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異世界成り上がり神話〜神への冒険〜  作者: ニコライ
第3章 懐かしき日の本

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第12話 古都ロスティア③



「ありかよ、それ……」


ロスティア近くの平原、朝早くにここへやって来たソラ達は稽古を始め、とんでもない光景が生み出されていた。

フリスが風魔法で圧縮空気の足場を作り、ミリアがそれを蹴って移動しているのだ。圧縮空気は常にあるわけではなく、ミリアが方向転換するタイミングで作られている。ミリアは身体強化をしなければ、分身しているようにしか見えない速度で跳び、攻撃を仕掛けていった。そしてフリスはミリアが求めるタイミングを見極め、足場を作っている。その難易度は高いようで、フリスは他の魔法を一切使用していない。

なお、この2人の包囲は半球状に展開されている。そして、その中心にいるソラは対処に困っていた。


「はぁ!」

「くっ!速すぎんだろ!」

「それに反応できるソラもソラよ!」


馬鹿げた速度のミリアもそうだが、ソラはそれに的確に反応し、迎撃していく。これが稽古で無ければ、ソラが負傷覚悟で攻撃することでミリアを殺せるような場面が何度もあったのだ。


「いつの間にこんなの作った!」

「ソラ君がいない時にね。それと、慣れたから魔法使うよ」

「は⁉︎ちょっと待て!」

「待たない!」


……ついに魔法を使い始めてしまった。フリスは大量の魔弾をミリアを避けるよなコースで放ち、ソラを追い詰めようとする。

だが、ソラも負けてはいない。的確に闇球を放ち、魔法を打ち消していく。それにより、魔弾はソラとミリアの戦闘域には入れず、直接的な意味は出せなかった。


「切り札を1つ切るか……」

「何よ、まだ隠していたの?」

「早く出してよ!」

「まったく、侮るなよ?ダークネスミスト」


ソラを中心に黒い霧が覆っていく。その密度はそこまで高くなく十分見通せるのだが、魔法なので魔力探知がかなり阻害されていた。

だが、この魔法のポイントはそこでは無い。


「足場が⁉︎きゃあ!」

「魔法が弱くなってるの⁉︎」

「ああ、まだたったこれだけしかないのか。要研究だな」


ミリアの使っていた足場が弱くなり、突き抜けてしまう。フリスの放った魔弾はソラに届く前に消えてしまった。その効果、ソラだからこそ使えるものだった。


「闇魔法で作った霧だ。効果は予想がつくだろ?」

「もしかして……魔法阻害?」

「正解だ。魔法封じができれば良いんだが……まず不可能だろうな」

「ねえ、今でも魔法使い殺しなんだけど……」

「まあそうか。さて、まだ終わってないが……フリスはとうする?」

「こんな状態だと迎撃なんて無理だもん。降参だよ〜」


闇魔法のうち、対魔法系を豊富に揃えているソラ。確かに魔法使い殺しである。

このダークネスミストは放出系・付加系の魔法を減衰させ、拡散された魔力の一部はソラに回収される。それでいて、自分自身の魔法は一切阻害しないという便利っぷりだ。

もちろん、デメリットもある。これは自分自身の魔力探知も阻害してしまうと同時に、維持のためにかなり多くの魔力を消費してしまう。また、身体強化は阻害できないため、純粋な肉弾戦の強さが求められる。余程の弾幕で無ければ、黒字となることは無いと断言できるほどだ。


「というわけで、ミリア、やるか」

「正面からだと勝てる気がしないんだけど……」

「それも含めて特訓だ」

「そうやって言えば良いって思ってない?」

「……さっさとやるぞ」

「図星ね」


両者ともに構える。が、すぐにミリアは動いた。


「はぁぁぁ!」

「甘い!」


突っ込んできたミリアに対し、ソラは前に倒れて回避した。そして上体を少し上げ、タックルを仕掛ける。ミリアはそれをまともにくらい、押し倒されてしまった。そのままソラは首に薄刃陽炎を突きつけ、決着をつける。


「……また負けたわね……」

「俺も大分きつくなってるんだからな?もう少し魔法と近接を上手く使わないと……」

「え〜」

「2人が頑張ってるのに、俺だけ怠けるなんてできないだろ」


先ほどまでぶつけていた殺気を無くし、和気藹々と話しながら歩いていく3人。そしてその先には、4つの人影がある。


「ソラ……お前完全に人間辞めてるな」

「地球人は辞めたが人間は辞めてないぞ?」


ソラはバルク達にミリア・フリスとの稽古を見せていたのだ。昨日ソラ達がバルクの店で夕食を食べていた時に稽古について話し、メリアールとアルファードが見たいと言ったからだ。なお、ソラは安全を気にして渋っていたのだが、ミリアとフリスに押し切られた。

見たがった当の2人は……


「すごーい」

「……(ポカーン)……」


唖然としていた。まあ、あんなド派手な戦いを見て唖然としない子どもの方が珍しいか。

そしてこの7人は町へ戻り、バルクの店で朝食を食べる。メニューは川魚の刺身や野菜の天ぷらが乗った丼だ。


「ソラ、この後はどうするんだ?」

「今日は指南役を頼まれてるな。志望者への戦闘訓練だ」

「またマイナーなのを……」

「これは指名依頼だ。断れないんだよ。まあ、乗り気だが」

「そりゃまたどうして」

「ただ暴れるだけで大金が入るからな」

「おい!」

「冗談だ。教えるのが好きだってこと、知ってるだろ?」


空は元いた流派にて、半ば師範代の役割を行っていた。小学生にはよく懐かれ、中学生からは慕われ、高校生には越えるべき壁として認識されていたためである。空本人も教えることが好きで、教えるのも上手く、自然と中心になっていった。

……師範や師範代のほとんどが来れない時、子ども全員の面倒を見ろと言われた時は流石に怒ったが。(結果的にその日の稽古は、1人だけいた師範代とソラの戦いを見るというものになった)

なお、手加減しなければ稽古はとてつもなく辛いものとなることでも有名だった。


「まったく、ソラの訓練キツいんだぞ?手加減してやれよ?」

「それは相手次第だな。ふざけた奴はぶちのめす」

「……殺すなよ?」

「まさか。2度と会いたくないって思うくらいボコボコにするくらいだ」

「余計酷いわ!」


実際、やりかねないのだが。









ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー










「今日、君達の指導役になったソラだ。よろしく頼む」

「同じく、ミリアよ」

「フリスです」


ギルドの所有する訓練場。円形で、コロシアムに似た観覧席もある。ここにはソラ達3人以外にギルド職員が2人、新品の装備をした若者が10人、少しボロボロの装備を纏った20代半ばくらいの人が3人いた。

この講習は冒険者となったばかりの者や、冒険者に自分が向いているか知りたい者、もしくは実力不足を感じた現役冒険者など、様々な理由はあるが希望者へ行われる。主だって実施されるのは探索や野営、護衛に戦闘だ。講師は大抵の場合、現役の高ランク冒険者が当てられる。

なお、このような訓練の依頼は常設されている。町によって受注できる下限ランクに違いはあるが、基本程に受けるか受けないかは自由だ。今回のように指名が出されるほど希望がないのがおかしいのだが……


「あいつか」

「貴族の三男だったわね……人は悪く無さそうだけど」

「先入観はダメだよ。平等じゃないと」


相手に貴族筋がいれば受けたくなくなるだろう。地元密着型冒険者はこういった情報を素早く入手する。ソラ達が手に入れた情報によると、彼はロスティアに屋敷を持つ男爵家の三男、一緒に幼馴染の騎士家の次男もいる。騎士になりたいなら経験を積んでこい、ということで家を追い出され、冒険者になることを選んだそうだ。こういった講習に出ている時点で、馬鹿では無いのだろう。


「あんな奴で大丈夫かよ」

「あーあ、ディフィリアさんの方が良かったな」

「今から止めても良いんだぞ〜」


むしろ、ボロボロの装備を纏った3人の方が問題だった。彼我の実力差を理解できないからボロボロになったのだろうに。


「よしそこの3人、見せしめになれ」

「は?」

「ソラ君?」

「俺達の実力が不安なんだろ?だったら試せば良いじゃないか」

「へえ、面白い」

「どうせ経験不足だろ?」

「3対1で負けるわけないぜ」

「戦ってみればわかる。さて、他の奴らは周りにいろよ」

「……やり過ぎないでよ?」


ソラにそう言われ、対する3人以外は円形にバラけていく。そんな中、ミリアとフリスに近づいていく2つの影があった。


「あの……大丈夫なのでしょうか?」

「ん?貴方はフィロソフィー・ロードウェルね。大丈夫だから見ていなさい」

「本当ですか……?」

「言っておくとね、ランクが1つ違うと大体5倍の人数がいるのと同じくらいの差があるんだよ。あの3人はCランク、ソラ君はAランク、これで分かるよね?」

「3対25……」


この戦力比は一般的に指標として言われているものであり、実態とは大きく違う。ソラが本気で戦えば、Cランク冒険者1000人分以上になるかもしれない。


「さあ来い」

「やってやる」

「行くぞ!」


どれだけ意気込んでも勝てるわけがないのだが。ソラは油断も慢心も手加減もしず、後の訓練に支障が出ない程度にボコボコにした。


「「「「「…………」」」」」

「お疲れ様」

「いや、そんなに疲れてないさ。さて、俺の実力はこんなものだ。文句は無いな?」

「……は、はい」

「さて、やる内容だが……あ、これが良いな」

「この顔は……酷いことを思いついたわね」

「だよね」

「そんなに酷くは無いぞ。疲れるが」


ソラはこう言っているが、ミリアとフリスは信じていない。そして今回は2人が正解だった。


「俺達3人に攻撃し続けろ。1撃でも当てられたら終わりだ」

「え?」

「俺達3人は防御と回避しかしないから、安心しろ」

「いえ……それではこちらの方が有利過ぎませんか?いくら1人が5人分といっても、こっちには13人いるんですよ?当てるくらいなら……」

「そう思うか?なら試してみればいい」


一般的には異常な話だが、ソラにとっては普通のことだった。元いた流派では師範・師範代を除いて圧倒的に強かったため、よく1対2や1対3、まれに1対20などの大人数ともやっていた。魔獣との戦いも大半が同等かそれ以上の数差なため、ミリアとフリスにも戸惑いは無い。むしろ数的優位に立っている訓練生の方が戸惑っていた。

当然だが、今持っているのは刃引きされたもの、もしくは木で作られたものだ。初心者では寸止めなどが上手くできないかもしれないが、そこは教える側(ソラ達)がどうにかすれば良い。


「分かったらさっさと始めるぞ」

「じゃあ……「オラァ!」おい、お前!」

「おいおい、まだ元気なのか」


先ほどボコボコにされた男達のうち1人、大剣を持った者がソラへ向けて突っ込んできた。痛みがまだ残っているであろう状態でこれだけ動けるのにはソラも驚いたが、避けるのにはそう苦労しない。余裕綽々と回避した。


「彼に続け!」


すると、フィロソフィーが指揮を取り始めて他の者も動き出した。彼は魔法使いらしいので、この判断は良いだろう。後は指揮能力が高いかどうかだ。

フィロソフィーはソラ達を分断し、各個撃破する形を取るようだ。そしてそれに気づいたソラはミリアとフリスに合図を送る。この思惑(おもわく)に乗るように、と。


「甘い」

「遅いわ、よ!」

「わたしにも当てられないの?」


ソラは上手く迎撃していく。手に持つ木刀だけでなく、武器の側面に蹴りを放って逸らしていった。同士討ちさせたことも何度もある。

ミリアは軽快に避けていく。ハンマーや槍を足場に跳び、宙を舞いつつ矢を叩き落とした時は、ソラ達以外騒然としていたが。

ミリアも棒術を使い、防いでいく。ソラとミリアには劣るものの、この程度なら問題無い。

このままでは、当てようが無いだろう。


「魔法も打って良いぞ。手加減はできるだろ?」

「怪我しても知りませんよ!」


フィロソフィーはソラ達3人目掛け、火球を何発も山なりに放つ。直進ではなく曲げられるということが、彼の才能を思わせた。

人の壁で囲み、上から攻撃する。普通なら詰みであろう。


「単純すぎだ。魔法はもっと上手く使え」


ソラは氷の板を何枚も作りだし、自分へ向かってきたものを全て遮断する。

ミリアは武器を回避しつつ、火球も避けていく。

フリスは同じく火球を放ち、近くて爆発させることで軌道を逸らした。


「遅いな。さあ、本番だ!」


そう叫ぶと同時に、ソラ達は動き出す。上手く包囲を抜け出し、3人バラバラに逃げる。当然ながら前衛はこれを追いかけて行った。だが、こちらもバラバラだ。フィロソフィーの真価が試される。


「くっ、この!」

「はっ!」

「ふふ、私はこっちよ」


ミリアがやっているのは完全に鬼ごっこだ。ただし、鬼が複数他1人というハードモードだが。

それをミリアは双剣も使わず避け続けている。相対している訓練生は訳がわからないようだ。


「ハァァァ!」

「やぁぁぁ!」

「踊っちゃえ!」


フリスは逃げるのをやめ、弾幕で踊らせていた。放っているのは殺傷性の低い水球で、ある程度飛ばしたら自爆させて水しぶきを上げている。当たったところで怪我を負ったりはしない。攻撃とも言いづらい傍迷惑な行動、というか遊びだ。まあ、そのせいで訓練生はいいようにされているのだが。


「フィロソフィー、お前の指揮は上手いな」

「あ、ありがとうございます」

「だが、穴も多いぞ」

「ひっ!」


フィロソフィーは3人に対して、それぞれにちゃんとした対抗策を持ってきた。この指揮能力、少し経験を積めばAランクだろうと通用するだろう。

だが、戦闘能力は低めである。実際、ソラが目の前に現れても、反応できなかった。そしてソラは悠々と去っていく。


「ひっ!」

「うわっ⁉︎」

「ほらほら、どこを狙ってる」

「この!あ?」

「ひゃっ!」

「ちょこまか、うおっ⁉︎」


ソラはその後も、攻撃しに来た訓練生の目の前や真後ろに出没し、驚かしていく。

お前はお化けか。


「くっ」

「うわっ⁉︎」

「きゃあ!」


その後もこれはかなりの間続き、残ったのは死屍累々と倒れ伏す訓練生達。誰も死んで無いが。


「……結局誰も当てられず、か」

「私達も少し遊び過ぎたわね」

「遊ばないとすぐに終わっちゃうじゃん。普通に戦うだけなら、動くのすら許さないでしょ?」

「あれでですか……」

「ああ。さて、次に行くぞ」

「え?」

「まだ日は高い。やれるじゃないか」

「そんな……少しぐらい待っていてくれても……」

「待たん」


この後日が沈むまで、地獄のしごきは続けられた。






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