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異世界成り上がり神話〜神への冒険〜  作者: ニコライ
第1章 異世界放浪記

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第24話 カミのウツワ

「ん〜……あ、朝あぁ⁉︎」

「お、おきたか」

「おはよ〜」


愛を伝え合った翌日、起きた瞬間に乙女に似つかわしくない声をあげたミリアの視線の先にあるのは……








巨大な水球だ。その中にソラとフリスがいるのだが。


「ソラ、これは何なのよ⁈」

「魔法で作った風呂だよ。フリスに頼まれて作ったんだが、ミリアも入るか?」

「そうね……入りたいわ」

「じゃあ、動くなよ」

「え?って、ちょ⁈何で浮いて⁉︎」


最早定番となった、ソラの便利魔法による風呂。普通は出来ない贅沢な魔法の使い方である。

希望した為、ソラはミリアへと魔法を掛け、浮かばせて入れようとしたのだが……


「そーれー!」

「キャアア!」

「ミリア⁉︎」


それを邪魔する者がいた。

フリスが浮いているミリアを引っ張り、水の中に引きずり込んだのだ。その時にミリアはフリスに抱き止められる形となったのだが……


「な、何するのよフリス⁉︎」

「……ミリア、大丈夫か?」

「大丈夫よ……ちょっと格の差はあったけどね……」

「ミリちゃん、どうしたの?」

「どうせ私は小さいわよ……フリスなんかとは違うわよ……」

「ミリア、それは違うぞ」

「何が?」

「大きければ良いって訳じゃないからな。フリスのは立派だが、ミリアだって形が良い。俺の好みだぞ?」

「恥ずかしいからそんな力説しないでよ!」

「……言ってる俺も恥ずかしくなってきた……」

「何のこと?」


意気消沈したミリア。ソラはそれを察し、良いのかは分からないが励ます。なお、フリスは理解できていなかった。

詳しい事は察して欲しい、ミリアの名誉の為にも。


「それにしても、いつもは凛々しいミリアがあんなに乱れるなんてな」

「そんなこと言わないでよ!事実だけど……本当に、何であんなことやっちゃったのかしら……子供が出来ちゃったら、旅ができなくなるじゃないの……」

「あー……そのことなんだが……」

「どうしたの?」

「暫くは絶対に子供はできないらしい」

「何でなのよ?まあ、ある意味安心出来ると言えば出来るんだけどね」

「昨日言ってたことに繋がるんだが、オリアントスのせいで、俺の体は上級神になるまで子供を作れないそうだ」

「へぇ〜、神様ってそんなことも出来るんだ〜」

「どちらかと言えば、あいつが俺の体を作ったのが原因だろうな」

「どうしてよ?」

「自分で作ったから、ある程度の制限を掛けれるだろうってところだ。オリアントスの司っていることから考えると、元からある体に干渉できるとは思えないしな」

「そうね……じゃあ、ソラには早くなってもらうわね。いつか子供も欲しいし」

「そうだね。頑張って!」

「ま、出来る限りだが急ぐさ。神となった時の体は若い方が良いし、2人の事もあるからな」


誓いを交わす3人。

なおこの後、食堂で女将さんに定番の「昨日はお楽しみでしたか?」と聞かれ、ミリアは茹でダコの様に赤くなり、フリスは笑って誤魔化そうとするのだが、当人達はまだ知る由もなかった。









ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー








「……フリス?」

「何、ミリちゃん?」

「……どうしてそうなってるの?」

「良いでしょ〜」


朝食後、ソラが試したいことがあると言ったため、町の外へ向かう3人。ちなみにこの時、フリスはソラの右手に抱きついており、指同士を絡めている。

どう考えたとしても、そういう関係であることは明白で、すれ違う独り身の男達からの殺気をソラは向けられている。しかし、全員分を合わせてもソラの出せる総量に届いていない為、気にさせることすらできていないのだが。


「まあ良いけど、ぶら下がるのだけは止めろよ?結構キツかったんだならな?」

「はーい」

「全く……」

「ミリアも来るか?」

「え……あの……その……」

「遠慮しなくて良いぞ?」

「じゃあ……」


ミリアもフリスと同じ様に左手にくっつく。顔は真っ赤になっているが。

2人の美少女を侍らした少年。周りの男達からの殺気が増えたのは、言うまでもないだろう。


なお、ソラは猫かぶりが得意だということを(しる)しておく。









ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー









「ここら辺で良いか」

「どうしてここに来たの?」

「何するの?」

「まあ、見てれば分かるさ」


フリージアの近くの林の中、その中でも比較的開けた場所へとやって来た3人。何をやるのか興味津々なミリアとフリスの前で、膝立ちとなったソラは薄刃陽炎を鞘から抜き、左手で水平に構えた。


「……さて、やるか」


その直後、ソラの目の前に展開されたのは白と金色の炎。更に右手には薄金(うすかね)色の陽炎の様な金槌が出現した。それをソラは振りかぶり、炎の上で薄刃陽炎へと打ちつける。

見た目では起こり得ない金属音を発しながら、ソラは何度も金槌を打ちつける。ミリアとフリスはソラの集中を感じ取り、乱さぬよう動かない。

時間が伸びているのでは無いかと思うほどの空気の中で繰り返されていた作業は、ソラが100回目に打ちつけた時に唐突に終わった。


「……ふぅ、これで完成か」

「お疲れ様。でも、何をしていたのよ?」

「神器作りだ」

「神器?」

「え、本物?」

「残念ながら、そこまで強くないさ。まだまだ俺自身の力が足りてない」

「じゃあ、どこまでできるの?」

「今できるのは、武器として最良の形を保つことと魔法の強化程度だな。純粋な神気じゃ無くて、魔力が大半の紛い物だから仕方がないか」

「……十分凄いと思うんだけど……」

「神器としてはダメだろ。まあ、これで刀の耐久を気にしなくて済むから良しとするか」

「気にしてたの?」

「当然だ。そうだ2人共、双剣と長杖も貸してくれ。同じ様に神器にするからな」

「そうね、お願いするわ」

「お願い〜」

「任せとけ」


同様の作業を2回行い、双剣と長杖も神器としたソラ。先程と同様に100回ずつ打ちつけて神器としたのだが、連続した作業の影響か額に汗が流れ始めていた。

ミリアとフリスは心配したが、ソラは無理をしている様子では無かった為、大人しく見守っていた。


「これで神器になったんだね〜」

「けど、そんなに力は感じ無いわね」

「さっき言った通り、大した物は入ってないからな。まあ、今はそんなに力を入れれないけど、俺の力が増せば付けれるようになる。それまで待っててくれるか?」

「当然よ」

「勿論だよ!」

「ありがとな。っと、そうだそうだ」

「またやるの?大丈夫?」

「後3回やっても問題無いさ。作業は後1回だけだけどな」


再び作業を始めるソラ。彼が取り出したのは、林環の宝箱で見つけた金のインゴットだ。

これも同様に作業するのだが、先程とは違い一から作り出す為、見た目は大分異なっている。具体的には打ち付けていったインゴットが3つに分かれ、丸まっていったのだ。

今度は150回で作成が完了する。完成品はミリアとフリスには見えていないが……


「ふぅ……ミリア、フリス」

「何?」

「どうしたの?」

「順番になっちゃうけどな……はい」

「わあ」

「ふふ、ありがとね」


作り上げられたのは同じ紋様の施された金の指輪だ。

そしてソラは順番に2人の左手を取り、薬指へ指輪を通す。ベフィアでもこの意味は同じだった。


「俺の分も良いか?」

「当然よ」

「勿論だよ」

「……ありがとな。ん?」

「あれ?」

「何で?」

「おかしいな……ゴールドリングの筈なのに」

「私のはそのままだけど……」


結婚指輪を渡したソラ。しかし、事はそう簡単にはいかなかった。

指輪の原料は金なのだが、ソラがつけた途端に変容が始まる。ソラの指輪は薄金色の本体に小さな金色の結晶が混ざった感じの見た目に、フリスの指輪は白く変化したのだ。ミリアの指輪は変わらなかったのだが。


「神器化しておいたから……そのせいかな?」

「これも神器なの?」

「ああ、空間収納の効果付きだ。店売りのよりも多く入るぞ」

「あれ高いのよね……ソラが作ってくれるなんて思ってもいなかったわ」

「ま、これは俺も欲しかったからな。魔獣をこの中に入れて、ギルドに丸ごと持っていけば高くなるだろ?」

「そうだね。討伐証明部位以外だって買い取ってくれるもん。ゴブリンだって、肥料になるから」

「……肥料は予想外だったな……それにしても、結婚指輪なのに見た目が違うのはどうしようか……」

「まあ、良いんじゃない?模様は同じなんだし」

「これも凄いよね〜何で出来たの?」

「その模様が神器の大元なんだ。魔法陣が1番近いけど……ベフィアには無いんだよな……これは何と言うか……魔水晶の代わりに魔法を行使する物、か」

「魔水晶の代わりに?」

「細かい原理は違うと思うが、見た目としてはその通りだ。……何で魔法陣が無いんだか……」

「魔法陣って何?」

「あーと……魔法を紋様として刻み込んで、何らかのキッカケで発動できるようにした物ってのが分かりやすいかな?俺のいた世界にあった、物語の中での魔法の利用法の1つだよ」

「へ〜、使ってみたいな」

「そのままの感覚でやるんだったら、まず無理だろうな。俺だって挑戦しなかった訳じゃないが、こいつでしか成功してないし」

「ソラが言うんだもの。フリス、諦めなさい」

「はーい。面白そうだったのにな〜」


魔法を紋様として表す方式は存在しておらず、魔法陣の実用化は不可能に近い。ソラの作った指輪の神器の紋様自体、作成中に自動的に刻まれた物で、ソラ自身も理屈は理解できていないのだ。

そんな話をした後、少しだけ必要だった後片付けをしていたソラへミリアが近付いていく。


「ねえソラ、私に対人戦のやり方を教えてくれない?」

「対人戦?今のミリアなら十分だと思うけど?」

「ソラには大きく劣ってるわよ。せめてついていける位にはなりたいのよ」

「前にやった時はいい勝負だったじゃないか」

「あの時は……もう1回戦った方が早いわね。ルールは前と同じで良い?」

「まあ、良いけどさ……」


そうして、約1ヶ月前と同じ様に向かい合う2人。場所の広さもミリアが先手であるのも同じであったが……


「はぁ!」

「ふっ!」


ミリアの左手での下からの切り上げを、ソラは半身になって避け、そのまま回転して勢いを利用した横薙ぎの斬撃を放つ。ミリアは右の剣でなんとかそれを受ける。


「やぁ!」

「ん?」


受けとめた力を元としてミリアはその場で回転し、ソラの背後から斬り付けようとする。それをソラは沈み込むように体を下げる事で回避したのだが……1つの疑念が生じた。


「キャァ!」

「疾!」


下に潜り込んだ状態で、ソラは左手を裏拳気味に放ち、すぐそばにあった右手の剣を払うと、ミリアをタックルを仕掛けて押し倒し、首に薄刃陽炎を当てる。

他から見たら危ない構図だが、実際問題は無い。夫婦であるし、模擬戦なのでDVでも無いのだから。

それよりもソラは、感じた疑念の方が気になっていた。


「……ミリア、遅くなったんじゃないか?」

「……違うわ。ソラが速くなったのよ」

「俺が?何も変えて無いのにか?」

「慣れよ」

「慣れ?」

「身体強化と魔力の操作への慣れ、それが大きいわね。でも、まだ上限じゃないと思うわよ」

「差が縮まったってことか……技は俺の方が上手い分、前回より早く勝負がついたと」

「そういうことね」

「……俺が速くなったんだったら、気付かなかったのは何でだ?」

「身体強化では認識速度も強化されるでしょ。そのせいじゃないの?」

「なるほど……認識した速度が変わらなかったから分からなかったと」

「それで、教えてくれる?」

「ああ、分かった」

「あ、わたしも良い〜?」

「勿論良いぞ。寧ろ2人同時の方がやりやすい。無拍子を修めてもらいたいからな」

「無拍子?」

「何それ?」

「俺の流派では気配と呼んでいる、次の動きの準備を相手に知られないようにすることだ。違う流派じゃ奥義とかって大層な名前で呼ばれたりしてたりもするけど、俺達からすれば、ある程度続けている奴ならできて当然、されていたとしても次の動きを読めなければ二流って言われていた技だな」


無拍子は上級者への登竜門とも呼べる技であり、そう簡単に出来ては困るのだが、他に比べて長い間続けている人が多い空の流派では、前提技術となっている。教えてはくれず、自力で習得しなければならないのだが。

因みに空は無拍子を読んで対応するだけでなく、一流の相手にフェイントを使って誘導し、一方的に防御・攻撃をするという、流派内でも超一流、他の流派では師範すら練習相手にならない恐れのある技を持っている。

なお、空が最後に師範や強い師範代と戦ったのは3年前であり、ベフィアへ来る直前の時の技量は師範にも劣らないほどである。


「……そんなのが私達にできるの?」

「……難しいんじゃない?」

「難しいが、ここまでなら簡単な方だ。寧ろあれを見せた方が良いな」

「見せるって、何を?」


ミリアとフリスへの説明を一旦打ち切ったソラは、ミリアへ向かって正対する。ミリアは何をしてくるか期待していたが……


「キャア⁉︎」

「うごっ!」


急に目の前に現れたソラに驚いて、手を振り抜いてしまった。その平手は綺麗にソラの頬に当たり、そこには綺麗な紅葉模様が浮かび上がる。


「な、何で目の前にいるのよ⁈」

「……何でって、動いたからだけど?」

「確かにそうだけど!全然分からなかったわよ!」

「今のが俺の流派で奥義と呼ぶ事が出来る数少ない技、蓮月(れんげつ)だ。俺はまだまだだけどな」

「……今のも十分凄いと思うよ……」

「まあ、これは最低でも年単位で時間かかるからやりたくなったらで良い。無拍子なら早い奴は初歩で数週間、完全習得に数ヶ月って所だな」

「私達は?」

「流石にそこまでは分からないけど、戦闘センスから考えれば、遅くても半年以内にはできるようになるさ」

「そっか。じゃあフリス、頑張るわよ」

「頑張ろ〜」

「それじゃあ、練習法だが……」


ソラは自身で考えた無拍子の練習法を伝える。ソラは道場での稽古で身に付けたのだが、この方法は何人かの後輩に教えて効果があった物だ。

少しだけ実践した後、3人は町へと戻っていった。


因みに、宿の部屋は女将の気遣いで三人部屋に変更されていた。誰がどんな反応をしたかは、朝の例から分かるだろう。



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