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異世界成り上がり神話〜神への冒険〜  作者: ニコライ
第10章 光と闇

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第12話 主神




「切断、か……逆効果だったんだね」


真っ二つとなっても、魔神はまだ生きていた。だが切断面からは大量の神気が流れ出しており、止まる気配は無い。どのみち、時間の問題だ。


「ああ。これは防ごうと思って防げるものじゃ無い」

「一応、あることはあるよ。ただ……僕には難しいかな……」


そのため、ソラももう武器を下ろしていた。というより、もう戦えないと言った方が正しい。残っていた神気のほぼ全てを使い切ってしまったのだ。


「だったら、遠慮無しに使ってれば……っと」

「ソラ」

「大丈夫?」

「ああ、ありがとな」


ふらついたソラをミリアとフリスが支える。だが、その2人も残りの神気は少なく、戦えるだけの量は無い。

本当にギリギリだった。


「……気付いてるかい?後輩君」

「何をだ?」

「気付いて無いか……僕の神気が君へ流れていっているんだよ」

「あ、本当だ」

「ソラ、大丈夫なのよね?」

「ああ、問題無い……というか、ミリアとフリスにも流れてるぞ。何だこれは?」

「正確には違うんだけどね。不完全な神である君が完全な神である僕を討った。だから、僕は君の(かて)なっているんだ」

「なるほど、事実みたいだな」

「だから君は、上級神になるだろうね。僕の後を継ぐ形で……悔しいなぁ」


そう呟く魔神。そこに疑問を抱いたソラは、少しばかり踏み込むことにした。


「悔しい?」

「そりゃ悔しいよ。直接の繋がりはこれだけだけど、僕達の義弟とも呼べる神ができたのに……それをもう見れないんだから」

「お前……」

「そう」

「はは、僕にもこんな人間みたいな感情があったんだね……死にかけてようやく知れたよ」

「……戻りかけてるんじゃないか?」

「戻る?」

「どういうこと?」

「堕ちたお前が、本来の状態に戻りかけているってことだ。今のお前は、狂ってるようには見えないからな」

「どうだろうね。僕には分からないよ……記憶が無いんだ」


堕ちたことへの代償か何かなのだろうか。そんなことを考えるが、今は口に出さない。


「堕ちる前がどうだったか、まったく知らない……僕は何でこうなったのかな?」

「俺が知るわけ無いだろ」

「……そうだよね」

「ただ、案外気の良いやつだったのかもな。そうじゃなかったら、そんな感情が戻ってきたりしないだろ?」

「そうかい?」

「そういうことにしておいてくれ」

「なら、騙されておいてあげるよ。他ならぬ義弟の言うことだからね」


何故か既に義弟扱いだが、ソラもそんなに悪い気はしなかった。敵ではあるが、嫌悪感を抱くような相手では無かったからなのかもしれない。


「それで……これから君はどうするつもりなんだい?」

「どうって?」

「元は別の世界の人だろう?この世界に縛られる必要なんて、無いんじゃないかい?」

「だが、ミリアとフリスはこの世界の出身だ。それに……」

「それに?」


ソラとしては、他の世界へ行くということは考えていない。この後のことに対処できたとしても、だ。

それを告げようとしたのだが……乱入者は待ってくれなかった。


「これは兄上、お久しぶりでございます」

「オリアントスか……君が残ってたんだね」

「ええ、残念ながら父上達に騙されまして、逃げ出すことができず。兄上がいたことを知っていれば、どうにかできたのですが」

「となると、義弟君を連れてきたのも君か。目的は……予想通りなんだろうね」

「はい。さてソラ、良くやったな」

「何が良くやっただ。自己中の塊が」

「はは、嫌われてるね」

「誘拐されたんだから当然だ」

「散々な言い分だな。一応、親に近いんだぞ?」

「お前を親だなんて思ったことは1度も無いぞこのサボり神」


険悪、ともまた違うが、空気は悪い。ソラが嫌うのも当然なのだが。


「何故こうも反抗するのだ?」

「自分の記憶を探ってみろこの馬鹿神」

「はは、言われてるじゃないか」

「ぐぬぬ……だが、ソラが上級神となったおかげで、ようやく出て行くことができる。それでは兄上、私はこれで……」

「待て」


だからこそ、好き勝手やられるのには対処していた。


「何だ?」

「お前、今どっちが主導権を握れるか知ってるか?」

「どういう意味だ?」

「気付かないのか?なら気付かせてやる。捕らえよ、千連鎖(せんれんじょう)!」


ソラの周囲から無数の鎖が飛び出し、オリアントスへ絡みつく。オリアントスは振りほどこうとするが……


「なっ⁉︎」


鎖は一切離れない。それどころか、神術すら使えない。


「生憎だな。精霊王に認められたっていうのもあるんだろうが、今は俺の方が格上だ。出て行く前に従ってもらうぞ」

「何だと……?」

「そうだな……サボってばかりだから、仕事詰めを経験してもらうか。まずは500年な?」

「やめろ!ソラ!おま……⁉︎」


そしてソラが開けた穴に飲み込まれ、オリアントスは消え去った。まあ、行く先は元の場所なのだが。


「ははは……凄いね、君は」

「対策はしてたからな。あいつにはあれでも生温い」

「それは同感だね。僕としては助かったけど……堕ちる前は違ったかもしれないかな、ぐ……」

「時間か?」

「そうだね。どうやら、僕もここまでらしい。楽しかったよ、後輩君」

「俺はもうごめんだ」

「はは。でも、君が司るものからは逃げられない。分かってるね?」

「ああ」

「じゃあ、君の行く末を見守らせてもらうよ。世界に溶けた、僕の存在(たましい)が」


その言葉を最後に、魔神は神気となり、世界へ溶けていった。

そしてようやく、3人は意識を戦闘モードから普段用に切り替える。そこには当然、時間感覚も含まれていた。

ついでに、結界も解く。


「え?……ソ、ソラさん?」

「終わったぞ。怪我は無さそうだな」

「あ、はい、大丈夫です。それで、あの……」

「どうした?」

「どうなったんですか?何が何だかさっぱりで……」

「ああ、見えなかったか。まあ、当然だな」

「早すぎんだよ」

「残像すら見えませんでした」

「どうなったか教えてよ」

「安心しろ。ちゃんと勝ったぞ」

「というか、わたし達がここにいるんだから、勝ったに決まってるよね」

「フリス、見えなければ心配になるのよ?」

「あ、そっか」


そんなことを言いつつも、ソラ達はいつも通り6人に混ざる。ただまあ、あの意味不明な戦闘を見て、ジュンが可哀想なくらいビクビクしていたが。


「勝ったってことは、えっと……」

「ジュン、ちゃんとして」

「ちゃんと魔神は討ったし、魔王のシステムが壊れたことも確認済みだ。もう2度と、勇者は必要無い」

「それで、その……」

「どうした?」

「後始末とか、全部してもらったので……」

「これは神の問題だ。人が介入できないのは仕方無い。それに、俺達には別の目的もあったからな」

「別の目的?」

「個人的なことだ。話すことじゃない」


オリアントスについて話すつもりはない。伝えたとしても、問題になるとは思えないが、それでもだ。


「さてと、帰るぞ。魔獣はいないからな」

「分かるんですか?」

「魔神の復活のために食われた。皮肉なことにな」

「うげ……」

「そんな……」

「当人が意図したかは分からないし、もう終わったことだ。それより、この状況を有効活用するぞ」

「有効活用?」

「言っただろ?さっさと帰る。長居は無用だ」


そういうわけで、9人は元魔王城、現在更地(というかクレーター)から去る。……気付いたらこんな地形になっていたが、ジュン達は誰もツッコマない。


「それに、全然の魔人達が指示を貰いに戻って来たとしても、魔神城が消滅しているから混乱は避けられない。全軍の維持は不可能になる。後は……内乱になってくれると助かるな。そうじゃなくても、分裂してくれれば良い」

「狙ってたんですか?」

「独裁者を討つ利点がこれだ。普通ならそう簡単にはできないけどな」

「ですよね」

「無茶苦茶だもんなぁ」

「あたい達もだって」

「最初は僕達だけでやろうとしてましたし」

「よく考えると、無茶苦茶ですね」

「え?勇者だから当然でしょ?」

「いや、リーナ、それはちょっと……」


常識が違うのは、まあ色々と原因はある。それはまた後で直したりできるだろう。終わったとはいえ、ここは敵地だ。


「気を抜くのは良いが、油断はするなよ。集団で戻ってくる連中がいるかもしれないからな」

「はい、勿論です」

「じゃあ、早く帰りましょう。流石に野営は疲れたわ」

「早くベットで寝たいよね」

「いや、前に来た時よりは短いだろ」

「人数が増えてるもの」

「警戒だって大変だったもん」

「はぁ……」


この3人にとっては、普段とあまり変わらなかったが。











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