第23話 2人の気持ち1人の気持ち
「え?」
「だから、ソラのことが好きなのよ!」
「わたしも好きだよ、ソラ君」
予想外の言葉を2人続けて言われ、戸惑うソラ。だが、これを当てはめれば、この所のミリアとフリスの不可解な行動にも説明がつく。
そこまで考えるに至ったソラだが、まず最初に言いたいのは別のことであった。
「……ええと……何でこの状況に?」
「何でって……その……フリスに誘われて……仕方なく……」
「ええー……」
「あれ?さっきまでやる気だったのに」
「それは……その……何て言うか……ヤケよ……」
人を押し倒しておいて何を言うか、と思ったソラだが、ミリアが顔を赤くして恥ずかしがっているため、そんな事は言えなかった。
「フリスは?」
「好きだから!」
「……勢いだけか?」
「そんな訳無いじゃん。ミリちゃんだって誘ったし」
「そんなんで良いのかよ……」
フリスの考えがソラの想定以上に雑であり、溜息を吐いた。幾ら何でもいきなり押し倒すなんて、普通の人ならしないと考えたからだ。
「大体、何でこんな事をすることになったんだ?」
「ああ、それはね……」
ミリアの語りは、3人を数日前の事へと誘っていった。
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「ふぅ、大丈夫か?」
「ええ、大丈夫よ……ありがとう……」
「どうした?具合でも悪いのか?」
「問題無いわよ!早く行きましょ!」
「あ、ああ……」
林環の32階層、木の上から強襲してきたサンモンキーを斬り払ったソラによって守られたミリア。
戸惑ったり、強気になったりと情緒不安定になりかけていたが、暫くすると何とか持ち直した。まあ、実際には……
(私を守ってくれたのよね……かっこ良かったし、心配もしてくれた……
って、これだとソラのことが好きみたいじゃないの!あり得ない!あり得ない!あり得ない!)
否定をしつつも乙女回路全開で暴走していた状態が落ち着いただけなのだが。
ただ、それに気付かれたのはミリアにとって不幸と言えよう。
「ねえねえ、ミリちゃん」
「な、何よ?」
「ソラ君のこと、好きなんでしょ?」
「そそそそんな訳無いわよ」
「ふ〜ん。じゃあ、わたしがソラ君を取っても「それはダメよ!」……うるさいよ〜」
「どうした⁉︎」
「な、何でもないわ!気にしないで!」
フリスに指摘され、半ばパニックとなるミリア。完全に肯定と取れる言動であり、ソラに言い放った後は顔を赤くして俯いていた。
そんな程度で見逃すフリスでは無いのだが。
「で、やっぱり好きなんでしょ」
「……多分……でも、今の言い方だとフリスも……」
「うん、好きだよ」
「……何時から?」
「初めから。一目惚れしたんだ〜」
「そう……あの日、普段以上に元気だったのは、こういう事なのね……」
完全にフリスのペースに乗せられたミリアだが、しっかりと疑問については聞く。フリスは予想済みだったようだが。
「ミリちゃんは、気付いたらでしょ?」
「そうよ……分かっちゃうのね……」
「ずっと一緒にいるもんね。それで、告白しないの?」
「恥ずかしいわよ……フリスは?」
「そろそろしたいかな。出来ればミリちゃんと一緒が良いんだけど……」
「無理よ……告白したって聞いてくれないって……」
「やっぱり〜」
慎重派のミリアと行動派なフリスといった構図になっているが、完全にミリアの方が劣勢である。
ソラを意識し出した時期の差が出た形となった。
「じゃあさあ、ダンジョンから出たら……襲っちゃおうよ」
「え……襲うって……その……」
「無理?だったらわたしだけで「だ、駄目よ!」……なら頑張ろうよ」
「え、ええ……」
フリスだけに取られるのが嫌なのか、負けず嫌いなのかは分からないが、ミリアは殆ど勢いだけでフリスの計画に参加することを決定してしまった。
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「と、言う訳よ」
「……ミリア、ちょっといいか?」
「良いけど、何?」
「完全に利用されてるだろ」
「そう、よね……」
「えへへ……」
当事者のミリアは騙されていたが、客観的な視点で聞いていたソラは気付いた。フリスはバツが悪そうな顔をしているが、一切紛らわそうとしていない。ここまで来たら関係無いというのもありそうだが。
「因みに、俺が断ったらどうするつもりだったんだ?」
「え?既成事実を作っちゃえば良いでしょ?」
「おいこら」
「だって、ソラ君ならわたし達に怪我はさせないって信じてるんだもん」
「確かにさせたくは無いけどさ……フリスって意外と腹黒いんだな」
「私も初めて知ったわ」
「え、そうだっけ?」
「今までは何かやったとしても、腹黒い、なんて評価が出るくらいじゃなかったじゃないの」
「ん〜、そうだっけ?」
「全くこの娘は……」
「そうだな……」
「ちょっとー!」
ソラとミリアの2人から腹黒で残念な娘扱いをされたフリス。実際、その通りなのだが。
(俺自身としては……好き、なんだろうな……よくよく考えてみれば、2人のことをただの仲間とは見てないし……惹かれてる、愛おしんでいんのは間違いないか……本当、何で気付かなかったんだろうな……ベフィアは一夫多妻制だから問題は無い……だったら、格好付けるべきかな。告げなきゃいけないこともあるし)
自分の気持ちを認め、覚悟を決めたソラは、最大の障害を片付けることにした。
「さてと……ちょっとどいてくれないか?このままだと締まりが悪いからな」
「そ、そうね……」
「ごめん……」
「ただまあ、先に1つ言わないといけない事があるんだけどな」
「どうしたの?」
「何よ?」
ミリア、フリスに体の上から退いてもらい、3人でベットに座った。
そしてソラは、自らの事を語り出す。
「俺をこの世界、ベフィアに連れてきたのは……この世界の神、オリアントスだ。今、他の神は居ないみたいだがな」
「え……」
「嘘でしょ……」
「俺が上級神になる素質を持っているかららしいが……サボりたいって理由だけで他の世界に介入して俺を殺したんだぜ?笑えるだろ?」
「それは……」
「うん……」
「まあ、チャンスみたいなものだから神にはなってやるさ。オリアントスの思惑通りにするつもりはないけどな」
「…………」
「…………」
ソラの身の上話に、言葉を無くすミリアとフリス。
それを見て、ソラは最悪の状況となる覚悟を新たにし、告白をする。
「こんな俺だ、置いていってしまうのは覚悟の上だが……2人のことが好きだ。愛している」
「ぁ…………」
「ぅ…………」
「拒絶してもらってもも構わない。別れるんだったら、イーリアまで護衛はするし、二度とイーリアには近づかない。それでも俺は「ソラ君!」「ソラ」……フリス?ミリア?」
「そんなこと言わないでよ!ソラ君のことが好きなんだよ?こんなことで嫌いになるわけ無いじゃん!」
「愛してるのは私達だって同じよ。おいていこうとするんだったら、意地でもしがみついていくからね」
「2人共……」
ソラの言に対し、泣きかけの状態で説得しようとするフリスと、諭す様な口調で言うミリア。
正直、正面から受け止められると思っていなかったソラは面食らったが、2人に受け入れられた事を喜び、自分の心配が杞憂だったと胸を下ろした。
「改めて聞くが、本当に俺で良いんだな?」
「勿論だよ」
「当然よ」
「そうか……ありがとな、こんな俺を愛してくれて」
こうして3人は1つに重なりあった。




