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異世界成り上がり神話〜神への冒険〜  作者: ニコライ
第9章 束の間の平穏

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第7話 自由都市フリージア③




「まあ、こんなところだ」

「ありがとう、ございました……」

「それにしても、筋が良いな。予想以上に飲み込みが早い」

「そうですか……?」

「あと20年修行すれば、俺に追いつけるかもな」

「……はい?」

「いや、20年で五分五分か。後半は才能と感性次第だからな」

「……嘘、ですよね?」

「本当の話だ。ちなみに、俺は10年かけずに修めたぞ」

「……化け物ですか……」


朝、街道近くの草原にて、汗ひとつかいていないソラと倒れ伏すジュン。普通に戦えば、ここまで一方的に蹂躙されるということは無い。

だが、身体強化無しというルールでやったのだから、これも当然のことだ。ソラが神と成った時に得た身体能力を封じても、圧倒的な技の差が存在するのだから。


「ソラ君、終わった〜?」

「ああ、終わったぞ。」

「ちょっとジュン‼︎大丈夫⁉︎」

「リ、リーナ、落ち着い……」

「え、えっと、そうだ水!」

「うわ、ちょ、待っ!」


声をかけに来たフリスを抜き、リーナが走って来る。そして魔法で水を作り出し、ジュンの顔面に大量にかけた。

どうやら、パニックになりかけているらしい。もう既に、ソラが稽古をつけた回数は二桁を超えているのだが。


「……何やってるんだ?」

「まだ慣れないの?」

「え、いや、だって」

「……リーナ、落ち着いて。俺は大丈夫だから」

「練習相手を傷つけるなんて、三流以下のすることだ。俺はそんなに下手じゃない」

「うん、ソラ君は凄いんだよ」

「フリス、ミリアが呼んでるんじゃ無いのか?」

「あ、そうだった。ご飯できたよ」

「そうか、ありがとな」


現在の9人の食事は、ほぼミリアとアキが担っている。他の面々を多少の手伝いはするものの、この2人が料理好きで中心から離れようとしていない。

火魔法を使った調理をアキは知らなかったので、普通に薪などを使っている。なのでソラはいなくても大丈夫だ。そのため、この時間を利用してソラはジュンに徒手空拳の稽古をしているのだった。


「おーい!」

「大丈夫?」

「あ、トオイチ!カズマ!」


そう言って、ジュンは2人の方へ走っていく。

ボコボコにやられたせいか、優しい仲間に飢えているのかもしれない。リーナと手を繋ぎながら、なのだが。


「よう、今日も終わったみてぇだな」

「はは、今日も惨敗だよ」

「身体強化無しなら仕方ないって。あのソラさんなんだから」

「おい、何だその言い方は」

「だって、その通りだぜ」

「否定はできないと思います」

「……ちっ」


実際その通りなので、何も反論できない。なので放置してソラは戻っていった。

そして6人はミリアとアキが調理をしている所までやってきたが……何故かソラがミリアに詰め寄られていた。


「ソラ、あまり大人気ないことはしちゃ駄目よ」

「稽古の内だ。それに、怪我も無い」

「それでもね。傷が無ければ良いというものじゃ無いのよ?」

「その辺りもちゃんと調節しているから大丈夫だ。やる気がある間しか稽古はつけて無い」

「そう?なら良いわ」


この間、リーナはハルカと共にアキに支持されて配膳をし、ジュン達は周囲の警戒と調理器具の片付けをしている。

そして、9人は朝食を摂り始めた。


「今日も良い天気だね」

「2日前は雨だったけど、これなら道も直ってそうね」

「この調子なら、昼前にはフリージアに着きそうだな」

「はい。フリージアを越えれば、やっと王都です」

「やっと……そう、本当にやっと……」

「気負うなよ。本番はもっと後だ」

「え、ええ……」

「リーナ、大丈夫だから」

「ジュン……」


勝手に2人きりの世界に入り込むジュンとリーナ。それを見て、残りの面々は2人に聞こえないように集まる。


「おい、こいつら本当に付き合って無いのか?」

「告白した様子はありませんでした。でも……」

「どう見ても、なぁ……」

「カップルね」

「初々しいよね」

「どうしてああなったんだろう?」

「もしかして、指輪?」

「既成事実ってことなのかもな」

「え⁉︎」

「既成事実って……いつの間に……」

「おい馬鹿そっちの意味じゃない」

「わ、分かってます」

「ねえアキ、何を考えてたのよ?」

「言っちゃった方が良いんじゃ無いかな?」

「え、その……」

「ミリアとフリスも、アキを虐めるな」

「はーい」

「虐めては無いわよ」


そんな風に、まあ平和に話をしていたのだが、ある存在がソラの知覚に引っかかった。


「それで……っと?」

「来ちゃったね」

「そう。なら、どうするのよ?」

「え?」

「どうしたんですか?」

「魔獣だ。数は7、北西からだな」

「オレが行くぜ」

「あ、僕が行きます」

「じゃ、あたい!」

「では私が」

「……じゃあ俺が」

「「「「どうぞどうぞ」」」」

「やっぱり⁉︎」


漫才では無いのだから、とソラは苦笑している。そして、これを知らないミリア、フリス、リーナは頭に疑問符(はてなマーク)を浮かべていることだろう。


「この辺りの魔獣なら、1人でも大丈夫だ。というか、ただのゴブリンだな」

「分かりました。それでは、行きます」


そう言って、ジュンは1人で走っていく。そしてその背中を、リーナは少し心配そうに見送っていた。


「大丈夫だよ」

「え?」

「ジュンは強いでしょう。そう心配することは無いわ」

「分かってるわよ。でも……」

「やっぱり、好きな人が言っちゃうのって心配?」

「えっ⁉︎」

「やっぱり自覚してたのね。ステイドで分かってたことだけど」

「凄く甘えてたもんね」

「指輪はやっぱり、薬指にはめたかったのよね」

「その後は抱きついちゃったり?」

「キスを邪魔されたのは可哀想だったわ」

「宿もジュン君と一緒の部屋にした方が良いかな?」

「好き勝手言わないで!」


強い口調で凄むリーナ。だが、涙目で顔を真っ赤にしていては台無しだ。そしてそれを良いことに、ミリアとフリスは話を続ける。


「ジュンも多分その気だし、もう少しで恋人同士になれそうね」

「でも、リーナちゃんが言った方が良いんじゃないかな?だってジュン君って別の世界から来たんだよ?」

「それもそうね……告白するなら、ハウルの方が良いと思うわ。王城なら良い場所があるでしょう?」

「あ、上の方にお庭があるって、聞いたことあるよ」

「そういえば……なら、そこで決まりね」

「あとは、渡すもの?」

「そこは指輪が良いわ。薬指用の物を作らないと」

「でも、サイズとかはどうするの?リーナちゃんは知ってる?」

「え、えっと……?」

「ソラに頼めば良いわ。というか、上手くやると思うわよ」

「そっか。じゃあ他には……」


ミリアとフリスはリーナを焚き付け、さっさと告白させたいようだ。というかステイドでできなかったために、だいぶ後が無くなってきている。そこを少し心配していた。

まあ、楽しんでいることも確かなのだが。


「そんな勝手に……」

「リーナ?悩んでるみたいだけどどうしたの?」

「ジュ、ジュン⁉︎えっと、その……」

「じゃあリーナ、私達はソラの方に行ってるわね」

「ジュン君、リーナちゃんをお願いね」

「あ、はい」

「え、あ、ちょっと……」


だが、2人の思惑は実現せず、リーナが混乱してしまうだけだった。














ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー















「ねえソラ君、ジュン君とリーナちゃんの方に行かなくて大丈夫なの?」

「見逃すかもってことか?」

「うん」

「流石にこの町で進むことは無いはずだ。あの2人だぞ?」

「そうだけど……」

「フリスは見逃したく無いのよね」

「うん」

「でも、私も今日は進まないっていうのは同感よ。リーナだって、思い出にしたいはずだもの」

「だからなの?」

「少なくとも、ハウルの方が綺麗な思い出になりやすい」

「朝も言ったけど、王城とかね」

「そっか……じゃあ、今は遊ぼ!」


フリージアに着き、羽根を伸ばす3人。フリスがあの2人を気にしていたのも……まあ、様式美に近い。

この町に滞在するのは1日だけなので、特に何も起こらないだろう。部屋も別なので、大丈夫なはずだ。


「なら、何処に行くか決めないといけないわね」

「そうだね。ここだと……図書館?」

「そんな特別な場所でも無いだろ。それで、劇場が良いんじゃないか?」

「劇場?」

「何で?」

「ああ……勇者をモデルした劇ってのも面白そうじゃないか?」

「良いわね、それ」

「うん、面白そう」


人の悪そうな笑み、そう言われても仕方の無い表情を浮かべ、3人は歩みの方向を変える。というか、悪人と思われても仕方が無いかもしれない。


「どんなのがやっているかしらね」

「どうだろうな。魔獣の大群を防いだらしいから、その辺りか?」

「もしかしたら、召喚された時かも」

「確かに。それもありそうだ」


行かないと分からない事なのだが、こうやって話しているだけでも楽しいものだ。そうしてしばらく歩いているうちに、劇場までやってくる。

劇場の外にはこの後の演目について書かれた看板があり、そこへソラ達は目を向けた。


「今日の演目は……多分これね」

「すぐ始まるみたいだな。ちょうど良い」

「でもこれって、いつのことなのかな?」

「タイトルだけだと微妙だな……旅に出た後みたいだが」


中へ大勢が入っていくにも関わらず、看板の目の前にいる3人は目立っている。だが、そんなこと気にもしていない。

ソラ達が気になっているタイトルは森の賢者、これだけではほとんど分からない。勇者関連ということだけは、書いてあるので分かるのだが……


「もしかして、この森って町のことかな?」

「ならエシアス?でも、あそこで賢者って呼べる人だと、それこそエルフの族長くらいよ?いくら勇者でも簡単に会えるとは……」

「いや、族長以外にも1人いるぞ」

「え?」

「次期族長。可能性としてはあり得るだろ?」

「その場合だと、互いに縁がありすぎだよね」

「確かにそうね。でも、可能性の話でしょ?」

「当然だ。というかこの話が本当なら、半年前にジュン達があの辺りにいないと説明がつかないぞ」

「それに、噂にはなってたはずよ」


そんな風に話をしつつ、考えすぎだろうと思いながら、3人は劇場の中へ入っていく。中でいくつか食べ物や飲み物を買い、席に着く。


「ソラ君、これ美味しいよ」

「お、本当だな。こっちも美味いぞ」

「ソラ、こっちにもあるわよ」

「っと、ごめんな」

「良いわよ。でも、食べてよね?」

「ああ」


そしてしばらくすると、幕が開けた。どんなものかと3人は期待していたが……


「まさか、本当に会ってたなんてな」

「でも、町は違ったわね」

「マイリアちゃんも北に行ったんだね」

「自分の実力を高めるなら、魔獣が強い北に向かうべきだ。共和国じゃなく帝国に行ったのは予想外だったが」

「ストーリは結構共和国に近い町よ。少し寄ったくらいかもしれないわ」

「そうなのか?」

「ええ。ロスティアにも近いし……確か、砦への補給経路でもあったわね」

「なるほど」


劇の内容は大まかにソラ達の言った可能性の通りだった。まあ、それでも楽しんでいたのは確かなのだが。

内容はジュン達は迷宮都市タジニアから少し離れた町、石都ストーリでマイリアと会い、パーティー戦に関するアドバイスを受けていたというものだった。守る者として、マイリアが全体を俯瞰する視線から見ていたためらしい。そうして2つのパーティーは絆を深めていき、近くの森の中に現れたSSランク魔獣を共同で倒したそうだ。そして、共に戦い続けることを誓い、別れたとのこと。

ただ、全てが真実であるということは無いだろう。


「でも、教えれるくらいになってたのかな?」

「どうかしらね。全体を俯瞰できるのはマイリアの良い所だったけど……」

「恐らく、模擬戦を繰り返していたんだろうな。その中で、マイリアがアドバイスをすることが多かったんじゃないか?」

「それでこんな風に作っちゃって良いの?」

「物語は誇張されるものだ。そこは仕方が無い」

「そっか」

「でも、その方が面白いわ」


面白く作るからこそ、物語は誇張される。それはまあ、仕方が無い。

ただ、これで3組4人目だ。


「それにしても、互いに縁がありすぎよね」

「確かに。ハウエルとエルザとヒカリもジュン達に会ってるんだったな」

「もしかしたら、ドラ君も会ってるかもしれないね」

「ここまできたらその可能性も高いか」

「でも全員、相手が私達に教えてもらったってこと、知らないのよね」

「ドラには兄弟子がいるとしか言ってないからな……一堂に会することがあったら面白そうだ」

「あるんじゃないかな?」

「フリス?」

「どうしてだ?」

「だってジュン君達と魔王城に行く時は、冒険者も動員するんだよね?みんな強いから、勇者と同じ所にって考えてもおかしくないよ」

「確かに……その時が楽しみだな」

「そうね」

「うん、わたしも」


それが現実となるのか否か、それはまだ誰にも分からないことであった。










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