第4話 魔王領⑨
「ソラさん、この町は綺麗なんですね」
「昔のままみたい」
「全然壊れてねぇもんな」
「そう気持ちの良いことじゃない」
「え?」
元王都ルーマ。その中央にある王城へ向けて、9人は足を進めていた。その足取りのうち、6人は明るいが、残り3人さそれほど陽気では無い。
「この町は俺達が着いた時、アンデットの巣窟だった」
「え……?」
「嘘……」
「そんな跡は……」
「1体残らず消し去ったから、残ってるはずがない。だが事実だ」
「あの時はこの通りもアンデットで溢れていたわ。酷い惨状だったわよ」
「強いのも多かったよね。Sランクがたくさんいたもん」
実際は上限があったようだとはいえ、ほぼ無限の増殖をしていた。だが、流石にそんなことは言えるはずが無い。ソラの推測通りであれば、勇者が関わっていいことでは無いのだから。
「ど、どうやって倒したんですか……?」
「まあ、大通りに誘き寄せてから光魔法で一掃したり、路地裏で1体ずつ相手にしたな。逃げ回りながら、少しずつ減らした」
「うわ、時間が……」
「数日かかったわね。寝る暇なんてほとんど無かったわ」
「うん。仮眠だけだっけ?」
「全てが終わった後は、最低限の警戒だけして寝てたな。半日以上」
この辺りも事実を全て話してしまわないよう、適当に話を合わせている。理由はまあ、何度もあった通りだ。
「それで、何で城に向かっているんですか?何かあるとは……」
「まあ、必要なものは前に来た時に全て持ち出した。だが、現場を見ておいて欲しかったからな」
「現場?」
「行けば分かるわ」
「今はもう何も無いけどね」
「少しは残ってるぞ」
「おう……」
そう話しながら城に入ると、ソラ達はそのまま直進した。その行動に迷いが無く、ジュン達は一瞬戸惑う。
「こっちだ」
「いや、え、そこって……」
「真正面は……だよなぁ?」
「だよね?」
「うん、玉座だよ」
「最後に戦った場所でもあるわ」
「え?」
「まず入るぞ」
そうして入った玉座の間には、壁に残る破壊痕と、玉座があるはずの場所の周囲にある炎の痕があり、その中心には謎の石柱が建っていた。ジュン達が訝しんだとしても、仕方の無いことだ。
「あれは……?」
「俺が作ったものだ。心配するな」
「あの傷と火の痕もソラがやったわね」
「派手なのは全部ソラ君だよ」
「おい。その辺りの床の傷の一部はミリアのだし、左右の壁の傷はほとんどフリスが付けたんだろ」
「そうだっけ?」
「ああ、そうだ」
「確かに、私達も派手にやったものね」
「いやどんなですか……」
「普通に戦っただけだぞ?」
「いえ、普通でもこれはどうなんですか?」
「SSSランクが2人だったけど、まあ普通ではあるわね」
「2人?」
「後でな。それより……まあ、取り敢えずこっちに来い」
そう言われ、ジュン達も石柱へと近づく。当然ながら、そこに文字が書いてあることに気付いた。
「勇敢なる者達の魂 ここに眠る……ですか?」
「適当に書いたものだ。そう大した意味は無い……ただまあ、ちゃんとその通りでもあるな」
「どういうことだ?」
「これはね、ソラが耐え続けていた国王と王妃について書いたものよ」
「耐え続けて?」
「アンデットキングとノーライフクイーンにされちゃってたけど、ずっと意識を保ってたんだよ。それで、少しだけだけど話を聞けたんだ」
「え、ずっとって……」
「詳しいことは聞けなかったが……この王都が落とされてからの約70年間、壊れずにいるのは辛かっただろうな」
「それは……」
それを聞いて、ジュン達は全員口を噤んだ。誰1人として、耐えられるとは思わなかったからだ。
そしてソラ達は、彼らの願いも継がせる。
「それで、私達は最後の願いも託されたわ」
「……聞かせてください」
「この悲劇を繰り返さないでくれ……それが、彼らの願いだ」
「それだけ、その時は大変だったんだって」
「ここに連れてきたのは、これを伝えたかっただけだ。どう取るからお前達次第だが……まあ、そうなんだろ?」
「はい、勿論です」
「当然だぜ」
「当前です」
「勿論!」
「その通りです」
「ソラの思ってる通りね。それは、私もだから」
「分かった。ミリア、フリス、予定通りで良いな?」
「ええ、最初から変わらないわ」
「ソラ君と一緒だよ」
若干話がズレているのだが、ジュン達は気づいていない。そのため明日に備え、もう休息を取ることとなった。
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「あれが、魔王城……」
魔王城まで普通に歩いても半日程の山の上に登り、魔王城の方を見る9人。前にソラ達が陣取った山とは別だが、観察程度ならあまり変わらない。
「ああ、あの中に魔王がいるのは間違いない。魔力の質としても、周囲にいる魔獣を見ても、だ」
「魔獣?」
「前に来た時と変わってないのよ。大まかな配置だけだけどね」
「他の場所だが、相当数を倒したからな。種類に関してはかなり変わってる」
「具体的にはどうなっていますか?」
「そうだな……SSSランクの数は変わってない。入れ替わりだけだ。Sランクが少し減って、SSランクが増えたか?」
「うん、そんな感じだよ」
「Sランクが0.8倍、SSランクが1.1倍くらいね」
「減ってるんですよね?」
「ああ、総数は減っている。だが、戦力はむしろ上がってるぞ?」
「それは分かっています。ですが、やるだけです」
「おうそうだ、やっちまおうぜ」
「まったく、攻撃は明日だぞ?」
「分かってるって」
「大丈夫です」
「元気だね」
「元気すぎるのよ考えものよ」
そんな風に言いつつも、ミリアの顔だって笑っている。3人ともこういう雰囲気の方が好きなのだから、まあ当然だ。
「さて、ここで最後の打ち合わせをするつもりだったが……やるか?」
「はい」
「勿論ね」
「分かったわ。と言ってもソラ?どうせ決まってるんでしょう?」
「まあな」
「どうするんですか?」
「まず、強襲と突入は俺達がメインでやる。お前達は後ろからついてこい」
「……え?」
「いや、それは……」
「その上で、魔王の前には四天王が待ち構えているだろうが、そのうち3体は俺達が相手をする。4体集まっているのなら全部だな」
「そんな無茶なことを……」
「そう無茶じゃないわよ」
「多分倒せちゃうもん」
「えぇー……」
「お前達を、ジュンを魔王の所まで行かせて、勝たせる。そうすれば良いんだから、これが1番効率的だ」
「効率っつーか、なんつーかよ。それで良いんかよ?」
「これで良い。花道は俺達が作る。お前達は最後の美味しいところだけ持っていけ」
もっとも、ソラ達は全てを語ったことが無い。それ故、その目的の正確なところは3人以外の誰にも分からなかった。
「それとジュン、お前達は休んでおけ。見張りは俺達がやる」
「え、良いんですか?」
「ああ」
「でもよ……」
「甘えておけ。まあ、俺達も休まないわけじゃないからな」
「それは当然ですけど、大丈夫ですか?」
「ええ、問題無いわ」
「大丈夫だよ」
「……分かりました。甘えさせてもらいます」
「ああ。緊張して寝れないなんてやめろよ?」
「大丈夫よ!」
「……何でリーナが反応するのよ」
ジュン達は気にしつつも、ソラ達に任せて寝袋やテントの中へと入っていった。そして、6人が完全に寝ついた後。
「ミリア、フリス」
「ソラ君?」
「どうしたのよ?」
「2人は……自分が何を源とするのか、分かるか?」
「それはまあ、何となく分かるわね。これが司るってのと同じなのかは分からないけど」
「ソラ君も分かるの?」
「俺のは漠然としすぎてる。どんな言葉が当てはまるのか、探すのに苦労したな」
「そうなのね。聞かせてくれる?」
「ああ、俺が司っているのは……」
そうして、決戦前最後の夜は更けていく。




