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異世界成り上がり神話〜神への冒険〜  作者: ニコライ
第10章 光と闇

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第2話 出撃





『諸君!我々は、長き間耐えてきた!』

「魔王が現れてソルムニア王国を滅ぼされ、この世界の4分の1を奪われてしまいました」

『だがそれも今日で終わる!本日、我々は総反撃に出るのだ!』

「ご存知の通り、最前線の全ての砦に私達人類の戦力が集まっています。そして、全方面で一斉に反攻作戦を開始します」

『さあ行くぞ戦士達!今までの借りを返す時だ!』

「ではどうぞ、勇者様」


砦に到着してからしばらく後。そこでは冒険者ギルドでも使われている通信用魔法具を使い、演説が行われていた。共和国帝国双方の砦に集まった兵士、騎士、冒険者との通信を繋ぎ、無数の人々を鼓舞している。

そしてその最後に、いきなりジュンに声がかけられた。


「えっと、ソラさん?こんな話ありました?」

「いきなりだな……まあ、適当に言えば良い」

「ですけど……」

「ほら、さっさと行け。それで、アニメのセリフでも何でもいいから演説してこい」


事前に何も言われておらず、戸惑っていたものの、どうやら慣れているらしい。そこまで緊張を見せることなく、ジュンは段の上に立った。


「……皆さん、勇者のジュン・ホグリです」


そして話し始める。


「俺達5人は元の世界から招ばれて、このベフィアへやってきました。だからこの世界については夢の中か何かのように、最初は思っていました」


これもまあ、当然だろう。そういった話がありふれていた日本から来たのでは、ゲームや何かの中のように思えても仕方が無い。ソラのように何故か適応できる方が異常なのだ。


「現実感が無かった、とも言います。いきなり招ばれたんだから、仕方無いのかもしれません……でも」


とはいえ、それがいつまでも続くわけでは無い。


「そんな俺に対して、みんな、本当に優しくて、温かくて……そして、強かった。家族と離れ離れになることも、殺されてしまうこともあるのに、みんなが生きることを諦めないでいた。それを……凄いって思いました」


現代日本と違い、死が身近に存在する異世界(ベフィア)。そこで暮らす人達が日本人と違うのも、また当然だ。

そしてジュンは、その違いに感動した。


「そして、守りたいと思いました。この綺麗な世界がいつまでも続いて欲しい、そう願いました」


そこでようやく、ジュンは勇者になれたのかもしれない。守りたいという意思を持ち、それを実行する。ただ勇者と呼ばれるだけで無く、他者を護るという勇気を持つ者へと。

自分の周りしか守るという意思を持てない、そういう自覚のあるソラは、ジュンが自分の手から巣立っていたことを、今さらながらに感じ取った。


「俺達は元々、他の世界の人です。帰ることもできます。ですが俺は、この世界に残ることに決めました。その、今は……リーナ王女の、婚約者です」


それはこの世界へ残ると、ジュンが初めて公の場で宣言した時だった。もう引き返すことはできない、そんな選択をジュンは自身の手で行った。

なおこの発言を聞いたリーナは顔を真っ赤にしていたのだが、ジュンは気づいていない。


「俺は、この世界を守りたい……いえ、守ります。だから皆さん、力を貸してください」


こう言い切ると、万雷の拍手によって応えられた。こっぱずかしくなったようで、ジュンはそそくさと戻ってくる。


「なかなか良かったわね」

「ジュン君、凄かったよ」

「そ、そうですか?……リーナ、あれで良かったかな?」

「うぅ……」

「リーナ?」

「こんな所で言わないでよ……恥ずかしいのに……」

「あ、ごめん……」

「でも……ありがと。嬉しかったわ」

「リーナ……俺の方こそ、ありがとう。ベフィアに来れて本当に良かった」

「おい、もう始まってるぞ。2人きりの世界に入るな。それにしても……」


集まっていた兵士、騎士、冒険者達は既に北門から出始めている。その様子を見つつ、ソラはジュンに話しかけた。


「立派になったな、ジュン」

「ソラさん?」

「俺はお前みたいに、殊勝な人にはなれない。見知らぬ他者を護るために戦うなんて、そんなことは出来ないな」

「ソラさんだって沢山守ってきたんですよね?それにリーナも……」

「リーナを助けたのは、すぐ近くにいたからだ。フリージアで戦ったのは、俺達の力が通じるのか知りたかったから。オリクエアに協力したのは、何だかんだ言ってあいつのことは信用できたから。ヒカリを助けたのは、ただ依頼があったから。エリザベートで戦ったのは、アーノルド家の人達のことを気に入ったから。お前達を鍛えたのは、それが俺達の益になるから。弟子を取ったのは、ただ昔が懐かしかったから。バルクの願いを聞いたのは、あいつが親友だから。そしてお前達に同行するのは、ただ俺達の目的のため……それだけだ」

「……」

「だから今のうちに言っておく。俺達のために、お前達を利用させてもらうからな」

「ソラさん……それって、世界を守ることになるんですよね?」

「ああ」

「なら、拒否する理由はありません。ソラさん達にも何かやるべきこと、やらなきゃならないことがあるんじゃないかってことは、薄々気付いてましたから」

「はは……俺は良い弟子を持ったな」


そう言って笑いつつも、ソラの目は完全には笑っていない。値踏みするような目線を向け、そして視線を外した。

その先では、砦から出終えた兵士達が布陣を始めている。


「あれだけの味方がいる。だが、先に進むのは俺達9人だけだ」

「はい」

「おう」

「分かっています」

「だからこそ、俺達に全てがかかっている。無様な敗北は許されない」

「任せて!」

「はい、勿論です」

「当然ね」

「だが、敢えて言わせてもらう。死ぬな、どんな手を使ってでも生き延びろ」


生きてさえいれば、もし負けたとしてもまた挽回できる。勝ったとしても、死んでしまえばそれまでだ。だからこそ、ソラは自身や周囲が死ぬのを嫌っている。

この世界でも、死んででも守った者の話はよくある。だが、あんなもの残された人達からしたら悲劇でしかない。そんなことを、ソラはしてほしく無かった。


「献身?特攻?そんなの自殺と変わらない。どんなに綺麗事を並べたところで、死ねばそこまでだ。もう未来は無くい」

「生きていないと、何も意味は無いわ。好きな人とも一緒にいられなくなる……」

「ジュン君は特に、だよ。リーナちゃんを1人にしたりしちゃ駄目だからね」

「だからこそ、生きて勝利を掴み取れ。死ぬんじゃ無いぞ」

「「「「「「はい!」」」」」」


この会話(煽動?)が終わる時には、布陣は完了していた。

そしてソラ達が砦の上から見守る中、その布陣の中で最初に動いた魔法使い達は……森に火をつけた。


「お、よく燃えてるな」

「聞いてたってこりゃぁ……」

「大丈夫なんですか?こんなことして……」

「どうせ北に人はいない。それに、こうした方が魔獣はこっちに向かってくるからな。平地で戦う方が、騎士団には有利だ」

「火に向かって来る?」

「魔獣は獣とは違う。派手なことをすれば、簡単に集まってくるぞ」

「確かに、戦闘音を聞かれて襲われたこともあります……」

「だからこそ、提案した作戦だ」


目の前では、火魔法を使える魔法使い達がどんどん森を燃やしている。

さらにその前には兵士や騎士達が布陣し、森から出てきた魔獣を正面から抑え込むようになっている。

そして冒険者達はパーティー単位で動き、側方にて奇襲の警戒とともに、森への潜入の準備をしていた。


「まだ動きは……来たな」

「え、早っ⁉︎」

「向こうも気付いてる。冒険者側ではエルザとマイリアが注意を促してるみたいだ。騎士の中にも、気付いた奴はいるらしい」

「うん、最初に5人くらいかな。早かったよ」

「そんなことも分かるんだ……」

「注意して見ていれば分かるわ。まあ、ソラに散々鍛えられたっていうのもあるけどね」

「俺にはそんなつもりは無かったんだが」

「何言ってるのよ。ソラとの稽古って、そういうことまで分からないと相手になれないじゃない」

「そうか?」

「うん。というかソラ君に勝とうとすると、他の人も分かっちゃうよね」

「ええ。もっとも、ソラの動きを完璧に読めたことなんて無いんだけど」

「まあ、簡単には分からないように修練してきたからな」


その時、最前線では戦端が開かれていた。

普通、人にとって、SランクやSSランクの魔獣などは非常に強敵だ。だが兵士達の質は高く、長槍や盾などで上手く抑え込んでいる。そして騎士や魔法使いも負けておらず、連携して魔獣を討ち取っていった。流石、最前線に呼ばれるだけある。

そしてソラ達にとって、ここが狙い目だ。


「よし、行くぞ」

「おっしゃ、待ってたぜ」

「予定通り、大きく迂回して進む。見つからないように気をつけろよ」

「はい」

「勿論よね」

「ミリア、フリス、周囲の警戒は絶やすな」

「ええ、分かってるわ」

「ちゃんとやるから、大丈夫だよ」

「頼むぞ」


戦場からは離れた場所から森へ入り、そのままできる限り音を立てないように進んでいく。といっても戦闘音が大きいので、会話くらいなら普通にできるのだが。


「にしても、普通の森ってのは以外じゃねぇか?」

「確かに、何かおどろおどろしいイメージが……」

「何でそうなるのよ」

「それ、ソラも言ってたわね」

「何でかな?」

「元の世界のせい、って感じだな……」

「ゲームだと決まってるよね」

「相場は決まってますからね」

「げーむ?」

「娯楽の1つだ。気にしなくて良い」


というか、求められても説明できない。というわけで、6人は流すことにした。

戦場から離れているとはいえ、魔獣はそこかしこから集まってくる。そのままでは遭遇を避けることはできない。


「さてと……こっちと向こう、2方向から魔獣が来てる。避けるぞ」

「それで、どっちに……」

「もう少し迂回するべきね。ソラ、右側に避けられる地形があったりしないかしら?」

「あるよ、ミリちゃん。少し窪地になってる」

「ああ。そこに行くぞ、良いな?」

「は、はい」


そう言ってソラ達は、人1人分以上の段差のある窪地へ隠れ、やり過ごす。魔獣も目的地が決まっているのだから、余計なよそ見はしなかった。


「ソラさん、慣れてますね」

「2回目だからな。フリス、向きを戻すぞ。ミリア、その段差の上だ。先に行ってくれ」

「ええ。フリス、少しお願いね」

「はーい。じゃあ、ジュン君達が次に行ってね」

「は、はい」

「分かったわ」

「そう身構えるな。魔王城までは俺達が連れていく。お前達は魔王を倒すことだけを考えろ」

「そう言われても……」

「気にするな。師匠命令だ」

「……はい。では、お願いします」

「ああ」


そうして、9人は森の奥へと進んでいく。











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