第25話 沼土①
「さて、またダンジョンに挑む訳だが……」
「今までとは違うものね。気をつけるわよ?」
「分かってる分かってる〜」
「……大丈夫か?」
「……集中しない訳じゃないし、問題無い筈よ」
1日を情報収集と物資調達に費やして、新たなダンジョンへとやって来たソラ達。沼土と呼ばれているダンジョンなのだが、今までの2つと違う点は……
「未踏破、だからな。注意し過ぎることは無いだろ」
「それもそうだけど、疲れて切らさないようにしてよ?」
「まあ確かに、その点ではし過ぎるのは問題か。だけどまあ、フリスは能天気過ぎるぞ?」
「は、はーい……」
「威圧しないの。見た感じはそうだけど、大丈夫だから」
「そうなのか……フリス、すまん」
「わたしも悪いし……ごめんなさい」
「さ、行くわよ」
ちょっとしたやり取りを終えたソラ達はダンジョンの中へと入っていく。
なお、今のを夫婦漫才と受け取り、殺気を向けた者もいたようだが、そんな殺気は気にしなかったソラ。しかし、この光景には絶句した。
「これはまた……とんでもないな」
「聞いてはいたけどね……」
「ここまでとは思わないよ……」
見るからに酷いダンジョン。それは……
「紫の沼……毒っていうのも嘘とは思えないな」
「変な霧もでてるしね……こっちは毒じゃないらしいけど」
「木は全部立ち枯れてるし……」
「一応毒消しは持ってきてるけど、気を付けないとすぐ無くなるぞ……」
「魔獣にも毒を使うのが多いらしいしね……」
「囲まれたら大変だよ……」
「道の選択を間違えたら終わりだな……罠にも毒系が多いそうだし……ミリア、頼んだ」
「私だけっ⁉︎」
「罠はミリアが1番だろ。魔獣は俺とフリスがメインでやるから、な」
「頑張るよ〜」
「はぁ……分かったわよ。私が適任だってのは分かってるしね」
確かに夫婦漫才だ。そんなやりとりをしつつ、3人は奥を目指して進んでいった。
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「これは……ソラ、お願い」
「またこのタイプかよ。吹っ飛べ」
爆炎が舞う。
ここは沼土の第4階層、まだまだ魔獣の出現率は低い所であり、ミリアの活躍の場であった。
今処理されたのは地面に埋められた毒針が放たれるタイプの罠で、簡単に破壊でき、壊せば問題無くなるため、ソラが処理することとなっていた。
「何でこんなのばっかりあるんだ?」
「さあ?ここの特徴じゃないの?」
「ごめんね、ソラ君。処理任せちゃって」
「良いさ、魔力は俺の方が多いしな」
「そうよ、適材適所って事。フリスはまだ仕事が無いけど……」
「探知もメインは俺になってるしな……範囲が狭い分、見逃しづらいとは思うんだが……」
「うぅ……」
「な、何かあるわよ!一緒に探しましょ!」
「そうだぞ、才能が無い訳無いだろ!」
「うん……」
落ち込むフリス。だが、ここはダンジョンの中だ。このままにしておいては何らかの影響が出ないとも限らないので、ソラとミリアは何とかして元気付けようとする。
「……ミリア、どうする?」
「そうね……フリスにしか出来ないこと……」
「魔法の使い方自体は俺より上だと思うけどな。どこを狙うべきか、どれ位の威力が良いかとかが。俺はただばら撒くだけだし」
「……それで駄目なの?」
「あ〜……これは戦闘での役割だしな……フリスが求めてるのはそうじゃ無いだろ?」
「そうよね……あれ?フリスって魔力探知はやって無いわよね?」
「うん、そうだよ……」
「何でやらないの?」
「上手くできなくて……」
「ソラ」
「了解。フリス、俺のやり方だが……」
夫婦となった為か、かなり詳しい所まで教えるソラ。フリスも暫く試行錯誤していたが……
「できた!」
「お、良かったな。どこまでだ?」
「う〜んと、あれ?魔獣が向こうの方にいるよ?」
「は?俺のには出てないぞ?」
「フリスの方が広いってことじゃない?」
「ああ、そうか。まあ、これでフリスの役割ができた、って取られた⁉︎」
ソラの役割を奪う程とは予想外だっよう様だ。実戦では魔力量の多いソラの方が、継続探知には向いているのだが……フリスの魔力量も多いため、ソラかミリアの援護無しという状況で無ければ問題は無い。
「あ、んーと……ドンマイ?」
「まあ、適材適所だしね」
「フリス、気にしなくて良いよ。そして原因はミリアだろ?」
「私は何も悪い事はしてないわよ?」
「それは当然だけど、掛ける言葉が違わないか?」
「うわー、私達の旦那様って細かいー」
「酷いねー」
「……すまん、悪かった……だけど、棒読みはやめてくれ。後ミリア、顔が赤いぞ?」
「なっ、ちょっ、そんな事どうでも良いでしょ!」
やはり、夫婦漫才である。
それと流石、ミリアとフリスは幼馴染みだけあって、息がぴったりだ。
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「見つけたよ〜」
「どこ?」
「こっち」
「あ、今俺も見つけた。こっちに来てるな」
沼土の第23階層、大分深くなり、他の冒険者もかなり少なくなった階層の沼に挟まれた一本道の先に、フリスとソラは魔獣を見つける。
なお、未踏破で難易度が高いとはいえど、このダンジョンは魔獣を生み出すスピードがそこまで早い訳ではないようで、ソラ抜きでも無理に戦わないよう気を付けていれば問題無い程度であった。それでいて、罠はミリアに全て任せており、探知ではフリスの方が先に見つけるため、ソラの役割は殆ど無いと言っても過言では無いだが。
「数は4、内訳は……飛んでる奴が2、地上が2だな。地上の片方は結構デカい。フリス、あってるか?」
「あってるよ。それと、地上の魔獣はどっちも細長いよね」
「細長いの?蛇とか?」
「小さめの方は蛇だろうが……デカい方は何だ?」
「なんか……カサカサしてる?」
「……乾燥肌?」
「いや、動き方の方だ。変な奴だよな……」
魔力探知で見つけた奇妙な反応に首を傾げるソラとフリス。
暫くその方向へ歩いて行くと、霧の影響で範囲は狭くなっているとはいえどまだ有用な望遠の魔法で、ソラは魔獣達を視界に捉えた。
「見つけた。恐らくは……ポイズンモースが2、スネークウッドが1、それと……百足か?」
「成る程、百足なんだね〜」
「だからカサカサ……大きな百足?」
「ああ……3mぐらいか?はっきり言って、気持ち悪い」
「ええ……」
「逃げるにはもう遅いな……こっちに一直線だ」
「……ソラ、百足は頼むわ」
「……了解、魔法で先制攻撃する。近くに寄るのも嫌だしな」
3mとなると、最早脚の数は100を超えている。そんな存在に近寄りたい訳ではないので、ソラは地形を利用した魔法を仕掛けたのだが……
「っ⁉︎嘘だろ!」
「どうしたの⁈」
「水と土の魔法が弾かれた……燃やし尽くす」
「あの、ソラ……?」
「消え去れ!」
危険と認識した……というよりは、ただ単にイラついただけのソラによって、4体の魔獣は炎に包まれ、消滅した。
「ふう、終わったぞ」
「ソラ?」
「ソラ君?」
「……はい、すみません」
打ち合わせと違うことに対して怒っているミリアとフリス。ソラはその視線にいたたまれなくなり、土下座を繰り出す……実際、悪いのはソラなのだが。
なお、地面は歩きづらくは無いとはいてど泥の多い場所なのだが……ソラなら魔法で綺麗にするだけである。
「何でこんなことしたのよ?」
「魔法が弾かれたから、出来る限りの火力で倒そうと思いまして……すみません」
「はぁ、それだったらソラが近寄って倒してくれば良かったじゃ無いの」
「それが効きそうになかったからな……」
「何で?」
「俺の世界の物語に、分裂してでも襲ってくる百足がいるからな……」
「何それ……」
「気持ち悪いよ……」
こんな感じで話をしながら、ソラ達はダンジョン内を進んでいった。




