第8話 数暴②
「所詮は、数だけだな!」
ソラは安定した戦いを見せていた。薄刃陽炎で急所を斬り裂き、槍系の魔法で頭を撃ち抜く。時折刃に魔法を纏わせ、振り抜くことで大規模魔法を発動させる。2方向、3方向から同時に攻め寄られたとしても、達人級の重心移動と肉体制御でほぼ一瞬のうちに殲滅していく。
「連携しないものね!」
ミリアは暴風のように暴れていた。正確には、身体強化によって得たスピードを生かし、一定範囲内に入ってきた魔獣を次々と斬り刻んでいる。その動きには素早い狼系の魔獣ですらついていけず、翻弄され、殺されるばかりだ。
「戦窟よりはマシだよ」
フリスは固定砲台として、ドンドン魔法を放っていく。直接守る前衛はいないが、水や風の貫通性の高い魔法に威力の高い雷の範囲魔法を連発することで、魔獣を防衛ラインの中に入れなかった。タフな熊系の魔獣ですら基本1撃、多くても2撃で倒してしまうその火力の前には、何者も立っていることはできない。
鬼の間の時より、3人の対集団戦闘能力は上がっている。そのお陰で、周囲を囲まれても互角以上の戦いを繰り広げられているのだが、魔獣の方は次々と穴から出てきているため、戦線は膠着していた。
「まあ、マシって言っても、数が多いってのだけでも厄介なんだが」
「終わらないものね」
「どうする?」
「そうだなっ!」
ソラは接近してきたゴブリン2体の頭を飛ばし、オーガの心臓に雷矢を撃ち込み、絶命させる。その間にフリスは風刃を放ってクレイムバードやキラービーを切り刻む。
先ほどまでは同時に無数の魔獣が襲いかかってきていたのだが、ソラ達は全て殲滅した。それをを恐れたのかは分からないが、魔獣達は今、ソラ達を囲んで少しずつ攻撃しているだけだった。
「このままじゃジリ貧よ」
「一気に削るか?時間稼ぎにしかならないと思うが」
「お願い。わたしだと途中で魔力が無くなりそうだし……」
「任せろ」
次々と魔獣を倒していくソラ達だが、このまま戦い続けて体力や魔力が尽きれば死ぬだけである。ミリアとフリスはソラのような理不尽な量の力を持っていないため、余計に心配していた。鬼の間で魔力が尽きたフリスは特にだ。
そのため、数減らしはソラが担当する。ミリアは向いていないし、フリスは広域攻撃魔法を敵のみに当てることは得意では無いので、他の意味でも適役なのだが。
「上手くいけよ、シャドウエクスキュージョン!」
ソラがそう言い放つと、魔法はすぐさま効果を発揮した。魔獣の影から黒い刃が飛び出し、その影を作り出していた魔獣を貫いていく。サソリやアリなどの硬い外骨格を持つ魔獣も影を防ぐことはできず、この魔法は部屋全体を覆って発動されたこともあり、一時的にとはいえ、魔獣は全滅した。
「凄い!凄いよソラ君!」
「凄いが、時間稼ぎでしか無いってのがな……」
「そうね……どうする?」
「どうにか穴の向こうに干渉できないか……」
「穴の先に魔獣がどれだけいるか分からないもんね……」
「そうだミリア、この部屋に何か変な仕掛けは無いか?」
「仕掛け?」
「穴を埋められるようなやつが、っ、来やがったぞ」
何度魔獣を全滅させようと、出てくる穴をどうにかしなければ意味は無い。見た目では空間魔法と呼べそうなものだが、ベフィアで知られている魔法の中にそれは無い。ダンジョンの中ということも考えれば、オリアントスが関わっていると予想がついた。問題は、それに直接対処する方法が無いことだ。そして、対処法を考える時間は与えてくれない。
素早い鳥や蜂、狼系が強襲し、他の魔獣は集団となり進んで来ている。それに対して3人は自然に役割分担をし、攻撃を始めた。
「やぁぁぁ!」
「いっけー!」
狼の群れへと駆けていったミリアは、衝突寸前にジャンプし、そこからブラウンウルフを踏み台にして宙に舞う。その瞬間にフリスは地を這うように雷を放ち、狼系に大打撃を与える。ミリアは近くのクローホークへ向けて跳んでおり、攻撃しようと伸ばしてきた、鋭い爪を持つ足を叩き切る。勢いそのままに天井へ着いたミリアは向きを反転させ、床へ向けて跳ぶ。その途中にいたハンティングビー2匹とクレイムバード1羽を双剣で斬り裂き、キラービーを足で踏み、クッション代わりとしつつ床へ叩きつける。ミリアが着地した瞬間にフリスは横向きに竜巻を起こし、空中の魔獣の群れに穴を開けた。
「助かった」
「頼むわよ」
そして2人が開けた穴をソラが駆ける。
「遅い!」
ソラは先頭にいたビックベアー2頭にフェイントをかけて同士討ちさせ、その隙に寄ってきたコボルト3体の首を裂き、ポイズンスネークの頭を踏み潰す。さらに足元のサソリ、DランクのキラースコーピオンとCランクのハードスコーピオンを2匹ずつ蹴り飛ばして、オークとオーガの顔面に目くらましとして当てると、ゴブリンの首を踏み抜きながら跳躍し、首を斬り裂いていく。その間も風と雷の魔法をいくつも放って魔獣を倒していく。
自分達の分が終わったミリアとフリスも参戦したことで、再び魔獣達は全滅した。
「ふぅ、なあミリア?」
「仕掛けよね……見当たらないわ」
「そうか……本当に無いのか、隠れてるのか……」
「ねえ、あの穴の中に魔法を撃ってみない?」
「いや、意味が無い。さっきやってみたんだけどな」
「そうなんだ……手が無いね……」
「はぁ……どうしろってんだよ」
ざっと見た感じのみではあるが、何らかの仕掛けは見つからなかった。そして、本格的に仕掛けか何かがあるのか探そうにも、余裕はそう多く無い。
「ちっ、また来たか」
「ねえ、多くない?」
「多いわよね……?」
「もしかして、これで最後だからとかか?」
「そうなのかな?」
「期待しない方が良いと思うけどね」
「そうだな。さて、行くぞ!」
大集団戦闘能力が上がるということは効率が上がるという意味でもある。数が増えたとしても、そこは対多戦闘を繰り返してきたソラ達。多いために苦戦こそしたものの、殆ど怪我を負うこと無く、魔力や体力をかなり消耗したものの、尽きること無く殲滅した。
すると、入ってきた方とは逆側の壁の一部が上へスライドし、先へ進む通路となる。
「結局弾切れまで狩り続けただけか……」
「そうだね……どうにかしたかったのに……」
「無理だってことは分かってたでしょ?」
「でも〜」
「ほぼ確実にリアルタイムでオリアントスが操作してたやつだ。今の俺達じゃ無理だろうな」
「……分かってるけど悔しいよ」
「理不尽ってのは何処にでもあるものさ。そのうち乗り越えれば良い」
「ふふ、私達も神様になれって言うの?」
「まあ、その方が俺も嬉しいな。置いていかないで済むんだし」
「ん〜、頑張れば良いのかな?」
「まあそうね。どうなるかは分からないけど」
「俺が上がれたら引き上げられるってのなら良いんだけどな」
神、それが今のソラの目標だ。だが、ミリアとフリスがその時どうなるかは、その神すら知らない。
それでも、3人は共に進んで行く。離れぬよう、互いを確かめ合いながら……
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「なんかボスが簡単に感じるな」
「イヤイヤ、それソラ君だけだよ。相手はキングオーガとキングオークだったんだし」
「ソラはあんな倒し方したしね」
「あんなって……一応手に入れた時から考えてたやつだぞ?」
「それがおかしいのよ。何であんなに速く槍を投げれるのよ?」
「何でって……ただのコイルガンだからな……」
「こいるがん?」
「ああ、前の世界の知識だ。細かく説明するのは面倒なんだが……魔法を見た感じで分かるか?」
「う〜ん、魔力の流れとかなら」
「それって十分過ぎるわよ……」
「まあそうだな。簡単に真似できそうだし」
「そんな簡単には無理だよ〜」
「そうか……これ、できればレールガンにしたかったんだけどな……流石に壊れるか」
ボス部屋に到達したソラ達だが、ボス戦は今までで最も早く終わった。ソラが新作の魔法でキングオーガを瞬殺し、その余波に煽られたキングオークをフリスがすぐさま魔法で倒したためだ。
沼土で手に入れた槍の魔法具。ソラはこれの周りに雷をコイル状に作り、手から離すと同時に出力を上げて超速の投槍とする魔法を使った。……キングオーガの胴体を貫いた程度では止まらず、ソラが風の魔法で減速した上で岩壁に突き刺さって漸く止まった。
ただし、ソラが魔法をレールガンにしていたら、槍が無事だったかどうかは分からない。恐らく速度がこの数倍は出るであろうから、減速も間に合わないだろう。
「まあ良いか。それより、あの宝箱だな」
「今度はどんなのがあるんだろうね?」
「一応罠が無いか確認するわよ?」
「毎回毎回だが、頼む」
一応、罠のチェックをするミリア。まあ、今回も仕掛けられていなかったが。
「今度は大剣か。結構良いデザインだな」
「これは火の魔法具なのね。場合によっては使えるかも」
「振れるの?」
「まあ、身体強化ありならできるわ」
開けられた宝箱、今回のメインは大剣だった。持つと火を纏い、かなりの追加ダメージを見込める剣。刃の部分だけでフリスより大きく、持ち手も含めるとミリアをも超える大剣。各所に赤みを帯びた装飾が施され、芸術品としての価値も高いだろう。生憎、この3人がそんな使い方をするわけが無いのだが。
「それで、どっちが持つ?俺だったら投擲以外に使い道無いが」
「この大剣が火を纏って飛んでくるのね……怖いわよ」
「それならソラ君で良いんじゃないかな?ミリちゃんはこういうの使いにくいでしょ?」
「よく覚えてたわね。じゃあソラ、お願いね」
「分かった。必要になったら投げてでも渡すからな」
「私に当てないでよ?」
「そんな失敗をするとでも?」
「ふふ、無いわね」
「綺麗に渡しそう」
「ま、そういう場面は無い方が楽だけどな」
「油断はしないでよ?」
「分かってるさ」
この後ソラ達はこの最奥の部屋で1泊し、地上へと戻って行った。




