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異世界成り上がり神話〜神への冒険〜  作者: ニコライ
第3章 懐かしき日の本

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第11話 巨人塔②


「ふう、キツイな」

「近づけないわね」

「あの大剣、何かの魔法具なのかな?」

「だろうな。あいつ自身が魔力で防ぐといっても限度がある。十中八九あの剣だ」

「面倒ね。どうするのよ?」


Sランク魔獣アトラスキング、この巨人塔のボスである。こいつは同じSランクのミスリルゴーレムとは違い、攻撃的な防御を得意としていた。

アトラスキングがその膂力と剣速で刃の結界を作ったため、ソラとミリアは近づけないでいたのだ。しかもその大剣には魔法を打ち消す効果があるようで、ソラとフリスの魔法もほとんど効いていない。2連続で放った大技を消し去られたのには3人とも大きく驚いたものだ。だが何度も剣を当てていたため、恐らくは物理的な威力を利用して魔力を散らすといった類なのだろう。薄刃陽炎に込められた魔力を消されたため、ほぼ確定と言える。


「さて、どうするか……」

「ソラ、このルーメリアスにできる限りのエンチャントをかけてくれる?」

「どうする気だ?」

「無理矢理にでも隙を作るのよ。剣は見えてるし、フリスも手伝ってくれればほぼ確実ね」

「分かった。頼むぞ」

「ミリちゃん、お願い」

「ええ、任せなさい」


ここで行かせないという愚策をソラは選びはしない。本人の意思を無駄にすることはできないし、これを成功させるだけの実力があることも分かっている。自分の心を押さえ込んで行かせるべきなのだ。

ソラは火・土・風のエンチャントを最大レベルで施し、いつでも攻撃できる用意をして、その時を待つ。


「行って!」


フリスは無数の魔弾を放ち、ミリアの突撃を援護する。アトラスキングがかき消すことに集中するしか無いように。

そしてそのおかげで、ミリアが十分接近できた。


「はぁ!」


ミリアは今まで避けていた大剣に正面から立ち向かう。少ない隙を作り出せるよう、逃げずに何合も。高い反応速度にものを言わせた力技だが……


「きゃあ!」


膂力の差は埋められず、大剣の一撃をまともにくらってしまう。ルーメリアスを両方とも防御にまわし、威力も減らすようにしていたが、吹き飛ばされて壁際まで飛ばされてしまった。

だが、隙は作り出した。


「ナイスだミリア!」


そしてその隙を狙い、ソラは跳び上がって上段から斬りつけたのだが……


「っ⁉︎硬すぎんだろ!」


アトラスキングの左腕を斬り落とすだけに終わった。頭から唐竹割りをするつもりだったのだが掲げられた腕に妨げされ、1本斬り落とす間に勢いが落ちたのだ。そして反撃が来たため、やむなく後方に下がる。

身体強化で強化されるのは動きや思考速度、感覚器官だけでなく、表皮や筋肉の硬度もある。それに対抗するには、普通は武器に魔力を流し込む、もしくは付加を使うしか無い。ソラ達もそれ(効率は上)を使っているのだが、アトラスキングが防御にまわしている魔力がソラの予想以上に多く、それ故に腕1本だけという結果に終わってしまった。

そして恐ろしいのはその力強さ、ソラは自分に風を当てることで避けたが、まともにくらえば肉塊となるのが簡単に予想できるほどの威力があった。現に、大剣を叩きつけられた床の岩は弾け飛んでいる。

ソラが着地すると、ミリアの様子を見に行っていたフリスがすぐそばに来た。なおミリアは、飛ばされた場所からほとんど動いていない。


「フリス、ミリアは?」

「怪我は無いよ。ただ、両手や他にも何ヶ所か痺れちゃって、しばらくはまともに戦えそうに無いって」

「そうか……時間を稼いでミリアと合流するっ⁉︎」

「えっ⁉︎」

「……火事場モード?」


アトラスキングの周りの空気が歪んで見えるようになった。ただ単に魔力を周辺にまで放出しているだけだが、それだけ強化の度合いを上げたということでもある。

そして、放出される魔力量がどんどん増えていく。正確には放出された魔力が拡散しずにアトラスキングの周りを漂い、常に強化しているのだ。


「時間を稼ぐほど不利になりそうだな……あれを使うしか……」

「ソラ君?」

「フリス、しばらくあいつの足止めを頼めないか?厳しいとは思うが……」

「勝算があるんだよね?」

「ああ、時間はかかるけどな」

「なら頑張る。魔力を無くす勢いで使えば、できるから」

「頼むぞ」

「任せて!」


魔法のみのフリスでは、アトラスキングに対して相性が悪い。だが、足止めだけなら不可能では無いのだ。


「こっちだよ!」


フリスは全力でアトラスキングに攻撃を加えていく。弾幕も大技も連発して放つが、大剣にほとんど消されてしまう。勿論何発か魔弾が当たるが、耐性も上がっているのかダメージはほとんど無くなっていた。それでも宣言通り、歩みを遅くしている。


「すぅ……はぁ……」


ソラが学んできたものはスポーツなどという遊びでは無く、本気で相手を殺すための武術。そしてソラが理解した極意は、力の入れ方、抜き方、操り方である。


「すぅ……はぁ……」


脱力した状態、慣性で動いている状態は最も力を発揮しやすい土台となっている。それを上手く使うことで、普段以上の身体能力を得られるのだ。さらに全身を意識することで、無駄のない動きをすることができる。

武術においては、それを末端まで気を流す、と表現していた。この程度なら普段からできているのだが、ソラは意図的にこれを意識していく。


「火 水 風 土 雷 氷 闇 光 神羅に集いし全ての元素よ 我が元へ集え 我へ力を与えよ……」

「消すのが早すぎ!」

「私もいるのよ!」

「ミリちゃん⁉︎」

「2人が頑張ってるのに、私だけ休めるわけ無いじゃない」

「……我の意思は火より苛烈 我の意思は水より飲む 我の意思は岩より硬い 我の意思は風より早い……」


そして、今のソラには魔法もある。肉体全体を強化するように発動させていた身体強化を血の巡りと神経に沿って発動させ、さらに量と瞬間投入量も増加させる。付加を自分の中で巡る身体強化の魔力へ向けて行使し、各属性の持つ特性を取り入れていった。つまり火の苛烈さを、水の包容力を、風の流れを、土の堅牢さを、雷の豪快さを、氷の冷徹さを、闇の全てを塗りつぶす意思を、そして光の真なる強さを、全てを取り入れて魔法を作り上げていく。そしてそれを纏め上げたのは、まだ意識して行使できないながらもソラに馴染んでいた神気だった。(魔力と混ぜる程度は、神気を感じられれば誰にでもできる)さらにその魔力は、薄刃陽炎へも伝わっていく。

それに伴う処理量は半端なものでは無い。だが、ソラはそれらを全て意思の力でねじ伏せ、組み立てる。鋼の意思、などという簡単なものでは無かった。


「くっ」

「動いちゃう……」


ミリアとフリスだけでは分が悪くなってきた。アトラスキングの力がどんどん強くなり、守りきれなくなっていく。


「ソラ!」

「ソラ君!」

「……光の名の下 今我自らのために なすべきことをなさん!」


そしてミリアとフリスが押し切られたのと、ソラが詠唱を終えたのは同時。そしてその瞬間、光が瞬き、アトラスキングは縦に両断された。


「すまんな、待たせて」


魔法名「何よりも強き意思マインド・オブ・キング」、全ての魔力を強化にまわし、必殺の一撃(居合)を放つ。継続戦闘能力を重視するソラには珍しい単発型であり、万が一のために作り上げてきた努力の作品だった。

そんな風にカッコよく決めたソラだったが、すぐに膝をつく。


「ぜぇ、はぁはぁ……」

「ソラ君、大丈夫?」

「あの魔法のせいだ……魔力切れと全身疲労でつらい……」

「ソラが魔力切れって初めてよね?」

「まあそうだな……アレにはほぼ残り全て、全魔力の約半分をつぎ込んだんだ」

「え〜と、それって……」

「純粋な破壊に込めれば、町を半壊くらいはさせれるかもな。最も、さっきのでは衝撃波が発生しないように結界も使ってたんだが」

「それでも凄いわよ……」

「まあそうか。それにしても……絶対オリアントスが手を加えたよな……」

「普通なら……ありえないよね?」

「あんな大剣をアトラスキングが持ってるなんて情報は読んだことも聞いたことも無いわ。あの最後の魔力だってね」

「このダンジョンだからってことも無いはずだしな」


ソラ達は戦ったことが無いので分からないが、このアトラスキングはSSランクくらいまでは強化されていたのだろう。特に魔力を放出しだしてからの強さは異常だった。

それを倒したソラだけでなく、ミリアとフリスも疲労が溜まっていたため、しばらくこの場で休むことになった。


「でも……どうしてわたし達だけ邪魔するのかな?」

「どうせ面白いからだろうさ。鍛えるってのよりはこっちだろうな」

「何で断言できるのよ?」

「ダンジョンを作ったのも暇潰しだって言ったよな。アレと同じだ」

「それって大丈夫なの?」

「あいつ的には問題無いんだろうな……確かに苦戦する相手の方が成長できるから良いんだが……」

「絶対頻度が高すぎるわよ。ソラじゃなかったら全滅してるわ」


ダンジョンに入るたびに毎回何らかの仕掛けをしてくるため、ミリアには大分辛いらしい。1つのダンジョンを踏破するのに10日以上かかっているため、日数的な頻度は低いが、感覚的には高く感じていた。大抵の場合が魔獣の大群と戦うため、疲労も溜まりやすいのだろう。

ようやく動ける程度に回復したため、奥の扉を開けて宝箱へ進んでいく。ミリアはさっさと罠の確認をし、無いと断定した。そして、開いた宝箱の中には……


「ブレスレットよね?」

「何だろうな、これは……」

「うーん……ちょっと貸して?」

「良いが……何か分かったのか?」

「何となく?」

「何となくって……」

「あ!」

「分かったか?」

「これ、杖みたいな物だよ。魔法を強くするみたい」

「そうなのか?じゃあフリスが?」

「ううん、ソラ君の方が良いよ。わたしはオルボッサムを持ってるし」

「それもそうか。これを使った時って……この中に魔力を流せば良いのか?」

「杖に流した魔力を魔法に使うんだ。必要分を杖に入れて、それを使うことをイメージするの」

「俺は手や薄刃陽炎を基準にしてたから、それを変えれば良いだけか。まだ楽だな」

「そうだね」

「またソラが強くなるのね……まあ良いわ。それで、他の中身はどうするのよ?」

「いつも通り、売れば良いだろ。魔水晶は半分くらい残してな」


ソラ達が売った魔水晶は手に入れた量の半分ほど、しかもランクが低い物ばかりである。それに対して、魔力を回復させるために使う量は少ないため、貯蓄は増えていく一方だった。それなら売るのを増やせば良いのだが、ソラは何となくこのままの方が良いように感じていた。その理由はまだ分かっていない。


「このままここに泊まれば良いな?」

「ええ。かなり疲れてるし、魔獣が出ない場所で休みたいわ」

「わたしも〜」

「じゃ、準備するか」


最奥のこの部屋は魔獣も発生しず、未踏破ダンジョンなので他の冒険者が来ることはまず無く、ほぼ完全な安全地帯である。休息、夜営にはもってこいの場所だ。

またこの後、どんな結果もオリアントスを喜ばせるだけだと考えてしまい、苦々しく思うソラであった。










ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー









「疲れた〜」

「確かに疲れたわね」

「30体だったからな……ここが行き止まりの部屋で良かった」

「本当にそうね。おかげで休めるもの」

「ご飯はいつにするの?」

「休憩してからだろ。作るのは俺とミリアなんだぞ?」

「う……ごめんなさい」

「ソラ、そんなに酷いこと言わないの。フリスだって頑張ってたじゃない」


帰り道、魔獣を殲滅した後の小部屋で泊まることにした3人。野外ならこんな場所で寝たくなどないだろうが、ダンジョン内なら別だ。死体が消えると同時に匂いや血なども消えるため、問題は無い。むしろ夜警の問題からこっちの方が歓迎されるほどだ。


「さて、作るか」

「今回のは……ソラがメインよね?」

「ああ、ロスティアで出てた日本食だな。もっとも、俺が作れるやつなんて限られてるけど」

「それでも楽しみだよ?」

「はは、ありがとな。じゃあミリア、手伝ってくれ」

「ええ」


指輪から水筒を取り出し、飯盒で米を炊く。豆腐にネギ、味噌を取り出して味噌汁を作る。鮎に似た川魚の下処理をし、串を通して塩焼きにする。事前に作っておいた胡瓜や茄子の浅漬けを取り出す。

これでオーソドックスな家庭用日本食が完成した。フリスは結構楽しみだったようで、目が凄いことになっている。そしてがっつく。


「美味しい!」

「そりゃ良かった」

「あんな風に作るとこうなるのね……」

「どちらかと言えば、調味料の違いだろうな。材料が同じでも調味料が違えば、結構味に差が出るだろ?」

「そうね……でも、ソラの手料理なんだしこういうのは後で良いわね」

「そうだよ」

「ミリアも手伝ってたじゃ無いか」


いつも通り和気藹々とした雰囲気である。ここがダンジョンの中で無ければ、普通と言えたのだろうが。

ちなみに2人ともフォークとスプーンを使っており、川魚の塩焼きはソラにほぐしてもらわないと食べられなかったりする。だがまあ、当然だろう。むしろ、フォークとスプーンで川魚を解体できる人がいたら見てみたい。


「なあミリア、ルーメリアスの調子はどうだ?」

「全然変わらず良いけど……どうしたのよ?」

「神器化が解けてるとか、そういうのがあると困るからな。一応聞いたんだよ。フリスはどうだ?」

「大丈夫。むしろ慣れてやりやすくなったよ」

「そうか……」

「ねえ、ソラ君は?」

「ん、俺か?変わらずちゃんと効果があるぞ」

「そうだよね〜」

「まあ、そうよね」

「?」


このまま3人は問題無く帰路を通り、ロスティアへ戻っていった。









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