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異世界成り上がり神話〜神への冒険〜  作者: ニコライ
第3章 懐かしき日の本

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第8話 古都ロスティア①

「お、おお……」


ソラは感動していた。


「何でそんなに感動してるのよ」

「確かに美味しいけどね」


ミリアとフリスには理解されていない。

だが、これも仕方が無いだろう。


「米がここまで美味いなんて……」


そう、ベフィアに来てからひと口も食べれていなかった(ジャポニカ米)があったのだ。ソラは見た瞬間、よく考えずに露店からおにぎりを買い、頬張っていた。

さらに……


「土手煮におでん、田楽と醤油ダレの焼き鳥……最高だ……」

「ソラ?」

「大丈夫かな?」


魚醤など、日本風の味付けはあったものの、どこか少し違っていた。だがこれはら完全な日本食であり、やはりあると良い。そのため、ソラは泣きながら食べ続けていた。一見すれば、おかしな人だ。


「むぐ⁉︎ゴフッ⁉︎」

「ソラ君⁉︎」

「ちょっと⁉︎はい、水よ」

「ん、ぐ……すまん、助かった」

「急いで食べすぎよ。どうしたの?」

「いや……前の世界の食べ物だったからな。もう一生食べられないとのだと思っていたから……つい」

「それでも、あんな風になる?」

「なんて言ったら良いんだろうな……2人は好きな物を一生食べられないって言われて我慢できるか?」

「それは……確かにつらいわね」


米が好物かと聞かれて、そうだと答える日本人は少ないかもしれない。だが、米が不要かと聞かれて、そうだと答える日本人はほとんどいないだろう。主食という意味ではパンも同じだが、それだけで耐えられるかと言われたら無理と答えるはずだ。

半年以上も、ソラはよく耐えたものだ。


「それで、これがソラ君には大切なの?」

「ああ、無いと流石に寂しいな。何処かで買えないか……」

「ソラには大切なのね。そういえば、前も言ってたし……」

飯盒(はんごう)はほとんど使ったこと無いけど……練習すれば……鍋でもできるし……」

「……ソラ?」

「は、はい!」


トリップしかけたソラは、ミリアに一喝されて戻ってきた。なお、殺気を飛ばしたミリアは結構怖い。むしろ戦ってる時より今の方が怖いかもしれない。


「ソラの考えてることは置いておいて、ここの料理でオススメとかあるの?」

「いくつかはあるな。まあ、この町にあるかは分からないし、何処にあるのかは分からないけどな」

「それは大丈夫だよ。探せば良いでしょ?」

「ま、そうだな」


京都の古い町並みのようなロスティアの中を歩いていくソラ達。その足取りは1人だけ軽かった。









ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー









「まさかこれがあるとは……」

「有名なの?」

「オススメ?」

「まあ、元の世界じゃ有名だったな。時期の問題もあるかもしれないが」


見つけた瞬間、ソラは思わず大声をあげてしまった。それほどこの建物には驚いたのだ。

入り口の上にある看板。そしてそこに書いてある文字は……


「歌舞伎、か。……大丈夫か?」

「何がよ?」

「元の世界の俺の地域とは、ベフィアは顔つきとか色とかが違うからな。似合うのかどうか心配なんだ」

「確かにソラ君って顔つきが違うよね。黒髪も珍しいし」


ロスティアの町は日本風だが、住んでいる人は他の地域と同じようにヨーロッパ風の顔つきをしている。地球においてだが、日本人と欧米人は顔つきがかなり違うのだ。またベフィアでは黒目を見ることは稀にあるが、黒髪はほとんどいない。


「ねえ、入ろうよ」

「ああ、そうだな」


入っていった先、歌舞伎の舞台前にある客席の部分には畳が敷かれており、そのまま座って見るようだ。また、歌舞伎の舞台なのでしっかり、客席の間を花道が通っている。現在客席は8割方埋まっており、人気なようだ。


「能や狂言より歌舞伎の方が人気だったな……」

「何の話?」

「元の世界でのことだ。似てるから、やっぱり思い出すな」

「ふーん、ねえソラ君、あれって何?」

「かりんとうか、あんなものまであるんだな……欲しいか?」

「うん」

「じゃ、買ってくるか」

「あ、私にもお願いね」


舞台のある大部屋、そこの入り口近くでは様々な物が売っている。かりんとうもそこで売っている物だ。

また、ソラはかりんとうの他にも煎餅や饅頭も買っていこうと考えたが、フリスが食べてばかりになりそうだったのでやめた。恐らくそれで正解だろう。


「美味しいね」

「これ、蜂蜜よね?」

「そうみたいだな。お、始まるぞ」


ベフィアでも砂糖は貴重品なため、甘味料は別の物がよく使われる。蜂蜜もその1つだ。このかりんとうは表面の蜜に蜂蜜が使われており、日本にある一般的なかりんとうとはまた違って良いものだ。

3人がかりんとうを食べながら話していると、舞台の幕が上がり、役者の挨拶が始まる。


「ソラ君、さっきから気になってたんだけど、あの服って何?」

「ああ、あれか。和服と言って、俺の故郷に昔からある服装だ。文化だけはそっくりだな……」

「どうしたのよ?」

「いや……想像以上にきまっててびっくりした」


ミリアとフリスは和服の方に興味を持ったのだが。確かにヨーロッパ系の文化とは大きく異なる服だから、気になるのも当然とも言える。なお、和服を着ているのは舞台の上の役者達だけではない。歩いている人や観客など、ロスティアにいる人の7割ほどが和服を着ていた。実際、ロスティアに住んでいる人達は普段から和服を着ている。他の町にはほとんど伝わったおらず、着られていないのだが。

だがその和服、役者達だけでなく民衆も、かなり上手に着こなしていた。やはり文化として定着すると、元とは違っても形になるようだ。


(文化を上手くくっつけたのか……責任()って誰だ?)


オリアントスで無いことだけは確かである。


「……和服にも女物はあるわね?」

「ああ、ある。あの辺りの人が着てるし、歌舞伎でも女方の人が着て出てくるな」

「へえ、わたし着たいな」

「……私もよ」

「分かった。今度呉服屋にでも連れてってやるから」


正直、2人はドレスの方が似合うんじゃないかと思っているソラ。だが、結婚したために振袖姿を見れないのは本気で後悔していた。

和服について話している間に役者は脇へ下り、歌舞伎が始まった。この演目はどうやら冒険者ものらしい。歌舞伎なのに武器が刀じゃなくて剣だったり、和弓じゃなくてショートボウだったりするのだが、諦めるべきだろう。

ちなみに、ちゃんと刀も出てくる。悪代官ならぬ不正貴族の私兵が使う武器だが。そのことにソラは少し悲しくなっていたが、ミリアとフリスが気にしたのは別のことだ。


「ソラ、何て言ってるか分かる?」

「分からないのか?」

「古い言葉だからよ。分からなくても面白いんだけどね」

「ああなるほど、俺は古語をやってたから少しは分かるな。この古語ってのは前の世界の古い言葉だ」

「へえ、同じように古く聞こえるんだね」

「ああ、何でだろうな」


歌舞伎なのだからかは分からないが、セリフは全て古語だった。と言っても、江戸時代くらいの比較的簡単な古語だ。現代人でも少しは理解できるくらいで、ベフィアに来る前は受験を終えたばかりだったソラならかなりの部分を理解できた。もっとも、完璧では無いが。


「動きが凄いわ」

「ま、それが売りだからな」

「そうなの?」

「ああ。大立ち回りってのは歌舞伎が元になった言葉だ。もう1つ有名な能を静の舞踊とすれば、歌舞伎は動の舞踊だったな」


ちなみに、立ち回りは能が由来らしい。


「へえ、そうなんだ。それと、音楽も面白いよね」

「歌舞伎とかで使うのは大半が木製だからな。他の町みたいに金属が主流にはなってないのさ。ここにあるのは……締太鼓に篠笛と三味線、他は知らないやつか」

「三味線って……あのギターみたいなやつ?」

「ああ、その通りだ。三味線だけのやつはもっと凄いぞ」

「見てみたいわね」

「この町でやってるかどうかは分からないからな……」


初めての歌舞伎、ミリアとフリスは大満足であった。









ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー









「……美味しい」

「だろ?塩以外の香辛料を使わなくたってここまでできるんだよ」

「じゃあ、どんなのを使ってるの?」

「醤油とか、味噌とかだな。醤油は魚醤に似てるけどやっぱり違う」

「……欲しいわ。故郷の味、作るから」

「なんでそんなにカタコトなんだ。どっちにしろ買うつもりだったし、少しくらなら俺が作れるからな」

「教えて!」

「分かった分かった。だから落ち着け」


夕食は適当な料亭に入り、鍋や焼き魚、煮物に唐揚げなどの米に合うもの、または炊き込みご飯などの米そのものをソラが選び、頼んだ。なお、これは酒にも合う(居酒屋メニュー)。ビールや日本酒も頼んだため、半ば飲み会状態となっていた。3人とも簡単に酔い潰れたりはしないのだが。(なお唐揚げはベフィアの他の地域にもあるが、日本風やロスティアのものとは少し違っている)


「それにしても……良くその箸っていうもので食べれるわね」

「慣れないと無理だろうな。この店はちゃんとナイフとフォークにスプーンもあって良かったか」

「何で使ってるの?」

「何でって言われてもな……ただ、慣れれば便利だぞ?ステーキを切る以外ならほぼ全て片手でできるからな」


生粋の日本人であるソラと、箸を見たこともなかった2人を比べるのは間違ってるのだが。まあ、箸が便利なのは間違いない。


「どれか気に入った料理(もの)はあるか?」

「わたしはこの納豆。なんか美味しいもん」

「おおう、また珍しいやつを」

「珍しい?」

「納豆は好きな人と嫌いな人で二分化されることが多いやつなんだよ。故郷以外だと嫌いな人の方が多かったはずなんだが……」

「ちなみにソラは?」

「俺か?好きな側だが」

「やったー!」

「……食べてみるわね」


なお、ミリアも納豆にはまった。珍しい2人である。そしてミリアとフリスは後に納豆を大量購入するのだが、ソラはそんなこと予想もしていなかった。

なお、ソラ達が今座っているのはカウンター席から少し離れた、個室に似た座敷である。空間を隔てる扉、(ふすま)(たぐい)は無く、開放的である。それに、注文もしやすかった。

ちなみに、ソラ達はこの料亭へギルドや宿などの酒場と同じ感覚で入ってしまっている。酒を出すといってもただの料亭(居酒屋ではない)、入ってきた時にはそれなりにいた客もどんどんいなくなり、最後の他の客も今会計をしている。もう完全にソラ達の貸切状態だ。


「まだ頼むか?」

「ええ、勿論よ。こんなに美味しいもの、もっと欲しいわ」

「わたしもー!」

「分かった。そうだな……お好み焼き豚玉を3つお願いします。それとビールも」

「はい」


注文を受けたのと料理を持ってきたのは金髪碧眼の和服美人、しかも狐獣人の女性だ。狐以外に日本要素が無いにもかかわらず、老舗の女将といった風体を醸し出しているのは不思議である。

そして料理を作っているのは、カウンター席の前にある対面式の厨房にいる、ソラより1回りほど年上な感じのする板前の男だ。茶髪黒目という日本人にもありそうな色だが、顔は完全に西洋人の骨格である。だが、不思議と店の雰囲気に合っていた。


「どうぞ。ご注文の品と、ビールのお代わりです」

「ありがとうございます」

「これも美味しそうね」

「熱いうちに食べておけよ。その方が美味いからな」

「はーい。ありがとね、ソラ君」


いつも通りの夕食、物が違うだけで大元は同じ、なはずだった。司る神のいない運命は、こうも人を操るのか。


「ソラ?そらだって?」


急に板前の男が出てくる。なぜか、彼は相当慌てていた。


「あ、ソラって俺の名前なんですけど……」

「ああ、貴方の……そら……空か⁉︎空だろお前!」

「は?え?どこかであったこと……ありましたっけ?」

「何してるのよ!」

「離れて!」

「あなた、どうしたんですか?」


いきなりソラの肩を掴み、話しかけてくる男。ソラに覚えは無いが……


「ああ、この姿だと分からないか。コウタだよ、俺は」

「コウタ、こうた……巧太⁉︎お前、中津(なかつ)巧太(こうた)か⁉︎」

「ああそうだよ!まさかこんなところで会うとはな!」

「思いもしなかったさ!変わりすぎてて分かんねえしな!おじさんじゃねえか!」

「お前は変わって無いな!若いし、羨ましいよ!」

「再開を祝して、やるか?」

「おう!」

「「乾杯!」」


その彼は小村空の親友であり、人殺しをしてしまった空を立ち直らせた恩人、元日本人の中津巧太であった。


「え?なに?」

「ソラ君、どうしたの?」

「嬉しそうね、あなた」


なお、この反応の差は付き合っている年数の差なのかもしれない。






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― 新着の感想 ―
[気になる点] おでんと田楽って、元は同じなんですよ というか田楽がおでんの元になってるんですよ ……今は別物として扱われてますけど
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