第31話 戦う覚悟
「おっしゃー!」
「胴上げだー!」
「……でよ、そこで俺が……」
「待て待て待て!」
「待たん!」
「あぁ……」
「どんま〜い」
「おら、これ飲め!」
「お前もなっ!」
「これからは実家の手伝いでもするさ。冒険者は続けられそうに無いからな」
「ね、乾杯しましょ」
「さっきもやったわよね?」
「かんぱ〜い」
「あいつは良い奴だったのにな……」
「やつの分まで生きなきゃな……」
「ごらぁ、表に出ろや!」
「ガハハハ!」
「あなた、天国で見守っていてね……」
「後はお前に任せたぞ若造!」
「はい、頑張ります!」
「なあ、そこの嬢ちゃん……」
「俺の女に手を出すなら、ここごと吹き飛ばすぞ?」
「「「「「「「「「「それは止めろ(止めてくれ・止めなさい)!」」」」」」」」」」
「俺の……女……」
「ソラ君ったら〜」
撃退後の冒険者ギルド。ここには参加した冒険者達と、彼等と親しい兵士達のうち、非番の者によって宴会が開かれ、かなり広いはずのギルド内は人で埋まっていた。当然ながら、ソラ達はその中央におり、胴上げやら乾杯やらを何度もする、されるハメとなっていた。楽しんでいてもミリアとフリスへのナンパには殺気を出し、本気で撃退したのだが。
ギルドの中はおおよそ3分されていた。激戦で無事生き残ったことを祝い、騒ぐ者。大怪我を負ったとはいえ、命があることに感謝する者。そして、死んだ仲間を弔うために呑む者。だが、全員が未来への期待を持っていることに変わりはなかった。
「よお、Aランクさんよ」
「ま、棚ぼたですけどね」
「よく言うぜ。あんな強引に突っ込んでおいて」
「ま、あのままだといずれ押し負けてでしょうから。どこかで賭けが必要でした」
「それに関しては否定できないか。倒す前に次のが出てきてたしな」
「そんな所です。やれる人がやらないと守れない、そんな世界ですから」
「違いない」
この戦い結果、ソラ達はAランクとなった。やっている事から判断するとAランクでは足りないだろうが、Sランクの魔獣は下と比べ物にならない程強い。今回の事ではそこまでの評価はできなかったようだ。なお、ソラは遺体からミルリリアがAランク魔人と判断されたからであり、ミリアとフリスはBランクでも上位に位置するダウリザードを含んだ1団を全て倒したこと、ソラと共に戦況を変えたことなどが評価され、Aランクとなった。戦場において多大な貢献をすることも、ランクアップの条件だからだ。
報酬も大量で銀貨50枚分、計50万Gもの大金が3人に入った。なお、ダウリザードは1頭7500G、Aランク魔人は1人17万Gである。どれだけ貢献したか、この金額だけでも分かるだろう。
「それにしても……まだイーリアを出て2ヶ月位なのよね」
「そうだな。2ヶ月でAランクか……」
「ソラ君がいたからだね〜」
「そうか?ミリアとフリスの実力なら、これ位簡単だっただろ?ここまで早く無かったとしても」
「全部がソラがって訳じゃないけど、ソラのお陰でイーリアを出る決心がついたんだから、あってるわ」
「そんなものなのか?」
「そうだよ」
「そうか……まあ、俺も2人に会えて良かったな。こんな綺麗な嫁さん貰うなんて思ってもいなかったし」
「ち、ちょっと⁉︎」
「本当に、ミリアは耐性が無いな」
「そうだね〜」
「な、何よその顔は……」
「いやいや、何でもない。な、フリス?」
「うん、ソラ君の言う通りだよ」
「そんな訳無いでしょ!」
宴は夜遅くまで続いた。そして町は新たな一歩を踏み出して行った。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「ねえ、ソラ君」
「どうした、フリス?」
「何で今日向かうの?」
「それは私も気になるわね。もう少しゆっくりしてても良いのに」
「ああ、それか。1番の理由は、俺がそんなに目立ちたくないって事かな。あのままいたら、領主やら誰やらに話をズルズル進められて、ハウルへ戻されそうだったし」
撃退の翌日、ソラ達はフリージアを出て次の町へと歩いて向かっていた。指輪の中に食材等はしまってあったしま、直ぐに出てこられたのだ。休息を満足に取れたとは言えないが、そのままいるよりはマシだとソラは考えていた。
ソラの言った事は推測に過ぎないが、裏付けるかのような出来事はある。昨日の宴でギルマスと騎士団団長がかなり絡んできていたのだ。もし王都へ連れて行かれでもしたら、リーナやガイロンに会うこととなるだろう。他の貴族達と会うかもしれない。ソラには厄介事が待っているとしか思えなかった。
「疲れてるかもしれないが、頑張ってくれよ」
「大丈夫よ。そんなヤワじゃ無いんだから」
「わたしも大丈夫だよ〜」
そのまま歩き続けていく3人。いつもよりも休息を多く取っているが、身体強化を使っているため、進みは遅くなっていない。身体強化には、少しだけだが肉体疲労を回復させる効果もあり、使い方としては間違っていない。普通は集中力しなければならないはずのことを簡単にやってのけているソラ達が異常なのだが。
「2ヶ月か……」
「どうしたの?」
「ああ。昨日も言っていた筈だが、俺がベフィアに来てから2ヶ月経った頃だからな」
「そうね。あの時はまだ肌寒い季節だったのに、もう暑くなり出してるし」
「色々あったよね〜」
「あり過ぎて困ってるな。王族と知り合ったり、魔獣の軍勢が襲って来たり……」
「どれだけ波乱なのよ」
「流石に、この後も同じペースで何かがあったりはしないだろ。始めが不運だったで済むんじゃないか?」
「そんなものかな?」
「むしろこれであって欲しい。今後も同じだと何があるか分からん」
「それは同感ね。でも……」
ソラが感慨深げに言うと、ミリアとフリスも同意する。たった2ヶ月だが、その期間がとても濃密だったことに変わりは無い。まあ、ソラ自身は異世界召喚テンプレの忙しさに少し困憊しているのだが。
回想していたソラだが、ミリアの次の言葉を聞こうと耳を傾け……
「全部ソラが対処してくれそうだけど」
「おいコラ。俺任せにす「確かにそうだね」……お前等な……まあいいか。それよりも、だ」
2人に言い切られてしまった。
少し落ち込んだソラだが、意志をはっきりさせて振り返り、その先にある木を見つめる。その状況は昨日、ミルリリアを見付けた時と酷似している。
「誰だ?俺達の後をつけて来ているのは」
前日と同様に木の後ろから出てきた影は、紫色のローブを着て短杖を持ち、ナイフのような角が3本生えていて、銀色の竜眼という、ミルリリアとよく似た特徴を持っていた。ただ1つ、その影が少年だという事を除けば。
その彼は忌々しそうにしながらも、ソラ達の方へ歩み寄って行った。
「……バレていたのか」
「当然だ。あんなに殺気を出していれば、気付かない訳がない」
「それはソラだけよ。罠には簡単に引っかかってたのに、何で気付けるの」
「経験の差だろ」
「それはそれで変じゃないかな?」
年齢はソラの方が1つ上とはいえど、平和な日本と戦いのあるベフィア、どちらの方が殺気等に敏感か、簡単に分かるだろう。いくら武道を嗜んでいたとはいえど、ソラは例外なのである。
もっとも、今のソラ達の会話は内容こそ真面目なのだが、カップルがデートで話しているような雰囲気だ。
「……爆発しろ」
「あ、それここでも同じなのか」
「聞こえてたのか⁉︎」
「聞こえるように言ったんじゃなかったのな?」
「そんな訳無いだろ!だいたい、敵の前でイチャコラするなんてどういう頭してるんだ!」
「あ、お前敵なのか」
「は?どう見ても魔人だろ。敵じゃなかったら何なんだよ?」
「いや、だってお前……何の覚悟も決めて無いだろ?」
ソラの指摘に、一瞬惚けた顔をした魔人の少年。そしてその顔は、直ぐに訝しげな様子となった。
「覚悟だ?復讐にそんなものが要るのか?」
「復讐?……ああ、何処かで見た格好だと思ったら」
「そうだ!お前に殺された姉さんの敵を取りに来たんだ!」
「姉か……つまりお前はミルリリアの弟だな?」
「そうだよ。名前はフォルス、覚えとけ!」
「姉弟揃って似たような事言うんだな。まあ、覚悟が無いのは違うか」
「またか!その覚悟って何だよ!」
「戦士に必要な条件さ、個人的な意見だがな」
「だからその覚悟が何だって聞いてんだ!」
「簡単さ……相手を殺す覚悟と自分が殺される覚悟だ」
ソラの言葉に疑念を持つフォルス。本人の感覚とソラの感じる気配では、覚悟が大きく違うからだ。
「お前の姉は戦士だった、ちゃんと殺す覚悟と殺される覚悟を持ったな。お前はそれを持たない唯のガキだ」
「そんなことは無い!覚悟は決めている!」
「そんな訳無いだろ。今のお前は姉の敵討ちしか考えてない。壊れている俺ですら持っているものが、お前のどこにもありはしないだろ?」
「人間の分際で何が分かる!」
「分かるもんだよ、戦士に種族は関係ない。相対した時の感覚が違うからな」
「戯言を!ハアアァァァ‼︎」
「……残念だよ、あいつの弟がこんな奴だなんてな」
フォルスの放った闇球は、倍以上の大きさを持った光球により術者ごと飲み込まれ、掻き消える。
そしてこの場に残ったのは見守っていたミリアとフリス、そして天を仰ぎ見ているソラだけとなった。
「覚悟……ガラにもないのに説教しちまったな……」
「……ねえ、ソラ君の覚悟って何なの?壊れてるって言ってたよね?」
「ああ、俺の覚悟、か……」
「そんなに難しい事?」
「……前の世界の俺は、未来を奪うこと、失うことを覚悟していた。殺すなんてことはまず無かったが、念のためにな。その前は……恥ずかしながら決めてなかったが。だけどこの世界に来て、変わったさ。
今の俺の幸せは、ミリアとフリス、2人が居ること、共に在ることだ。そして死ねばこの幸せは消える、それが俺の殺される覚悟であり、他人の幸せを奪うことが殺す覚悟になったんだ」
「ソラ君……」
「やっぱりこれもガラじゃないな。恥ずかしいし」
「それでも、嬉しいわ。私達の事を第一に思ってくれてるんだから、誇れる事でしょ?」
「……そうだな、ありがとう。そして、これからもよろしくな、ミリア、フリス」
「勿論よ。どこまでもついて行くんだから」
「お願いね」
そして3人は共に旅を続けて行く。ソラ、ミリア、フリス。それぞれの願いを互いに託して。
第1章END
次は登場人物紹介となり、その後第2章です。
これからもよろしくお願いします。




