第14話 古城②
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「どこまで続くんだ?この通路」
ソラはずっと歩き続けていた。2人との合流を目指して様々なルートを歩くようにしていたのだが、一向に階段は見つからなかった。なお、その原因をソラは理解している。
「まあ、同じところを何度も通ってるんだろうけど……」
完全に同じ所をずっと歩いている、という感覚をソラはちゃんと持っている。曲がったり、分かれ道だったりすることもあるのだが、どういうルートを通っても景色が変わることは無かった。第一、脳内で作ったマッピングが正しければ、この古城の城壁を通り越してロスティア近くまで来ているはずなのだから。
「同じ風景ばかりだと狂いそうだ」
この程度で狂うほどソラは弱く無いのだが、気分が嫌になることに変わりは無い。ソラのモチベーションはかなり下がっていた。
「時間の感覚も無くなってくるな……」
常時明かりが灯っており、窓から入ってくる光は常に一定、という空間では仕方がないかもしれない。ダンジョンも時間の変化は無いため、慣れているソラにはほぼ問題無いのだが。
「何も無さすぎて飽きる……」
1人、ということも関係しているのだろう。精神干渉といっても感覚や感情には干渉されていないのだが、ソラは少し弱気になってしまっていた。
「ダメだダメだ……早く見つけないと」
だが、それを振り払えるのがソラの強みである。第1の目標は2人と合流すること、そのために歩いていたのだから。
「2人はどこだろうな……ん?」
そんなソラの耳に入った、僅かに床が軋むような音。
「何の音だ?」
ソラはその音が聞こえた方へ向け、歩き出した。
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「何でよ!」
ミリアの絶叫が地下牢に響く。今、ミリアはまるで牢屋に囚われたような状態となっていた。
「何で鉄格子が締まってるのよ!私は中にいるのに!」
進んでいった先に鉄格子があったためだ。一体となった物ではなく、鍵のかかった扉がついている。もし先に階段があれば、ミリアは引き裂いてでも進んだだろう。ルーメリアスならこの程度の鉄格子、簡単に斬り裂ける。
だが、奥にも同じような牢屋が続いていたため後回しにした。まずは今いるエリアを調べきるつもりなのだ。意図せず入ってきたのだから鍵のしまった所は通ってない、という考えから導き出した答えだ。
「ああ、落ち着きましょう……ここ以外にも出入り口があるのよ、きっと」
ミリアもまた自分だけで冷静になれる。冒険者に必須のものとはいえ簡単にできることでは無いので、当たり前にできるのは上位者の証明でもあった。
「急いでここを出ないと……」
そう改めて思い、振り返ったのだが……
「え……嘘、よね……」
ミリアの目に入ったのは、先ほどまでとは違う構造となった牢屋。通路まで変わってしまっていた。しかも、後ろはただの石壁となっている。
「何でなのよ……魔法よね?」
むしろ魔法以外でミリアに気づかれず、これを行える存在があるのなら見てみたい。ミリアの考えもソラと同じだ。
「気をつけて進まないと……それにしても、何の匂いよ、これ」
急に現れた僅かな臭いに顔をしかめつつも、ミリアは新たに通路を歩いていった。
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「2人ともどこかな〜」
1人で広い通路を歩いているが、フリスはそこまで気負っていない。生来の性格もあるだろうが、歩いている場所が広く、興味深い物が多いという方が強いだろう。
「ん〜……ここ、ちょっと寒いよね?」
そこまで気にしていなかったが、古城の中は周囲より気温が低く感じられた。だが、フリスはこれに何らかの意味があるとは考えていない。ただ少し寒い、これだけだ。
「この魔力……吹き飛ばせないかな?」
周囲を漂う異常な魔力の影響で、魔力探知が使用不可能となっている。これが無くなれば合流も容易だろう。
だが……
「……やっぱり無理だよね……」
当然ながら駄目であった。この程度で無くせるのであれば、魔力探知が完全に使用不可能になることは無いのだから。
「何なんだろうね、ここ……」
フリスにとってここは、異常な空間である、という認識を持たせる。日本のフィクション風に言うなら、「亜空間」が近い。
「こんな魔法、聞いたこと無いんだけどな……」
この魔法の原理を知り、解析でき、生還できる者は少ないだろう。むしろこのレベルの魔法を行使できる存在の方が少ないはずだ。書物に載っているのはまずありえないため、知らなくても当然だった。
「ん、これはソラ君に任せよっと」
他人任せとなるが、こういうことが得意なのはソラだ。適材適所と言える。
「今度は……こっちにしよっかな」
気分だけで歩く道を決めているが、考えたとしても結果は変わらないのが現状だ。そんなフリスは、窓から入る光が少し減ったことに気づかなかった。
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「ここ、か……あれは……」
かなりの時間歩き、ソラはようやく音源らしき場所にたどり着く。そしてそこには1つの存在があった。
「冒険者の遺体か……1人しかいないんだな……」
恐らくここの調査に派遣され、行方不明になった者だろう。肉体は腐敗しているが、服や装備はそこまで悪くなっていない。死んだのは比較的最近、古くても数ヶ月とソラは予想した。
「カードだけでも持っていか、っ⁉︎」
何かが起きている、その証明としてカードは持っていくつもりだった。ギルドからも回収してくれと頼まれていたのだ。
だがソラが遺体を探ろうとした瞬間、後ろから剣が振り下される。それに気づいたソラは床を転がって回避した。剣振り抜いたのは、ソラも予想外の存在だった。
「鎧……?まさかデュラハン⁉︎」
立っている鎧からは生気を、生きている者特有の意思を感じなかった。準備動作を分からなくする無拍子を極め、それの対処法を知ったソラだからこそ、それに気づけたのだ。
デュラハンはSランクの魔獣で、アンデット系の中でもかなり高位の存在である。基本的に頭部は無いためこいつは何か変なのだが、警戒すべき相手であることに変わりは無い。
「ノロマで助かった、な!……ん?」
光の付加を足甲に施し、鎧を蹴り飛ばす。鎧は簡単に吹き飛んで壁にぶつかり、バラバラに砕け散った。デュラハンとは思えない脆さである。
「……骨、か。デュラハンは鎧だけだし……スケルトンが鎧を着ていた?何でそんな、っ⁉︎」
バラバラになった鎧の中には、人骨があった。それを詳しく見ようと近寄ったソラだが、またしても後ろから妨害された。
再び回避行動をしたソラを見たのは、生前の得物らしき両手剣を振りぬいている冒険者の遺体だ。その動きは遅いが、その力は脅威である。
「こっちはゾンビかよ!」
ソラはそう大して苦労しず、光を付加した薄刃陽炎でゾンビを倒す。
アンデットは基本的に通常攻撃は意味が無いが、浄化の力を持つ火・雷・光魔法にはとても弱い。攻撃をかすめただけでも当てた部分どころか、その周囲まで動かなくなっていくのだ。直撃させれば言うに及ばない。
「この城はアンデットの巣窟か……ミリアが危険だな」
古城にアンデットとはベタだが、今の状況的には最悪のパターンである。ミリアだけは浄化系の魔法を使えないのだ。囲まれたらひとたまりも無い。
「急いで……って、まさか」
急いで合流しようとしたソラが聞いたのは、複数の金属同士が擦れる音。金属が床に叩きつけられる音、しかも複数で前後から聞こえる。そしてそれは、だんだん大きくなっていた。
「ここに来るまで……両脇に鎧があったよな」
ソラの懸念の通り、鎧を着たスケルトンが近づいて来ている。だが、その数は異常だった。
「……多すぎだろ」
文字通りの意味で鎧の壁ができるほどだ。もし全てが槍装備であったなら近づくこともできないだろう。だが、これだけ密集しているとフレイルなどは満足に使えない。
「さっさと突破するしかない!」
そしてソラも真面目に相手をするつもりは無い。扇状に広がる光魔法を双方に放ち、スケルトンを纏めて両断していく。曲がり角の先から来るものもいるため1撃で殲滅とはならなかったが、何発も放って簡単に対処する。
「これなら問題無いな」
……この絵が戦場で再現されたら恐ろしいことになる。アンデットに対して光が特効を持っているからこそできることだ。この魔法自体の攻撃力はかなり小さい。
「ん?」
廊下の壁の一部、その部分に微妙な違和感を感じたソラ。そこは丁度、光魔法が当たった部分だった。
「……光魔法が当たったところの幻術が剥がれた?」
その部分だけ壁の汚れが少し多い。つまり、幻術が消えているということだ。
だがそれは一時的なものだったようで、しばらくしたら元に戻り違和感が消えてしまった。だが、手がかりになったことに変わりは無い。
「闇に光は効くし……使えるな」
闇には光、というのはベフィアでも変わらない。人側と魔側の対立が消えない理由の1つともされているのだ。
そして、今回はその対立が役立つ。。
「急ぐか」
ソラは何条もの光を放ちつつ、駆けていった。
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「不気味すぎるわよ……」
ミリアは地下牢を歩き続けていた。湿度はそれほど高く無いのだが、ここは暗く、何か変な臭いもする。ミリアは早く出たいのだが、出口が見つからなかった。
「……絶対同じ所通っているわね……」
ミリアの方向感覚は悪くない。むしろあの高速戦闘を難なくこなすほど良いのだ。そしてその感覚が正しいという確信もある。なのにこう思ってしまうほど、ここはおかしかった。
「あれ?ここ……」
変わらない風景に意気消沈していた時、1ヶ所だけに変化があった。内容としてはそこまで嬉しく無いが、進展があったことに変わりは無い。
「遺体……よね。見た目は兵士みたいだけど」
牢屋の中には鎧をつけた遺体がある。過去にここに勤めていた兵士のようだが……何故こんな所に遺体があるのだろうか。
「さっきは無かったのに、ひっ!」
牢屋を開け、様子を見ようとすると、死体がミリアへ腕を伸ばしてきた。ミリアは軽く回避するが、問題なのは動いたことだ。
「ゾンビなの⁉︎」
ミリアが生理的に少し苦手なアンデット、苦手だからこそ狩る相手だ。廃屋では何故か暴走してしまったが、今は冷静である。
素早く斬りつけ、ゾンビの右腕を切断した。だが……
「だから付加が欲しかったのに!」
それだけでは止まらない。廃屋の時はソラが浄化系のエンチャントをかけてくれていたため簡単に倒せたが、無しでは一撃で倒すことなどできない。右腕を失っても変わらず迫ってくる。
再生しないため日本のゲームなどよりはマシだが、あの映画並みに酷い状態であるのに変わりは無い。
「はぁ!……嘘でしょ……」
一挙7連撃をたたき込み、目の前のゾンビは倒す。だが、周りにある全ての牢屋からゾンビが出ていた。目の前の牢屋は1体しかいなかったはずなのに、他にも5体ほどいる。さらに両側の通路からもどんどんやって来ていた。
「突破しか無いわ、ね!」
ミリアは即断即決で片方に突撃し、ゾンビの足を狙ってルーメリアスを次々と振るっていく。簡単に倒すことができないとはいえ、足を斬り裂けば動けなくなることに変わりは無い。この方が早く終わり、逃亡が楽になるのだ。
「ソラ!フリス!早く来てよね!」
ミリアの決死の逃避行は始まったばかりだった。
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「どこから出てきたの!」
ソラやミリアと同じように、フリスもアンデットの攻撃を受けていた。
こちらはゾンビとスケルトン、火球を飛ばしてくるスカルヘッドの大群である。だが来るのは一方からのみで、フリスには対処しやすい相手であるため、まだマシだった。
「って、外から⁉︎」
アンデットは中庭に面する窓を破壊して侵入してきていた。どうやら中庭に埋まっていたらしく、所々に土がついている。
「来ないでよ」
だが、フリスには一切近づけていない。放たれる無数の火球や雷球、時折発生する火災旋風や雷によって、アンデット達は一定のラインから先へは進めていない。圧倒的な魔法戦闘能力である。
「向こうへは行けないよね……どうし、うわっ!」
後ろから来た衝撃。体に沿って張っていた風の壁のおかげでダメージは無いが、衝撃は通る。だがそれよりも、振り返って見た光景の方がフリスを驚かせた。
「え、後ろからも⁉︎」
後ろからもアンデットの大群がやって来ていたのだ。見た感じの規模はもう一方とほぼ同じ。無視することはできない。
「来ないで!」
だが流石はフリスで、2方向に分けても、抑えるだけならまだ余裕がある。それでも、突破するのは少し辛くなってしまった。
「これじゃあソラ君とミリちゃんを探しに行けないよ……」
……今こんな状況で、関係無いことを考えられる余裕があるのは凄い。
「どうしよう……」
この反応だけだと、囲まれている人間とは思えない。




