第20話 林環①
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「これはこれで凄いな……」
「聞いてただけじゃ、ここまでとは思わないよね」
「このせいで大変なこともあるらしいけど、油断しなければ大丈夫だよ」
「上からの奇襲はな……ここだと火を使う訳にはいかないし……」
「あの辺りとかは狙い辛いよね……」
「まあ、そこはソラが担当してね」
「失敗しても文句は言うなよ?全く、林環とはよく言ったものだよ」
翌日、林環の中へと入っていった3人。そこは少し疎らながらも、木が幾本も生え、中央と周りに崖のある、1つの階層がドーナツ状となっているダンジョンであった。
上は太陽が無いながらも蒼く、明るい。これは昼夜関係ないらしく、前回の鬼の間とは正反対だ。
「ん?魔獣が……2匹か」
「もういるの?」
「恐らくは……今さっき生まれた所かな?他の反応は冒険者だけだしな」
「ダンジョンの魔獣は魔力で出来ているらしいし……こういう事もあるのね」
「強い奴が急に目の前に出てくるとかは嫌だな」
「そうだね〜」
警戒しつつ、木々の間を進んでいく3人。ソラの探知にある反応は2つだけだが、見つけられていない可能性も考えている。この世界で生き残る為には必要な事である。
そうしている間に、ソラ達は魔獣を視認できる距離にまで迫っていた。
「あそこだな……スレッドキャタピラか」
「どこ?」
「あの2つの木の幹の所だ。どっちも口は上を向いてるし、好都合だな」
「でも、高いわよ。魔法を使った方が良いんじゃない?」
「そうだね。右はわたしがやるよ」
「確かに……そうするか」
魔獣を視界に収め、攻撃の準備に入るソラとフリス。かなり離れているため、魔法は光と雷が選択された。
「往け」
「発射!」
ソラはいつぞやに鷹を撃ち落とした光を、フリスはそれを真似た雷でスレッドキャタピラを狙い撃つ。その攻撃は寸分違わず命中した。
「……フリス、そこまで応用できるものなのか?」
「え?ソラ君って、光を中で何度も回してるよね?それを真似ただけだけど?」
「……レーザーの仕組みから荷電粒子砲を作り出す奴がどこにいる……魔法だと似てるとは言っても、かなり違うんだぞ……」
「れーざー?かでんりゅうしほう?何それ?」
「……ソラ、私達の気持ちが分かった?」
「……よく分かったよ。そりゃあ、こうなるわな……」
「どうしたの?」
「はいはい、フリスは静かにしなさい」
ソラの魔法はレーザー発振装置と同様の物で、光の共振を起こす為に周回させていたのだが、フリスは雷=電子を周回させて加速するという、粒子加速器と同等の事を行っていた。
そんなフリスの天才さに、少し恐れを抱いたソラであった。
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「止まって!」
「ミリア、どうかしたのか?」
「落とし穴よ」
「落とし穴?……お、本当だな」
林環の第3層。ここもまだ冒険者が多い場所であり、どちらも少ないとはいえどソラよりもミリアの仕事の方が多かった。
ミリアの警告があった場所へソラが足を置いてみると土が落ち、目の前に直径2m程の穴が開く。ミリアは観察能力に優れていて、こういった本格的な罠に対する経験の無いソラでは見つけられない物を軽々と発見していた。ソラは不良達が自分で作動させる罠しか知らないため、この手の罠は初めて見る。
ミリアにとっては、この程度の階層の罠では役不足なのだが。
「じゃ、こっちを通れば「危ない!」グヘッ!」
「ソ、ソラ君大丈夫⁈」
「ゲホゲホ……ミリア、なんか恨みでもあるのか?」
「糸が張ってあったから引っ張っただけよ。他意はないわ」
「やってる事はヒドいけどね」
ミリアは、落とし穴の横を通り抜けようとしたソラの襟元を掴む。言った通り、ソラの首の高さの所に細く強い糸が張ってあったのだが、そういう事は先に言って欲しいと思ったソラであった。
なお、この後も気付かず……
「こっちよ!」
「イギッ⁉︎」
崖の上から落ちてきた岩を避けさせる為に、忠告もなく急に、ソラが避けようとした方向とは逆に腕を引っ張ったり(ソラの行こうとした先には別の罠が有った)……
「前!前!後ろ!後ろ!左!右!左!右!」
「AB!じゃねえよこの野郎!」
足下から飛び出してくる尖った木の根を避けるために、有名なコマンドに似たタップダンスを躍らさせられたり(引っかかったのはソラのみ)……
なお、飛び出す直前に少し地面が盛り上がるため、ミリアは助言が出来るのだが、ソラに気付くほどの余裕は無かった。
「凄いね〜」
「安全な所で休んでないで助けろよ!」
「私達には無理よ。次は右、左、右!」
解除も迂回も不可能ということで、周囲から飛んでくる竹槍を1人で撃ち落とさせられたり(難易度がソラの想定を超えていた)……
「ご苦労様〜」
「お疲れ〜」
「ぐぐぐ」
横から転がって来た太い丸太を、体を張って押さえ込んだり(別の罠を警戒し過ぎていた)と、罠に引っかかって散々な目に遭っていた。
ソラにとっては地球で不良達が使っていた物が幼稚に思えるくらいの物であったが、ベフィアでは隠蔽具合は初歩レベルだそうだ。なお地球では不良達が自分で作動させるため、空は殺気を感知して避けていたのだが、本人は気付いていない。
「……あるならあるって早く言ってくれ……」
「ソラが1人で行くのが悪いんでしょ?」
「……その通りです……」
ちなみに、罠に引っかかるソラを、ミリアとフリスは割と面白がって見ていた。
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「ここが5層か……あの岩とこの木らしいから……ここだな」
「どう?」
「まあ見てなって……よし、開いた」
「暗いわね」
「ソラ君、先、お願いできる?」
「良いぞ。じゃあ行くか」
何度も罠に掛かったためか、ミリアやフリスには及ばないにしても、傾向からある程度の予想ができるようになったソラ。不十分ながらも、迷惑はかけない程度にはなった。
運良く、目的の1つである5階層までに適応出来たので、汚名返上名誉挽回のため、特ダネを使う。
この階層にある、岩と木で囲まれた小さな広場、そこの地面には隠された1m四方の蓋状の扉があり、開くと梯子がある。暗い中を通っていくと、繋がっている小部屋へと出ることができた。
「わ〜、宝箱だらけ〜」
「大きい物ばっかりね」
「大半は魔獣らしいが……本物も混ざっているそうだ。時間が経つとまた出てくるらしいしな」
「それじゃあ、やろうよ」
「そうね」
「ビックリ箱を叩き起こすか!」
小部屋の中には幅50cm程の宝箱が9個、縦横3列ずつ並んでいた。
特ダネには、宝箱に擬態した魔獣がいる事も入っていたため、ソラは叫ぶと同時に足を地面に叩きつけ、揺れを起こす。その揺れに驚いた魔獣達は、一斉に擬態を解いていった。
「いるのは……ボックストラッパーが8体か。当たりもあるな」
「1個だけだけどね……」
「フリス、運次第なんだから文句を言わないの」
「それよりも、早く片付けるぞ」
ボックストラッパーは、驚いて飛び跳ねているだけだが、部屋が狭い為、放置していては攻撃を受ける可能性がある。手早く終わらせたソラ達は、残る1つの宝箱へと集まった。
「さて、何が出るか」
「罠があるかもしれないよ?」
「えーと……無いと思うわ。糸とかは見えないし」
「じゃ、2人は横方向に行ってくれ。俺は後ろから開ける」
「分かったわ」
「気を付けてね〜」
「さて、何がでるかな!」
開いた宝箱、そこに入っていたのは幾つもの白く濁った球と5つの白の濃い半透明な球、そして金のインゴットが1つだった。
「これって……」
「多分Bランクの魔水晶だよな……」
「こっちは金よ……」
「売ったとしたらどれだけの価値になるやら……」
「でも、Cランクの魔水晶以外は持っておいた方が良いんじゃない?」
「金もか?」
「金って高価から、ずっと見てたいの!」
「……アクセサリーに加工するのが無難だな。職人を見つけるまではもっておくか」
「そうね。私も欲しいし」
「その場合って……代金俺持ちにする気か?」
「その方が嬉しいわ」
「お願いね」
「勘弁してくれ……」
聞いていた以上に高価な物が出た結果、ミリアとフリスに振り回されたソラであった。
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「まともな魔獣……久しぶりだな」
「どこ?」
「この方向だ。大体……80mってとこか?数は8、木の上と地面とに分かれてる」
「それじゃあ、行きましょ。広い所でも戦いたいしね」
「なら行くか。むしろ行かないなんて選択肢は無かったな」
「そうだね」
林環の第7階層を早歩きで進む3人。罠を警戒しなければならないとはいえど、獲物は取られたくないためだ。
少しすると、その魔獣が見えてきた。
「蟻と蜘蛛?」
「ハームアントとアスレルスパイダーね」
「半分ずつか……蜘蛛の方は厄介だしな……まあ、気持ち悪いってのが大きいか」
ソラ達の前方には、4匹の蟻が地面を歩き、4匹の蜘蛛が木にぶら下がっている。当然ながら魔獣なので大きいのだが、ハームアントは70cm程、アスレルスパイダーは80cm程の大きさであり、結構気持ち悪い。ソラは狩り殺したい方だが。
「ちっ、気付かれたか」
「アスレルスパイダーの方が先にくるよね?」
「特性を考えればそうだろうが……蟻も速いな」
「ソラ、蜘蛛の方は任せて良い?」
「分かった。そっちも気を付けろよ」
改めてソラは見上げる。
アスレルスパイダーは木の上に糸を張り、その上を移動する。最も楽なのは無差別攻撃なのだが、その後何が起こるか分からないため、ソラは選択しなかった。
音、気配、魔力、勘、その他も含めて観察していき……
「そこっ!」
攻撃へ移ろうとした瞬間に氷矢を放つ。同じ事を4回繰り返しただけで、あっさりと終わった。
その頃にはすでにミリアとフリスもハームアントを倒し終えており、ソラの方が時間がかかっていたのだが。
「お疲れ、やっぱり早いな」
「楽な相手だったからね。私達じゃ、ソラみたいには出来ないわよ」
「アスレルスパイダーに1発目から当てるなんて凄いね!」
「探知を持っていたからな。無かったら厳しかったさ」
「そんなものなの?」
「そういうことにしておきましょ。先は長いんだし、余計な事は無しにしておいた方が良いわ」
「手厳しい感じだが、その通りだな。これからも気を引き締めていくぞ」
「ええ」
「勿論だよ」
更に下へと降りていく3人であった。




