第10話 巨人塔①
10/15 改稿
「おらよっと」
「見事よね、本当」
「ミリアだって天井まで駆け上がってたじゃないか。俺としてはそっちの方が凄いぞ」
「どっちもどっちだよ。わたしには無理」
「適材適所ってことね」
「なんか違うような……」
ロスティア郊外に聳え立つ巨大な塔、巨人塔。このダンジョンで出てくるのはその名の通り、Bランクのトロールやギガント、Aランクのサイクロプスやネフィリムなどの巨人である。
まあ巨人は、本能が弱く大半は知能も低い。そのため、ソラ達はかなり楽に進めていた。これも実力があるからこそなのだが、この中で厄介なのは……
「また来たよ」
「やっぱり、あいつらか?」
「うん。小さいし、多いもん」
「それならトロールじゃないわね」
「ああ、俺も見つけた。あいつらだ」
それはアトラスと呼ばれる、比較的小柄なBランクの巨人達である。
「数は?」
「前に3と後ろに2。指揮官がいたら厄介だが……まだいなさそうだな」
「もう少し下……あ、上の方かな?」
「多分な。真ん中辺りからか?」
「それより、今の場所は?」
「あそこの角を曲がったら見えるはずだよ。結構遠いけど」
魔力探知に慣れてきたのか、フリスも大分精度が上がってきた。ソラにはまだ敵わないが、ダンジョンの地図を作ることくらいはできる。
……もともと才能が無いと、ここまでは来れないだろうが。
「ミリア、フリス、魔法使いがいたら1体残しておいてくれ」
「良いけど、何でよ?」
「試したいことがあってな。頼む」
「ねえ、それって魔法だよね?」
「ああ、だが闇だぞ?」
「良いもん。知りたいんだから」
「了解。じゃ、さっさと準備するか」
「仕方ないわね。あ、見つけたわよ」
薄い青の体をした巨人、サイズはトロールとほぼ同じだが顔は理性的である。それもそのはずで、アトラスは巨人としては珍しく高い連携を行ってくる。
なお、今見つけた集団は大剣持ちが2体と大盾持ちが1体、弓矢 持ちが1体に杖持ちが1体だ。本には指揮官と呼ばれる存在が示唆されていたりもしたが、まだ出てきていなかった。
「じゃ、強襲だ!」
ソラは一気に駆け出し、大剣持ちを持つ1体を真っ二つに両断した。
だかアトラス側も対応が早い。すぐさまフォーメーションを組み、ソラを包囲する。
それが悪手とも知らずに。
「上も注意しなさい、ね!」
「それ!」
「ナイスだ、2人とも」
ミリアは大盾持ちを斬り刻み、フリスは雷矢で弓持ちを貫いた。さらにソラは大剣持ちをもう1体斬り裂いたため、残るは杖持ち1体となる。
そして普段ならすぐ倒すような隙を、ソラ達はわざと放置した。当然ながら杖持ちは反撃として魔法を放つ。
「捉えろ」
それに対してソラの放った闇球が、杖持ちアトラスの放った雷球を打ち消す。だが、正確には異なり……
「よし、成功」
「何が?」
「変な魔力の流れがあったよね?」
「ああ、今のは闇魔法の上手い使い方だな。発想を相当変えないとできないけど」
「上手い使い方?」
「闇魔法ってのは魔法を相殺するだけじゃないってことだ」
「どういうこと?」
「今俺がやったのは……魔力の吸収だ」
「え⁉︎」
「本当⁉︎」
魔法を打ち消しやすい、という闇魔法の特性をソラは組み替えた。打ち消した時に発生した魔力を、闇球に繋げていた魔力の帯を利用して自らに取り込んだのだ。はっきり言って、何故こんなことができるのだろうか?
ちなみに、アトラスは雷球が消えた瞬間に風の槍で頭を貫かれて死んでいる。用済みとばかりにあっさりと。
「ああ、まだ効率は悪いけどな。だいたい……1%くらいか」
「確かに少ないけど……凄いことよ?」
「今のソラ君、魔法使いの天敵だね」
「そうか?魔法勝負だけなら、もうフリスに勝てる気がしないんだが」
「じゃあ、出てからやれば良いじゃない。いつもみたいに1対2で」
「……もしかして勝てそうだからか?」
「そうよ?」
「悪怯れなく言い切ったな」
「だって、1回くらい勝ちたいじゃない」
「そうだよね〜」
「……ま、それくらいの意気込みがあった方が良いか」
ソラはミリアやフリスと何十回も稽古してきたが、全て勝っている。戦うたびに差は縮まっているのだが、ソラも成長しているため追いつけていないのだ。そしてミリアもフリスも、まだソラの技を覆せるほどの何かを得れてはいない。だが、得そうなのは事実であり、ソラは頼もしいと思うとともに少し恐れていた。尻に敷かれたいわけでは無いのだから。
警戒しつつ通路を進んで行くと、ミリアから静止がかかった。
「待って」
「どうした、ミリア?」
「この先、罠が結構あるわ。注意して」
「注意?……ああ、大掛かりなやつが多いからか」
「そうよ。もしかしたら小さいのもあるかもしれないけど、今のところ解除する必要は無いと思うわ。それにしても……」
「どうしたの?」
「罠を見つけられる範囲が広くなってるのよ。なんでかしらね?」
「む……ミリア、問題は無いんだろ?」
「ええ、変な感覚とかは無いわ」
「じゃ、そのままで良いんじゃないか?多分成長か何かだ」
罠は大掛かりすぎて、かなり分かりやすい状態だ。恐らくは対巨人用、もしくは巨人が用意したかのような罠だからなのだろう。何故そのような仕様になっているかは分からないが。
「そうか……なら先導頼むぞ」
「ええ、任せなさい」
「壊さないの?」
「無駄に労力を払う必要は無いからな。今まで壊してたのは、問題があったからだ」
「そうね。じゃ、行くわよ」
その後も特に問題無く、ソラ達は進んでいった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「あれ?」
「ん?」
「2人とも、どうしたのよ?」
常に張っている魔力探知に引っかかった反応。知能の低い普通の巨人は簡単に片付け、アトラスも慣れて10体以上でも特に懸念する必要も無く倒せるようになった頃、反応したのは新たな存在だった。
「この反応って……来たのかな?」
「恐らく……そうだな。他に比べて魔力値が大きい」
「もしかして、指揮官が出てきた?」
「ああ、その可能性が高いな。注意しろよ」
「指揮官はAランクだったわよね?」
「そうだよ〜」
「盾と武器をそれぞれの手に持ってるらしいな。他にも普通のやつが6体いるし……厄介だ」
「後衛はわたしが抑えるね。ミリちゃんはソラ君を助けてあげて」
「もちろんよ。撹乱は任せなさい」
「おいおい。2人とも抑えるとか、撹乱で済ませるつもりないだろ……さて、連中は前に4体後ろに3体、指揮官は前にいるな。隙は少ないが……いつも通りやるぞ」
通路の先150mほどの場所に確認したアトラスの群れ。武器は大斧が1体、斧槍が1体、槍が1体、弓が1体に杖が2体。そして大盾と大剣が1体、本で得た情報通りならこいつが指揮官だ。
そしてソラ達は正面から駆けていく。もともと1本道なため強襲しかできないのだが。
「甘いよ」
フリスは飛んできた矢を火球で燃やし、水球と岩球を風で吹き飛ばす。そして放った水の刃で弓持ちと杖持ちを1体真っ二つにする。水を操るアトラスは上手く避け、右手を吹き飛ばされるだけですんだ。だがこいつは左手から来た風刃により腰で切断される。
こういった2段仕込みの攻撃も、簡単にできるよなったフリスである。
「ふっ!」
ミリアはそのスピードを生かして槍持ちを斬り刻み、倒すと同時に他3体の注意を引きつける。指揮官は自身がソラに相対し、他2体でミリアを囲むことで倒そうとする。
確かに上手く考えられている。だがそれは、ソラ達の掌の上で踊っているにすぎなかった。
「しっ!」
ソラの放った横薙ぎの一閃は細く鋭い風の刃となり、通路を駆ける。そしてそれは指揮官を含めた残り3体を両断し、戦いを終わらせた。
「……稽古ならともかく、実戦だとソラに勝てる気がしないわね……」
「そんなことしないだろ?」
「そういう意味じゃ無いわよ……」
「それもそうか……ま、2人を守るための力だから大丈夫だろ?」
「守られてばっかは嫌なんだけどな〜」
「守ってばっかなわけ無いだろ。正確には、2人と一緒に生き残るための力だ」
「それもそうね」
「そうだね〜あ、また来た……え?」
「は?マジか……」
「どうしたのよ?」
同じようなパターンでも、その後が同じとは限らない。
「指揮官5体、普通のが40体の混合だ……9体が5パーティーってとこか……」
「え……」
「それに、この先の広間で待ち構えているよ。同時にかかってきちゃうね」
「ソラ……」
「どうする?」
普通のAランク冒険者には無理な話だろう。だがソラ達なら不可能では無いかもしれない。元々Aランクに見合わない実力を持っているのだし、ソラとしてはこの程度で立ち止まってはいられないのだから。
「ミリア、フリス……このまま大技で終わらせるのは面白く無いよな」
「ソラ君?」
「まったく、ソラったら」
「このまま突撃するぞ。こういう言葉を使うのは悪いかもしれないが……力試しだ」
「覚悟はできていたわ。それに、こんなことで死んでたらソラの力になれないもの」
「わたしもそう思うし、仕方ないね」
「ありがとな」
そしてそれは2人も同じだった。もし引き離されるとしても、それはできるだけ遅くがいい。できる限り長い間共にいたい。その思いが2人の強さを支えている。この程度に怯えてはいられないのだ。
「策を考える意味も無いし、正面から行くぞ」
「ええ」
「やっちゃおうよ!」
3人はそのまま広間に突入する。アトラスの集団は広間の四方と中央それぞれにおり、上手く立ち回らなければ包囲されるだろう。
だがソラ達は、そんなことを気にしなかった。
「まずは中央だ!」
包囲される前に各個撃破すれば良い。アトラスの集団はフリスの魔弾による爆撃の後、生き残りはソラとミリアによって他が来る前に殲滅された。何体かは反撃したが、武器を叩き斬られ、返す刀で斬り裂かれる。指揮官もミリアに狙いを定めてしまったため、ソラに後ろから首を刈られた。
「それぞれ1パーティー、早くやったら残りもだ!」
「分かったわ」
「うん!」
「じゃあ行くぞ。変な装置は俺が壊す」
そして別々の方向へ散らばる3人。それは自信の表れであり、実力を試したいという本心でもある。
なお、四方の壁の上方には謎の装置と穴があった。ソラ達は知らないがこれはとある魔獣のブレスを再現する魔法具、というか神器で、今回のオリアントスの妨害品である。ブレスと言っても毒ガスで、巨人には効果が無いよう細工されていた。そのため、普通は起動されたら脅威である。
だがベフィアにおいて、毒は魔力を多く持つ者には弾かれるため、無傷ならばソラ達には通用しない。魔獣が放つ毒も、込められた魔力より圧倒的に多い魔力を持っていれば無意味である。まあ、ある程度以上の傷を負っていたら普通に効くのだが、毒ガスを出す前に破壊されたので意味は無かった。(この3人なら、毒持ち魔獣を食べても、大抵の場合は問題無かったりする。だが弾かれない毒もあるため油断は禁物だ)
「私が1番楽よね、きっと」
ミリアの相手は破壊力の高いパーティーだ。大斧持ちが2体、大剣持ちが2体、斧槍持ちが2体、弓持ちと杖持ちが1体ずつ、指揮官は大盾に槍持ちである。攻撃力は高く、直撃すればミリアのようなか細い少女など1撃で肉塊になるだろう。だが、ノロマだ。このようなパーティーでは、ソラ達3人の中で最も速い彼女に翻弄されるだけである。
「遅いわよ!」
振られる斧や大剣、斧槍を軽々と避け、弓や魔弾を誘導して同士討ちさせ、次々と斬り裂いていく。一方的な状態だ。
「さて、1パーティーも倒さないとね」
ソラのために強くなりたいミリア、想いはここまで人を強くするのだろうか。
「あれ?なんでこんなに固まってるの?」
フリスの相手は大半が遠距離攻撃のパーティーだ。武器は大盾が2に弓が3、杖が3、指揮官は大盾に杖を持っている。さらに、判断速度も速い。フリスがこのパーティーに向かった瞬間に矢をつがえ、魔力を練り、盾を構え、すぐさま放った。
だが、効くわけが無い。
「これだけ?」
後手であるはずのフリスが放った魔弾、それがアトラス側の魔弾や矢を迎撃した場所は、アトラスに近い。つまり、それだけ認識できた速度が違うのだ。
そしてそれは攻撃にも活かされる。アトラスの集団を全方位から魔弾で囲み、それに集中している間に竜巻で殲滅した。
「次!」
魔法を使うことが好きなフリス、それが自然と実力に大きく影響したようだ。ソラへの想いがそれを加速させている。
「何だよあの亀ども」
ソラの相手をするパーティーは防御能力が高い。大盾持ちが3体に槍が2体、そして杖持ちが3体で、指揮官は大盾に大剣だ。普通の冒険者であれば、苦戦は免れられないだろう。
「ま、問題無いか」
だがソラには関係無い。もともと高い技量を持ち、一部の同級生から「剣聖」と呼ばれ、それを師範に認められていたソラだ。さらに、切断能力の高くなった薄刃陽炎もある。問題があるはずも無い。
当たる瞬間に魔力を流すことで盾も槍も大剣も、そしてアトラスの胴体も一切の関係無く斬り裂き、倒していく。後衛の2体は適当に放った魔弾により簡単に沈んだ。
「やっぱり、ラストは取られたくないな」
己の実力を高めることが好きなソラ、最も強さに貪欲と言えるだろう。
「「「はぁ!」」」
そして3人は同時に攻撃する。ミリアは突撃しながらの剣閃を、フリスは無数の魔弾を、ソラは広範囲を薙ぐ魔法を込められた居合を。それぞれが放ったため、最後のアトラスパーティーは何もできずに全滅した。
「あーあ、同時か〜」
「それはフリスが律儀にルールを守ったからだろ。複数の集団を相手にするなら、フリスが1番だしな」
「そうね。私やソラは結局、1つの集団に対して強いだけだもの」
「でも、移動は速いよね?」
「順番に行くからだ。フリスみたいに同時に相手取るのは厳しいな」
「ふーん。でも、これで良いんだよね?」
「ああ、勿論だ。バランスも良いし、3人揃って成長してるからな」
正確には分からないが、もしかしたらSランクでも上位の実力を持つかもしれないソラ達。そんな3人からしたら、この程度の巨人は楽に倒せる相手でしかなかった。




