第13話 未来へ
「ようやく解放されたわね」
「多かったもんね」
「ジュン達に比べれば少ない方だ。まあ、今日は俺達が代わらないといけなかったけどな」
ジュン達とソラ達が帰還してから、ここ王都ハウルは毎日がお祭り騒ぎだった。帰還途中の町でも大歓迎だったが、ハウルはそれ以上、3国全てを合わせたような感じだ。
前線ではまだ残党との戦闘があるとはいえ、元凶が討ち取られたのは、それだけ喜ばしいことだった。
「さて、あいつらの様子でも見に行くか」
「そうだね、準備できてるかな?」
「流石にまだよ。ついさっきじゃない」
「ドレスを着るには時間がかかるんだろ?化粧もするらしいから……終わってるとしたら男の方だな」
「じゃあ、そっちはソラが行ってくれる?」
「ああ。向こうは頼むぞ」
そして今日は、最後の公式行事がある日だ。まあ、その主役達はまだ準備中なのだが。
ソラはとある部屋の前に来て、ドアを叩く。
「入るぞ」
「あ、はい、どうぞ」
返事をした彼……ジュンは白を主体とした、軍服にも似た白い服装をしている。中へと入ったソラはジュンを見て、ため息を吐いた。
「おい、まだ準備ができてないのか」
「す、すみません。実は……」
「だから!こっちの方が良いっての!」
「いや、こっちの方が良い!」
「……なるほど」
この行事の主役の片割れは、剣と腕輪を身につける決まりだそうだ。剣は聖剣で確定なのだが、腕輪の方は決まっていなかったらしい。
ちなみに、トオイチが選んだのは金地に多様な宝飾がなされたもの、カズマが選んだのは銀地にダイヤモンドなどの宝石をあしらったものだ。どちらもあまり変わらないような気もするが。
「手伝いの人はどうした?」
「決まったら呼んでほしいと、隣の部屋にいます」
「つまり長くなりそうだからか……っと、それなら丁度良い。これにするか?」
「これって……凄い見た目ですね。でも、何なんですか?」
「一応神器だ。特に効果は付いて無いがな」
「神器って……でも、良い感じですね。ありがとうございます」
「え、おいジュン?」
「お前達の分もあるぞ」
「良いんですか?」
「お守りみたいなものだ。それに、4つの見た目はミサンガにしてある」
着けたら多少運が良くなるが、まあその程度だ。戦闘用でも何でもないので、日本に持っていっても何の問題も無い。
腕輪が決まったところで、隣の部屋から人が出てきて、ジュンの髪やら服やらを整える。
「それで、向こうの準備はどうなんだ?」
「分かりません。別々でやるらしくて、俺は何も……」
「動かないでください」
「あ、すみません」
「なるほど。まあ、ミリアとフリスが見に行ってる。大丈夫だろう」
「あっちの方が付いてる人数も多いもんな」
「2人も丁寧ですし」
「お前達と違ってな」
「おい!」
「それに、そういうことに関しては俺よりミリアやフリスの方が上だ」
「自分で言うんですか?」
「事実だからな」
そんなことを話しているうちに、扉が叩かれた。
「勇者様、準備はよろしいでしょうか?」
「どうだ?」
「終わっています。大丈夫です」
「分かった。ジュン、ちゃんとやれよ」
「はい」
「トオイチ、カズマ、お前達はこっちだ」
「おう」
「分かりました」
ジュンは呼びに来たメイドに連れられていき、ソラは2人と共に別の場所へ向かう。その途中で、4人と合流した。
「ソラ」
「ソラ君」
「2人とも、どうだった?」
「良い感じだったわ。流石王国ね」
「綺麗になってたよ」
「あたい、あんなの初めて見たわ」
「流石って感じでした」
「ハルカもアキも、手伝いは大変じゃなかったか?」
「そんなことは無かったかな。ほとんどあの人達がやってたし」
「習いたかったですね」
「まあ、仕方ないな。時間が無い」
その後大部屋に入ると、1番前の長椅子に7人で座る。他には3国の上層部が座っているが、何度も挨拶をしたので誰も何も言わない。
むしろ、そんなことをしていた方が邪魔になる。
「来たか」
「御入来!」
大扉から入って来たのは、白い服に聖剣を提げたジュンと、真っ白なドレスとアクセサリーで着飾ったリーナだ。
そして前の小舞台とも言える場所には、司教や司祭が並び始める。
「汝、ジュン・ホグリ。辛き時も苦しき時も、いかなる日々も夫として妻を支え、共に歩むと誓うか?」
「誓います」
「汝、リーナ・オルセクト。健やかなる時も病める時も、いかなる日々も妻として夫を支え、共に歩むと誓うか?」
「誓います」
「汝ら、良き時も悪しき時も、富める時も貧しき時も、楽しき時も悲しき時も、歩みを止めず、他者に依らず、死が2人を分かつまで、絶えず愛を誓い続けるか?」
「「誓います」」
「我らが創造神タウルガント、汝らが主神メルリリーナ、2柱の祝福が新たな夫婦へと与えられます。世界に生まれし我らが魂が、世に生まれし汝が体が、また新たな誓いを生み出しました。祈りましょう、新たな夫婦の愛が絶えぬことを。祈りましょう、新たな夫婦が共に苦難を乗り越えることを。祈りましょう、世界の恩恵が新たな夫婦に与えられますことを」
2人の幸せを参列者全員で祈る。
「誓いの証。それが今、成されます」
そして参列者達の前で、誓い合った2人の顔が近づいていく。
「良かったわね」
「うん」
「大変なのはこれからだ」
残る者、残らぬ者、見守る者。未来を紡ぐ者達の道は、ここから始まった、
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「皆、ありがとう」
「迷惑をかけた側だけど、楽しかったわ」
そして……
「俺も良い思い出だったぜ」
「いきなりだったけど、これも良い経験だから」
「リーナ、ジュンと頑張れ」
「ジュン君も、リーナちゃんをお願い」
ジュン達とソラ達は1つの部屋に集まり、最後の会話を楽しんでいた。ここは6人の始まりの部屋、召喚陣のある部屋だ。
「ソラさんも、ありがとうございます。こんなことまでしてもらうなんて」
「気にするな。それで確認だが、お前達がこの召喚陣に乗った後、俺がこれを逆に動かし、召喚直後に時間軸を合わせて戻す」
「普段は精霊王がやってたことらしいけど、今回はソラ君がやるから、安心してね」
「その後はどうするんだ?」
「4人が帰ったら、地球との接続を切る。もう2ども、勇者が呼ばれることは無い」
「これでようやく、この世界は普通に戻れるわ」
「そこまでするんですか?」
「ベフィアの管理者になるからな。色々と歪められているが、これで元通りになる」
召喚陣で帰還できる期間は限られている。ソラの手である程度伸ばせたとはいえ、後のことも考えると1週間が限度だった。
だからこそ、こうもできたのだが。
「そういえばソラさん、どうして他の人はいないんですか?」
「俺が説得した。まあ、少し神術も使ってな」
「え、それは」
「そんな強い効果は無い。説得しやすくする程度だ」
「なら良いですけど……」
「おい、俺がそんな無茶苦茶やるように見えるか?」
「やらないよね」
「というか、そんなことやったら怒るわ」
そんなことも言いつつ、雑談は続く。約4年間共に戦った仲間と、忌憚無く本音で語ることのできる師。旅の間と同じように気楽な会話ができていた。
だが、いつまでも続けられることではない。
「それじゃあ、もう行くか」
「はい。ソラさん、お願いします」
「分かった、始めるぞ」
召喚陣の外縁に手をつき、術式を操作し始める。ミリアとフリスも同様だ。そして、ジュンとリーナは見守る。
「じゃあな、ジュン。しっかりやれよ」
「変なプレッシャーを感じたりしないように」
「元気でいてよ」
「無理だけはしないでね」
「皆も、帰ってからも頑張って」
「本当にありがとう」
光が包み込み……4人はこの世界からいなくなった。
「帰っちゃったね」
「そうだね。もう……」
「悔いは無いか?」
「大丈夫です。俺はリーナと居たいですから」
「ジュン……」
「分かった」
ソラは薄刃陽炎を召喚陣に当て、言霊を唱える。
「道よ斬れろ、界よ別れよ。己が命を貫きし者、天より保たせよ、地より支えよ。世は神のためのものにならず、人のためのものなり」
そして、召喚陣に残っていた光が急速に減っていき、模様だけが残った。
「これで終わりだ。後はお前達、人が作る。頼むぞ」
「ソラさん達はどうするんですか?」
「俺達は天界にいつつ、適当に世界を見て回る。知り合い以外に大きく関わるつもりは無い」
「そうですか……」
「仕方無いけど……」
「まあ、時々顔は出す。10年くらいの間だけだけどな」
「10年?」
「歳をとらないのは変だからな。変装はできるが……」
「気をつけないといけないのは大変よね」
「どうにかできるから良いじゃん」
「前向きだな、まったく」
人と神の道は重ならない。これは一瞬の接触、交点にすぎない。人を見守る、それが神の役割であるが故に。
3人は王城を出ると、人の世から去っていった。
第10章 END




