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異世界成り上がり神話〜神への冒険〜  作者: ニコライ
第9章 束の間の平穏

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第3話 火都バードン⑦




「おーし、着いたな!」

「うるさいぞ、トオイチ。大声で叫ばなくても分かってる」

「諦めてください。トオイチは、結構な温泉好きですから」

「そうなの?」

「そうね。前に来た時も、こんな感じだったわ」

「そう、まあ最初はソラも同じような感じだったわね」

「そうか?」

「うん。だって駆け足になってたもん」

「へえ、そうなんですか」

「珍しいですね」

「お前達だって同じだろ」


ロスティアを出て、温泉街に着いた9人。6人の元日本人組だけでなく、リーナも温泉は好きなようで、全員が興奮を隠していなかった。

ただ、羽目を外し過ぎてしまった者はいるもので……


「それで……買い食いし過ぎだ」

「いや、良いだろ?」

「腹が減っては戦はできぬって言うじゃん」

「だって美味しいんだもん」

「それでも時と場合が……って、フリスもか!」

「うん」

「何か駄目なことがあったか?」

「買うこと自体は悪くない。だが、全員バラバラにフラフラ動くな。子どもの遠足じゃ無いんだぞ」

「まあ、確かにそうですね」

「えんそくって何?」

「前の世界でのことなんだが……子ども達を普段とは別の場所に連れていって、遊ばせたり学ばせたりすることだ」

「少し違う気もしますけど、だいたいその通りですね」

「それ、危なくない?」

「向こうには魔獣がいないからな。ジュン、リーナに話はしてなかったのか?」

「えっと……取り敢えず私達がこちらに慣れるということになりまして」

「それでしばらくしていたら、話す機会が無くなっていました」

「観光を楽しんだりもしてたんでな」

「それで、今まで話して無かったのね?」

「はい」

「そうです」

「なら、後でちゃんと説明しておけ。今のリーナは興味津々みたいだぞ」

「ちゃんと聞かせてよ、ジュン?」

「分かった、だからちょっと離れて」


好奇心は猫をも殺す、ということわざもあるが、この場合は問題無い……はずだったのだが、この2人の状態ではターゲットにされてしまう。


「仲が良いな」

「可愛らしいわね」

「初々しいよね」

「ちょっと、そんな風じゃ……!」

「ん?どうした?」

「別にジュンやリーナが関わってるなんて言ってないわよ?」

「ね〜」

「屁理屈よ!それは!」


屁理屈も理屈のうち、とソラが思ったかは定かでは無い。ただ、止めるつもりは一切無いようだ。


「さて、早く宿に行くぞ。遅れたら勿体無いからな」

「誰のせいよ!」

「リ、リーナ、落ち着いて」

「そうだな、行こうぜ」

「急ぎませんか?早くしないと良いところが取れません」

「じゃあ、行こっか」

「はい、行きます」

「え、ちょっと待っ」

「ええ、そうね。行きましょう」

「はーい。早く行こ」

「いきなりすぎ!」

「ほらほら、遅れるぞ」


少々周囲の注目を集めたものの、騒がれることなく宿を決めることができた。











ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー












「ハァァ……」

「リーナ、そんな暗い顔をしないの」

「元気出して」

「そんな落ち込まないでって」

「大丈夫ですか?」


宿にある女子風呂にて、落ち込むリーナと笑う4人。

この町でも最高クラスな宿なだけあり、20人以上入れる露天風呂が貸切となっている。ただ、その中でのやり取りはふさわしくないと言われるかもしれない。


「何でああなったと思ってるの……」

「何でって、リーナが面白かったからよね」

「うん。楽しかったよ」

「分かってて……」

「あはは、リーナも勝てないんだ」

「2人にも話したでしょ?最初に会った時、少し苦手意識も持ったのよ」

「え、楽しんでたでしょ?」

「無理矢理洗ったでしょ!」

「血塗れでいるのは可哀想だったもの。仕方ないわ」

「仕方ない?」

「仕方ないを思う人〜」

「その通りね」

「あたいも」

「はい」

「味方がいない……」


王女であるリーナが揶揄われており、宿の従業員が事実を知ったらひっくり返るかもしれない。まあ当人を含めて身分差を気にしない面々なので、問題は無い。

ただ、揶揄うだけでなく、ミリアとフリスは本気だったらしい。


「まあそんなことより、どうなのよ?」

「ど、どうって?」

「ジュン君のことだよ」

「え、ええ⁉︎」

「あ、気になる」

「どうなんですか?」

「いや、ちょっと……」

「隠さなくて良いわ。というか、誰が見てもバレバレよ」

「うぅ……」


顔を真っ赤にして、唸るリーナ。恥ずかしいのか、難しいのか、なかなか重要なところを言おうとしない。


「そ、その……」

「その?」

「ジュンのことは……」

「こ、と、は?」

「ことは?」

「煽らないでよ!」


煽る、というか茶化す4人に対し、割と本気で怒っている。ただ、大声を出して少し楽になったのか、再度口を開いた。


「……分からない」

「え?」

「分からないのよ!どうなのか、何というのか……」

「自分の気持ちが分からないんだね。でも、仕方ないよ」

「そ、そう?」

「ミリちゃんだってそうだったから」

「まあ……そうね。また少し違うとも思うけど」

「違うなら意味無いでしょ……」

「でも、その気持ちを知るのは大切だよ」

「そうなの?」

「ジュン達はソラとは違うもの。役目を終えたら、帰っちゃうのよ?」

「あ……」


そこまで思い至らなかったのか、呆然とするリーナ。ハルカとアキも同様なのか、口は閉じたままだ。


「最後にどういう決断をするかはリーナ次第ね。でも、後悔しないようにしなさい」

「知って後悔する、なんて考えちゃ駄目だよ。知らないと絶対後悔するからね?」

「うん……」

「でも、迷いすぎるのもよくないわ。これは理性の問題じゃないもの」

「えっと……」

「自分に素直になるってことだよ」


普段は強気な発言も多いリーナだが、今は弱い、普通の女の子にしか見えない。考え、悩み、答えを出す。それだけなんだと、2人は言っていた。

ただ……


「まあ、失恋するのも、ある意味経験よね」

「悪いことじゃないよね」

「失恋したこと無い人が言わないでよ!」


事実なのだから、リーナの方が正論だ。感心して聞いていて損した、と思っているのかもしれない。

だが、これもリーナのためだった。


「軽くなったわね」

「え?」

「考えすぎるのも駄目だよ。今は大変な時なんだから」

「それは、そうだけど……」

「戦う時に迷っちゃ駄目ってだけよ。勝たないと、未来なんてないんだから」

「そうね……まだどうなのか分からないけど、私、頑張るわ」

「ええ、その意気よ」

「頑張ってね」

「あたい達も応援するよ」

「ジュンの初めての人になるかもしれませんね」

「は、初めてって……その……」


気持ちの整理がつくのは、まだまだ先のようだ。











ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー













「はぁ……」

「おい、何だその陰気臭い顔は」

「何やってんだよ」

「元気がないですね」


一方の男子風呂。こちらもまた広い露天風呂で、1人だけ落ち込んでいるのも同じだ。違うのは人数くらいかもしれない。


「散々人を揶揄っておいて何を言うんですか……」

「そんなに間違ってないだろ?」

「え、えっと……」

「バレバレだ。だろ?」

「おう」

「はい、そうです」

「えぇ……」


ここまでほぼ同じだ。まあ、こっちは困り果てているのだが。


「率直に聞く。リーナのこと、好きなんだろ?」

「それは、その……」

「まさか嫌いなのか?」

「そんなわけ無いです!」

「じゃあどうした」

「ただ、俺は……」

「この世界の住人じゃない、だな?」

「はい。俺は召喚されたんだから、役目を終えたら帰らないと……」

「それは本当に義務なのか?」

「え?」

「絶対に帰らないといけないのか?この世界に残るって手があっても良いだろ?」

「あ……」

「あー、なるほど」

「確かにそれもあり得ます」

「日本にも家族や友達がいるだろう。お前の人生だ、好きに生きろ」

「……はい」

「ただ、帰るって選択肢があるだけ、幸せなんだからな?」


ソラはもう帰れない。ベフィアで先を見つけたとはいえ、選択肢が最初から無かったのだ。3人もそれを気にしてしまう。

当人は全く違ったが。


「とまあ、俺が言いたいことはこれだけだ。呑むか?」

「ちょっと……今までの雰囲気がぶち壊しですよ!」

「楽しい方が好きだからな。それに、俺も人にアドバイスできるほど経験は無い」

「何で偉そうに言うんですか……」

「まあ、一応師匠だからだな」

「今だけ師匠面かよ」

「権利は使える時に使うものだ」


真摯に聞いていたが、これを聞いてジュンは一気に呆れていた。

だがそんなことは気にせず、ソラは日本酒を入れ物ごと出している。一升瓶よりは小さいが、十分多い


「それで……それを全て呑むつもりですか?」

「ん?半(しょう)くらいは余裕だぞ」

「大丈夫なのか?これ」

「結構マズかった気が……」

「弱い奴だと倒れたりもするらしいが、俺達だと呑んでるうちに入らない」

「色々と規格外なんですね……」

「そんなの今さらだろ、今さら」


正体は明かしていないが、それだって今さらでもある。ソラはそんな風に思いつつ、酒を煽っていった。












ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー










「う……」

「あう……」


風呂上がり、食事が並べられた机の前で、ジュンとリーナは固まっていた。

3人ずつで部屋を取っているが、食事の時は1つの部屋に集まることにしている。2人が固まっているのはそんな中だ。


「その、リ、リーナ……?」

「ジュン、な、何……?」


ただ、このままではいけないと思ったのだろうか。時折どちらかが声をかけ、話をしようとする。

だが、目を合わせると……


「う⁉︎」

「ひゃう!」


一気に真っ赤になって顔をそらす。このやり取り、既に2ケタになるほど繰り返されたことだ。


「……何やってんだ、お前ら」

「い、いや、その……」

「な、何でも、無い、わ……」

「変わりすぎよ」

「大方、ミリアとフリスが焚きつけたみたいだな」

「ソラ君もでしょ。ジュン君もじゃん」

「まあそうだが」

「でも、予想以上よね。これ、大丈夫かしら?」

「まあ、ハウルに着く前には戻るだろ。この町でだいぶ慣れるだろうしな」

「そんな、他人事みたいに……」

「何なら、2人部屋に変えてやるぞ?俺達が分かれれば良い」

「はい⁉︎」

「えぇ⁉︎」

「流石にそれは急すぎるわよ」

「いきなり過ぎだもん」

「まあ確かに。だがまた後で、2人で話す時間は取ってやる」


このままガチガチというのは、色々な意味でマズい。自然に直るとしても、少し手を加えることくらいはした方が良いだろう。


「ジュンもだし、リーナもそうだろうが、考える時間は必要だ。違うか?」

「はい……その通りです」

「わ、私も……」

「幸い、時間はまだある。急ぐ必要は無い」

「うん……」

「ただし、本当にやるべきことは間違えるなよ。未来が欲しいのなら、負けるな、勝ち取れ」

「う……わ、分かったわ」

「はい……分かりました」


散々煽っておいて何を言うか、と思うかもしれないが、こっちの方がソラの本心だ。割と世話焼きだったりする。


「あれで良いのか?」

「どうでしょう」

「どうなるのかな?」

「楽しみですね」


純粋に面白がっているのは、この4人の方なのかもしれない。











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