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異世界成り上がり神話〜神への冒険〜  作者: ニコライ
第10章 光と闇

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第11話 魔神レヴァーティア③





「それが、元の姿ってやつか?」

「そうだよ、後輩君。僕が父上と母上からいただいた姿だ」

「口調まで変わるのね」

「さっきまでのは、眷属以下の者達を威嚇するためだけのものだからね。燃費は良いんだけど……封印が解けきってなかったのもあって、思考が制限されていたんだ」

「へえ、そんな効果もあったのね」

「気付かなかったね」

「どっちにしろ、敵であることに違いは無い。やるぞ」

「まあまあ、もう進むことは無いんだ。少しくらい話をしたって良いじゃないか」


少年の姿となった魔神だが、威圧感はむしろ増えている。魔神が自由に扱える神気が増えたからかもしれない。

だが、戦闘態勢とはなっていなかった。魔神の持つ大剣はまるで黒曜石から切り出したかのように鋭い光沢を放っているが、それの切っ先はソラ達に向けられていない。3人とも警戒はするが、攻撃は無さそうだ。


「僕はね、嬉しいんだよ。あの愚弟がしたことだけど、まさか新しい後輩ができるとは思って無かったんだよ」

「それで?」

「そしてその後輩君が、まさか封印を解いてくれるなんてね……まったく、予想できるわけが無いよ」

「目的はお前のためじゃないぞ?」

「それでもさ。会いにきてくれる人なんていなかったんだから」

「そう。それで何か用?」

「冷たいね。せっかくの美人なのに」

「人の女を口説くな。消すぞ」

「おっと、これは失礼。君の眷属には見えなかったからね」

「眷属だったのに、眷属じゃ無くなったんだって」

「へえ、珍しいね」

「フリス、必要以上にこっちの情報を話すなよ?」

「これくらいなら分かっちゃうでしょ?」

「まあそうだが」


司っているものは話したが、根源までは話していない。神同士の戦いは概念のぶつかり合いと取ることもできるため、宣言することで世界に定着させることができるが、必要以上には知られない方が良い。

ただ、魔神はあまり気にしていないらしい。


「何かも警戒されてるね。まあ良いや。先輩として、後輩の質問に答えてあげよう」

「じゃあ、魔人って何?」

「おいフリス」

「え、良いでしょ?」

「魔人かい?あれはただの中間管理役だよ。魔獣って知能が低いから、纏めれるのが必要だったからね」

「おいこら」

「その大剣は何なのよ?」

「ミリアもか」

「これかい?これは僕の神器だ。カッコいいでしょ?」

「お前ら……」


先ほどまで殺し合いを繰り広げ、それどころか現在進行形で敵であるにも関わらず、いきなり談笑し始めたのだ。ソラが呆れるのも無理は無い。

ただ、2人とも気を抜いてはいない。いつでも斬撃を放て、神術を叩き込めるよう、警戒したままだ。


「え、だって、情報集めは大事でしょ?魔獣に魔人くらい賢いのがいるのは何で?」

「あれは自然発生だね。偶然の産物さ」

「ええ、重要よ。偶然ってことは、最初は獣とそう変わらなかったのね?」

「元々は1種類しかいなかったんだけどね。いつの間にか増えていたんだ。僕が手を入れたのもあるけど、ほとんど勝手に分かれた感じかな」

「はぁ……」


だとしても、ソラとしては拍子抜け、会話に参加する気には一切ならなかった。なかったのだが……


「君は何も聞かないのかい?何でも答えてあげるよ?」

「……それなら、俺からの質問はこれだけだ……何故、神話の戦乱を起こした?」

「え?そんなの……僕には当然のことなんだよ?」

「っ⁉︎」


そうして向けられた顔……その笑顔からは、狂気以外の何物も感じられなかった。


「ただただ、僕の在り方を実行しただけなんだよ。人を潰して、眷属に殺戮を命じた。魔獣も使って狩り続けた。それだけさ。ただ、それを父上と母上は気に食わなかったみたいだね。封印されちゃったから」

「……堕ちるってことの意味が良く分かった」

「そうかい?それは良かった」

「反面教師として、な」


ミリアとフリスも同じなのだろう、警戒レベルは一瞬で最大となっている。そして魔神は、その笑みを変わらず3人へ向けていた。


「嫌だなぁ、そんな怖がらなくても良いじゃないか」

「その顔を見て、どうすれば安心できる?」

「簡単だよ。君達もこっちへ来れば良いんだよ。一緒に楽しもうよ」

「断る。ただの破壊は嫌いだ」

「そうかい。なら……」


そう言葉を紡ぎ、魔神は大剣を掲げる。それに呼応し、ソラの薄刃陽炎を持つ手に入る力が増えた。


「排除する!」

「やってみろ!」


そして互いの振るった刃が衝突、神気の衝撃波を撒き散らす。ただの余波だが、それだけでジュン達を守る結界が揺らいだ。

スピードはソラと同程度。技はソラが上、神気は魔神が圧倒的に上。だからこそ、2人が重要となる。


「やぁぁ!」

「切り裂いて!」


右手からミリアが双刃を振るい、左手からフリスが光の槍を放つ。時間を調節した完全同時攻撃……だが、魔神は涼しい顔だ。


「その程度かい?」

「くっ……」

「この!」

「一旦退け!」


真っ黒い盾のような神術によって、双方共に防がれる。そこから飛び出てくる黒い針は、2人とも避けた。


「ミリア、頼む」

「ええ!」


ソラに代わり、ミリアが大剣を抑え込む。そしてソラは横合いから斬り込んだ。魔神も黒い盾で防ごうとするが……


「断絶せよ、薄刃陽炎」


紙ほどの抵抗もなく、盾は斬り裂かれる。気付いた瞬間に魔神は飛び退くものの、左手が薄く斬れていた。


「それは……珍しいね。概念神器か」

「やっぱりバレるか。正解だ」


概念神器とは、神のように司る概念を持った神器のことだ。神気のような融通は利かないが、一点のみに向けられたその力はとても強い。ソラの薄刃陽炎は、そういった存在と成っていた。


「それは厄介……防ぐ手段が少ないね。破壊かい?それとも無効化?もしかしたら絶無かも。触れると効果を出すようだけど……」

「さあな。言うわけが無いだろ?」

「まあ、そうだね。はてさて……」


そう言いつつ、魔神は無造作に大剣を体の前に出す。見た目は雑だが、その構えに油断は無い。

隙がより減ってしまった。


「あれで決めるつもりだったんだが……」

「難しいわね。流石だわ」

「これからどうするの?」

「さっきと同じだ。だが、込める神気は3割増し、決める時はそれ以上にしろ」

「まあそうね。分かったわ」

「はーい」

「なら、行くぞ!」


そして再び、3人は駆け出す。魔神が最も注意を払っているのはソラだが、ミリアとフリスへも十分なほどに警戒している。そう簡単にいったりはしない。


「しっ!」

「はぁ!」


前後、左右、上下。ソラとミリアによる、様々な方向からの同時攻撃。


「焼き尽くして!」


さらにそこへフリスの神術が重なり、濃密な包囲陣ができた。


「ははっ!」


だが、魔神はミリアとフリスの攻撃を神術で防ぎ、ソラの斬撃は大剣でさばいていく。これまでの数倍の攻撃密度だったが、無傷で切り抜けられた。


「この野郎!」

「良いね、その意気だ」


鍔迫り合いを挑むものの、力は魔神の方が上、いなして避けるので精一杯だ。ソラが概念神器の力を使っていないのもあるが、魔神も相当戦い慣れている。


「使わないのかい?」

「何をだ?」

「分かってるだろ?それの力だよ」

「ヒントを渡したりなんてしない」

「はは。まあ、そうだろうね」


司る概念が分かれば、ある程度対策は可能。神の神性よりシビアなものだ。だからこそ魔神は知ろうとし、ソラは隠そうとする。


(まあ、そう簡単に対処できるものじゃないけどな)


ソラの考える通り、分かっていても防げないものもあるが……それが正しいとも限らない。万全を期すべきだ。


「だからな……」

「私達も!」

「忘れちゃ駄目だよ!」


ミリアの双剣は避けられ、フリスの神術は黒い弾丸に貫かれる。全く効いていないのだが、注意はそらした。


「くらえ」

「甘い……」


そこへ薄刃陽炎を構えて飛び込む。そんなソラを捉えた魔神の大剣は……空を切った。


「は?」

「ちっ」


だがそれで思考停止したりすること無く、魔神は回避する。蓮月まで使ったソラだが、残念ながら避けられてしまった。またかすり傷程度だ。


「効くなら、もう少し踏み込んでおくべきだったか……」

「まるでビックリ箱だね。何なんだい?今のは」

「言ったとして、理解できるか?」

「さあ?聞くだけの価値はあるんじゃない?」

「だとしても、言うわけが無いな。自分で考えてみろ」

「そうかい。なら……おっと」

「くっ!」

「この!」

「ちっ」


ミリアとフリスから気を逸らさせるのも失敗するが、これは当たれば儲けものというだけ。本命は違う。


「ミリア!フリス!」

「ええ!」

「うん!」

「なっ⁉︎ちぃ!」


精霊王の欠片を使った8つの神器、それが魔神を中心とした正八角形の頂点を形取っていた。

ソラ達はそこへ神気を流し込み、これを基点として神術を編み出す。


「喰い尽くせ」

「切り刻んで」

「消し飛ばして」


四芒星が2つ重なった陣が描かれ、そこから無数の光弾が飛び上がる。さらに魔神を拘束するように光線が引かれ……内側へと収束する爆発を起こした。


「甘い、なぁ!!」


黒い神気を大量に放つことで、魔神は相殺した。

だが……


「飛べ」


これすらも見せ札。本命は薄刃陽炎から飛ばした斬撃。

概念神器としての力も乗せ、本気で放ったそれは……大剣の長さを半分にし、魔神の片耳を斬り落とすにとどまる。


「ちっ」

「惜しいわね」

「もう少しだったのに……」

「お、恐ろしい真似をしてくれるね……流石に肝を冷やしたよ」

「冷やす肝が無くなれば、もっと楽になれるぞ?」

「それは遠慮するよ。まだまだやりたいことがあるからね」

「なら、やり残して死ね」


こういったやり取りは相変わらずだが、ソラ達の焦燥は増してばかりだ。一撃で殺せるようにしているにも関わらず、防ぎ続けられているのだから。


「でもソラ君、どうするの?」

「これ以上だと、打てる手が少なくなるわ」

「そうだな。だが……ミリア、フリス、一瞬で良いから、隙を作ってくれ」

「え?」

「良いの?」

「ああ、足が止まるだけで良い。これで決めてやる」


そう言って、ソラは薄刃陽炎へ送り込む神気の量を一気に増やす。さらに身体強化も最高レベルを維持、暴走一歩手前の状態を保つ。

また、ミリアとフリスも同様。ここで決めるつもりのようだ。


「これで決めるって、さっきのこれが限界だったのに?」

「やっぱり治るか……まあ、一撃なら問題無いな」

「そうかい。なら、動かないでいてあげるよ?ほら」

「ありがたいな。このまま消してやる」


そうして睨み合うソラと魔神。だがそれよりも早く、2人が動いた。


「はぁ!」

「貫いて!」


ミリアが斬撃を飛ばし、フリスが弾幕を放つ。攻撃はほぼ防がれ、カウンターが当たりかけることもある。

だが、ソラはまだ動かない。


「何だい?君達が勝てるとでも?」


そう魔神が呟くが、ミリアは構わず突っ込む。


「私達は、無理ね」


ミリアの斬撃は大剣で止められ、フリスの神術は神術に防がれる。


「だけど、ソラ君ならやってくれるから」


魔神はミリアを大剣で吹き飛ばし、防御神術ごとフリスを吹き飛ばす。


「く、この!」

「ごめん!」


2人は魔神から離れてしまった。だがソラの目的は果たされている。


「いや、良くやった」

「そう、これだけなんだ。でもね……」


その時には、超のつくほど巨大で濃密な、そして無数の繋がりを持った闇の塊がソラを覆っていた。さらにその奥では、魔神が大剣を防御態勢で構えている。

彼の期待通りに。


「ははは!いくら破壊や絶無だとしても!これだけあれば!」

「残念だったな。こいつは……」


だから、ソラは薄刃陽炎を振るう。向こうにいる魔神へ、今度こそ届くように。

その切っ先は、闇を塵芥のように割り……いや、邪魔をするもの全てを引き裂き……


「切断だ」


そして大剣ごと、魔神を真っ二つに斬り裂いた。










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