第14話 帝都リンガン①
「着いた〜」
「おお、これはまた……」
「凄いわね」
ウォーティアを出て2日、ソラ達はゴリアル帝国の首都、帝都リンガンへたどり着いた。ベフィアで最大規模と言われるリンガンは、外からの見た目でもそれが分かる。城壁はハウルよりも高く、1つ1つの石も大きい。上に置いてある防衛兵器もかなりの数で、希少なはずの魔法矢や魔道砲も相当数が置いてある。
その城壁から出入りする人数も相当だ。馬車だったり歩きだったりと違いはあるが、フリージアよりも圧倒的に多かった。
「流石帝都、さすがは最大国家のお膝元だな」
「人も物も多いわね」
「美味しそうなのがいっぱいだね」
「そしてフリスはいつも通り、と」
「そうね」
「なに?」
「問題無い。そのままで良いさ」
リンガンはハウルやフリージアよりも大通りにいる人が多い。さらに物資を運ぶ馬車や手押し車もかなりの数があり、商売も盛んなようだ。今ソラ達がいる大通りは、馬車等は道の中央、人は端を通るといった具合に分かれられるほど広い。
さらにその大通りは四方の門から中央へ、そしてそれを繋ぐよう円形に、という2種類が通っている。他の少し細い通りも含めれば、リンガンは運搬しやすいように作られているのだ。
そんな大通りを歩きながら、ソラ達は話し合っていた。
「さて、最初はどこが良いかな。屋台は適当に回るとして」
「ギルドは?」
「オリクエアとの約束か?後でいいだろ」
「他には……何があるかしらね?」
「知らないからな……聞くしか無いか」
さらっとオリクエアとの約束を無視しようとするソラ。まあ、どこどこに来いと言われていないため会いようが無いのだが。
というわけで、屋台や出店などで買うついでに話を聞き、やってきたのは……
「劇場か……イーリアでも行ったが、規模が違うな」
「そりゃそうよ。王国の1都市と帝都を比べちゃ、帝都の方が上に決まってるもの」
「やってるのは……は、オペラ?」
「なにこれ?」
「ソラは知ってるのね。帝国だとよくやる劇の形らしいわよ」
「そうなんだ〜」
「で、入らないか?面白そうだぞ」
「入りましょう。1回見てみたかったしね」
劇場、いやオペラ座へと入って行った3人。なお、オペラグラスは借りてないし買ってない。ソラ達なら身体強化をするだけで十分見ることができるからだ。
席は2階の真ん中付近となった。ここは利用料金が高いにも関わらず、高くて高性能なオペラグラスでないと舞台を楽に見ることはできない。それゆえに、直前でも残っていた。
そんな席につき、しばらくするとオペラが始まる。
公爵令嬢と一介の冒険者の悲愛の物語
なのだが……
「ああ、ディーシェ。どうしてあなたはディーシェなの?」
「その言葉、確かに頂戴いたします。
ただ一言、僕を恋人と呼んでくれたなら、その言葉こそ新しき洗礼、今日からはもう、僕はディーシェでなくなります。」
「まあ、ディーシェ様。どうしてここへいらしたの?」
これである。
おかしい。主人公は平民なのにセリフは貴族だ。なぜそんな子難しい言葉を使える。なお、物語の概要は……
主人公はパーティーメンバーとともに、拠点としている町の領主の娘、盗賊に襲われていた馬車の中のヒロインを助けた。そこで2人は互いに一目惚れして恋に落ちたのだが、ヒロインには許婚がいる。そしてヒロインの父は彼女の兄の時、平民との結婚を絶対に認めようとしなかった。ヒロインだってそれは同じだろう。その後も2人は逢瀬を続けるが、周りが薄々と気づき始めた。ヒロインに許婚はかなり強引に迫り、主人公のパーティーメンバーは応援と反対に分かれて口論してしまう……
こんな感じである。物語自体が良く、オペラとしてもかなり良い。良いのだが……
「うわぁ、凄いね〜」
「歌も一緒っていうのも良いわね」
「オペラの本物は初めて見たな。だけどなあ……」
「どうしたの?」
「いや、ちょっと既視感が……」
「はっきりしなさいよ」
「……このセリフ……思った通りなら、主人公とヒロインが最後に死ぬんだよ……」
「え?」
「……え?」
地球的に死亡フラグの言葉を言われると、反応に困る。
劇のその後。ヒロインの父に主人公のことがバレ、主人公は常に監視されるようになり、ヒロインは公爵宅に軟禁されてしまう。主人公のパーティーメンバーは議論の末全員が賛成となったが、彼らもまた監視されることとなってしまった。
その頃、軟禁されたヒロインは理解者であるメイドのアイデアで仮死の毒を使い、葬儀を行わせることに成功する。だが、事実を知らない主人公は町の外にある墓の前で泣いた。ここまでは|ほぼ原作通り《と言っていいかは分からないが》だが……
「ディーシェ様。やっとお迎えに来てくださいましたか」
「フィーア……君、どうして……」
「まあ!ご存知無かったのですか」
ここだけ違った。
この後、ヒロインは主人公やパーティーとともに旅に出て冒険者となる、というところで終わった。全体を通しても良い劇だと言えるだろう。ただソラは……
「……先入観に囚われるのは駄目だな」
「そうね。でもソラは、いい意味で裏切ってもらって良かったんじゃないの?」
「そうだな。全体的に面白かったし、裏切られたことも含めて良かったか」
「わたしも面白かったよ」
「もう終わりみたいだし、外に行きましょうか」
「ああ、そうだな」
なおミリアとフリスは外に出た時、目が赤いことをソラに指摘されて焦ることになるのだが、この時点ではまだ誰も知らなかった。
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「……戦闘、開始!」
「「「「「「うおおぉぉぉ!!」」」」」」
リンガンにある闘技場、そこでは今6人対6人のパーティー戦が行われていた。
「ベフィアで、戦いを客観的に見るのは初めてだな」
「そうね。コロッセオの時はソラが戦っていたし」
「それにしても、人数が多いパーティーの戦いを見るってのは新鮮ね。私達は3人だけだから」
「指揮なんてこともしないしな。2人とも、少し言っただけでちゃんと動いてくれたから」
「ソラ君がわたし達のことを考えて動いてくれただけだよ」
「ソラとも何故か息が合うのよね。フリスみたいに」
「そうか。まあ、議論したって簡単に答えが出ることじゃ無いな……ん?そろそろ本格的に動くぞ」
「そうね、もう話をするのはやめておきましょう」
「うん」
戦っているのはどちらも冒険者、話を聞くとリンガンを中心に行動しているパーティーだそうだ。また、それぞれのパーティーは赤と青に分かれている。色のついたハチマキなどを体の各所に巻くことで、観客にも分かりやすいようになっている。そして状況は、対峙から戦いへと変化した。
赤パーティーの編成は、片手剣と小盾の剣士が2人、槍使いが1人、大盾持ちが1人、魔法使いが2人だ。どうやらリーダーは片方の剣士らしい。魔法使いの援護を受け、前衛が攻め込むというオーソドックスな攻撃系パーティーだ。
青パーティーの編成は、長剣士が1人、斧槍使いが1人、小盾2つ使いが1人、小盾とメイスに魔法を使う人が1人、専属の魔法使いが1人、神官らしき服装の人が1人、リーダーは神官のようだ。 神官が防御系の魔法を使いながら指揮を出し、うまく防ぎ、さばいている。
「お、うまく嵌めたな」
「1対2に持ち込んだわね。でもそのままじゃ他が……」
「あそこを見ろ。斧槍と神官が3人を抑えているだろ?」
「本当ね。上手だわ」
「魔法は2人同士で撃ち合ってるよ」
「お、あっちも上手いな」
ソラ達のように以心伝心レベルで連携を取るのは難しい。だが青パーティーは、そこまでではないにしてもかなり連携が上手い。そうでなければ、3人を2人で抑え込むなんてことはできないからだ。
また魔法を使う者同士は仲間と連携して、近接組の頭を超えて撃ち合っている。数が同じため、広域殲滅に有効な大技を放とうとすれば邪魔をされ、やられてしまう。そのため、自然と弾幕の撃ち合いになるのだ。パーティーの色に合わせたのかは分からないが、赤パーティーは火魔法主体、青パーティーは水魔法主体にして放っている。こちらは、今のところ互角だ。
高い連携能力を持つ青パーティー、彼らのもう1つの特徴が……
「今、回復したな」
「そうね、あれだと普通なら動けなくなるし」
「上手だね。ソラ君もやれる?」
「おいおい、俺にいくつの役割をやらせるつもり……もうやってるだろ」
「そうよね」
負傷しても回復させられることだ。
赤パーティーの大盾持ち、彼のタックルによって青パーティーの長剣士が吹き飛ばされたが、すぐに起き上がり戦いはじめた。赤パーティーもそれが分かっていて、神官を倒そうとしているがそこはパーティーの要、青パーティーはしっかり守りながら戦っている。簡単にやられるようでは無く、少し動いた状況は拮抗した。
ちなみに、ソラの役割をゲーム的に表してみると、近接サブアタッカー・魔法サブアタッカー・回避盾・罠破壊・エンチャンター・ヒーラー・サブサーチャー・指揮官となる。ミリアが近接アタッカー・罠発見・罠解除、フリスが魔法アタッカーとサーチャーなのに比べればかなり多い。まあ、同時に使うことがあるものは少ないため、負担が大きいわけでは無いが。
「ねえ、どっちが勝つと思う?」
「青だろうな。装備の質や身体能力が同じな分、連携が勝敗を分けるからな。青の方が確実に連携できてる」
「私も同じね。もう少し言うなら、斧槍の人が頭一つ分上手いわ」
「やっぱりそうだよね」
「まあ、順当にいけばっていう制限はつくけどな。赤がなにか奥の手を持ってるとかはありえるし」
「それはそうだけど……長いわね。私達ならすぐに終わるわよ?」
「そう言うなって。俺達が普通のAランクよりも力量が上ってのは分かってるだろ?」
「それとこれとは別よ。上手く動かないせいでヤキモキさせられてるんだから」
「まあ、それはあるか……あの程度なら、12人まとめて瞬殺できるもんな」
周りが熱狂しているにも関わらず、ソラ達は冷静に場を見ている。まあ、同じように強い人物で、冷静な人は他にもいるだろうが。
まあ実際、戦いを熱狂見ることができるのは、基本的に出場者より弱い人だ。自分には分からない、できないから熱中する。なんらかの思い入れが無ければ、自分でもできることには冷静になるものだ。例えば、偶然見つけた普通の小学生チームがしている野球の試合において、それを微笑ましく見ることはあっても、父兄でもないのに熱中したりはしないだろう。それと似たようなことだ。
「……そろそろか」
「そうだね」
そんな会話をしていたとしても、当然場は動く。攻撃主体と防御主体、拮抗した時に崩壊しやすいのは……攻撃主体の方だ。
「崩れたな」
「あの2人は終わりね」
「赤の方の魔法使いも気をとられちゃったよ」
赤パーティーの槍使いの突きが青パーティーの小盾持ちによって逸らされ、剣士に当たりかける。それによってバランスを崩した2人、そしてそれに気を取られた魔法使い。後はもう決まったようなものだ。
体勢が崩れた槍使いを小盾持ちが殴り、剣士は長剣士が吹き飛ばす。気がそれた魔法使いは土魔法で周囲を抑えられ、もう1人も2対1の弾幕に沈んだ。残った剣士は神官の魔法で囲まれ、大盾持ちは斧槍使いの全力をくらい沈んだ。
これで決着。先ほどまでの均衡に比べれば一瞬と言ってもいいほど早かったが、戦いにはよくあることだ。
「やっぱり青が勝ったな」
「まあ、変なことは無かったしね」
「でも、もっと上の人を呼んだりしないのかな?もっと凄いよね?」
「強すぎるとな……一般人の目が追いつかなくなるんじゃないか?」
「そうよ。私達のことを見失う冒険者だっているんだから」
「そうだね」
「もう外へ行くか?あと少しすれば一気に帰りだすだろうしな」
「そうね。出ましょうか」
なお、泊まっている宿が青パーティーの祝宴会場となってしまい、ゆっくりできなかったりするのだが、これはまだ後の話だった。




