第18話 帝都リンガン③
「父上、なぜまた外の人に剣術の指南を?」
「不要か?強くなりたいんだろ?」
「不要です。僕は騎士ではなく冒険者になりたいので。(どうせまた騎士の人なんですよね……)」
「だったら今日からの指南は受けろ」
「どういう意味ですか?」
「後ろを見れば分かる」
「え……」
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「ようやく落ち着いたか……」
「すみません、自分を抑えられなくて」
「子どもなんだから良いわよ。子どもの特権、使わないのは損よ」
「分かりました。これからお願いします、ソラお兄さん、ミリアお姉さん、フリスお姉さん」
「わたしが使えるのは魔法だけだけどね」
「ま、魔法はおいおいだな。まずは剣術だ」
ここはゼーリエル家の修練場。そして後ろからやってきたソラ達を見て、案の定大騒ぎしたアルベルト。だが、ソラ達の説得によりなんとか落ち着きを取り戻した。なお、先生呼びはソラが全力で拒否した。その時多少の言い合いはあったが、幼馴染みへと同じ「お兄さん・お姉さん」呼びで落ち着いている。
なおオリクエアから、次期侯爵としてでは無く、平民と同じように扱って欲しいと言われていた。ソラは元から甘やかすつもりが無かったので、これは嬉しい申し出だった。
「アル、お前はどれだけやれる?」
「えーと、少しくらいなら。デルベルシェさんに教わったこともありましたし」
「冒険者に教えられる方が良かったんじゃなかったのか?」
「その……」
「ソラ、虐めないの」
「はは。ま、俺はそんなこと気にしないな。さて、打ち込んでこい」
「え?」
「実力を見るならこれが1番だ。問題もすぐに分かる」
「分かりました……行きます!」
アルベルトに投げ渡されたのは、よくある刃引きされた短めの剣、それを両手で持っている。ソラが持つのは薄刃陽炎の鞘だ。残念ながら木刀は無かった。
宣言とともに突っ込んでくるアルベルト。それに対しソラは最初、防御に徹するつもりだ。
「えい!やぁ!」
「甘い。大振りすぎだ」
ソラは基本的な刀の戦い方を守り、回避に重点を置いている。それに対し、アルベルトは弱い。タメが必要以上に長かったり、大振りだったりしている。だが剣を振る基本はできているし、心が真っ直ぐだ。
「1回見せたのは通じないと思え。」
「分かりっ!ました!」
「じゃ、攻撃始めるぞ。耐えろよ」
「はい!」
そう言った直後に軽く放たれた一閃。だがそれは、鋭い。子ども相手格下相手ということで力は抑えられているが、アルでは衝撃を殺せなかった。
「受け流し方は知ってるだろ?馬鹿正直に受けるな」
「ですけど!」
「刀だけじゃなく、俺の動き全体を見るようにしろ。意識するだけで良い」
「はい!」
そんなことを言っても、防ぎきれるわけでは無いし、捉えられるわけでは無い。それに、すぐできるわけでは無い。だが、意識を変えることはできた。
その後も稽古は続いていく。どう見たってアルベルトが一方的にやられているだけなのだが。
「ソラ君、楽しんでるね」
「道場で教えてたって言ったわよね?」
「そういえばそうだね。教えるの好きなのかな?」
「そうかもね。私達にだって丁寧に教えてるし」
「でも、アル君にあれは厳しいよね」
「そうでもないわよ。今のソラはアルより遅いもの。アルは身体強化も使えてるようだし、ソラの技量が圧倒的過ぎるだけね」
「それもそうだね。現役のAランクだし」
「でも……あのやり方は上手なのよね。アルが対処できるギリギリを狙ってるし、体力が無くなりすぎないようにしてるわ」
「そうなの?」
「そうよ」
ソラは奥義である蓮月や三日月だけではなく、普段無意識で使用している無拍子とフェイントも意図的に切っている。今のアルベルト相手の稽古では使わない方が良いためだが、こんな小手先の技を使わなくてもソラは強い。これを習得するための下地となった技量があるからだ。
その技量で、アルベルトを強くする。人それぞれな技は教えず、戦い方のみを教える。それがソラの、ひいては流派の教え方だった。
「よし、ここまでだ」
「あ、ありがとう……ございました……」
「ソラ君、ちょっと厳しすぎるよ。アル君、はいお水」
「楽をしない、でもキツすぎないギリギリのラインだ。訓練ならこれくらいで丁度いいだろ?」
「そこじゃないよ。いきなり強く振るってアル君を吹き飛ばしたじゃん。振ってる途中で速くするのは凄いけど」
「初心者にはこれが1番なんだよ」
「初心者……ですか?」
「まだ甘えがある。甘えを制御できないうちは初心者だ。実戦では情けなんてかけてもらえないぞ」
アルベルトはまだ本気になりきれていなかった。訓練だから怪我にはならないとでも思ったのか、防御が甘くなった時があったのだ。だがそうなると、ソラは容赦なく叩きのめす。甘えは自分を弱くするだけだ。
「僕はどうでしたか?」
「初心者としては良かったぞ。このまま頑張れば、強くなれるだろうな」
「本当⁉︎」
「ああ、本当だ」
「やったぁ!」
「何日やるかは分からないけど、毎日やるぞ。めげるなよ」
「はい!」
「じゃあ戻れ。ストレッチは忘れるなよ」
アルベルトはメイドにつれられ、屋敷へ戻っていく。ソラとフリスは笑顔で見送っていたが、ミリアの顔は少し曇っていた。
「ソラ、あんなこと言って良いの?」
「何のことだ?」
「アルって……成長の見込み無いでしょ」
「……ああ。子どもで初心者だということを除いても、筋肉の動きも身体強化も悪い。身体能力だけなら、Bランクまでいけばいい方だろう」
「本当のことを言わなくて良いの?」
「今はまだダメだ。今言うと腐っちまう。それに上限までは5年ほどかかるだろうな。次期侯爵ということも考えれば、2〜3年程度しか冒険者はできない。気づくころには精神も大人になってるさ」
「なら良いけど……」
「オリクエアには一応話しておく。この件は俺に任せてくれ」
「分かった。お願いね」
そう言ってソラ達も戻っていく。それへ近づいていくオリクエア。この稽古、実を言えばオリクエアはずっと見守っていた。当然ながら、結果は気になるものだ。
「ソラ、アルはどうだ?」
「筋は良いぞ。意欲もあるし、強くなるな」
「……そうか」
見るからに機嫌が悪くなるオリクエア。
「だが……上限は低いだろうな。身体強化の魔力の通りが悪い感じがした。恐らく技量じゃない」
「そうか」
見るからに機嫌が良くなるオリクエア。そんな極端な反応に、ソラは呆れた。
「はあ、お前は子どもと話し合え」
「どういうことだ?」
「それくらい自分で考えろ。というか、俺より歳上だろうが」
「まあ、そうね」
ソラ達はそのまま過ぎ去っていく。
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「終わったわね」
「ああ、そうだな」
「意外と短かったね」
「実際に働いてたのは俺だろ」
「わたし達だって少しはやってたじゃん」
「ミリアは外から見た指摘をしてくれてたな。フリスは雑用だっけ?」
「魔法だよ!」
「ちょまっ、叩くのやめろ。覚えてるって」
「でも、アルは上達しなかったわね。まあ、自分の感覚だけで教えるのは無理よ」
「ミリちゃん!」
「ミリア、からかい過ぎだぞ」
「ソラがそれを言うの?」
「それもそうか。それで、魔法はある程度の適正があるだろうな。戦い方は俺と似てくるはずだ。ただまあ……アルはなんてあんなに冒険者に憧れてるんだか」
「それならケティアさんから聞いたわよ。と言っても、町のゴロツキを冒険者が捕まえたのを見て憧れたらしいけど」
「よくある話か。しかも本気でなりたいみたいだな」
「そうなの?」
「ああ。あの意志の強さは本物だ。そこが問題なんだよな……」
「次期侯爵だもんね……」
「2〜3年だと我慢できなさそうね」
「オリクエアと相談したとして、納得できるのかどうか……」
その後のオリクエアとの相談で決まったアルベルトへの指導は7回、その最後の指導が終わった夜。指導のことを思い出し、宿でゆっくりしていたソラ達。
「ソラ様!ミリア様!フリス様!」
そんな平穏な空間へ駆け込んで来たのは、ゼーリエル家の若い執事だ。
「ど、どうしたの?」
「早くお屋敷へいらっしゃってください!」
「え、そんな急な……」
「早く!」
「……分かった。行くぞ」
夜の町へソラ達は駆け出していく。




