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異世界成り上がり神話〜神への冒険〜  作者: ニコライ
第2章 人の光と人の闇

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第7話 数暴①

7/21後書き追加

「だぁぁぁ!」

「ふっ!はっ!」

「こことここ……行けー!」

「この、野郎がぁ!」


コロッセオの近くにある2つ目(今では唯一)の未踏破ダンジョン、数暴。

このダンジョンでは、そこまで強い魔獣は出ない。多くはDランク、少量のCランクといったところだ。コロッセオの周囲より少し弱いくらいであり、これだけなら簡単に踏破できる。それができていないのは……


「多過ぎよ!」

「そうだな!」

「ソラ君、右から5体が3つ!」

「任せろ!」


無駄に数が多いからだ。名前の通り、物量で押しつぶそうとしてくる。1度に来るのでは無く少数のグループごとでだが、連続して来られると処理が大変となってしまう。

ソラ達も簡単には進めずにいた。人型ではない魔獣ばかりで注意すべき事が増えてしまっており、連携が厄介だった戦窟と同程度の難易度に感じられていた。


「ワザワザ相手するのも面倒だし……吹っ飛ばす!」

「「「グギッ⁉︎」」」

「「「ガグゥ」」」

「グアアァァ……」

「うわぁ〜」

「凄いわね……」


今ソラが迎撃したのはそれぞれゴブリン5匹、シャドウウルフ3匹とブラウンウルフ2匹、クレイムバード2匹とクローホーク2匹にビックベアー1頭の3つの群れだ。数が多いとはいえ、数暴の中は少し広い程度の洞窟でしか無い。これだけの数が1度に攻撃することは不可能なので、普通はタンク役が抑えて他が攻撃する、もしくは長柄の武器を持った者が牽制してその隙に魔法を放つなどの手を取るのだが……ソラは気圧を操り、一瞬で圧壊させていた。ダンジョン内なのでまだマシだが、外でやったら確実に悲惨な光景として記憶されるだろう。


「これで!ひとまず終わりみたいね」

「そうだな。数は……合計50ってとこか」

「ちょっと多いよね?」

「まあ15階も下りてるしな。増えるだろうさ」

「ソラなら100くらいでも簡単でしょうね」

「そうだね」

「おいおい、無茶振りはやめろ」


初めの方は小さなグループが1つだけだったりもしていたが、今は10匹を超えるグループが2つ、前後から来てしまっていた。左右から来た魔獣側の援軍も考えると、普通のパーティーではやられていた可能性は高い。

勿論ソラ達には関係無い。3人でとは限らず、フリスの言う通りソラだけでも大規模魔法を使わなずに勝てるだろう。時間はかかるだろうが。


「シャリ……ま、このペースで増えたとしても、後15階くらいなら楽に降りれるだろうな」

「そうでしょうけど……美味しそうね、そのリンゴ。1つ貰える?」

「わたしも良い?」

「ああ、良いぞって、無理になったな」

「向こうから……21匹、他はいないよ」

「だったら……これでもくらって、ろ!」

「え⁉︎」

「なんで⁉︎」

「さぁて……爆ぜろ」


ソラは魔獣達へ手に持っていたリンゴを投げる。それは群れの前へ落ちるとそのまま飲み込まれていきーーー閃光と爆音が辺りを飲み込む。静まった後には、2つの魔水晶が落ちているだけで、他には何も無かった。

今の魔法はリンゴ内全ての原子同士の結合を雷魔法でもって外し、その直後にリンゴのあった場所へ向けて温度の高い爆発の魔法を放つ、というものだ。原子結合を外したことで周囲には多くの酸素・炭素・水素が存在するようになり、魔法を起因とした粉塵爆発と水素爆発によって、威力は魔法単体よりも高くなった。なお、雷魔法は電子を共有させないように動かすという形で発動したため、行ったことに比べて必要なエネルギー量は少なくて済み、効率は良かった。


「凄い魔法ね……」

「でも、リンゴが勿体無いよ?」

「大半は食べ終えてたしな。それと、他の物でも同じことはできるし、別のを考えておくか……ああ、ほら、リンゴだ」

「あ、ありがと」

「ん、美味しいね」

「だろ?露店に良いのが売ってたんだよ」


ソラ達が自分のペースで動いていくのはいつものことだ。必要なことは全てやっているので問題は無い。閉鎖的環境であるダンジョンの中ではある意味、理想的なのかもしれなかった。









ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー









「ここを……降りろと?」

「無理よね……」

「頑張れば……できない?」

「無茶だろ」


ソラ達の前方には直径100m、下へ10mほどの立坑がある。ソラのマッピングと階段の場所の想定、そして今までの経験が正しければ次の階へ降りるにはここを進まなければならない。

ここを降りるだけなら、ソラの魔法がある。それだけならばなのだが……


「問題はあの数だよな」

「こっちにはまだ気付いてないみたいだけど、普通に戦うならまず勝てるわよね。……できれば行きたくないけど」

「どうする?」

「暫く様子を見よう。対策も考えながらな」


立坑の下、広間となっている場所には無数の魔獣が存在している。種族は雑多だが、ダンジョンの中なので争っている様子は無い。広間から続く道もあるのだが、ソラ達がいる所の反対側で、突っ切って行く以外に方法は無かった。

下にいる魔獣は200匹を少し超える程度であろう。今のソラ達なら簡単に倒せる相手だが、上から絨毯のような風景を見ていると、あの中に飛び込む気が起きなかった。やらなければいけない状況なら大丈夫そうだが、進んで飛び込みたいわけでは無い。


「……魔法で殲滅するか」

「できるの?洞窟の中だけど」

「やりようはあるな。氷メインの風追加でいくか……」

「簡単に言ってるけど……」

「フリス、いつものことでしょ」

「あ〜くそ、無詠唱じゃむりか」

「え?初めてよね、無詠唱じゃできないなんて」

「そうだな。氷ってのがネックか……」

「なんで?」

「俺の魔法は前の世界での知識を使ってるんだが、広範囲を一瞬で凍らせるなんて現象が存在しないんだ。氷の矢とか壁ならまだしも、範囲攻撃を実戦レベルでやるのは難しいんだよな……」

「無理なの?」

「魔法のイメージだけならできてるんだが……詠唱考えるからちょっと待ってくれ」


火は山火事や軍用兵器、水は洪水、風は台風や竜巻、土は崖崩れや地震、雷は落雷といった自然現象のイメージがある。光や闇は現象を普遍的に説明するのは難しいが、身の回りに溢れていたものなのでイメージはしやすい。だが、日本に住んでいたソラには、氷がイメージしづらかった。雪や氷柱、凍った道程度ならまだしも、全てが()てつく世界などは想像できない。特に、今からやろうとしていることが南極を大きく上回る危険度なのだから、難易度は高かった。

だが、それでもやれる。想像しにくいといっても、知識がないわけでは無いのだから。力がないわけでは無いのだから。


「全て()てつく氷の大地よ 全てを震わす真理の風よ 我が願いに応じて答えよ

我が望みは風 全てを凍らす氷の風 我が命に従い 我が敵を氷像とせよ 凍りつけ、ニブルヘイム」


ソラの詠唱により、周囲には冷たい風が吹く。それは次第に氷を纏い、液体窒素すら含むようになった。立坑の下の魔獣達も異変に気付くが、もう遅い。放たれた死の風が蹂躙し、全ては()てつき、氷像と化した。

北欧神話の世界の1つ、ニブルヘイムの名を冠した魔法。流石に神話レベルの威力を持つわけでは無いが、人が持つには過剰すぎるほどの力だ。

一面を凍らせるほどの力。それを前にして立坑は全てが白く染まり、魔獣は凍りつき、その後魔水晶となった。これを外で使用したら、どのような効果があるのか、どれだけの範囲を染められるのか、想像するのは難しい。使用には相当量の魔力が必要となるが、ソラにはなんら問題無い。仕組みが分かればフリスも使えるだろう。

そんな大魔法だが……


「……寒いよ……」

「……周りも考えてよね……」

「すまん、すぐに暖める」


唯一の問題は周囲の気温を途轍もなく下げてしまうことか。液体窒素すら発生する冷気が洞窟内を駆け抜けていった。これの前には魔獣は等しく逃亡し、冒険者も一部を除いて撤退した。その数少ない例外の3人は、ソラの魔法により暖められた空間に(こも)る。とは言え、(かじか)んだ体はすぐには戻らなかった。焚き火を作り、テントを張る。丁度いいので、この日はここまでにするようだ。

そういうわけで用意された料理、温かいスープとパンを食べていると、話も弾む。そんな中で、先ほどの魔法が話に出ないわけが無かった。


「ねえ、ソラ君」

「どうした?」

「なんであんな簡単に詠唱を作れたの?決まりとかあるから、普通はもっと時間かけるのに」

「それは……なんでだろうな?」

「どういうこと?」

「魔法を思い浮かべてたら、自然と出てきたんだ。どうしてあんな文になったかは、俺も分からん」

「それって……なんでよ?」

「わたしだって分かんないよ」

「俺に振るな」


ダンジョンの中とは思えないほど平和である。この翌日(??)立坑の安全を確認したソラ達は下に降り、そのまま進んで行った。









ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー









「あれ?」

「フリス、どうしたの?」

「この先なんだけど、大きな部屋はあるのに魔獣が見当たらないの」

「大部屋?ああ、これか。……きな臭いよな」

「脇道はあるけど……どうする?」

「私は良いと思うわよ。そっちの方が先に続いてるんじゃない?」

「そうだな……魔獣が出てくる罠とかありそうだが……」

「それなら大丈夫でしょ」

「いや、数が桁違いだと思うが?」

「良いんじゃないかな?」

「……分かった、覚悟を決めろよ」


松明の少ない数暴の中は薄暗い。魔獣の多くが獣形なので、圧倒的に冒険者が不利だ。そんな中を見つけた大部屋へ向かっていくソラ達。確実に罠だと分かっているソラは特に警戒していた。


「ここね」

「ああ……なんでこう暗いんだ?」

「さあ?」

「これじゃあ周りも見づら、っ⁉︎」


そのまま入った大部屋の中には一切の明かりが無い。その時点でミリアとフリスの警戒度も上がったのだが、その後は予想できなかった。


「急に松明がついたわね……」

「扉も閉まっちゃった……」

「それもそうだが、問題はアレだろ」

「穴、よね。奥がどうなっているか分からないの?」

「無理だよ。反応は壁の中みたいな感じだもん」

「別空間にでも繋がってるのか?……またあいつだな」


壁際にいきなり大量の松明が灯り、大部屋の中を昼間のごとく明るくする。それと同時に存在しないと思っていた扉が閉まり、入り口が封鎖された。だが、そんなことよりも大部屋あちこちに開いてる大きめの穴の方が警戒を呼んでいた。

20m四方、高さ4mほどの部屋の中には天井と床に直径1mほど、壁に高さ3mと横幅1mほどの穴があり、その奥は何の反応もみられない。ソラとフリスの魔力探知でも探れなかった。

だが、すぐにうごめく影が見える。魔力反応は無いが影は増えていき……


「やっぱり……」

「ねぇ……」

「ソラ君……」

「モンスターハウスかよ!」

「何なのよ、これ!」

「なんでこんなにいるの⁉︎」

「ん?……多過ぎないか?」


天井の穴からは鳥・蜂・蜘蛛系の魔獣が、床の穴からは蛇・アリ・サソリ系魔獣が、壁の穴からは狼・クマ系の魔獣とゴブリン・コボルト・オーク・オーガが、溢れ出してきた。

すぐに取り囲まれ、対峙する。魔力探知に反応している数は300ほどだが、穴からまだ影が見えており、苦戦は必至だろう。

ソラはなんとなく予想できていたとはいえあまりにも多い数に、ミリアとフリスはあまりにも予想から外れたこの状態(モンスターハウス)に驚き、少し混乱していた。

だがすぐに立ち直る。生き残るためには、もう戦うしか無いのだから。


「ミリア、フリス」

「どうしたの?」

「絶対に生き残るぞ」

「ええ」

「勿論だよ」

「じゃあ……行くぞ!」


ソラの放った無数の雷を合図に、戦闘が始まる。






前に出てきたフリージングハザードには詠唱が無かったのに、今回のニブルヘイムでは詠唱が必要という違いには勿論理由があります。

フリージングハザードの方は強い吹雪と冷凍庫の中のような気温、という比較的経験しやすく想像しやすいことが元となっていました。相手が蜘蛛なので、この程度で足りました。

ですが今回は恒温動物系も混ざっていたため、フリージングハザードでは無意味、下手すれば逆効果という状況でした。そのため、液体窒素が生じるレベルにまで冷却するニブルヘイムを使用することになったのです。まあ、液体窒素を見たことがあってもそれが生じるレベルの気温なんて理論ではわかっててもなかなか想像できませんので、詠唱に頼ることになりました。

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