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異世界成り上がり神話〜神への冒険〜  作者: ニコライ
第3章 懐かしき日の本

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第7話 迷宮都市タジニア②

「さて、何を受けようか」

「流石に多いわね」

「それにしても、寒くなったね」

「ダンジョンにいる間に冬になったみたいだからな」

「蟲巣の後に買っておいて良かったわね」

「昨日も買ったけどね」


寒いと言ってるが、3人の格好はそこまで厚着というわけでは無い。ベフィアは冬でもそんなに寒くならないし、雪も降らないからだ。山の上や特殊な地域を除けば、現魔王支配地の中でも北の方でしか見ることはまず無い。しっかり暖さえとれば冬の間でも旅は普通にできる。そのため町の外へ出る依頼も普通に受けられるのだ。

だが、今は依頼より気になることがあった。


「ねえ、あの人達は何かな?」

「多いよな。だいたい20人くらいか?」

「何をするのかな?」

「ソラ、フリス、どうやらあれみたいよ」

「ん?盗賊討伐か。なるほど、行くか?」

「行きたいわね。これだけ被害を出してるみたいだし、見過ごせないわ」

「ダンジョンにいた間だから、聞いたこと無かったんだね」

「この町に特別思い入れがあるってわけじゃないが、こういうのも何かの縁だな。よし、話を通してくる」


何かの縁というのもあるが、この依頼は報酬が良かった。領主からの依頼で報酬が1人頭金貨1枚である。これはAランク魔獣10体分以上、まれに出るSランク魔獣とほぼ同等の額だ。それだけ厄介かつ被害が多いのだろうが、ソラは勝てると踏んでいた。ソラは元々対人専門だし、ミリアもフリスもかなり上達してきているからだ。

そのためソラは、まとめ役らしき冒険者に声をかける。


「俺達も参加したいんだが、良いか?」

「良いが……見ない顔だな」

「この町にはダンジョン目当てで来たからな。ほとんどここには顔を出してないんだよ」

「なるほど。報酬が減るわけじゃないし、成功率が高くなるから歓迎するぞ」

「感謝する。領主からの依頼は久しぶりだ」

「そうなのか?」

「ああ、他の町で受けて以来だな。この話は置いておいて依頼についてだが、他の参加者は?」

「冒険者はお前達を除いて21人、それと兵士が1ヶ中隊40人いる。それと、後詰めに2ヶ中隊も来るらしいな。そっちでは食糧を馬車に積んでいるそうだ」

「盗賊団の規模は?」

「50人くらいだ。上手く戦えば第1陣だけで終わらせられるさ」


まあ、情報はしっかり集める。3人だけの場合なら割と雑でも何とかなるが、今回は他の人達もいるのだ。最低限の連携と作戦のため、色々と聞いている。


「場所は?」

「町から離れた所にある洞窟だ。もう少ししたら出るが、到着するのは夕方だろうな」

「決行時刻は?」

「夜中の予定だ。強行軍になるが、皆には頑張ってもらう」

「人質がいるってのは本当か?」

「ああ、本当だ。幾つかの村が襲われて大勢の女性が攫われてるし、壊滅した村もある。あの周辺に行った冒険者にだって、行方不明者がいるからな。捕まったって見るのが妥当だろう」

「分かった、俺もそれで良い。じゃあ、パーティーメンバーを呼んでくる」

「ああ、よろしくな」


そう言って話を一旦中断し、ソラはミリアとフリスの所へ行く。と言っても、2人とも少し離れた椅子に座っている。限定的な身体強化で聴力を強化すれば、簡単に話を聞ける距離だ。


「聞いてたな?」

「ええ、予想以上に酷いわね」

「捕まった人達は大丈夫かな……」

「無事だと、良いんだけどな……はっきり言って、厳しい」

「私達がやることは盗賊を倒して、一刻も早く無事に助け出すことよ。余計なことは考えないで」

「……うん、分かった」

「やっぱりこういうのはミリアの方が上手いな」

「フリスとの付き合いは私の方が長いんだから」

「……2人とも?」


この夫婦漫才、結構好奇の目で見られていたりする。









ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー









「あそこか」

「どう?」

「距離があるが……穴の前には5人、周りに4人いるテントが3……いや、4つか」

「ねえ、多いわよね」

「ああ、50人なわけがない。恐らく100人近い、もしくはそれ以上だろうな」

「……成功すると思う?」

「盗賊の本拠地に入るし……10人生き残れば良い方かもしれないな」

「勿論、そうするつもりは無いんだよね?」

「当たり前だ」


その日の夕方、ソラ達は丘の上に立ち、とある山の中腹を見つめている。その地点には洞窟の入り口、そして見張りらしき盗賊がいた。装備は王国の盗賊よりもよく、比較的強そうだ。場所を考えれば、それも当然のことてある。

タジニアは商売が盛んで出入りする商人も多いが、前線に近いため強力な魔獣も多い。そのため、商隊は多くの、もしくは強い護衛をつけているのが常だ。

そんな相手を襲い、魔獣からも身を守るため、前線に近い所で活動する盗賊団は個々が強く、さらに大所帯となる傾向があった。今回の相手はタジニア周辺でも最も凶悪な盗賊団で、構成員は50人以上と言われている。奇襲とはいえ、油断はできない。


「あいつら大丈夫なのか?見かけない顔だが」

「実力自体は大丈夫だと思うぞ。ダンジョンからかなり良い魔水晶や宝物を持って帰ってきている」

「見かけないのはあいつらが他からの流れ者だってことと、ダンジョンばっかに潜ってるからだろうな」

「後は連携か……これだけは分かりようが無いな」

「3人の中での連携は上手いだろうが」

「他のパーティーとどうなるかは分からないわね」


そして急遽入ったメンバーに注目が集まるのは当たり前だった。ギルド職員の上層部はソラ達が他の町でどんな活躍をしたのか知ることができるが、普通の冒険者達では不可能だ。そして外にいることが少なかったため、正確な実力も知られておらず、信用も少ない。3人は不安の種となってしまっていた。


「おい、作戦会議だ。こっちに来てくれ」

「ああ、分かった。2人とも、会議は俺に任せてもらっていいか?」

「ええ、良いわよ。こういうことはソラの方が得意でしょ」

「お願いね」

「任せとけ」


そしてソラ達は洞窟とは反対側に丘を下っていく。少し歩くと開けた場所があり、そこにほぼ全員が集まっていた。

そして、最終作戦会議が始まる。だが……


「あの洞窟には入り口は正面に1つ、他に小さいのが2つある。全部塞がないと逃げられるな」

「そのことだが……」

「どうした?」

「俺達3人が正面を受け持って囮になる。そっちは回り込んで、残りの2つの入り口から、洞窟内部を制圧すれば良いんじゃないか?」

「なんだって⁉︎」

「3人じゃ囮にもならんだろ」

「危険過ぎるぞ!」


ソラが爆弾を投げ込んだ。確かにソラ達の実力なら盗賊100人程度簡単に殲滅できてしまう。この3人の対多戦闘能力がずば抜けているからだ。そして実力だけでもできるのに、中途半端とはいえ神器もある。負ける道理が無い。

だがそれを、討伐隊のメンバーは知らない。隠しているから当たり前だが、説明したとしても信じられるとは思えない内容だから、仕方がない。

そのため、ソラは上手く説得する必要がある。


「俺達は3人、内2人は女だ。囮には十分過ぎるだろ。実力については、信用してくれ」

「むむ……」

「そっちの2人はそれで良いの?」

「ええ、勿論よ。これが1番効率が良いやり方じゃない?」

「ソラ君を信じてるもん」

「そっちがさっさと連中の後ろを突けば問題無い。来るまで耐える自信はあるし、3人だけで殲滅しても良いんだろ?」


説得する必要があるのに、ソラはわざわざ挑発する。だが、確かにソラが言ったことは理にかなっているのだ。盗賊の根拠地に対して襲撃をかけるのだから、1ヶ所あたりの数は多い方が良い。洞窟は狭いが、交代要員がいる方が成功率は高まるからだ。また後詰めを待っていては遅れてしまい、せっかく素早く行動した意味がなくなってしまう。ここまま行くしか無いのだ。また、今回の囮は特に危険な役割だが、本人達がやる気なのだから任せるしかない。

そして、冒険者はそれを分かっている。普段から兵士より死が近い環境にいるのだから、こういう面はドライでもあるのだ。


「そこまで言うんだったら、やってみろ」

「はっ、泣きついてきても知らないからな」

「むう……作戦上はこの方が良いのか。ほぼ隊を2つに分けるだけだしな」

「ちょ、ちょっと、流石に危険ですって」

「あいつらが問題無いって言ってるんだ。それに答えてやるのが俺達の義務だろ」

「そうだな。むかつくガキだが、頭は良い。あの自信からして、実力もありそうだ。ここは1つ、信じてやるか」

「信じてあげましょうよ。気になるんだったら、早く助けてあげれば良いんだしね」

「いや、違いますから!」

「あ?俺の嫁を取ろうってのか?」

「違いますって!武器をしまって下さい!」


1人の少年が場を和ませるための生贄に捧げられたが、結果として冒険者はソラの案にのった。そして冒険者が全員賛成したため、兵士達もこの案沿って行動することになる。

そしてその後、同じ入り口に突入する部隊がそれぞれで作戦会議を行った。つまり、ソラ達はいつも通り3人でだ。


「上手く誘導したわね」

「まあな」

「一緒に上手くやれそうに無かったの?」

「ああ。ずっと一緒にいる盗賊相手に、即席の連携で完璧に立ち向かえるとは思えないし、兵士達が洞窟内部で上手く戦えるとも思えない。それで倍の数を相手にするのはつらいからな。それに、急でも他に合わせられるほどの実力者は、他に2人だけだった」

「誰なの?」

「どっちも冒険者だ。ソロの経験がある奴らだよ。その2人は指揮官って感じじゃないから、あいつらを中心に、俺が指揮官になれれば良いんだろうが……流石に10人以上は無理だ」

「ソラも指揮官ってわけじゃないものね」

「そうだな。ベフィアに来て少しは慣れたけど、指揮ってのは苦手だな」

「ソラ君はリーダーって感じだもん。わたし達とだと、指揮って感じじゃ無いからね」


他が真面目に作戦会議をしている中、ソラ達は雑談ばかりしている。やることは囮なので外で暴れれば良く、内部構造を考える必要は無いし、3人だけなら連携も問題無い。会議する必要性が無かった。

しばらく経って日が沈み、討伐隊の目が暗闇に慣れた頃、彼らは火を使わず星と月の光を頼りに進み始める。そして満月が天頂に来た時、その時が作戦開始時刻だ。


「よし、行くぞ」

「はーい」

「分かったわ。ふふ、リンガンでのことを思い出すわね」

「そうだな。じゃ、同じように成功させるか」


洞窟の入り口から少し離れた岩かげ、そこにいたソラ達は洞窟へ向けて進んでいく。最初から入り口は魔力探知範囲内であり、周辺のテントも場所を確認していた。


「周りのテントはどうする?」

「入り口の見張りもね」

「囮になるんだから派手な方が良いか。フリス、全てのテントに火をぶち込め。俺は入り口で音を立てる」

「分かった」

「ミリア、しばらくは入り口で乱闘だ。気をつけろよ」

「任せて」

「じゃあ、俺の合図で行くぞ」


ソラが取り出したのは、円柱状の鉄の箱の中に木の枝や葉、さらに水を大量に入れたものだ。それを両手で持ち、胸の前に出す。そしてその円柱に雷が発生した。それはライルバードを神器とする前、ミスリルゴーレムに対して放ったアレと似ている。


「やるぞ。吹っ飛んじまえ!」


そして放たれた円柱。森の中でテントが燃える中、それは飛ぶ。超速で飛んでいくそれは、衝撃波で砂を巻き上げ、チリとなり……


「っ⁉︎」


爆煙と轟音を撒き散らす。


「耳が〜!」

「大丈夫か?」

「何とか。……物凄い魔法だね」

「まあな。そのために改良したんだし……って、人質がいるんだった!」

「ああ……被害が出てないことを祈りましょう」


洞窟の入り口は炎で焼けただれ、衝撃で半分ほど崩壊している。見張りは全員が黒焦げ状態で死んでおり、恐らく中にも被害が出ているだろう。

この魔法は、数暴にてリンゴを爆発させたのと同じ原理だ。ただそれをコイルガンの原理で撃ち出しただけである。だが、あの時より放った物の量と拡散範囲が広く、燃料気化爆弾と似た状態になった。燃料気化爆弾は爆発前に燃料か専用火薬を噴霧し、最も効果が高いタイミングで爆発して急激な気圧変化を起こすことで、広範囲の敵兵を殺傷する兵器だ。これを洞窟内で使うと、酸素の減少と気圧変化で全滅させることも可能である。

だが今回の爆発地点は洞窟の前であり、完全に燃料気化爆弾と同じというわけではないので、全滅してはいないだろう。少なく無い被害はあるだろうが。


「来るな」

「そうだね」

「ソラ」

「ああ、盛大に暴れてやるとするか」


しばらくすると、盗賊達がやってきた。錆びかけの鉈や斧を持っている下っ端が40人ほど、豪華な剣や槍を持った幹部らしき連中が5人、内1人はローブと杖の魔法使い姿だ。そして、豪華なアクセサリーを幾つもつけた趣味の悪そうな男が1人。恐らくこいつが頭目なのだろう。巨大な斧(バトルアックス)を持ったこいつは筋骨隆々で、確かに強そうだ。あくまで比較的、だが。

そんな50人近い男達が顔を怒りに染め、息を切らしながら走ってきた。上手く囮に引っかかってくれたようである。


「お前らか!」

「お、ようやくか。遅いな」

「攻撃してきたのはお前らか……!」

「ああ、そうだぞ。どうだった?」

「あれのせいで何人が死んだと思ってる!」

「おお、それは良かった。1人ひとり殺すのは面倒だからな」

「ふざけるな……てめぇら、やっちまえ!」

「「「お頭!」」」

「「「「わっかりやした」」」」


いきり立って走ってくる下っ端達。しかも、しっかりした身体強化までされている。たった3人に対しては過剰すぎる数だが、それを考えられるほど正気を保っている者はいなかった。

それに対し、ソラ達は呑気なものだ。


「ソラ君、なんで挑発するの?」

「こっちの方が楽だろ?」

「ふふ、そうね。そして私達が狙われると」

「それを言ってたら始まらないぞ」


まあ……下っ端が動く前に殺せるのだから仕方がない。


「遅いわよ」


盗賊達では反応できないような速度で駆け、直線上にいた盗賊の頸動脈を正確に斬り裂いたミリア。

それにより一瞬で1つのグループが殲滅され、狼狽える盗賊達。


「逃げないで」


フリスは盗賊達を包み込むよう、何重にも弾幕のドームを作り出した。そしてそこへ突撃する者、回り道して襲おうとしている者に対して発射していく。

外側にいる者から殺されていく弾幕に怯える盗賊達。


「邪魔だ」


ソラは1歩ずつ頭目の所へ向けて進んでいく。積極的に殺しにはいかないが、刀が届く範囲に入った敵は一瞬で皆殺しにしていった。

そんな死神のようなソラから逃げようとする盗賊達。


「な、な、な、何だんだよお前ら!」

「ただの冒険者だよ」


Aランク(実力S以上)冒険者(神候補者)とそのパーティー(妻2人)である。この程度の実力しか持たない盗賊では100人いたとしても、かすり傷1つ付けられないだろう。

最も、頭目はそれに気づけるほど上等な頭を持っていなかった。


「ふ、ふざけるな!こんなことがあってたまるか!てめぇら、どうにかしろ!」

「ですがお頭……」

「ああ⁉︎何か文句あんのか!」

「見下げたクズだな。その様子だと、弱い奴をいたぶったことしか無い口か?いやその様子じゃ、弱い奴だって数に任せて倒してたようなもんか。そうじゃなかったら、この場所がバレるわけが無いな」

「お前……!」


前線に近い盗賊が強いと言っても、全員が策が上手いわけでは無い。そんな策を立てられるのなら、普通は盗賊になる必要が無いからだ。結果として、盗賊は大抵の場合力押しとなる。ここの盗賊団は違うようだが、頭目は典型的な脳筋かつ無駄なプライドがあるタイプのようだ。

貴族だったら面倒な相手だが、盗賊なら遠慮はいらない。


「さて、最終勧告だ。お前達に残された選択肢は2つ。大人しく捕まるか、ボコボコになってから捕まるか、だ」

「何だそのふざけた話は……!」

「大人しくしておいた方が身のためだぞ。痛めつけられる趣味は無いだろ?」

「誰が!お前みたいなガキに!」

「あーあ、そうするのか。ミリア、フリス、そっちの雑魚は頼んだぞ」


4人の幹部が前に出てくる。剣が2人、槍が2人だが、下手だ。強敵と戦うことが無いような盗賊団だと、身体強化は上手くなったとしても技が上手くなることは滅多に無い。

また、幹部の1人、魔法使いの男が魔法を放ってくるが、闇魔法を使うまでもなかった。短縮されているとはいえ詠唱が必要では、ソラ達の相手になることはできない。

結果、前に出てきた4人は鳩尾に1撃ずつくらって気絶、魔法使いは喉を突かれて落ちた。


「魔法を使えても、これじゃあな」

「な、な、な……」

「さて、部下が痛い目を見たんだ。1人だけ無事でいられると思うなよ?」

「う、うおー!」


破れかぶれの力技。斧を上段に振り上げたそれは確かに強い、だが隙が多すぎた。

それに対し、ソラは居合を放つ。


「は?」

「雑魚が。少し眠ってろ」


そして斧は4等分にされ、バラバラになる。惚けて隙を(さら)した頭目は、ソラの肘鉄を鳩尾にくらい、沈む。


「少し凍って埋まっとけ」


ボコボコにやられた頭目と幹部、そして何とか生き残り逃げ出そうとした下っ端は、首から下を氷の中に閉じ込められた。そして氷ごと首から下を地面に埋められ、周囲を3重の土の壁で覆われる。ついでに全員の口の中に溶けない氷を入れておいた。


「酷い扱いね」

「盗賊を丁重に扱う必要は無いからな」

「ねえ、何で生かしておくの?」

「もしかしたら他に根城があるかもしれないからな。一応生かしておくんだ。本当は見張りがいた方が良いんだが……」

「そんなことをするくらいなら、ね」

「そうだよ」

「ああ、今は人質を探す方が先決だ。行くぞ!」


ソラ達は見つけた部屋を全て探索し、遭遇した盗賊は手早く殺していく。部屋は洞窟の分かれ道を利用したもので、広間と呼べるほどのものは最大で約50m四方、小部屋程度だと3〜5m四方だった。広間は宴会場や大きな倉庫、小部屋は寝泊まりする場所である場合が多い。どちらでもない中程度の部屋は料理場や食料庫などとして使われているようだ。倉庫には盗賊が残っている場合が多く、

そしてついに、ソラ達は人質を見つける。


「次はここだ!ぐっ……」

「ここって……」

「ソラ君……」


ソラ達が入った広間、入り口にいた盗賊5人を素早く倒して入った中には、大勢の女性達・少女達がいた。全員が檻の中に鎖で繋がれた状態で入れられていて、さらに暴行を受けたような痕もあった。ぱっと見、動きが無い人も何人もいる。


「ひぁ……く……」

「えへ……あへ……」

「あ……たすけて……」


だが、体よりも心が心配であった。助けが来たと期待した目をした人は正常だ。絶望に染まった目をしている人はまだいい。死んだ魚のような目をした人は、心が壊れてしまっているかもしれない。早急に対処が必要だ。


(ほう)けてないで助けるぞ!ミリア、フリスは生存確認!それと治療!俺は檻と鎖をぶっ壊す!夢見てる奴は引ったいて叩き起こせ!」

「わ、分かった」

「急ぐわよ!」


全力で駆け、ソラは薄刃陽炎を檻と鎖へ向けて振り抜く。インパクトの瞬間に、莫大な魔力を込められたソレは鉄を飴細工のように切断、助け出せるよう出口を作っていった。

駆け抜けていくソラ見た中には、腕に手甲がついたままの冒険者らしき女性もいる。ミリアとフリスがこうなることを想像してしまい、怒りを溜めていった。

だが、その2人はそんなこと考えない。


「ミリちゃん!手伝って!」

(まず)いわね……ソラ!回復魔法!」

「ああ、任せろ!」


助けることに全力を注いでいった。

ミリアとフリスは魔法薬をどんどん使っていった。すぐに生死に関わりかねない怪我に対しては、ソラが回復魔法もかけることで対処していく。そのおかげでボロボロだった人達も、問題無いくらいまで回復する。

そういう風に手当をしていると、他の冒険者もやって来た。


「お、おい!これは何だ⁉︎」

「囚われていた女性達だ!体の方は対処したが心が心配!問題が無いんだったら、他の人も呼んでこい!」

「あ、ああ、分かった。皆、こっちに来てくれ!」


そこからは総員での救出活動となった。万が一盗賊がやって来た時に対処する人を除けば全員が誰かについていた。冒険者も兵士も簡単な傷の手当は必須で、手際も良い。魔法薬も大量に使った(主にソラ達のを)ため、被害者の体の傷はほぼ無くなった。


「これで終わり、か……」

「終わったみたいね……」

「終わったけど……」

「仕方がないと言っても、助けられなかったのは流石に辛いな」


大半が助け出された女性達だが、何人かはすでに事切れていて、さらに心が壊れた人も複数いた。仕方がないと割り切っても、辛さがなくなるわけでは無い。

また討伐隊にも数人、犠牲者が出てしまったらしい。そう親しいわけでは無く、ともに戦ったわけでも無いのだが、犠牲者が出たこと自体が辛いのだ。

だが、それを引きずる3人では無い。


「それは置いておこう。今は彼女達をタジニアまで送り届けないとな」

「そうね。血の匂いで魔獣が寄ってくるかもしれないし、移動の算段がついたら、きっと動くわよ」

「移動してても注意はいるよね。他の人は疲れてるし、人数は増えたもん」

「後詰めが来てくれると嬉しいな。じゃ、俺は中隊長の所へ行ってくる。冒険者側も集めて、会議でもするさ」

「頑張ってね」

「こっちは任せて」


今いる兵士達のトップ、中隊長の所へ向かうソラ。丁度彼も考えていたところらしく、道半ばで召集がかかった。

集められたのはソラの他に、中隊の副隊長、残る入り口それぞれでリーダー格だった2人、会議をするのは計5人だ。


「ソラ君、ご苦労だったな」

「大半を俺達で片付けたからな。サボってたとか言うなよ?」

「そう言うなよ。こちらは両方とも罠が多かったんだ。出入り口としてはほとんど使われて無かったんだろうさ」

「それより、頭目を捕まえたと言いましたよね?そいつはどこに?」

「俺達が入った入り口のそばに首から下を埋めて、土のドームで覆ってある。口に氷も詰め込んだし、壊された反応も無いから大丈夫だろうさ」

「確証は?」

「まだ魔法とのラインを繋いである。壊されたらすぐに分かるさ」

「そんなことが……」


ベフィアにおいて魔法を行使し終えた場合、大抵は魔法とのリンクは切れる。繋ぎ続けることも可能だが、それの難易度はとても高い。つまり、ソラの実力はそれだけ高いということを表すのだ。

それを聞き、絶句する4人。だが、優先事項はこれでは無い。


「そんなことより、彼女達の護送について聞きたいんだが?」

「ああ、すまない。治療も終わったようだし、少し移動をしようと思うんだ」

「どこまでだ?」

「最後の作戦会議を行った丘のふもとです」

「町までの移動はどうなるんですか?」

「後詰めの部隊と連絡が取れた。向こうの持ってる馬車を使えるそうだ」

「馬車の中身は何なんだ?入ってるんだろ?」

「鋭いな。だが、食糧が少し多めにあるだけだ。兵士達に持たせて空にすれれば、女性達は全員余裕を持って乗せられる」

「なら大丈夫か。すぐに動くのか?」

「そちらが大丈夫なら、だ」

「俺達は大丈夫だ」

「こっちもだぜ」

「他のパーティーも良さそうですね」

「分かった。じゃあ、移動の準備だ」


この会議の通り、すぐに移動の準備がされる。そして冒険者や兵士達が被害者の女性達を連れたり、背負ったりしながら外に出ると、もう外は日が昇っていた。久しぶりに日の光を見た女性達は眩しそうにしていたが、再び見ることができて嬉しそうでもある。

またソラは、捕まえておいた盗賊達に縄をかけて引っ張り上げる。自分の魔法なのだから、氷を気にしないで縛り上げることが可能なのだ。またその際、盗賊達の首には副隊長の手で魔法を使用できなくする首輪がかけられた。この魔法具は犯罪者を捕らえる際によく使われているそうで、警備任務に就く兵士達は常備しているらしい。結構便利なんだそうだ。

そして、あたりに散らばっている盗賊の死体は、ソラが土魔法を使って道から退けて埋める。そこから進んで日が高くなり始めた頃、討伐隊はようやく作戦会議を行った丘に着いた。

だが、まだ後詰めの兵士達が到着していなかったため、彼らを待つことになった。その間は割と自由だったのでミリアとフリスが分かれて別の場所へ行ったのだが、1人になっていたソラのもとへ被害者だった少女(狐獣人)がやって来た。


「あの……私、ヒカリって言います。助けてくださり、ありがとうございました」

「いや、これも仕事だからな。それより、君は大丈夫か?」

「ええ、貴方の魔法のおかげで助かりました。どこにも怪我はありません。ただ……」

「どうかしました?」

「……母が、あの中で死んでしまって……父もあいつらに殺されたのに……」

「それは……お気の毒に……」

「私は……もう……どうしたら……」

「諦めるな。君が死んだら、お父さんもお母さんも悲しむぞ」

「でも……」

「生きるのをやめたら、盗賊どもに負けたのと同じだ。助かった命、無駄にするな」

「うう……」

「精一杯生きる、それが君にできる、両親への最高の恩返しだ」

「はい……」

「今は泣いても良い、だけど未来(あす)に悲しみを持ち込むな」

「うう……うわぁぁぁーー」


理性で押さえ込んでいたようだがまだ子ども、溜め込むより無くしてしまった方が良い。わざと泣いて落ち着けるように話したソラ。ヒカリはそんなソラの胸元を掴み、胸に額を当てて大泣きする。ソラはそんなヒカリの頭を撫でていた。人の温もりを感じられるように。

また、ヒカリが泣きくずれて倒れ込みそうになったが、ソラはしっかり支えて地面に座らせる。そしてそのまま寝てしまったヒカリを、ソラは膝枕をして休ませた。ヒカリが起きた時の反応も面白そうだが、この2人が来る方が先だ。


「寝ちゃったの?」

「ああ、泣き疲れたみたいだな」

「ふふ、懐かれたわね」

「何でだろうな……この子からしたら、俺は責める相手なのに」

「何で?助けたじゃん」

「被害者はそう単純に考えられないんだよ。特にこの子は、あの中で母親を亡くしてる。もっと早く来てくれれば、って言われた方が楽なんだがな……」


こういう被害者の反応は人それぞれだが、ヒカリのようなパターンはかなり珍しいだろう。

心の何処かで仕方が無いと思っていても、己の悲しみや虚しさを人にぶつけることしかできない人の方が多い。それを聞いて慰めるのも救出部隊の役目でもある。実際、周りでは一部そういった光景が見られた。

だがソラ達は無視し、ヒカリのことについて考えていく。


「さて、天涯孤独になってしまったこの子はどうするべきか……」

「連れてく?」

「馬鹿言うな。まだ弱いこの子を鍛えるにはここは厳しすぎる。第一、旅ができなくなったら面白くないだろ」

「じゃあどうするのよ。他の人達と一緒に預けるの?」

「それはそれで可哀想だ。色々と思うことはあるだろうに、直接ありがとうって言いに来てくれたんだからな。かといって、世話を焼きすぎると悪い結果になりそうだし……そうだ、オリクエアに預けるか」

「ゼーリエル家に?それこそ大丈夫?」

「手紙でも書いて、この子の意思を尊重するようにさせれば良い。商人になるか、メイドになるか、騎士になるか、私兵になるか……この子次第だな」

「冒険者って選択肢もあるわよ?」

「それが1番高いかな……俺達に憧れてるようだし」

「それなら、もしかしたら一緒に旅をすることができるようになるかもしれないわね」

「ああ、そうだな」


星を見上げつつ、3人はヒカリの将来が良きものであるよう願うのであった。

この後タジニアへ帰った3人は、ここへ来る時に護衛した商隊へ、ヒカリをリンガンへ連れて行くよう頼んだ。勿論今すぐではなく、ヒカリに行く意思があって行きたい時に、という条件だ。

そしてヒカリへそのことを伝え、ゼーリエル家への手紙を持たせると、ソラ達はタジニアを後にした。


「ソラ君、そういえばあの手紙に何を挟んだの?アル君への手紙以外にも、何か入れてたよね?」

「ああ、盗賊の頭目が持ってたリストだ。違法奴隷として取り引きしようとした貴族どものな」

「……オリクエアなら適任ね」


仕事を増やされたオリクエアであった。これが本来の仕事であるのだが。





ちなみにヒカリ、最初はもっと後に登場させる予定でした。いやあ、物語って生き物ですね(オイ


それと今回のソラ、結構口が悪いですがこれは盗賊にイラついていたためです。

合同での魔獣退治だったなら礼儀正しいです

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