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異世界成り上がり神話〜神への冒険〜  作者: ニコライ
第2章 人の光と人の闇

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第17話 帝都リンガン②

「やっと見つけたぞ」


リンガンにある冒険者ギルド、帝都の大きさに比例するかのように巨大なギルドの中で、ソラ達は顔見知りに声を掛けられていた。

相当急いでいたようで、その人物は息を切らしている。


「ああ、オリクエアか」

「いや、なんでそんなに軽いんだよ」

「だって、なあ?」

「ええ」

「そうだね」

「いや何だよ!」

「お話の途中に失礼しますが、お三方はゼーリエル様とお知り合いなのですか?」

「え、ゼーリエル……様?」

「誰のこと?」


久しぶり(約1ヶ月ぶり)に会ったオリクエア。だがそこへ介入した受付嬢の言葉に、3人は違和感があった。

だが、回答は本人が行う。


「ああ、俺はゼーリエル家の当主なんだよ。侯爵家な」

「は、侯爵?」

「ええと……帝国って3公爵、10侯爵だったわよね……その侯爵?」

「ああ、そうだぞ」

「帝国の貴族って100家以上あったよね?……その中の上13家?」

「正確には146家、こないだ男爵が増えたから147家か。その中の侯爵だな」

「……経験積んだ当主なら最低でも副大臣っていうあの侯爵か?」

「俺は今大臣だな。仕事のことは言えないぞ?」

「「「…………」」」

「どうし「「「ええーー!!」」」っ⁉︎」


オリクエア=侯爵。それのせいで3人はパニック状態に陥った。だが、それも当然だろう。気安いおっさんだと思っていた相手が帝国の重鎮だったのだから。

そのせいで、3人は一時的にだが廃人となってしまった。


「あ……う……」

「ああ、対応は基本今まで通りで良いぞ。不快じゃないし、不要な時に敬われるのは嫌いだ」

「へ……あ……」

「ん?どうした?」

「う……お……」

「おーい、大丈夫か?」

「……ゼーリエル様?いきなり正体を明かされて、こうならない方がおかしいかと。親しい間柄なのでしょう?」

「こいつらは親しいとは思ってないかもしれないがな。まあ、そんなものか」


止まった3人の前で話す2人。

リーナの時は騎士という存在がいたのにも関わらず止まってしまった。その上、今回は不意打ち、しかも本当の権力者だ。リーナの件で耐性が付いたとしても、こうなるのは仕方がないだろう。

まあ流石に復活もする。ここも3人同時とは、本当に仲が良い。


「ちょっと待て、何があった」

「え、え、どういうこと?」

「なんで?」

「落ち着け、俺はお前らに会った時から侯爵だぞ?」

「これで落ち着いてられるか!」

「それは分かってる。だが冷静になってくれ。話を進められない」

「……分かった」


軽く(さと)され、冷静になるソラ。ミリアとフリスも同様に落ち着いた。

だが、オリクエアは無茶苦茶で……


「驚かせた詫びだ。俺の屋敷にこい」

「いや脈絡(みゃくらく)無いからな?」

「まあ、どうせ招待するつもりだったからな。変わりはない」

「ソラ、受けるの?」

「なんで俺が判断するんだ?」

「だって、旦那様(だんなさま)なんだもん」

「こういう時はそう言うのか。まあ、本当のことだがな」

「……で、返事は?」

「行くよ。侯爵の招待を受けないなんて勿体無いからな」

「おお、ありがとな。じゃあ、ついて来い」

「ソラ君、良いの?」

「行く場所は、リーナの時よりマシだろ?」

「まあそうね」


そうしてオリクエアの案内のもとソラ達が向かったのは、リンガンの貴族街、その中でもかなり帝城に近い場所だ。そこにゼーリエル家の屋敷はある。かなり豪勢、かつ趣味が良い屋敷で、ソラ達3人は一瞬見惚れていた。そして、中へ入る。すると……


「「「「「おかえりなさいませ、旦那様」」」」」

「デルベルシェ、この3人は客だ。客間へ通せ」

「かしこまりました」


執事1名、メイド4名による出迎えだ。やはりいつものことのようで、オリクエアは気にしず、壮年の執事へソラ達の扱いを頼む。


「お三方、こちらへどうぞ」

「客間で待っていろ。すぐに行く」

「分かった。お願いします」

「はい、こちらです」

「じゃあ、ミリア、フリス、行こうか」

「そうね」

「うん」


通された客間は12畳半(5m四方)の広さで、3人用のソファが長机を挟んで2つある。3人が扉に近い側へ座るとすぐ、1人のメイドが紅茶とお茶請けを持ってきた。

そして3人は紅茶を飲みながら、オリクエアを待っていた。紅茶は王城の方が好みだったが。

待っていると、扉が開いた。入ってきたのはオリクエアと金髪碧眼の女性だ。


「待たせたな。こっちは妻のケティアだ」

「はじめまして、(わたくし)はケティア・ゼーリエルですわ」

「初めまして、自分は冒険者のソラです」

「同じくミリアです」

「敬語は無しでいいですわよ。貴方達のように意思を持っている人には敬意を表しますから」

「わたしはフリスです。ミリちゃんと一緒にソラ君のお嫁さんだよ」

「あらあら、2人だなんて羨ましいわね、あなた?」

「俺はケティアがいるから大丈夫だぞ」

「まあ、他の冒険者には嫉妬されてるけどな」

「あれだけ仲が良ければ当然だろう」

「あら貴方、そうなんですか?」

「ああ。おかげで自然と3対1になったな」

「それは貴方が変なことをしたからでしょう?」

「間違いないわね」

「そうだな」

「本当だよね〜」

「まさかこうなるとは……」


3対1から4対1へと変わってしまったオリクエア。まさかケティアが敵に回るとは思ってもみなかったらしい。

最も、完全に味方というわけでは無いようだが。


「ねえソラさん、ミリアさんとフリスさんを借りてもよろしいかしら?」

「俺が決めることじゃないと思うんだが……なんでだ?」

「2人を着飾りたいのよ。貴方だって、お嫁さんは可愛い方がいいでしょ?」

「貴族の服?着てみたい!」

「わ、私も着てみたいわ」

「だったら行けば良いぞ。ついでに可愛くなってこい」

「ついでなの?」

「お前らが楽しんでくるのが第一だろ」

「夕食にはちゃんと参加させろよ」

「ええ、大丈夫よ」


ミリアとフリスはケティアと4人のメイドに連れられ、客間から出て行った。残ったのはソラとオリクエア、そして老執事のデルベルシェだけ。華が無い。


「いつものアレだな、まったく……おいデルベルシェ、ここに座れ」

「いえ旦那様、ソラ様の前でそのようなことは……」

「ソラなら気にしないだろ」

「ああ、むしろ俺が立ってるべきかな」

「分かりました」

「言葉遣いも戻して欲しいんだが……」

「今の私は執事ですよ。無理です」

「2人はどういう関係なんだ?雇用以外で」

「幼馴染みだ。俺の兄貴分ってとこか」

「そうですね。私の方が2つ上です」

「幼馴染みで現筆頭執事?それ良いのか?」

「こいつの家系は代々うちに仕えてるからな。家族同士での交流もあるし、ただの家臣じゃない」

「じゃあ、いるらしいお前の息子の幼馴染みも?」

「私の息子は3人いて、全員ご子息様の兄のようなものですね。長男は16で、今は騎士団にいますけど」

「16?ミリアとフリスの1個下か」

「ソラは違うのか?」

「あ、俺は18だ。2人は商人の娘で幼馴染み、俺は田舎育ちだな」

「それでよくあの娘達と結婚できましたね。ソラ様と一緒で、結構礼儀正しいじゃないですか」

「2人の実家は貴族相手の取引もするらしいからな。子どもの頃、領主の舞踏会に参加したことあるそうだし。俺は教え込まれた(本当は違うけど)よ」

「意外とおっかないのか」

「そのようですね」

「可愛げがあるから良いんだよ」


華は無いが、男同士で気楽に話していた。

一方、その頃……


「まあ、素敵よ」

「うわぁ、こんなドレスなんて着たことないよ」

「ありがとうございます。こんなの初めてよ」

「いえいえ。こんな若くて素材の良い()、着飾らないと勿体ないわ」


ミリアとフリス達がいるのはドレッシングルームだ。ここにはいくつものドレスと、ベフィアでは珍しい化粧用具がたくさん置いてある。

2人はメイドの手伝いを受けて、着飾っていた。ミリアは薄い青のドレス、フリスは濃い紅色のドレスを着て、互いに薄い化粧をして髪飾りをつけている。ケティアが言う通り、とても似合っていた。こちらは華だらけだ。


「さあさあ、次はこれよ」

「ありがと〜」

「ありがとう。綺麗ね」

「その次はこれ、次はこれ、次は……」

「え……」

「あの……」

「ふふふ、私が満足するまでは終わりませんよ?さあみんな、お願いね」

「「「「承知いたしました、奥様」」」」


この後2人は夕食まで着せ替え人形となり、問答無用で十数着を着せられた。さすがの2人も、ケティアから放たれる圧力(プレッシャー)には勝てなかったようだ。


「はあ……」

「疲れた……」

「うふふ、楽しかったわ」

「えっと……大丈夫か?」

「お前、遊びすぎだぞ」

「可愛いくてつい、ね。ソラ君にも見せたかったわ」

「いや、今も可愛いんだが……それ以上に疲労が見えるんだよ……」


結果、ミリアとフリスは暗くなった。精神的な疲労なのでそこまで問題があるわけではない。前菜が運ばれてくる頃には回復した。

夕食はフランス料理系のコースだ。流石貴族の屋敷といった感じで、地球のテレビでしか見たことが無いような豪勢な料理である。これには3人とも感動していた。そのせいかオリクエア達は話しかけづらく、ようやく話ができたのはメインのステーキを食べている時であった。


「美味しいね」

「この牛肉は、帝都のそばにある牧場の物よ。結構有名なんですけど、知らない?」

「知らなかったな。だけど旅の最中に食うには合わないか……」

「そりゃあそうだろうさ。旅の時は、脂が少なく香辛料の多い方が美味いもんだ」

「ワザワザ遊びにコロッセオまで来るだけあって、よく知ってるわね」

「ソラ君をコロシアムに行かせて稼いだんでしたっけ?よくやりますわね」

「それ以上言うのは止めてくれ……話を変えるが、お前達、仕事を受ける気はないか?」

「仕事か?変なやつじゃなければだな。それと、報酬を払ってくれるならな」

「ちゃんと払うさ。それで、1つ「父上!」……アル?どうしたんだ?」


部屋へ入ってきたのはオリクエアと同じ白髪翠眼の少年。オリクエアに父上と言っていたことから、彼の息子らしい……物凄い剣幕だが。


「父上!この方々は冒険者なのですよね!」

「おいアル、落ち着け」

「お願いします!僕を立派な冒険者にしてください!」

「はい?」


……この暴走坊や、どうにかしてほしい。









ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー










「アルベルト、お前のひとり息子か。意外と幼いんだな」

「まだ8歳だ。純粋な歳だよ」

「そんな子に冒険者にしてくれって言われるとは、思ってもみなかったけどな」

「俺には入ってくることすら想定外だったさ。メイドが言ったそうだが、ここまでとは……」


ソラはオリクエアの部屋で酒に付き合っていた。ワインとチーズ等のツマミを用意して話すこの状態、この雰囲気はまるで父親の愚痴を聞く息子といった感じなのだが。

なお、ミリアとフリスはケティアと一緒にアルベルトを(なだ)めている。どうやら母親には強く出れないようだ。


「本当は……アルを夕食に参加させるつもりは無かったんだがな」

「息子なんだろ?しっかりしてるようだし、良いじゃないか」

「あの子は冒険者に憧れててな。ソラ達が冒険者だと知ったらどんなことを言いだすか分からなかったんだよ……結局、バレたけどな。それに、あの夕食は大人だけの方が都合が良かったのさ」

「それは……依頼か?」

「ああ……今改めて良いか?」

「同じか?それとも別の?」

「同じだ。アルへの剣術指南を頼みたい。あの子は無茶をし過ぎる。抑えることを知らなきゃならん」

「そういうことにしておこうか。ちなみに、私兵じゃ駄目だったのか?」

「すまんな。アルはどうしても冒険者が良いって言ったんだ。デルベルシェも強く出れなかったそうだぞ」

「あの人か。やっぱり只者じゃ無かったんだな……よし、受ける前提で話を進めよう。報酬は?」

「1日銀貨3枚、それとこの屋敷に泊まれるようにしよう」

「いや、宿を取る。ここにいたらアルに突入されそうだ」

「夫婦水入らずを邪魔されるか。それなら、銀貨を5枚に増やす」

「よし、それで受けよう。明日からで良いか?」

「それで良いぞ。アルにはサプライズだな」

「確かに。せいぜい楽しませてもらうさ」

「良い子だからな。楽しめるだろうさ」


契約が成立し、笑みを浮かべる2人。ソラは依頼を直接受注するのは初めてだったが、オリクエアは悪徳貴族では無いので安心して交渉できた。むしろ、報酬が破格すぎる。


「さて、仕事の話も終わったことだし、2人と帰るとするか」

「こんな時間にか?」

「冒険者向けの宿は、騒ぐ連中もいるせいでかなり遅くまで開いてるからな。予約もしてあるし、戻るさ」

「そうか。じゃあ明日から頼むな」

「ああ、任せろ」


この後、ミリアとフリスを迎えにいったソラはアルベルトに駄々をこねられたが、なんとか宥め、2人を連れて宿へと戻っていった。






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