第5話 戦窟①
「ここだな。覚悟は良いか?」
「できてるわ。私達の力試しには良い所だもの」
「頑張ろうね」
「そうだな。さあ、行くか」
ソラ達はコロッセオの近くにあるダンジョン、戦窟へと潜っていく。
なおソラ達はSSランクの魔獣を倒したと一部では噂されてしまっており、その一部の人間はソラ達へ好奇や興味、そして畏怖を向けていたが、3人は完全に無視していた。
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「ミリア、下がれ!フリス、やれ!」
「頼むわよ!」
「任せて!」
「「ガァァ!」」
戦窟の中は幅が2.5m程の洞窟状で、ここに出てくるのはスネークマンとリザードマン、そしてアリゲイトマンだ。どれもCランクだが、パーティーを組んでいるため対処するのが難しい。
現在ソラ達の前にいるのはリザードマン8体のパーティーだ。内訳は長剣2体、長槍1体、盾と短槍2体、大盾1体、弓2体のかなりバランスが良いパーティーだ。ただでさえ数が多いため、簡単には突破できない……ソラ達以外ならば。
「よし、行くぞ!」
「フリス、ナイスよ!」
「次は、これ!」
ミリアが短槍の2体、ソラが大盾と長槍を牽制している間にフリスが後方の弓1体を始末し、2人が下がると同時に大量の雷を放つ。それにより最前線にいた長槍を除く3体は死に、長槍そのものも使い物にならなくなる。その隙にソラとミリアは突撃して、ソラが長槍を持っていた無手と長剣1体、ミリアが長剣1体、フリスは残っていた弓1体を葬った。
ソラとフリスの魔力探知には向かってくる魔獣の姿は無いため、近くの小部屋の中でもひと心地つくことができた。
「結構厳しいわね」
「そうだな。魔獣の連携が上手い分、他より消耗が激しい。フリス、大丈夫か?」
「まだまだ大丈夫だよ」
「無理はするなよ。一応、俺も同じ役割はできるからな」
「分かってるよ。心配性だね、ソラ君は」
「そうか?自分の嫁を気遣うのは当然だろ」
「当然……あれ、違和感無いね?」
「心配されてるのは分かるけど、タイミングが良いから過度じゃないのよね。大切にされてるって感じるし、当然って言われても納得できるわ」
食事とするため、ミリアは指輪の中に入れていた食材や道具を取り出し、ソラは魔法で火の用意をする。この間の警戒と結界はフリスの役目だ。
しばらくすると、保存の効きつらい柔らかいパンと野菜のスープ、肉の多い野菜炒めが出来上がった。すぐに3人とも食べ始める。
「ん、いつも通り旨いな」
「美味しいよ」
「ありがと」
そのまま和気藹々と話し始める3人。だが、当然ながら周囲への警戒は怠っていない。現にこの小部屋へ近づいてきたスネークマン4体のパーティーは、ソラの魔法によって一瞬で殲滅された。
「それにしても、ここのダンジョンは洞窟なのに明るいな」
「そうね。良いこと悪いことそれぞれだけど」
「見つけやすい分、見つかりやすいもんね」
「まあ、俺達にはまず関係ないな。魔力探知ができない相手がいなければ」
「そうね。油断はできないけど」
「わたしも気を付けないと……」
戦窟内部には似たタイプの鬼の間とは異なり、多くの明かりがある。通路では約5mに1つ、小部屋は3つ程の松明が存在し、戦うだけなら十分過ぎるほどの状態だ。
この中では遠くまで見渡せる分魔獣を見つけやすい。だが、多くの場合において素の状態なら魔獣の方が視力も良いため、見つかりやすくもある。場合によっては前後から挟まれる危険もあり、出現する魔獣の連携の良さも合わせて、今まで戦窟は誰にも踏破されないでいた。
だがこの3人は、その条件をほぼ無視している。明かりがあるとはいえ奥は暗く、角もあるので目では限界がある。それを魔力探知で無視して魔獣の位置を把握し、連携を圧倒的技量で潰す。3人は手傷無く、せいぜい少し服が汚れた程度でここまで進んでいた。
「ん、また来たな」
「はむ、ンググ」
「ほらフリス、水よ」
「ン、ン……はぁ〜助かった〜」
「まったく、慌てすぎだ」
「ゴメン。で、どうだった?」
「全部で6体だが、一瞬だったな。場所はさっきと同じだ」
「お疲れ様」
「結界張ってても寄ってくるんだな。起きた時は大変そうだ」
「その時も魔法でお願いね」
「わたしも手伝うよ」
再びやって来た魔獣、今度はこのダンジョン内に出現すると知られている魔獣の中で最も強いアリゲイトマン6体のパーティーだが、ソラの火魔法によって焼き尽くされた。消費の上では普通に戦った方が効率は良いのだが、このまま放置するのは愚策なため、殲滅している。
ソラの言った通り、魔法を使えない状況なら溜まっていく一方なのだが、その時は無双状態となるはずなので問題は無いだろう。
「さて、そろそろ行くか」
「そうね。あ、さっきのは……」
「魔水晶は落ちてないよ」
「回収はしなくていいぞ」
「それなら良いわね」
「ああ、元々かなりの頻度で戦ってるしな。換金用は十分集まるだろ」
「指輪があるんだから気にしなくて良いのに」
「まあ、かなりの容量になるように作ったからな。外はともかくダンジョンの中なら、集めまくっても大丈夫か」
「お金も沢山あるもんね」
大量の魔獣を狩り、依頼を受けていたソラ達は、冒険者としては破格の金額を溜め込んでいた。流石に大きな商家ほどではないが、商売の元手にするには十分過ぎる額はある。
なお、多くなり始めたころは多くて困っていたのだが、最近は気にしなくなった。言い換えれば諦めたとも言うのだが。
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「これは……ここを切れば良いわね」
「分かった」
「こっちは無理ね、壊して」
「了解、ファイアバレット」
「あれは私が解除できるから待っててね」
「……1つ良いか?」
「何かあった?」
「罠多くないか?」
戦窟が他のダンジョンと異なる点は主に2つある。1つは先に言ったように魔獣がパーティーを組んで高い連携を行ってくること、そしてもう1つが、罠は少ないが特徴的な物が多いということだ。
ここにある罠は大半が紐やワイヤー、押しボタンが起動スイッチとなった物であり、よく見れば見つけられる。逆に言えば観察力が高くなければ時間がかかるか気付かず引っかかるのだが、ミリアはかなりのスピードで進んでいても確実に見つけ、解除していた。ソラは魔法要員兼助手として側にいる。またの名を使いパシリとも言うが。
まあ、罠は少ないのでそこまで気にする必要は無い……無いはず……無いはずなのだが……
「多いわよ」
「フリスが暇そうだが」
「警戒はちゃんとしてるけどね」
「それしか無いがな」
「ソラの方が魔力が多いんだから、仕方無いわよ」
ここ第30階層だけ、少ないはずの罠が大量にあり、魔獣が出現していない。そのためにソラとミリアは大忙しであり、フリスは何もする事がなかった。
「こんな階層の情報あったか?」
「無いわね。ここより深い所の話も聞いてたけど」
「またかな?」
「だろうな」
「そうとしか考えられないわよね」
この原因は恐らくオリアントスの妨害……と言っていいのかは疑問だが、これはいつものことで3人ともすでに慣れていた。
「さて、次は……結構あるわね」
「みたいだな。指示は任せるぞ」
「わたしは警戒してるね」
「ああ、頼む。こんなに罠がある中でなんて戦いたく無いからな」
「ソラだったら魔法で終わらせられるでしょ」
「そうだよね〜」
「フリスだって同じだろ……罠ばかりだと本当に暇だな」
「わたしもヒマ〜」
「仕方ないわよ。私は疲れるし、早く無くなって欲しいわね」
「まあ、流石に次の階までには終わってるだろ」
「そう願いたいわ」
結果として、罠がこの階層の至る所に設置されていた代わりに魔獣はおらず、1つ下では元の通りであった。そのため、3人は再びいつも通りの探索を続けていった。




