第1話 ホリピア砦
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最終章、開始します
「お通りください、勇者様!」
「ありがとうございます。頑張ってください」
「は、はい!」
砦の南門にて、勇者一行が簡単に門をくぐっていく。そして、それに続いたソラ達は苦笑していた。前回3人が来た時は、SSSランク冒険者にも関わらずちゃんとした手続きを取らされたのだから。
「流石勇者様、手続きが早く終わるな」
「まあそうですけど……」
「感謝してるのよ。前に来た時は面倒だったもの」
「うん。長かったんだよ」
「それなら良いけど……」
ここは共和国側の最前線、ホリピア砦。そしてついに勇者が攻めるというだけあって、砦の中は兵士や騎士や冒険者でいっぱいだ。
そんな中を歩いていく9人は……先導する騎士によって人の波が割れていた。モーゼか。
と、中央の建物に近づいていくと、前方から誰かの話し声が聞こえてきた。
「え?」
「ねえジュン、あれってもしかして……」
「多分、そうだね」
勿論、ジュン達が気付く前にソラ達は気付いている。それは、9人の目的地から出てきた4人の人だ。
「ったっくよぉ、何なんだっての、アレは」
「確かにそうだけど、そう怒るなって」
「まったく、あなたが怒りっぽいことは知ってるけど」
「冒険者を何だと思ってやがんだ。騎士じゃねぇっての」
「それはそうですが、落ち着きなさい。品位を問われるのはお嫌いでしょう?」
「だけどよ……」
「でも、どうする?流石にアレは受け入れられないわよ?」
「説得するしか無いか……まあ、どうにかしよう」
「少なくとも、話が通じる方がいないわけではありませんからね」
何やら重要そうな話をしている4人。そんな彼らを見て、ソラ達はジュン達を追い抜いてそこへ向かい、声をかける。
「頑張ってるみたいだな」
「え?師匠!」
「兄貴!」
「ソラさん、お久しぶりです」
「あら、ソラ様」
「「「「……え?」」」」
そう返事をした4人……ハウエル、ドラ、エルザ、マイリアは、全員がソラを知っていたことに驚いていた。
それはソラ達の後ろの6人も同様だが……そこへ、もう1人もやってくる。
「はー、エルザちゃん、どう……あ、ソラさん!」
「「「「「「はい?」」」」」」
そして、今度はジュン達が驚いた。少しタイミングが遅いのだが。
「ああ、そういえば言って無かったか」
「ん?後ろにいるのは勇者様達でしたか」
「よおジュン、元気か?」
「リーナ、元気だった?」
「ヤッホー、元気?」
「お久しぶりですね」
「やっぱり、全員会ってたんだな」
ドラだけは確証が無かったが、ソラ達の予想通りだったようだ。弟子達全員に繋がりがあって、なおかつ知らなかったというのは出来過ぎな気もするが。
「勇者様がいらっしゃるというのは聞いていましたが、まさかソラ様もとは」
「それに、師匠が勇者様と一緒に来るとは思っていませんでしたが……いえ、師なのですから当然ですね」
「そういえば、ハウエルにだけは伝えてあったな」
「ああ、オレも聞きたことあるぜ……ただ、あれ兄貴だったのかよ」
「ああ、そうだ。つまり、お前達は全員兄弟弟子ってことになる」
「あ、そうなんだ。よろしくー」
「ヒカリ、いくらなんでも軽すぎない?」
「えー?だって前からこうだよ?」
「だけど……」
「エルザ、そんなに気にするな。弟子って言っても、緩い繋がりだ」
「ソラさんが言うなら……分かりました」
まあ、そう長い間教えていたわけでは無く、ソラ自身がそう強い拘束をするタイプでは無いので、ヒカリの態度も気にすることでは無い。むしろ、好ましく思っていた。
「そうだ兄貴、聞いてくれよ」
「ん?」
「騎士どもがよ、酷ぇんだよ。いやまあ、下っ端のやつらは普通なんだけどよ」
「どういうことだ。それだと分からないぞ」
「冒険者を騎士と同じように扱おうとしてきました。師匠、どうにかなりませんか?」
「それは……取り敢えず、そう言ってきたのは全員か?」
「いえ、指揮官の方はわたくし達の意見にも理解を示されていました。ですが、他の方々は……」
「どうしても、騎士団に合わさせたいみたいです」
「え、エルザちゃん、そうなってたの?」
「そうだから悩んでるの……」
「それなら、俺達が動くぞ?」
「え、師匠、良いんですか?」
「ソラさん、良いんですか?」
「流石に、冒険者を無駄に使うのは許容できないからな。だから……」
言葉を続けようとした時、急に周囲が慌ただしくなる。そして砦の中央部から人が飛び出してきた。
「ゆ、勇者様!」
「え、あ、はい」
「申し訳ございません!本来であれば、私がお迎えにあがるべきでした!」
「いや、そんなこと言われても……」
「ですが、それは……え?」
「ん?」
「え?」
「あれ?」
そう言っていた女性の目は、3人を見た途端に止まる。またソラ達も、やってきた金虎獣人の女性には見覚えがあった。
「ルレイアさん?」
「ソラ殿、ですか?」
「ええ、そうよ。久しぶりね」
「元気だった?」
「ミリア殿とフリス殿も……お久しぶりです」
彼女はルレイア・メルフィーネ、ソラ達がエリザベートで戦った時の騎士団総団長だった。そしてそれを見て、ソラはある程度察した。
「……師匠、お知り合いですか?」
「ああ。エリザベートで一緒に戦った仲だ。元冒険者でもあるぞ」
「そうなのですね」
「だからあんな風に言ってたってことか」
「はい……申し訳ございません」
「何があった?」
「ええと、その……貴族の……」
「ああ、なるほど。そいつらの名前を教えてくれ。アーノルド家に頼む」
「よろしくお願いします」
縁も力のうち。相手が貴族としての権力を使うのなら、こっちはその貴族のトップを頼るまで。勇者の発言でゴリ押しするよりも、こっちの方が効果的だろう。
そして、状況に唖然としていた者達がようやく再起動した。
「……ソラさん」
「ジュン、どうした?」
「……何でそんなに知り合いが多いんですか?」
「ただの弟子と戦友だぞ?」
「アーノルド家とか言ってたろ?」
「あれはリーリアの我儘に振り回されただけだ」
「ゼーリエル侯爵と対等に話せています」
「元々はオリクエアの馬鹿騒ぎに付き合わされただけ、その後アルに懐かれただけだ。アルはともかく、俺達はオリクエアに巻き込まれたんだぞ」
「オルセクト国王相手でも敬語無しよね」
「その発端はリーナ、お前だろ。それと、異常なのはガイロンの方だ」
ソラはそんな風に言っているが……どこがただの冒険者なのだろうか。
「ちなみに、私をゼーリエル家に紹介したのもソラさんだよ」
「おいこらヒカリ、今ここに爆弾を投げ込むな」
「え、それって……」
「はぁ……帝国貴族の腐敗を教える代わりだ。というか、向こうには得しかない」
そんな背景があったとしても、最高クラスの貴族相手に勝手なことを頼めることの方がおかしい。そう、ジュン達は思った。
ハウエルら弟子達が何も言わないのは、ソラならそんなことがあってもおかしく無い。そう思っているからかもしれない。
「それで師匠、お願いできますか?」
「分かった……ああ、そういえばこれがあったな」
「大統領閣下から授与されたものを忘れていたんですか……」
「兄貴、そりゃ何だ?」
「共和国大統領聖八極星宝鼎章、だったか。エリザベートを守った後に貰ったものだ」
「ソラさん、そんなものを貰ってたんですか」
「それで、それは……共和国上院議員と同程度の権力を保有者に与えます」
「「「「「……え?」」」」」
「なるほど、それは使えますね」
「ま、こんぐれぇじゃあもう驚かねえな」
「勇者の師匠、という方が大きいですし」
「今さらではありませんか?」
「まあ、そうなるわよね」
驚いたのはジュン達、ソラ以外の日本人のみ。弟子達は慣れたというか諦めたような感じで……リーナはまた違った。
「リーナは……知ってたの?」
「私は王女だからね。そういうことも知ってるわ」
「むしろ知らない方が驚くぞ。共和国は公表してるんだろ?」
「はい。あまり出回る話ではありませんが」
「ほとんど授与されないんだっけ?」
「冒険者に授与されることはまず無いって言ってたわね」
「凄ぇな兄貴」
「あの程度、北に行った時に比べれば何のことも無い」
そう軽く、特に意味も無くソラは言った。だが流石に、これは聞き流せなかったらしい。
「えっと、ソラ様……北、なのですか?」
「北って……まさかこの砦より北という意味ですか?師匠?」
「ああ、そうだ。オルセクト王国国王の依頼で、魔王領内部の調査をしていた」
「ど、どれくらい……」
「だいたい半年ね。一応、魔王城の場所までは確認してきたわ」
「魔獣、多いよな?」
「絶対多いよ……」
「うん、すっごく多かったよ。1000くらいいた時もあったよね」
「流石にあれからは逃げたけどな」
ソラ達は本当のことは言わない。言ってしまえば、いくら何でも何者だという話になる。あの場にいたのは監視の魔人を除けば3人だけなのだから、問題無い。
「知らなかったのなら、それも含めて話がしたい。ルレイアさんもそれで良いですね?」
「は、はい、大丈夫です」
「分かった。お前ら、冒険者についてはちゃんと話を通すから、口裏を合わせろよ」
「はい、分かりました」
「おう、任せろ」
「分かりました、ソラさん」
「任せて!」
「お願いいたします」
「ジュン君達もだからね?」
「というか、勇者なんだから1番重要よ」
「は、はい」
「お、おう」
「ええと……分かりました」
「えっと……大丈夫?」
「多分」
「まあ、当然よね。取り敢えず私が話をするわ」
「リーナ、頼む。基本は俺達がやるが……」
「任せてくれても大丈夫よ」
「リーナなら問題無いわ」
「ソラ君、良いよね?」
「分かった」
この後、貴族系の騎士の指揮官の一部、ルレイアとは逆側の連中は、ソラの持ちすぎとも言える権力の前に平服することとなった。
今さらだが、どう考えても平民出身冒険者とは思えない。




