第20話 帝都リンガン⑤
「ソラ、よくやってくれた」
「ミリアさんもフリスさんも、ありがとうね」
「仕事だったからな。やって当然だ」
「アルが誘拐されたまま何処かへ行くなんてできないしね」
「やっぱり楽しい方がいいもん」
アルベルトを救出し、ゼーリエル家の屋敷へ帰ってきたソラ達。その頃には事態は全て収拾し、皇帝の意を受けた騎士団が混乱を防ぐために展開している。ミナリエア家も闇ギルドも敵対者は全員叩きのめされ、完全に終わったのだ。
そして翌朝、突発的に成功記念立食パーティーを行っている。オリクエアとケティア、ソラ達だけで無く、私兵隊の人達も黒服を脱いで参加していた。またこれは、死んだ仲間への追悼の意も含めているそうだ。日陰者だからこそ、最後は明るく送り出す。ゼーリエル家の伝統らしい。
「朝からパーティーをやるのか……もしかして夜まで?」
「いつも夜までやってるな。皆は慣れてるから大丈夫だ」
「料理人とか執事とかメイドとかが大変だろ」
「特別手当も特別休暇も出してるから大丈夫だ」
「それで良いとは思えないんだが……まあいいか。問題があったらゼーリエル家が困るだけだし」
「酷いな」
「酷くない。正論だ」
オリクエアと話すソラ。パーティーで話す内容としては不適当かもしれないが、2人は気にしていなかった。貴族と平民ということを感じさせず、仲が良いものだ。
そこへアルベルトが走ってくる。なお来る前は、ケティア、ミリア、フリスと一緒にいた。
「ソラさん!」
「アルか。どうした?」
「ミリアさんとフリスさんにはすでに言ったんですけど……昨日は本当にありがとうございました」
「礼はいらないさ。俺達は依頼を受けただけだ」
「ミリアさんとフリスさんにも言われましたけど、僕はそれでも言いたいんです」
「そうか。だったら、立派な人になって立派なことをしろよ。それが巡って俺達のためにもなる」
「はい!」
元気に来て、元気に話して、元気に去っていくアルベルト。そのまま元いた場所、つまり女3人衆の所へ行く。男同士の会話には興味が無いようだ。
ソラとオリクエアは苦笑するしかなかった。
「話が上手いな。お前、冒険者やめて家庭教師をやったらどうだ?」
「そんな面倒誰がするか。貴族の問題に巻き込まれる上に雇用条件悪いだろ」
「平民が家庭教師をすることはほとんど無いからな……否定できない」
「まったく。それにしても、こういうパーティーで嫁さんと一緒にいなくて良いのか?」
「お前もだろ。そのことなら、これは身内だけだからな。面倒ごとは無い」
「つまり舞踏会は面倒と。貴族はつらいね」
「アルの家庭教師になれば巻き込めたものを……」
「余計嫌になったな」
こんな冗談を言い合う中に入るのは、子どもには難しいだろうが。他の3人がいた時はこんな風じゃなかったのだが、2人きりだと何故かこうなった。
「ソラ」
「ん、ミリア、フリス、どうした?」
「一緒に回ろうよ」
「そういえば、ずっとこいつと話をするはめになってたな」
「お前も乗り気だったろ」
「ケティアさんとアル君の所へ行っててね」
「敵わないな、本当に」
ソラ達3人に追い出され、オリクエアはケティアとアルベルトのいる方へ歩いていく。それによってソラ達はようやく3人だけとなれた。最初は5人、その後は2人と4人で話していたため、そういう機会が無かったのだ。
「じゃ、行くとするか」
「食べ物取りに行こうよ!」
「そうだな、それで良いか
「マナーは守って取りなさいね」
「はーい」
「ミリアも楽しめよ。気を張るとつらいぞ」
「……そうね。ここなら良いものね」
「じゃあ!」
「そういう意味じゃない」
「フリスったら」
3人はパーティーをしっかり夜まで楽しんだ。
なお、進んでいくとこのパーティーは宴会と言うべき状態となった。流れるのは音楽ではなく笑い声、人が動くのは踊るためではなく宴会芸のため。さらに、歌劇を行う人達までいる。そんなお祭り騒ぎは夜まで続いた。
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「もういっちゃうんですか……?」
「すまん。でも、俺達にも都合があるからな」
「ごめんね」
「また会えるから。その時まで待ってて!」
「はい……僕、頑張りますから!」
パーティーの翌日、泣きそうな顔のアルベルトを宥める。ソラ達はこの日、リンガンを去ることに決めていたのだ。元から出発は今日の予定であり、依頼を受けてしまっている。伸ばすことはまず不可能だった。
なお、準備はアルベルトに稽古をしていた時に終えている。とは言っても、予備が減った物を買っただけだが。
「だが、もう少し長くいたって良いだろう」
「そんなこと言ってたら、いつまで経っても旅に出れないだろ」
「定住したって良いんだぞ?」
「断る。俺達はもっと世界を見たいんだ。住みやすかろうが、大きな特徴の無い町に何ヶ月も留まっていたら、行ける所も行けなくなるだろ」
「帝都を特徴が無いと言うのか」
「じゃあ、他の町には似た物すら無いって言える物があるのか?勿論、俺達が見終わった物以外でだ」
「……無いな。お前達が見たいのはそういう物か」
「1番は強くなることだけどな。それだけじゃ人生が勿体無いから、観光とかもしてるわけだ」
「そうか……アルにもっと教えてやって欲しかったんだが……」
「大した親バカだよ、まったく。そんなんなら自分で教えればいいだろ」
「いや、それなんだが……」
「話さなきゃ、何も伝わらないぞ?」
「ぐ……」
「はあ……しっかりアルと話はしておけよ。なんで俺が年上に説教してるんだか」
「すまん」
こうして会話をしているが、期限は刻々と近づいている。別れはすぐにやってくるものだ。
「さて、ミリア、フリス、もう行こうか」
「ええ」
「そうだね」
「さようなら……」
「アル、そんな悲しそうな顔をするな。生きてれば必ず会える。だから、そうだな……また会おうな、アル」
「はい、どこかでまた会いましょう!」
「またね、アル、ケティアさん」
「またね〜」
「俺は抜きか……またな」
「お前の場合は自業自得だ。じゃ、またな」
そして3人は、再び旅路へ着いたのだった。
第2章END
本日夜10時に第2章の登場人物紹介を投稿します
読まなかったとしても、物語には関係ありません




