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異世界成り上がり神話〜神への冒険〜  作者: ニコライ
第3章 懐かしき日の本

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第9話 古都ロスティア②

「ソラが結婚なぁ……日本じゃ恋人の1人もできなかったくせに」

「俺に恋愛願望が無かったわけじゃないぞ?がっついてたお前は、違う感じ方をしてたかもしれないけどな」

「ちなみに、当時気になった女は?」

「いなかったな」

「即答かよ。まあ、そういうことはちゃんと分かってたけど」

「付き合いが長いせいで分かるよな……お前が本気だったことなんて一度も無かったようだし」

「それは言わないでくれ!くそう、これが余裕か?美人に挟まれた余裕か⁉︎」

「巧太、いやバルクだって美人な嫁さんもらってるだろ」

「ソラは2人じゃないか。マリーだって負けないくらい美人だけど、流石に敵わないよ。それにしても、ソラが冒険者か……当たり前すぎて驚かないな」

「バルクこそ、料理人なんてそのまますぎるだろ」

「料理人じゃなくて板前だ。日本料理なんだぞ?」

「どっちも同じだろ」


中津巧太、彼は日本で空と小・中・高と学校が一緒の無二の親友だった。当時から料理が得意で、将来の夢は料理人、同級生に振舞ったりもしていた本物だ。そんな彼だが、空の葬式の後にショックからか体調を崩して入院、そのまま回復すること無く、21歳の時に病死したそうだ。

だが何故かベフィアに転生しバルクという名を得、夢だった料理人をすることができている。本当に、運命とは分からないものだ。


「ま、板前になってくれたおかげで俺がまた美味いものを食えるんだけどな」

「勝手に言いやがって……だったら材料調達を依頼するぞ」

「そんなもの下っ端に任せとけ。言っとくが、上の魔獣はほぼ食えないからな?」

「試したか?」

「ああ、毒が無いやつを少しな。大半が筋っぽくて食えたもんじゃなかった」

「何故だ、モンスター料理とか夢だったのに……」

「上は肉食ばっかだからな……まあ、美味いのも稀にいるが」

「何だと⁉︎」

「断る」

「何も言ってねえよ!」

「どうせ頼むつもりだったんだろ?」

「ぐう……」


鳥や熊系の魔獣はクセがあるが普通に食べることができる。ソラ達も商隊護衛の間に仕留めた時は、捌いてもらって食べていた。残念ながら自分達ではまともに捌けないため、他にいない時はまとめて売る1択だ。また、サメ系のフカヒレはしっかり食材として売られていたし、ウォーティアではソラ達も売ったりした。

そんな話をしたりしながらだが、2人でかなりの量を呑んでいるにも関わらず、ほろ酔い程度である。ソラが強いのはイーリアですでに分かっていたが、バルクも大概だ。2人とも悪ノリで焼酎をそのまま呑んだりしているのに、一切潰れていなかった。


「よくあんなに呑めるね……」

「この焼酎ってお酒、結構強いのに」

「でも、慣れれば美味しいのよ。あのソラって子も好きみたいだしね」

「そうだね。……マリーさんって、バルクさんが他の世界出身だって知ってたの?」

「ええ、知っていたわ。まあ、あの人は前世の記憶を持っているだけだそうですけど」

「ソラ君は、いきなり落ちてきたんだよ」

「フリス、それじゃ分からないでしょ?宙に穴が開いて、そこから落ちてきたのよ」

「へえ、面白いのね」


男2人の対して女3人も固まって話しているが、互いに日本人に汚染されているのだろうか?簡単に納得したり、とんでもないことを面白いで済ませている。

ベフィアの学者が卒倒してもおかしくないことなのに、だ。


「ま、お互いつらいこともあったよな」

「そうだな。ああそれで、少し頼みがあるんだが……」


こちら側は、特に難しい話では無い。


「分かってるぜ、米だろ」

「その通り。売ってる所を教えてくれないか?」

「一般人向けは少し高いからな……よし、うちにあるやつを売ってやる」

「ちなみに価格は?」

「薄利上等の親友価格よ!」

「やっぱり持つべきものは友だな!ありがとう!」

「その代わり、うちの店を贔屓(ひいき)にしてくれよ?」

「当たり前だ」


バルクに引きづられてか久しぶりに親友に会ったからか、ソラもテンションが高い。まあ、米については仕方がないか。なお、飯盒(はんごう)はすでに道具屋で買ってある。だが、米屋は見つけることができていなかった。丁度良いとばかりにバルクへ頼んだソラだが、帰ってきた言葉は予想以上に嬉しいものだった。

さらに話は、ベフィアへ来た経緯へ移る。


「ソラは召喚なのか。けど、体は向こうにあったぞ?」

「体だけはこっちに来た時に再構築されたんだろうな。俺自身しっかり死んだ感覚があるし」

「死んだ感覚って、なんだそれは」

「直前に召喚されて助かったわけじゃないってことだ。上手くは言えないけどな」

「なるほど。それは転生の俺と同じか」

「そんな感じだ。それにしても、最初は言葉が大変だったろ?」

「は?何言ってるんだ?」

「いや、別の言語を(やく)無しで学ぶってのは大変だろ?あ、もしかして(やく)ありか?」

「いや、訳なんて無いが……ベフィアの言語って日本語だぞ?」

「……は?」

「文字だってそう書くからな?ラノベみたいに自動通訳されてるわけじゃなくて」


衝撃の事実。というか、下手にそういう文化(自動翻訳)を知っていたため、勘違いしていたようだ。


「……フリス、平仮名の『あ』はどうやって書く?」

「え?ええと、横に線を引いて、片仮名の『ノ』みたいなのを書いて、平仮名の『の』に似た円を書くよ。あ、こんな感じだね」

「……ミリア、漢字で『天』ってどうやって書く?」

「横に2本線を引いて、その後『人』って書くわよ。横線は上の方が長いし、残りが完全に『人』ってわけじゃないけど」


混乱していても、すぐさま確認法を思いつくのは流石である。そしてしっかり確認された。


「……バルク」

「どうした?」

「……本当だな」

「だろ?」


ベフィアの共通語、というか唯一の言語は日本語である。その割に人や町の名前、大半の魔獣の名前はカタカナで書かれており、料理は欧米系ばかりだ。

何故中世ヨーロッパ(ベフィ)風異世界()の共通語が日本語になったのか、疑問しかない。


「……そういえば、話してる感覚は日本人に近かったな……」

「確かにそうだな。旅してたソラはよく感じたのか?」

「残念ながら意識してなかったな。だけど、思い返せばそう感じるけど」

「ま、そんなもんか。旅か……良いな」

「まだ半分も回ってないけどな。後何年かかるやら」

「ソラは強い冒険者だからマシだろ。一般人なんか護衛に金がかかって仕方がないぞ」

「商隊に入れ」

「無茶を言うな!」

「まあそうだよな。店も持ってるし」

「そういうこと、だ……」


……バルクはいきなり突っ伏して寝た。

いきなりすぎて、時間が止まったのかと思うほどだ。


「……いや待て!」

「あらあらあなた、またですか?」

「またってどういうこと?」

「この人は呑みすぎると寝ちゃうんですよ。急すぎて限界も分からないそうですね」

「なんだその体質……」

「まあ、私達も似たようなものよね……」

「そういうわけで、お開きにしていただけますか」

「そうだよな……えっと、お会計は」

「ちょうど銀貨1枚ですね」

「……結構な額だな……」


高い酒ばかり呑んでいるからだ。









ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー










「よ、昨日ぶりだな」

「だな」

「それより、そこの子供は?」

「ああ、紹介がまだだったか。娘のメリアールと息子のアルファードだ」

「こんにちは」

「こ、こんにちは」

「こんにちは。ちゃんと挨拶できるなんて偉いな」

「かわいい〜」


その翌日、ソラ達はバルク達とともに呉服屋へ行くことにしていた。バルクが酔い潰れた後、マリーと話して決めたことだ。だが、生憎(あいにく)の雨だ。まあ、豪雨というほどではないので、行くのに問題は無い。

バルクが連れているのはマリーの他に2人の子供もいる。上のメリアールは金髪茶眼の人間(ヒューマン)の6歳の女の子、下のアルファードは茶髪碧眼の狐獣人の3歳の男の子だ。

昨日はすでに寝ていていなかった2人と、身軽(・・)なソラ達は話し始めた。ミリアとフリスがメインとなっているが。


「ちなみにソラ、傘はどうしたんだ?」

「傘?獣皮のコートじゃないのか?」

「ああ、この町には和傘があるからな。で、雨具はどうした?」

「使ってないぞ」

「は?」

「使ってないぞ」

「どうして濡れてない?」

「こうやったからだ」


ソラは料亭から1歩下がり、外へ出る。当然ながら雨が降り注いでいるのだが、ソラは気にしていない。


「ソラお兄ちゃんすごーい」

「すごーい」

「……ソラ、何が起こってる?雨がお前を避けてるように見えるぞ?」

「ああ、その通りだ。水と風の複合魔法だな。使うか?」

「いえ、遠慮しておきます。この子達の教育には良くないと思いますので」

「ああ、俺達以外ほぼ使えない便利魔法は駄目か」


バルク、もしくはマリーはしっかりソラ達のことを教えていたようだ。教育もしっかりされているようで、元気が良く礼儀正しい。子供好きな2人はともかく、ソラにも好印象だ。

なおソラの使った魔法は、フリージアに向かっていた時から、雨の日には愛用しているものである。基本的にフリスは自力で使い、ミリアにはソラがかけている。

そんなこんなで話を終えると、バルクとマリーの案内で呉服屋へ向かった。


「これから行くお店は、ロスティアの中で最大の呉服屋なんですよ」

「生地は良いけど安い。ま、高いやつもあるけだな。全部店の中で見れるし試着もできるから、良い店だ」

「……なあ、もしかして越後屋とかいう名前じゃないよな?」

「そっくりだが違うな。安心しろ。……もしかして、お主も悪よのう、とか見たかったのか?」

「いや、機関が動くかもって話だ」

「いやいや、流石に無いだろ」


無駄話をしている間に、目的の呉服屋へ着いた。その看板には、ロマリ屋と書かれている。……なぜか片仮名だ。

なお、メリアールとアルファードはすでにミリアとフリスに懐いている。子供の相手が上手かった。


「……なぜ片仮名なんだ」

「今更じゃね?」


確かに今更である。日本風の町の名前が片仮名(ロスティア)な時点で。


「いらっしゃいませ、バルクさん、マリーさん」


7人を出迎えたのは蒼髪紫眼の着物女性、むしろ美少女と言った方が良いか。薄い青色の着物が髪と眼に合っている。

バルク達とは親しいようで、すぐにメリアールとアルファードが駆けて行った。


「やあ、メーリア。今日はこっちの3人の服を選んでくれないか?」

「この人の古い知り合いなのよ」

「そうですか。初めまして、私はメーリアと言いまして、このロマリ屋の店主をさせていただいております。以後、お見知りおきを」

「初めまして、ソラです。まあ、こっちの2人の方がメインになりそうですけど」

「ミリアです。お願いします」

「フリスです」

「ふふ、そうですね。私も選びがいがあります」


彼女の見た目はミリアより年下風なのだが、雰囲気は大人だ。


(ま、店主やってるなら年下はないか)


実際、メーリアはバルク達より3つ年下、ソラからしたら9つ年上である。店主をやっている理由は見立てが両親より上手いからであり、経営に関してはまだ相談している。


「さて、お三方は……」

「ああいや、連れて行くのはこの2人だけにしてください」

「ソラ君、どうして?」

「初めてだし、完成形で見たいからな。似合った服で来てくれよ?」

「あ、それ良いわね」

「分かりました。ではお二方、どうぞ」

「そういうわけだ。バルク、付き合え」

「仕方ねぇな。マリー、2人を連れて付いて行ってやってくれ」

「分かりました。さ、行くわよ」

「はーい」

「ソラ君、後でね〜」


6人と2人に分かれ、ソラとバルクは男性用の羽織や袴などが置いてある所へ向かう。なおその場所までは、バルクが案内した。ほぼ完全に、店内を把握しているそうだ。


「……で、俺はなんでこんなことをしてるんだ?」

「案内したんなら、こういうことも考えておけよ」

「だけどなぁ……」

「今のお前ならなんでもないだろ、この程度」

「30年もやってるからな。流石に慣れたよ」

「だったら手伝え。俺は慣れてない」


何をしているかというと……ソラがバルクに和服を着るのを手伝わせているだけだ。ソラは道着を着るのには慣れていても、和服は殆ど着たことがなかった。そのため、このロスティアに生まれて30年のバルクに手伝わせている。


「さて、2人はどんなのを着てくるかな……ん、後ろ大丈夫か?」

「ああ、大丈夫だ。メーリアとマリーがいるんだぞ?」

「自然に2つの意味を含めたな……それにしても、ミリアとフリスに着物が似合うのか?」

「連れて来といて言うか?」

「2人はドレスの方が似合う気がするんだよ」

「なるほど、一緒にいる分だけわかるか」

「ああ。ま、1年も経ってないけどな」


ソラが選んでいるのは最上級の正装である紋付や長衣に袴、またそれより少し格を下げた羽織、そして普段着の色無地や浴衣などだ。だが、男性用の和服は殆ど柄がなく、選ぶ必要が少ないので、雑談の方がよく進んでいるのだが。

なお、紋付につける紋は、(つた)の葉を選んだ。これがソラの、小村家の家紋だからである。


「なあ……」

「ん?どうした?」

「……本当にあのダンジョンに行くのか?」


ここロスティアの近くにも未踏破のダンジョンが1つある。そしてそこは、未踏破である有名な理由があった。


「ああ、そう言っただろ?」

「いや、だけどあそこには……」

「はっ。あんなデカ(ぶつ)、物の数にも入らんな」

「見たことないから言えるんだ!」

「あるのか?」

「そうだよ……3年前だ。ダンジョンから出てきたやつじゃないけど、300体」

「……被害は?」

「迎撃に出た冒険者、兵士、騎士の混合部隊の1割が死んだよ……10倍の数がいてなんだぞ!」

「ま、烏合の衆じゃあな。魔獣とはいえ、こいつらの連携は上手いだろ」

「だろ?だから「でも、俺達の敵じゃない」……は?」

「いちいち指揮が必要とするんじゃな。あいつら300体よりも、本能だけで連携できるダークウルフ1000匹の方が難しいだろうさ」

「いや1000って……」

「1000なんて大した数じゃない。フリージアじゃ数万が相手だったからな」

「す、数万……」

「俺達3人がいるのはそういう世界だ」


すでに冒険者の中でも高位と呼べるほどの力をつけているソラ達。その3人からすれば、次のダンジョンはかなり(ぎょ)しやすい場所だ。


「だけどな、まだ俺達は強くなる。目的があるからな」

「ソラ、お前……」


そして目標を持っている。バルクに話せる内容では無いとソラは思っているが、その覚悟はバルクも感じ取った。


「変わったな。昔なら、俺は強くなる、なんて言うのに」

「そうか?」

「悪く言えば、少し独断専行気味だったぞ?あの時だって1人で突っ込んで来たし」

「そうだったな。ま、あの2人には色々と言われたし、変えざるを得なかったってのもあるか」

「惚れたら変わるってか?」

「変わってないやつもここにはいるけどな」

「確かに」


選び終えたソラとバルクは会計を済ませ、店の外で待つ。なお、ソラは紋付姿となっている。買ったらすぐに着替えていたのだ。なお、髪以外はかなり武士に近くなっていたりする。

そしてソラがかけた時間の倍以上、ようやくミリアとフリスがやってきた。こちらも着物姿でやって来た。


「お、来たみたいだぞ」

「じゃーん」

「ソラ、どう?」


なお、既婚者なのでどちらも留袖(とめそで)である。だが2人とも少女と言って良い年なので、少女らしくカラフルだ。

ミリアは濃いめの青紫に(すみれ)や鳥に雲が描かれたものを着て、水色の帯をしている。さらに側頭部の金髪が2ヶ所ずつ三つ編みにされ、そこにそれぞれ2個ずつトンボ玉(装飾用ガラス玉)が様々な色の紐で下げられていた。

フリスの留袖は薄いピンク色に彼岸花(ひがんばな)薔薇(ばら)が描かれたものだ。さらに紅色の帯をつけている。また長い銀髪は()われ、花のような布の飾りがついた金色の花簪(はなかんざし)がついていた。

どちらも2人の雰囲気に合っていて、とても似合っている。


「……綺麗だ……」


ソラが一瞬茫然としてしまうほどに。


「ありがと!」

「そこまで正直に言われると恥ずかしいわね……」

「いやまあ……ここまで似合うとは思って無くてな……」

「ソラも似合ってるわよ。カッコ良いわ」

「そうか?男なんて殆ど選択の必要が無いんだが……」

「ソラ君だからだよ」

「はは、ありがとな」

「他にも幾つか買ったから、楽しみにしててね」

「お、それは良いな。ところで……自分で着れるのか?」

「1人では無理ね、フリスと協力しながらじゃないと。もう少しマリーさんに教えてもらうわ」


和服はかさばるため、指輪が無ければ話すことすら大変だったであろう。逆に言えば、指輪があるために、話題が途切れず話し続けられるのだ。まあそんな裏話があったとしても、大人からすれば新婚夫婦の微笑ましい絵となるのだが。


「マリー、メーリアと一緒に張り切ったんだな」

「アレだけの素材はそういないもの。メーリアの方が凄かったわよ」

「ま、そうか。それで、メルとアルは?」

「いつも通り中で遊んでるわ。そろそろ呼ばないといけないわね」

「ああ。あいつらは……放置でいっか」

「ですね。じゃあ、行きましょう」

「ああ」


この後メリアールとアルファードの遊び相手を1日することになり大変となったのだが、まだ3人はそれを知らなかった。




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