第5話 魔王城
『……む?』
魔王城へ近づく人影。それに門番らしきクリスタルゴーレムが反応する。
『貴様、何故ここに、グガッ⁉︎』
が、一閃された刃により、一撃で物言わぬ骸と化した。その背後の大扉も、音を立てて崩れていく。
「今だ、行くぞ」
「ええ」
「うん」
そうして開いた穴へ向け、ソラはミリアとフリスと共に飛び込む。
「なっ、はぁ⁉︎」
「てき、ガァ!」
「侵入者だ!」
「出会え!出会えぇ!」
「ひっ⁉︎」
「ギャア!」
そして門の内側にいた魔人や人型の魔獣を蹴散らし、正面ホールを阿鼻叫喚の地獄絵図へと変えていく。後ろからジュン達も続いていたが、そっちへ行く前にソラ達が処理していた。
「ふっ、ここに来たのが運の尽きよ。私、ガル……」
「邪魔だ」
目の前に出てきたSSランクらしき魔人を、話している途中に蹴り飛ばし、
「ガル、っ⁉︎」
「邪魔よ」
気づかれる前に、飛んでいたSSランク魔獣のヘルを十字に切り裂き、
「貫け!」
「穿て!」
「「エア……」」
「どいて!」
魔法を放とうとして2体の双子らしき魔人を、先制攻撃で丸焼きにする。
「フリス、そっちを吹っ飛ばせ」
「ソラ、前は私がやるわ」
「ソラ君、一気にやっちゃうよ!」
「ああ、任せる」
100本ボウリングでピンへ50ポンドのボールを時速60kmでぶち当てたかのように、魔人や魔獣が次々と跳ね飛ばされ、消し飛んでいく。SランクやSSランク、少ないだろうがSSSランクも混ざっているはずなのだが、ソラ達にとってそれらは等しく雑魚だった。
「……凄い」
「負ける未来が全く見えません」
「俺らいらねぇんじゃねぇか?」
「そんなこと言ったら……」
「でもさあ、あんなの見せられれば誰だってそう思うでしょ?」
「まあ、そうかもしれないけど……」
「そうです」
「ジュン、今は役目を果たすわよ」
「そうだね、リーナ」
ジュン達がそんなことを言っているが、ソラ達は全て無視をする。どうせ後で見られるのならば、今見せたって同じこと、そうソラは考えていた。
「確か……この先だな」
「壁だけど、壊せば良いわね。フリス」
「うん」
そして、わざわざ相手のルールに乗る必要は無い、とばかりに漆喰と石の壁を破壊する。かなり分厚い壁だったため、奥にいた魔獣か魔人が潰されていたが、誰も気にしない。
そうして進んでいくと、目の前に大きな扉が現れた。
「豪勢な扉が出てきたな。ゲーム的だが……仕方無い」
「つまり、そういうことですね」
「四天王がいるだろうな」
「私達の出番ね」
「うん、頑張ろ」
「ですけど……それで大丈夫ですか?」
「何がだ?」
「1人で1体と相手するって……」
「ああ、任せろ」
回答を待たず、ソラは扉を蹴り飛ばす。その先には真っ赤なドレスを着た少女がいた。見た目だけなら普通の人間のようだが、赤い目と鋭い八重歯がその正体を表している。そして見た目通りなら、あの勢いの大扉を弾くことなんてできない。
「侵入者というのは其方らのことかのう?」
「あれって……まさか、ヴァンパイアロード……?」
「だろうな」
「その通りじゃ。妾は四天王が1人、ヴァンパイアロードのハーマニ。血を吸われたい者から来るが良かろう?」
そう言いつつ、腰からレイピアを抜く。その姿を見て6人は警戒を強めたが、3人は自然体のままだ。
「強ぇな、こりゃ……」
「流石に全員で……」
「ミリア、任せた」
「ええ」
「ほう、妾へ1人で挑むとはのう。勇気と蛮勇を間違えたようじゃの」
「その言葉、そっくりそのまま返してあげるわ」
その瞬間、ミリアとハーマニの姿がかき消え、衝撃が周囲を襲う。だが、この程度ならジュン達でも大丈夫だ。
「いや、え、ソラさん?」
「今のうちに行くぞ」
「ですけど」
「大丈夫だ。ミリアを信じろ」
というか、本気のミリアはソラより速い。それを出すことは無いだろうが、それでもジュン達では足手まといだ。
「また扉が……」
「さっきとは意匠が違いますね」
「やっぱり、いるのが違うから?」
「ああ、そうだろな。さて、と!」
「また壊すのね……」
また大扉が吹き飛ぶが、今度は魔法で破壊された。その煙が晴れた先では、骨と皮だけの肉体が豪華なローブや杖を所持していた。
『ハーマニに勝った、わけではなさそうですね。生贄を残しましたか』
「アンデットロードか。つまり……」
「ソラ君、わたしがやるから」
「1番決意が高かったからな。任せる」
『私はアンデットロードのメイルーガですが……ふむ、どこかでお会いしましたか?』
会ったことはない。だが、因縁じみたものはある。
「ルーマをあんな風にしたでしょ?」
『ああ、あの失敗作を壊したのは貴女達なのですね』
「失敗作、だと?」
『何かおかしなことでも言いましたか?実験結果が望んだ通りにならなければ、それは失敗作でしょう?』
「そんなこと言うんだ……ソラ君」
「内容は分かるが、どうした?」
「本気でやっちゃって良い?」
「決めた通りならな」
「じゃあ……」
『そうですか。では……』
そして、極太の稲妻と巨大な黒雲が衝突した。
「行って!」
「行くぞ!」
『行かせません!』
「は、はい!」
「うお⁉︎」
フリスが相手をしている間に、7人は進む。そのジュン達へメイルーガは魔法を放つが、自身の戦いをしつつもフリスか迎撃していく。そして残ったものもソラが撃ち落とし、部屋を出た。
「あれって……何ですか?」
「魔法だ。知ってるだろ?」
「牽制であんな大規模魔法を使ったことなんてありません」
「ん?フリスは最初から仕留めるつもりだったぞ?」
「もっと怖いです」
次へ続く廊下を走り、次の扉を開ける。すると、そこにはソラが見慣れた人物が立っていた。
「ようこそ。やはり来たようですね」
「ゴアクか……やっぱり、そういう立場なんだな」
「ええ。ですから、舞台は整いましたよ」
「そうだな。それで、あの時の約束だ。1対1で良いか?」
「私にも立場というものがあるのですが……良いでしょう。お行きなさい」
「だ、そうだ。早く行け」
3回目だから慣れたのか諦めたのか、ジュン達は何も言わずに部屋を出ようとする。そこへ放たれた苦無は、ソラの魔法によって撃ち落とされた。
「おい、手は出さないんじゃ無かったのか?」
「貴方相手ではあの程度、牽制にもなりませんでしょう?私も、彼らには早く行って欲しいのですよ」
「よくもまあぬけぬけと」
「事実ですから」
その発言の直後、ゴアクの背後に無数の腕が現れた。それは数百どころか、千にも届きそうな数だ。そしてそれぞれの腕は、多種多様な得物を持っている。
「四天王が1人、センジュのゴアク。ようやく整えられた舞台へ参りましたよ」
「SSSランク冒険者であり勇者の師、ソラ。他にも色々と呼ばれ方はあるが……高まり続けた因縁を断ちに来たぞ」
「それでは、いざ尋常に……」
「勝負!」
ソラが飛び出し、ゴアクはそれを待ち構える。そうして、個対個の3つの決戦は始まった。
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「大丈夫よね?」
「リーナ?」
「ソラ達に危険なことを……それだけじゃなくて、他にも色々任せちゃって大丈夫なのよね?」
「大丈夫だっての。信じろって言われたじゃねぇか」
「あたい達なんかよりずっと強いんだし、大丈夫だって」
「足手まといとか言われそうだし」
「勇者より強いのはどうかと思うけど」
「……それって俺にも言ってる?」
「勿論」
「確かにそうだけどさ……」
不安を持ちつつも、6人は進んでいく。そして次の大扉へ着いたのだが……この扉、前の3つより大きい。
「最後の四天王が……」
「ここで魔王が出てきたら怒るわよ」
「何でそうなっちゃうかな……?」
「おい。迷わねぇで、さっさと行っちまうぞ」
「何で私達が先に進んだのか分からなくなるよ」
「そうだね、行こう!」
その扉の先にいたのは、真っ黒で巨大なドラゴンだ。だがその体は、ソラ達が遭遇した魔天龍よりも大きく、小さめの古竜にすら迫る。そして、頭部には角にも見える棘状の鱗が3本、上を向いていた。
『ほう、騒々しいと思ったら、我輩の眠りを邪魔する者まで出てきたか』
「ドラゴンロード、間違いないわ」
「ここは全員で……」
「ジュン。お前とリーナは先に行っちまえよ」
「え、いや、でも」
「それが最も勝率が高い、それは分かってますね?」
「1番強いんだから、頑張んなさい」
「私達はソラさん達が来るまで耐えるだけです。心配しないで」
ジュンとリーナ以外は、もうソラ達の心配などしていなかった。3人の勝利と、自分達の勝ちを信じている。それが分かった2人も、覚悟を決めた。
それと、ドラゴンロードには完全に聞こえているはずなのだが、何も言わなかった。それどころか、次の言葉はジュン達の想定にないものだった。
『ふむ、ならば通るが良い』
「良いのかよ?」
「予想外だね」
『勇者がおろうと、たった2人で魔王様に勝てるはずもない。精々骸を晒せばよかろう』
「はっ、そっくりそのまま返してやんよ」
「竜殺しなんて、よくある話だし」
「負けるわけ無いって」
「勝ってみせます」
『四天王が1体、ドラゴンロードのバルガン。どこからでも来い、小童ども』
対峙する4人と1頭を見つつ、ジュンとリーナは部屋を出る。そして扉を閉じた瞬間、爆音が空気を揺らした。
「みんな……」
「ジュン、彼らを信じて、やれることをやるわよ」
「頭では分かってるんだけど……どうしても、かな」
「それでも……ねえ、ジュン」
「リーナ?」
「ベフィアを代表して、お願い。彼らを信じて戦って」
「分かってるよ。だけど……」
「だけど?」
「リーナからお願いされた方が、やる気が出るかな」
「こ、こんな所で言わないでよ!」
「ごめん。じゃあ、覚悟が決まったところで……」
「ええ」
「行こうか」
扉を開けて進んだ先、そこにいるのが、目的の相手だ。赤と青の2つの宝玉がはまった玉座に座る者、その種族はデーモンキング。だが体に宿す力は、それを大きく超えていた。
「早いな、勇者よ」
「お前が、魔王……」
「いかにも。余が魔王、名をゴルドラと言う。それにしても、たった2人で余に挑むとは、無謀な者もいるものだ。ここに来るまでに別れた者達と、同じ運命を辿らせてやろう」
「そんなことは無いわ!」
「弱い者ほどよく吠えるとは、よく言ったものだ。人は群れなければ、我々に敵うことなどできない。殺されに来たものなど、ただの無能者であろう?」
「……確かに、俺達は弱いかもしれない」
「ジュン?」
突然のジュンの言動に驚くリーナ。だが彼の目は、強い光を発している。
「でも、弱くて何が悪いんだ?絶対的な強さが無いのと同じで、絶対に弱いのも無い。強いか弱いかなんて、それが全てじゃない」
「ほう?されば勇者よ、どうするのだ?」
「戦って、勝つ。1人ひとりが弱くても、力を合わせれば強くなれる。ここにいるのは……たくさんの人達の願いの結果だから!」
「ならば勇者よ、人の願いとやらを見せてもらおう。そしてその上で、叩き潰してやろう」
「リーナ!」
「ジュン!」
「さあ来い!」
そして、運命を決める決戦が始まった。




