第2話 学術都市ステイド①
すみません、今回は少し短いです
サバイバルキャンプは初日の襲撃以後、特に危機的状況は起こらず、ソラ達のグループは夕方頃、無事ステイドへ戻った。そして生徒達が集合し、教師から話を聞いていた時、ソラ達は他のグループにいた冒険者と情報交換していた。それによると、他のグループでも大なり小なり襲撃があったそうだ。被害は軽症と多少の物品破壊で済んでおり、怪我は修道士か修道女が回復魔法で治したらしい。最も規模が大きかったソラ達のグループが無傷というのは皮肉だろうか。
暫くすると生徒達は解散し、それと同時に依頼も終了する。ソラ達も含めた冒険者は一旦ギルドへ赴き、完了報告をする。その後は各自自由行動だ。
それゆえソラ達は、キャンプ前から予約していた宿で夕食を取っているのだが……
「ねえ、ミリちゃん」
「何?って、分かってるわよ。ソラでしょ?」
「そうそう、なんか元気ないよね」
「どうしたのよ……」
なお、今の夕食の献立はフランス料理系で、サラダと肉料理、スープ、さらにスライスされたフランスパンだ。
確かに美味しい料理なのだが……
「米が食いたい……」
日本人がいつまでも食べ続けるのは辛い。
ソラ達が今まで通ってきた町には、醤油や味噌などはあったものの、肝心の米は無かった。ソラは地球にて毎日必ず食べていたのだが、ベフィアに来てからの2ヶ月間、一切食べれていない。これにはソラもかなり参っていた。
「ソラ君、大丈夫?」
「コメがなんとかって言ったわよね?」
「ああ……ちょっとホームシックみたいなことになっててな……体調が悪いわけじゃないから、気にするな」
「気にするな、なんて無理よ。私達夫婦でしょ?」
「困ってるんだったら、助け合わないと」
「困ってるか……毎日食べていた物が二度と手に入らないってのはそうだよな」
「え……」
「前の世界じゃ、米をほぼ毎日食べていたんだ。それが無いからな……」
「それは確かに……ツライわよね」
「俺が慣れるしか無いんだがな」
「頑張って」
「……頑張ってどうにかなるのか?」
「さあ?」
……フリスの無茶振りで少し困惑したが、ソラ自身は前向きだ。大丈夫になるかどうかは別だが。
だが、空気が悪くなったのは否めない。ミリアはそんな空気を嫌ったのか、多少強引に話題を変更した。
「そ、ん、な、こ、と、よ、り!」
「そんなことって酷いな」
「今日はどこに行く?」
「無視か。そうだな……図書館か?」
「うーん……良いんじゃないかな?」
「そうね。そうしましょうか」
「なら、早くしろよ。ここも本が多いらしいからな」
「はーい」
この後、フリスが食べるのを急ぎ過ぎてむせたりしたのだが、話には関係が無いので割愛する。
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「凄いねー!」
「騒ぐなって。迷惑だろ?」
「まあ、叫びたくなる気持ちも分かるわね」
「確かにな」
「じゃあ……」
「駄目だ」
「駄目ね」
「ええ〜……」
そして図書館へとやってきた3人。ここもまた、ハウルと同じように誰にでも開放されている場所である。だが学園都市ということもあり、ハウルとは違い学術的な本、そしてそれを読む生徒や研究者らしき人物が多い。装備を指輪にしまっているとはいえ、その纏う空気のせいで確実にソラ達は浮いていた。
そんな中でソラ達は歩いていたのだが、ミリアとフリスが気付いた時、ソラはとある場所で立ち止まって1冊の古い本を読んでいた。
「何読んでるの?」
「闇魔法について、ちょっとな」
「急にどうしたのよ。今まではほとんど自己流だったじゃない」
「ああ、まあフリージアでな。ミルリリアの使っていた魔法の効果が良かったからさ」
「苦労したから知りたいわけね」
「使えるの?」
「まあ、ほぼ問題ないだろうな。それにしても、確かに面白いのが多いぞ」
「どんなどんな?」
「私も気になるわね」
「そうだな、例えば……」
そのまま本に書いてある事を幾つか読み上げていくソラ。内容には物理学的なものも多く、ミリアとフリスには理解できないことも多い。だが、ソラにとっては都合が良かった。この方がイメージしやすいのだ。
そんな風に会話をしているソラ達へ近づいていく影が2つ。その足取りは軽い。
「ミリアさーん、ヤッホー」
「1人だけは失礼だよ、アリア。どうも、ソラさん、ミリアさん、フリスさん」
「ん?ああ、アリアとファーベルか。昨日ぶりだな」
「元気そうね」
「やっほー」
声をかけてきたのは、翠髪蒼眼の少女と赤髪銀眼の少年だ。どちらもアンティクール学園の制服を着ており、その手には幾つかの教科書らしき物を持っている。
この2人はソラの言ったことから分かるように、サバイバルキャンプでソラ達と同じグループだった。数少ない決闘を挑んでこなかった生徒であり、ソラ達と最も早く仲良くなった生徒でもある。
「で、ソラさん達はどうしてここに?デート?」
「はは、図書館デートってのもあながち間違いじゃないかもな」
「え、本当に⁉︎」
「ソラ、からかわないの」
「分かった分かった。主目的は旅に役立ちそうな情報を仕入れるためだよ。魔法とか、魔獣とかだな」
「旅してるって言ってましたね。今度はどこへ行くんですか?」
「そうだな……帝国と共和国、どっちにしようか」
「近いのは……戦都コロッセオと森都エシアスだったわね」
「今の季節は……エシアスは天候悪かったはず」
「じゃあ、コロッセオにするの?」
「その方が良いと思います」
「じゃ、そうするか」
次の行き先を決めたソラ達。そしてソラが思い出すのは、ハウルで読んだ本の内容だ。そこにあったのは……
「コロッセオか……デカいスタジアム、いやコロシアムがあるんだったか?」
「そうらしいですよ。アリアは行ったことあるんだっけ?」
「そうそう、凄かったんだ」
「へぇ、期待できるわね」
「楽しみだね」
「ちなみに、いつ行くんです?」
「ああ、それだが……」
コロシアム、戦都という名称に似合い、コロッセオにはこの施設がある。そこへ参加するために、大陸のいたる所から剣闘士や冒険者が集まっている。そしてそこへ向かうのは……
「明日にはこの町を出る予定だ」
「えっ⁉︎」
「な、なんで……」
「1番は、必要以上に目立ちたくないってとこか」
「目立ちたくない?なんで?」
「あーと……お前らって、フリージアでの事をどれぐらい知っているんだ?」
目立ちたくないのはソラの本心だが、今更とも言える。そこはソラもちゃんと分かっているのだが、面倒ごとは嫌いなのだ。
「えーと……魔獣の群れが来て、なんとか撃退できたってことくらいです」
「群れ、か……あれはもう軍勢だがな」
「それだけと、ソラさん達は戦ったんだよね?」
「戦ったと言うよりは……終わらせたと言うべきね」
「終わらせた?」
「ああ、それはな……」
そしてソラはフリージアでの顛末を話す。少し規模などを小さくしたりもしてだが、充分異常な話だ。時折フリスが茶化したりもしたが。
その話を聞くアリアとファーベルは……意外と驚きは少なかった。むしろ目を輝かせていたりもする。
「と、こんなところだ。この町もある程度は回ったしな」
「でも、英雄として評価されない?」
「いや……リーナやガイロンともう1度会うなんて、面倒ごととしか思えない」
「え?」
「誰?」
「ソラ、それで分かる人は少ないわよ?」
「ちゃんと話そうよ。国王と王女だって」
「「え⁉︎」」
「フリス、その呼び方をするんだったら、敬称くらいつけろ」
「そうね、名前だけなら大丈夫でしょうけど、それはね」
「ちょ、ちょっと待って!国王陛下や王女殿下と知り合いなの⁉︎」
「知り合いというか……ガイロンとは悪友と呼べるレベルかもな……」
「何があったんですか!」
「ちょ、待て待て待て!押すなお前ら!」
「ソラも大変そうね」
「そうだね〜」
「ミリアもフリスも、見てないで助けろ!」
その後も2人になにかと追求されるソラであった。




