだまだ使えるって段階じゃ無いから修練は必要だけどな」
「それはそうだけど……ソラ君って、どこまで行くの?」
「さあな?だけど、着いてくるつもりがあるなら、2人を置いていったりはしないぞ」
「何よそれ?口説いてるの?」
「そんなつもりは無いんだけどな……」
ウェアウルフの死骸を埋めた後、3人は更に森の中を散策するのであった。
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「今度は何だ?」
「スモールビーよ。普通ならこんなに集まることは無いんだけど」
「多いよね〜」
「ええと、数は……34か。面倒だし、魔法でやるよ」
「よろしくね」
昼食をとった後、森の中を歩いていたソラ達は蜂の群れに囲まれた。このスモールビー、見た目は蜜蜂を大きくした感じなのだが、全長が50cmになっている為、正直かなり気持ち悪い。
ちなみに昼食は霧隠亭で買ったサンドイッチ。1セット4個で30Gだった。
「さあ行くぞ!ホーリーレイシャワー!」
ソラが手を掲げ、そこから光球を打ち上げる。それを他の仲間への合図と思ったのか、スモールビー達の内の半数が接近し、もう半数は周囲を警戒し始める。
だが、全ては無駄だった。
「うわぁ」
「へぇ〜」
打ち上げられた光球が光の線を放ち、34匹全てのスモールビーの頭や胴体を撃ち抜いて、物言わぬ骸へと変化させる。
残った光球はソラが警戒を解くと同時に、儚く消え去った。
「今の魔法、綺麗ね」
「作るだけなら簡単だと思うけど……全弾命中なんて凄いよ!」
「今のは探知魔法も併用していたから、何とか出来たんだよ。まあ、ホーリーレイシャワーは威力が低いから、対集団戦闘用だな」
「探知魔法まで使えるの?」
「一応な。音を使ってるんだが、慣れてないせいか範囲が狭いし、正確性にも欠けるんだよ。スモールビーは羽音が大きいから楽だったけど、他じゃこんな風に上手くいくとは限らないな。
まだまだ実験と練習が必要だ」
ソラ達はスモールビーの顎を回収し、遺体を燃やした後、更に森の中を進んで行く。
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「ソラさん、ミリアさん、フリスさん、おかえりなさい」
「ああ、ただいま」
「ただいま、ルーチェ」
「ただいま〜」
「依頼の方は終わりましたか?」
「ああ、これだ」
ソラはそう言った後、鞄の中にあった討伐証明部位を取り出す。
「流石に多いですね……お時間を頂いてもよろしいですか?」
「大丈夫だ。時間がかかるのは分かってたことだしな」
机の上に山程乗せられた魔獣の一部に驚きながら、鑑定用の魔法具を使って調べていくルーチェ。鑑定とは言っても、結果は全て魔法具が出すらしく、かなり早い。
「終わり……ましたが……」
「ルーチェ?どうした?」
「今日、ミリアさんとフリスも戦闘に参加しましたよね?」
「してないよ〜」
「全部ソラだけでやったわ」
「この数を1人でやれる訳が無いじゃないですか⁉︎
ホーンラビット25匹、ウェアウルフ38匹、スモールビー46匹にロープスネーク21匹、スウィルピジョン31匹、オフェスモンキー12匹って、多すぎですよ⁉︎
どんな裏技使ったんですか⁉︎」
「矢鱈と群れてるやつが多かっただけだ。それよりも、換算を頼む」
「はい……
ホーンラビットは依頼3つで800G、余剰分が10匹で250G。
ウェアウルフは依頼5つで2000G、余剰分が8匹で320G。
スモールビーは依頼5つで1800G、余剰分が15匹で450G。
ロープスネークは依頼2つで1000G、余剰分が14匹で490G。
スウィルピジョンは依頼3つで1200G、余剰分が13匹で390G。
オフェスモンキーは依頼2つで900G、余剰分が10匹で400G。
合計は1万Gです。
……普通、冒険者2日目の人が稼ぐ額じゃありませんよ?」
「俺は例外ってことにしておいてくれ」
「分かりました。では……え?何ですか?……すみません、少し席を外させれもらいますね」
「ああ、分かった」
ルーチェが報酬を渡そうとした所、後ろからルーチェの先輩らしき男性職員に声をかけられて奥へ行った。
暫くすると戻って来た。
「お待たせしてすみませんでした。先ずはこれが報酬の1万Gです。それとソラさん、貴方のランクをEへ上げますので、ギルドカードを貸して下さい」
「……急に何で?」
「冒険者のランクは、一定期間内に自分と同じランクの魔獣を一定数以上倒すことでも上がるですが、今日ソラさんはEランクの中で最も厳しい3日間の場合の条件を満たされました。ですので、ランクを上げます」
「分かった。それじゃあ頼む」
ソラは知らないが、FからEランクへの最速記録を更新したのだった。
そのまま3人で霧隠亭へと帰り、ソラはちゃんと自分の部屋で寝た。