第18話 王都〜自治都市
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「……なんだよこの高待遇」
「何か文句でもあるの?」
「無いよ。ただ、見送りに来たのが王女ってのに驚いてるだけだ」
「そうだよね〜普通ありえないでしょ」
「まあ、命の恩人って思われてるなら、当然かもしれないけどね」
「思ってる、じゃなくてその通りじゃない」
「感謝している面々は陛下を始めとして多い。誇って良いさ」
「ま、感謝なら受け取っても損は無いしな。誰もいないよりはありがたいし」
Bランクに上がった日の翌朝、ハウルの北門へ向かうソラ達へ合流したのはリーナとライハートだ。2人共別れを惜しんでいるが、冒険者なら仕方がないと納得していた。
「それにしても、依頼が無いなんてな」
「そんなに珍しい事じゃないわよ。固定の護衛を持っている商人も多いからね」
「だいたい、半分ずつかな?護衛の依頼が無くなるのも、何日かに1回位はあるんだよ」
「へえ、そうなのね」
「そうなのかって、リーナは知らなかったのか?次期女王なんだし、流通の情報は知っておくべきだと思うが」
「それはその……私はちょっと、ね……」
「……ああ、理解した」
リーナが答え辛くなっている事に対し、ソラは勉強が苦手だと判断した。流石に、そんな事は口に出せなかったようだが。
そんな話をしている間に、北門の目の前までやって来た。
「それじゃあ、ね……」
「辛気臭い顔をするなって。可愛いのに勿体無いぞ」
「か、可愛い……」
「ソラ君?何やってるの?」
「王女をナンパ?」
「そうとしか見えないな」
「ば、馬鹿言うな、そんなんじゃないぞ!」
「……それ、傷つくんだけど……」
「す、すまん……リーナ、生きてればまた会えるし、俺もここに来るつもりだ。そういうこおだし……またな」
「また会おうね」
「またね〜」
「うん……また来てね」
「今度は手合わせしてくれよ」
「次来た時の状況によるさ。前向きに考えておくけどな」
門の外と中、境界で分かれていく5人は再会を約束する。
そしてソラ達はフリージアへと旅に出た。
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「大将、良いんですかい?相手は冒険者だけでっせ?」
「馬鹿野郎!1ヶ月間、何も取れなかっただろうが!冒険者だけだろうと何だろうと、取れるもんは取れ!」
「大将の言う通りだぜ。大体、こんなガキが強い訳無いだろ」
「残りの2人は別嬪だしな」
「楽しむのは後だぞ?」
「こんなのカモだぜ、カモ」
ハウルを出て半日、昼を過ぎたあたり、ソラ達は盗賊に遭遇した。
6人の盗賊は同じ様なバンダナをし、汚れた服を着ている。手には剣、鉈、短剣のどれかを持っており、それらは全て錆びかけていた。
様々な情報を客観的に見てみれば、こいつらがソラに敵うことは無いのだが、見た目だけなら逆である。
「……何て運の悪い……」
「そういうこった、ガキ。生きて帰りたかったら、持ち物全てと女共は置いてくんだな」
「断る」
「な……に……」
ソラのつぶやきに対し、定型文とも言える脅しを言った盗賊達だったが、ソラの放つ濃密な殺気に気圧されて固まってしまう。
そして、ソラは返事をした瞬間、盗賊の頭領の目の前にまで迫り、素手で喉を裂いた。
「大将⁈」
「クソが!やっちまガ……」
「脆いな」
頭領が殺られると同時に、残った盗賊の1人が剣を振り上げながら叫ぶが、直接向けられて無いにも関わらず、濃い殺気により動きは鈍い。
そしてソラは、そんな盗賊目掛けて回し蹴りを首へと叩き込み、殺す。
「オラァ!」
「遅い」
もう1人、なんとか動けた盗賊は剣を突き出してきたが、ソラはその剣を避け、右手を残して後ろへと回り込み、喉へ右手を叩き込む。
喉仏へと直撃し、気道を破壊された盗賊に生き延びる道は無い。
相手を終えた者には一瞥もせず、ソラは次の獲物へと向かった。
「なっ⁈」
「この程度で俺に挑んだのか?」
「ま、待ガハッ!」
近付いた瞬間に足払いをしかけ、盗賊の体を宙で半回転させたソラは、心臓のある所へと踵を振り下ろす。
その肋骨は粉砕され、心臓もショックで止まった。
「後はお前らだけか」
「あ、アピペ……」
「あ、ああ……」
「死ね」
残った2人へも容赦しないソラ。片方へと一瞬で近付き、首を捻って頸椎を破壊する。
呆然とする最後の盗賊は、頭領を殺したのとは逆の手で喉を裂かれる。
全ての盗賊を殺し、両手を血で濡らしたソラから溢れ出る殺気は、魔力が同調したのもあって、始めよりも濃く、重い。並の人間なら失神したとしてもおかしくはないほどだ。
「ソラ……」
「ソラ君……」
盗賊などとも何度も戦ってきたミリアとフリスですら、動けずにいた。
ソラは相変わらず殺気を出していたが、落ち着いてきたのか、少しずつ抑え出した。
「……ふぅ……さて、ミリア、フリス」
「な、何?」
「ど、どうしたの?」
「なに怯えてるんだよ……まあ良いか。殺した盗賊の持ち物は好きにして良かったんだよな?」
「……その通りよ。まあ、大した物は持ってないでしょうけど」
「発言が貧乏人ぽかったからな。……銅貨だけってマジかよ……」
「それは……」
「貧乏で済むのかな?」
漸く殺気を抑えたソラは、盗賊達の所持品を漁り始める。
殺人も含めて、普通の現代地球人ならできないことであり、簡単にやっていくことに対し、ミリアとフリスは疑問に思っていた。
「……何でソラは平気なの?」
「どういう意味だ?」
「普通なら、人殺しをそんな簡単にはできないよ?」
「私達だって、初めて殺した時は震えてたのに」
「ああ、それか。難しい理由がある訳じゃ無いさ。なんせ……」
ソラは語る。己の成り立ちを……
「俺は、壊れてるからな」
そして、あの日の事を……
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「お、揃ってるな〜」
「……やっと来やがったか」
「空!何で来たんだ!」
「何でって……交渉だけど?」
「交渉だぁ?」
ソラーー小村空が高校1年の夏、友人が不良に攫われ、幽閉先の廃ビルへカチコミに行った事があった。
この頃から空は強かった。この事件の3ヶ月前、地元の不良のリーダーに絡まれ、殴りかかられたが、逆にリーダーを一瞬で組み伏せたほどだ。その結果、個人集団を問わず、多数の不良達が空へと挑みかかるようになった。
しかし、どれだけ数を集めても、どれだけ罠を仕掛けても、空は直接的な打撃を一切使わず、私人逮捕や正当防衛の形を取れるようにして、全てを鎮圧してきた。そして、規模が大きくなるに従い、病院通いと警察沙汰になる不良が増えたが、空は人当たりの良さと、便利屋の様に町の人の手伝いをしてきたこおから、正義の味方の様な形で人々に受け入れられていた。(空自身は恥ずかしがっていたが)
空を倒すために友人が狙われ始めたのはこの少し前だ。いつもは脅して特定の場所に来るよう伝えさせるだけだったが、この時だけは違った。
そして空も、この時ばかりは普段より威圧感を増していた。
「そういうことだ。早い話、無事に帰りたかったら人質を解放しろ」
「は!状況分かってんのか⁉︎こいつを無事に返して欲しかったら、抵抗するんじゃねえよ!」
「じゃ、交渉決裂か。元々、そのつもりだったがな!」
交渉としてはふざけた条件を出し合い、決裂する。これも空の予定の内だ。
友人、それも1番の親友を人質に取られたため、空は元から誰1人として逃すつもりは無かった。
「なっ⁉︎」
「クソが⁉︎」
「はっ!遅えんだよ!」
瞬間的に距離をつめ、友人の側へと跳んだ空。すぐ近くにいた不良の手を掴んで技を決め、床に引き倒した。
「ハァー!」
「得物調達ご苦労さん!」
不良達の中で最も早く行動できた者は木刀を持っていた。丁度良いので空は手首を取り、軽く肘鉄を食らわせ、回して倒し他の不良のそばへ転がした。当然、木刀を回収するためだ。
「がっ!」
「グフ!」
「こんなんで俺と戦おうってのか!」
殴りかかってきた男の腕を逸らし、足で押しのけ障害物として利用する。後ろから釘バットを振り下ろそうとした男へは、回転して側面へ移動した後、木刀を振り釘バットを飛ばした。左右からのコンビネーションには、互いの攻撃を逸らすことで同士討ちを発生させる。羽交い締めをしようとした男は、逆に羽交い締めをかけられ盾にされた。
「ダァァァーー!!」
「バレバレだゴルァ!」
どこからかナイフを取り出し、後ろから刺そうとしていた不良の1人。それに対し空は木刀を振り、ナイフを弾き飛ばす。
だが、それがいけなかった。
「ガフ……ヒューヒュー……」
「……え?」
飛んで行ったナイフ、それが不良の1人の喉へ突き刺さり、頸動脈を斬り裂いた。
その男は倒れ、流れ出た血が溜まっていく。
「あ……あ、あ、あああああーー!」
仲間が死んだ、と認識した不良達。その結果、1人が叫んだのを皮切りに逃げ出した。
そんな中、空は倒れた不良へ近付き、一応の生死確認を行う。結果は変わらなかったが。
「え?し、死んだ?マジで?……ハ、ハハハ、ハハハハハ」
「お、おい?空?」
「ハハハハハ、巧太、こいつ死んだぞ。ハハハ、こんな簡単に、ハ、ハハハ、ハハハハハ、ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ……」
血に塗れた状態で、壊れたように笑い続ける空。それが収ったのは、騒ぎを聞きつけた警官がやって来た後だった。
これが、空の住んでいた地域で、不良が全滅する3ヶ月前の出来事である。
警察は空を罪に問うことは無かった。拉致監禁に対して1人で攻め込んだ事へは怒ったが、空の実力と功績、友人である巧太の言、そして担当刑事が兄弟子だったから、殺人ではなく事故として処理された。
その後、空は豹変した。幸い、稽古等では変わらなかったものの、絡んできた不良に対しては、今まで以上に容赦なく叩き潰していった。
その変化は空も自覚していた。自分の生死に関する倫理観は壊れたのだと。
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「とまあ、こんな所だ」
ソラはあの日の事を、地球の文化を知らない2人のための解説を入れながら話した。始めは神妙な顔をして聞いていた2人も、最後には暗くなってしまっていた。
「……ねえ、ソラ君」
「フリス、どうした?」
「わたしね……初めてソラ君のことを怖いって思っちゃったんだ……あの人達を殺した後、ソラ君じゃないみたいで……」
「私も同じね……冒険者の先輩達と一緒に、盗賊狩りは何回もやったけど……あそこまで怖かったのは初めてよ……」
「ミリア……フリス……」
「……でも、それはわたし達を傷付けられるのが嫌だったからなんだよね?わたし達を守りたかったからなんだよね?」
「ああ、それは間違いない。倫理観が壊れてても、仲間意識とかはそのままだからな。守りたい気持ちが1番だったさ」
「そう?……良かった」
2人の心情を聞いたソラ、仲間を守りたいという意識は強い為、怖がらせてしまった事を反省していた。その反面、ミリアとフリスはソラの過去を聞き、心を理解できたことを嬉しく思っていた。
そんな話をしている間に、盗賊達の死体を燃やし終える。
「さて、こんな所でいいか」
「フリージア、楽しみだね」
「気が早いわよ」
「美味いから、ミリアのメシも楽しみだな」
「そ、そんなこと言わないでよ!」
「はは、そういう所が可愛いな」
「ソラ君、ミリちゃんで遊ぶのはこれくらいにしておこうよ」
「そうだな。このままだと暫く使い物にならなくなりそうだし」
「何よそれ!もう……」
からかわれて顔が赤くなったミリアが先頭に、そしてミリアの早足についていくソラとフリス。
3人は仲良く旅を続けていくのであった。




