第16話 魚道②
「まさかフラグになってたなんでな」
「変なこと言ってないで、来るわよ」
ソラ達が今いるのは魚道のボス部屋。あれから大した苦労もしずに辿り着いた。まあ、ボス部屋のある最下層エリアとその上2階層は完全に水没していて、その前にも呼吸のできない場所はあり、普通ならどう考えても人魚や半魚人にしか攻略できない。だが彼らの冒険者は基本、港町で活動している。近くの港町は3日ほどの距離だが、魚道を除いて大きな水場の無いリンガンへ定住する者は少なかった。
それ故に攻略されていなかった魚道だが、未踏破の歴史はこれで終わりとなるだろう。
「あの酸、水の中だとそんなに意味が無いのね」
「すぐに薄まるみたいだな。流し続けられたら厄介だが、色がついているし大丈夫か」
「濃い紫色だもんね。見逃したりはしないね」
「それにしても、意外と速いな。フリス、頼めるか?」
「任せてよ」
ここのボスはウォーティアにて狩ったアシッドシャークだ。だがあの時とは違い、アシッドシャークは水中で自由自在に動いている。別の個体とはいえ、恨みを晴らすかのように暴れていた。
だがそれも、周りに自由な水があってこそ。フリスが水の網や縄で拘束してしまったため、もう動けないただの的だ。口にも水の塊を詰め込まれ、ソラ達の前へ引きづり出された。
「ミリア、やっちまえ」
「私?いつもソラじゃない」
「だから、だな。ミリアにだって手柄をやりたい」
「手柄ってほどじゃないと思うけど……分かったわ」
ミリアの双剣によってアシッドシャークの首は落とされ、消える。
そしてソラ達は奥の扉を開いて中へ入ったのだが……
「お、ここには水が無いのか」
「服は乾かないのね……」
「ベタベタだよ〜」
「後で乾かせばいいだろ。やることやってな」
「そうね。もしかしたら危険かもしれないもの。……重いけど」
部屋との境界は水を弾いても、服が吸った水は落としてくれないらしい。ソラ達は後で服をどうにかすることにして、先にやることをすることにした。いつも通りの確認をし、宝箱を開ける。そこに入っていた物、その中央には……
「また魔法具だね」
「この斧槍が?」
「ああ……こいつは氷か。なんで水のダンジョンに氷の魔法具があるんだ?」
「それは気にしないでおこうよ。それよりも、これどうするの?」
「俺が持っていてもなあ……ミリアか?」
「そうねえ……扱いづらいのに変わりはないのよ」
「……使い方は後で練習すれば良いか。俺が持っておくよ」
「お願いね」
「使えなくても、文句言うなよ」
「文句言わないで、使いなさい」
「はは、酷いな」
「ミリちゃん、無理言わないの」
「ソラならできるでしょ?」
「じゃ、期待に応えないとな」
毎回毎回置いてある魔法具と、他にある普通の武器や少量の貴金属に宝石を回収する。そしてここに泊まることにした。眠気はそれほど無いのだが、水の中を通ってくるのは疲労が溜まる。万が一を考えての行動だ。
「ねえ、服乾かして良い?」
「ああ、問題は無い、ってなんでくっつく」
「だって、その……欲しくて……」
「はあ……ここダンジョンの中だからな?リンガンに戻ってからの方が良いだろ」
「ここなら問題は無いでしょ。それと、仲間はずれは許さないわよ?」
「ミリア、お前もか」
「ええ、フリスは頑張ってたからね。それに……私もだし」
「ソラ君もじゃないの?」
「……ああもう!覚悟しておけよ!」
「キャー、襲われる〜」
「ホラホラ逃げないの」
…………。
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「……あれはどうすれば良いと思う?」
「私に聞かないでよ」
「わたしも同じだよ?」
「だよなぁ……」
ダンジョン定番とも言える、オリアントスからと思われる介入。今回は……
「サハギンの壁って……」
「包囲されてないだけマシじゃない?」
「だよなぁ……だけど、今更前からだけなんて……」
通路の先、そこに無数のサハギンが集まって武器を構えているのだ。最早壁と言えるほどだが、全てソラ達の方を向いているため、確実に相手をしなければならないだろう。しかもボス部屋から10層上に登ったにも関わらず、ここは完全に水没しており、サハギン達は自由に泳げる。
だが、前からだけだ。後ろからくる気配は一切無い。魔法で自由に行動できるソラ達がこの程度でやられるはずも無かった。
「で、突っ切るか?」
「勿論」
「当然よ」
「じゃ、行こうか」
偶然か必然か、ソラ達とサハギン達は同時に動いた。そして激突して生まれる赤い水。それらは周囲を埋め尽くすことなく、ほぼ一定の濃度で衝突部分を覆っていた。
勿論、それはサハギンの血である。
「弱いわよ!」
「俺のおかげだってこと、忘れるなよ」
「忘れるわけないわよ。やってくれるまで、私ほとんど活躍できなかったものね」
「わたしも楽になったよ〜」
「ま、パーティーなんてそんなもんだろ。まして夫婦だし、なっ!」
狭いトンネルということで、ミリアは床や壁だけでなく天井も使って跳ね回り、翻弄しながら斬殺していく。正面から突っ込み、その馬鹿げた技量で攻撃をさばき、サハギン達を葬り続けるソラへの近接援護を、ミリアは難なく行っていた。
そして遠距離援護はフリスの仕事である。まだソラやミリアと接触していないサハギン達の所へ大渦を作ったり、2人の邪魔をしない位置へ水槍などを放っている。この3人の連携は完璧と言っても良いほどだ。
「フリス、パス!」
「吹き飛べー!」
「おお、ナイスストライク」
「何よそれ」
「俺の世界の文化だ。一応後で説明はする」
ソラが浮かせたサハギンをフリスが水流で吹き飛ばす。こんな遊びをする余裕すらあった。そして倒れたサハギンを流れるように殺していく。単純作業と言えるほど簡単すぎた。
まあ、油断していて良いわけでは無く……
「っ⁉︎罠があったか」
「この先にもたくさんあるわよ。凶悪なのがね」
「ああ、あれって、多すぎないか?」
「多いわよ。確実に他とは違うわね」
「こういうことかよ。まあいい、片っ端から破壊する」
最も、この3人相手では1つ目しか効果が無いのだが。その1つ目、直径1.5mの範囲内に長さ1.5mほどの槍を何本も突き出させる、という罠はソラに躱されてしまった。罠のスイッチが露出していて、起動させやすいというのもあり……
「サハギンも巻き添えだな」
「いつも通りでしょ?」
「違いない」
ソラとフリスによって水魔法の水流と、押し流されたサハギンによって誤作動を起こし全滅した。水圧でも普通に起動してしまう仕組みなのが失敗だったのだろう。
サハギン達は並びを乱され、罠で多くの仲間が死に、隊列が戻る前に襲撃されるという不運が重なった。ソラ達を敵に回してしまったことが元凶と言ってはおしまいだが。
「さて、さっさと通り抜けるとするか」
「そうだね。面倒だし」
「早く行くなら……ソラ、お願いね」
「まあ、殲滅するなら俺か」
「わたしだと手間がかかっちゃうもんね」
「そうだな。後ろにいろよ」
「前は任せるわよ」
「お願いね」
「じゃあ、いくぞ!」
黄色い閃光、その後の衝撃、更に鉄砲水、そして斬撃。3人の快進撃は続いていった。




