第26話 沼土②
「え?……やめてよ……」
「どうした、フリス?」
「暫くすればソラ君も分かるよ……」
「ちょっと、それだと私には伝わらないんだけど?」
「うげ……これはまた……」
「何よ、何を見つけたのよ?」
「百足の群れ……14匹か。内3匹は他よりデカいな……」
「え……」
沼土の第38階層、順調に下ってきたソラ達。そんな時に現れた百足のような魔獣はあの後出て来ず、詳しいことは全く分かっていないのだが、相対したのならば気持ち悪くても戦うしかない。
当然ながら、生理的に受け付けられず戦えなくなる人もいるだろうが、幸いこの3人は違った。とは言っても嫌悪感が無い訳では無く、受け付けられず殺したくなる側なのだが。
「どうする?まともに戦うのも面倒「あっ!」……マジかよ」
「……また何か悪いこと?」
「あいつら、地面に潜りやがった」
「ソラ君、何とか出来ない?」
「一応追えてるが、あの硬い外骨格を通してダメージを与えれる魔法何て、すぐにはできないぞ……」
「つまり、正面から戦うしか無いのね」
「そういうことだよね……」
「こいつらが無視をしてくれなきゃ、そうなるな……見逃してはくれなさそうだが」
地面の中に潜られては、先制の魔法で殲滅する事が出来ない。地面の中にいる敵に対し、有効なダメージを与えられる魔法自体をソラは元々持っていないのだ。それなのに、硬い外骨格とぬかるみの多い地面という悪条件も加わってしまっていると、1日練習しても上手く出来る保証はなかった。
魔力探知で追えているのは幸いなのだが……
「……来てるよね?」
「ああ、間違いないな」
「……どこから?」
「それはまだ、ん?……目の前に出るみたいだな」
「分かれてるのはいないよね。多分少し前になると思う」
「なら楽ね」
「ああ、まだな」
ソラ達は少し広くなった場所で待ち構える。出てきた所を攻撃するつもりであり、飛び出して来た1体目に対し、ソラは魔獣の体の半分ほどが地面の中にある時に節を狙って斬った。
「斬り飛べ!これで1体っ⁉︎」
「どうしたの、っ⁉︎」
「キャア!」
「頭があれば生きてれるのかよ!アレほどじゃ無いにしても厄介だぞ!」
百足の魔獣は残り1m程の状態で反撃してきた。襲いかかられたフリスは上手く避け、その直後にソラが頭に雷を放って完全に殺したが、その間に他全てが地上に出終えてしまっていた。
「できれば、出て来る瞬間に殲滅したかったんだがな……」
「ソラ、お願い」
「ああ、ファイアエンチャント、エアロエンチャント、サンダーエンチャント。追加ダメージ系だから、上手く節を狙ってくれよ?」
「付加が水と土だったとしても、あの甲を斬れるとは思って無いわ。ちゃんと狙うから、安心して」
「わたしは雷主体でやるね」
「頼む。さあ、やるぞ!」
いつも通りのフォーメーション、何度も行ってきたこれは相手がどんな魔獣であろうと崩れてはいない。その攻撃もだ。
そして、ソラ達の動きに合わせるように、様子を伺っていた百足達も動き出した。
「はぁ!」
「ふっ!」
ソラとミリアは出来るだけ頭に近い所にある節を狙って斬る。付加された雷により痺れ、すぐさま動く事は出来ないあめ、ソラとミリアは一撃離脱を繰り返していった。
「行け!」
フリスは斬り落とされた頭を狙って雷を放つ。更に、頭部だけなら確実に絶命させる雷の幾つかを生きている百足にも放ち、牽制と攻撃にも使う。
「ナイスだ、フリス!」
こうして出来た隙をつき、ソラは群れの後方にいる大型の百足へ向かう。見るからに格の違う3匹には……
「毒か。やっぱりあるんだな」
「ソラ君、大丈夫⁈」
「問題無い。そっちは頼んだぞ!」
全長5m程の百足は口から紫色の液体を落としていた。ソラはそれを毒物と仮定して、対処を始める。
と言っても、ソラはまともに戦うつもりは無かった。
「もーえろよ燃えろーよ、ってな」
「……何してるのよ」
「見れば分かるだろ?頭を燃やしてるんだよ。ミリアとフリスこそ、終わらせるのが早いな」
エンチャントの応用で百足の頭部に炎を固定し、毒と牙、それと眼や触覚を封じ込んだソラ。百足は大暴れしているため、ある程度の距離は取っているが、集中力については炎の継続と周囲の警戒にしか使っていない。
フリスも似たようなものだが、ミリアだけは目の前の百足への警戒を止めようとしなかった。当然といえば当然なのだが。
「大半を倒したのはソラだったじゃないの」
「11匹中、俺が倒したのは……6匹か……一応大半だけど、変わらないだろ」
「抜ける前はそうじゃなかったじゃないの。数匹は残ってたからそうなっただけよ」
「そうなるのか。まあ、今の状況で俺が1番弱かったら役立たずだし、悪いことでは無いな」
「そうね。頼りにしてるわよ」
「頑張ろうね」
「ああ、任せろ」
なお、この会話の間に百足3匹は絶命しており、2つの魔水晶となった。他の百足からも2つ回収できていたため、効率としては上々の結果となったものの、精神的な疲労は相当であっただろう。意気込んだソラ達も暫く進んだ先の広場で休むこととなった。
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「……良いな?」
「ええ」
「勿論」
「良し、行くぞ」
沼土の第50階層、ボス部屋の前に陣取るソラ達。相手とすることとなるのは未踏破ダンジョンのボスのため、強敵の可能性が高い。それ故に、普段より緊迫した雰囲気となっていた。
その状態で突入した3人が見たモノは……
「何だこいつは……」
「虫、よね……?」
「ホーンビートルの親戚?」
「だとしたら……厄介だな……」
ソラ達が見つけたのはヘラクレスオオカブトだ。全長は2m近くあるが。
そしてこの沼土のボスが通常攻撃しか持っていない訳がない。
「ねえ、あの紫の液体って……」
「口から毒を吐くのかよ……面倒な」
「面倒とかってレベルじゃ無いと思うよ?」
「……無駄話をしてる余裕は無いみたいだな」
「……来るわね」
「ソラ君、お願い」
ヘラクレスが飛び立ち、突撃しようとした瞬間、ホーンビートルの時と同じように土の壁を大量に作り出したソラ。当然ながら、ボム系の魔法も大量に作り出し、爆発させたのだが……
「伏せろ!」
ソラがそう叫んだ数瞬後、脇へと避けていた3人の周りに土が降った。
そして、土煙が晴れた後に見た物は、20枚の土壁の残骸と悠々と飛ぶヘラクレスの姿だ。
「20枚の壁をぶち抜いて来たか……」
「ねえ、あの毒って……」
「多分、溶解液みたいな効果もあるだろうな。寧ろそれがメインか?……エサ以外には先にかける習性なんだろうな……」
「エサね……本来が何かは知らないけど、ダンジョンなら必要無いと考えた方が良さそうね」
「それって……」
「容赦無くやってくるだろ。気を付けろよ」
フリスの視線の先にはシュワシュワと音を立てている、紫の液体がある。特性にすぐに思い当たった3人だが、簡単に防げる物では無いため、警戒のレベルは必然的に上がる。
だが、ソラは再度突撃させるつもりは無かった。
「土じゃダメ……まあ良い、燃え尽きろ!」
巨大な火球を当てられ、火に包まれたヘラクレスは、黒焦げとなって落下した。それでも生きていたのだが、ソラが何箇所にも刀を刺すこおでトドメをさす。
「お疲れ〜」
「凄かったわね……」
「まあ、ちまちま攻撃するのは面倒だし、大変だからな。ホーンビートルの後に、こうすれば良かったって思いついたんだ」
「そうね。さて、奥に行きましょう?」
「行こ〜」
「2人共元気だな」
ミリアとフリスに連れられ、奥の部屋へと向かうソラ。そこには1つの大きな宝箱があった。それを開けると……
「こいつは……」
「これって……」
「もしかして……魔法具?」
「槍の魔法具か……どんな力が入ってるんだ?」
「ねえ、持ってみても大丈夫かしら?」
「ああ、ここまで来て何か問題があるってことは無いだろうからな」
宝箱の中に入っていた長さ2m程の槍をミリアが取る。すると、穂先に雷が纏わり付いた。
「え⁉︎」
「それは……常時雷の付加が付いているような物なのか。良いやつだな」
「そうね。双剣の方が使いやすいけど、必要な時もあるかも」
「それなら俺が持っておこうか?投げ槍に使えそうだし」
「投げ槍って……こんな高価な武器を?」
「雷属性だからな。魔法を併用すれば上手くいきそうなんだよ」
「それなら分からなくは無いけど……壊さないでよ?」
「努力はしよう」
槍の他にも魔水晶や普通の武器を手に入れたソラ達。3人はここで野営した後、もと来た道を戻っていった。




