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異世界成り上がり神話〜神への冒険〜  作者: ニコライ
第8章 礎となりて

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第20話 城塞都市ゲリアル①



「で、では、お、お預かり、いたします」

「ああ、頼む」

「は、はい、畏まりました……」


ソラ達を前にして、ギルドの受付嬢は畏怖を抱く。その理由は、ソラが出した封筒に描かれた紋にあった。


「可哀想ね」

「俺のせいじゃ無いけどな」

「わたし達のせいみたいなものだよ?頼まれたことだけど」


これは調査の終了時に頼まれた、調査の簡易報告書だ。つまり王国、それも王室行きのもの。緊張するのも当然である。


「さてと、これからだが……」

「し、失礼します」


そしてギルド内にある机の1つに集まったところで、先ほどの受付嬢が再度やってきた。


「何?どうしたの?」

「お、王国から書類が届いております」

「早すぎるわよね?」

「恐らく俺達からのやつが届いた時に、これを送るようあらかじめ決められていたんだろうな。ありがとな」

「は、はい……」


それを受け取り、封を解く。その中に書かれていたことは、かなり単純なことだった。


「えっと……すぐにハウルに戻るように?」

「わたし達だけ?」

「いや、ここに書いてある。ジュン達も呼び戻すらしいぞ」

「それって……始めるのね」

「恐らくはそうだな。俺達にとっても都合が良い」

「魔獣が減ったままだから?」

「ああ、流石にあの規模は報告できないからな。また減らすのは面倒だ」

「ええ、そうね」

「じゃあ、すぐに行く?」

「そんなに急がなくても良いだろう。急げとも書かれていないし、なにより向こうは準備が必要だ」

「準備……そうね、私達がいつ調査を終えるのか、向こうは分からないもの」

「あ、そっか」

「ああ。だからこそ、旅をしながらでも十分に休息が取れる」


兵の招集に補給物資の確保など、国がやるべきことは多い。さらに王国だけでなく帝国と共和国も準備をするので、より時間はかかるはずだ。

1つのパーティーが縦断するより早く終わるとは思えない。


「まあ今日は、戻ってきた記念でどこかで食べることにするか。休むのは明日からでも良い」

「それも良いわね」

「やった!それで、どこ行く?」

「ここも兵士や冒険者向けの店が多いからな……適当な居酒屋にするか」

「変な所はやめてよ。絡まれるなんて嫌だわ」

「不幸なのは絡んだ連中か。分かった、高めの……どうせ行くなら、最高級が良いか」

「うん!行こ行こ!」

「待ちなさい、今行ってもまだ開いてないわよ」

「まだ昼を過ぎたばかりだ。もっと待て」

「はーい」


流石に真昼間からやっている居酒屋は無い。まだ無理だ。


「でも、ちょっと気になるわね」

「何が……さっきのか?」

「ええ。前線で合流じゃなくて、王都まで来いって言ってるのよ?普通ならおかしいわ」

「まあ確かに。だが、意味はあるぞ」

「どんなの?」

「平和を保っているとはいえ、この世界にとって魔獣は脅威だ。そんな所に数千、もしかしたら万を超えるかもしれないが、それだけの大軍が威勢良く来たら、一般人はどう思う?」

「心強いし、応援するわね。そう、そういうことね」

「あ、そっか」

「最前線までは、パレード的な意味合いが強いだろうな。流石に、俺達が動員されることは無いだろうが」

「ジュン君達は大変だね」

「主役だからな。俺達がするべきことは、巻き込まれないようにすることだ」

「私達まで使われるとは……考えたく無いわね」


薄情と言われるかもしれないが、目立ちたく無いのだから仕方がない。


「ただ、巻き込まれる可能性も否定できないか……その時は諦めるしかないな」

「命令とかされちゃったら、逆らっちゃ駄目だもんね」

「私達が反対しても気にしなさそうだけど」

「まあ、抗議くらいはする。そして諦めるだろうな」

「諦めちゃうの?」

「フリスが言ったんだろ」

「うん、そうだけどね」

「まあ、その辺りは良いわ。それより、戦力の方が気になるわね」

「戦力としては、帝国と共和国が中心になるだろう。言うのはアレだが、王国は弱いからな。精々後方支援部隊くらいか」

「でも、少しはいるんじゃないかな?」

「本当に少しは、だろうな。近衛騎士団が当てはまるかもしれないが……楽観はできない。ただまあ、冒険者も動員されるだろう」

「冒険者も?」

「ああ、貴重な戦力だからな。兵士や騎士達と足並みを揃えるのは難しいだろうが、パーティー単位で使えば同数の騎士より役に立つ可能性もある」

「そうね……ありえるわ」

「冒険者はパーティーの人数少ないけど、連携が上手だもんね」

「連携の仕方が違うからだな。冒険者はパーティー単位なのに対し、騎士は部隊単位だ。人数を揃えられる状況なら、確実に騎士の方が強い」

「騎士でも一部には凄い人がいるけど、まあそれは一部ね。全体としてはそんな感じだと思うわ」

「そんな感じだ。それより、魔王城までどんな感じで行くかだな」

「魔王城までって、全員で進むんじゃないの?」

「それだと人数が多すぎる。第1、それだと補給線が伸びきって大変なことになるぞ」

「補給線が伸びると……魔獣に襲われる可能性が高まるわね」

「ああ。だからこそ少人数……俺達とジュン達だけでの突破を提案する」

「9人だけ……不安に思ったりしないかな?」

「そこはどうにかする。というか、見られる人数は少ない方が良い」

「アレがそうならそうだけど……確信があるのね?」

「確信ってほどでは無い。ただ、そうなるだろうって予感はある」

「そっか……なら、わたし達も頑張らないとね」

「ええ、ソラのサポートくらいはできないといけないわね」

「今でも十分だぞ」

「十分じゃ駄目よ。ソラはすぐに上に行くんだから、追いかけないとたどり着けないわ」

「追いつくつもりか」

「うん。だって、守られるだけなんて嫌だもん」

「ええ、隣に立てる程度には強くいたいわ」

「まったく……だが、ありがとな」

「私達のためよ」

「お礼を言われることじゃないからね」


こうは言っているが、ソラだって2人の気持ちは理解している。ただの話のネタに過ぎず、笑顔は絶えない。

だが、常に笑顔でいられる状態ではないようだ。他のテーブルから、こんな会話が聞こえてきた。


「なあ、聞いたか?」

「何を?」

「最近、北の森が騒がしいらしいぞ」

「何だ?魔獣が攻めてくるってのか?」

「分からん。だが、いつもいる魔獣がいないってことが多いらしい」

「へえ、なんか怖いな」

「似たようなことは砦の連中から聞いたことあるよ。なんか、夜に森の奥が光ったことがあるとか」

「何だよ、同士討ちか?」

「……それなら良いな」

「何が?」

「……ドラゴンに魔獣を食わせるとどうなるか、分からないだろ?」

「おいおい、まさかそんなこと」

「あり得ないか?」

「あり得る、かも……」

「うわ、怖……」


……何だか現実と完全に違う結論へと達していたが。


「……派手にやりすぎたか」

「そうね。でも、バレてないなら良いわ」

「まだ違和感だけだもんね」

「というか、盛大に勘違いしてくれたな。これなら事実に結びつかなさそうだ」

「知られたら面倒だもの。ここままでいてほしいわね」

「余計な警戒をされるのもアレだけどな」


警戒され過ぎて、本番の時に萎縮されても困る。まあ、その辺りはソラにはどうにもできないので、流れに任せるしか無い。

そして、それからしばし時間を潰した後、3人は席を立つ。


「さてと、そろそろ良いくらいの時間か」

「そうね。少し早いけど、開いた店もあると思うわ」

「じゃあ行こ!」

「焦らないの。お店を決めてからよ」

「だからだよ!」

「まったく。ミリア、付き合ってやるぞ」

「ええ、いつものことだもの」

「やった!」


久々の平穏。戦いを生業としていても、これが欲しいことに変わりは無かった。












ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー















「さてと……」


深夜、この町にある最高級の宿の1室にて、ソラは椅子に座って呟く。ベッドの上ではミリアとフリスが寝ているため明かりは使えないが、思考の問題にはならない。


「これで得るべき情報、行うべき準備は全て終わった」


()しくもこの魔王支配領域の調査によって、ソラの欲しい情報、そしてするべきことの準備は全て終わっていた。残るは、それを実行するのみである。


「後は本番だけ、か。長かったな」


そしてだからこそ、このような思考が必要となる。


「だが……それが1番の問題だ」


最大の、それこそ人生最大の難題が待ち受けている故に。


「魔王そのものは問題無い。負けることなんてまずあり得ないし、魂ごと滅ぼす手段だって持ってる。できれば使いたくは無いが……こっちは大丈夫だ」


聖剣に隠された能力があったとしても、もしくは聖剣と魔王という組み合わせにこそ意味があるのだとしても、それと同じことを擬似的に再現することは可能だ。今のソラ達からすれば、まだ見ぬ魔王も敵にはなり得ない。


「問題になるのはその後か」


本番はその後なのだから。


「アレが本当なら、恐らく……」


ソラが知覚したアレ、それには確信があるというわけでは無い。ただ、そうなるという予感があるだけであり、具体的な理由は無い。

それを分かっているが故に、ソラは信じていた。


「だが、今の俺達ならできるはずだ。俺1人では無理でも、ミリアとフリスがいれば」


そして、その予感が本当であれば、ソラ1人ではどうにもならないということも。だからこそ、2人が必要だった。


「問題は、キッカケがどこにあるかか。それだけは掴めなかったからな」


ただ、それを行うにはキッカケが必要だった。そしてそれは不明なまま、これでは何も起こせない。


「だが見つけ出す。必要ならば、小細工を加えても、な」


もしかしたら、裏切りと言われるかもしれない。だがそうだとしても、ソラは止まらない。未来のために。


「それにしても……」


ただ、気になる点もある。本筋とは違うが、思考を割きたいと思うほどには。


「俺と勇者、そして魔王、さらに……偶然か、それとも必然か」


勇者と魔王の繰り返しは何度もあった。だが、その間隔は非常に長い。こんなピンポイントでソラが関わったことに、何か理由があるのかもしれない。そう考えてしまうのも、あり得ることだ。


「どちらとも取れる。そしてどちらだとしても、俺のすることは変わらない」


だが真実がどうだとしても、やることは変わらない。むしろ好都合だった。


「というよりも、この状況は他の場合に比べれば好機か。理由も、都合も、お膳立ても、何もかもが揃っている」


これらが無くても、目的を達することはできる。とはいえ、揃っていた方が楽であるは確かだ。


「だからジュン、利用させてもらうぞ」


そしてそのためなら、他人を利用することも厭わない。使い捨てるわけでは無いが、理由を話すつもりも無い。巻き込むのは、2人だけで十分なのだから。

と、その2人が起きてしまった。


「ソラ……?」

「ソラ君?」

「ああすまない、起こしたか」

「何をやってたのよ?こんな時間に」

「情報を整理していただけだ。さて2人とも」

「どうしたの?」

「これから進む道は、永遠の責め苦となるかもしれない。それでも、ついて来てもらうぞ」

「当然よ。私達はソラと運命共同体なんだから」

「うん。ソラ君と一緒にいられるなら、何処にでも行くよ」

「まったく、そんな言い方をしなくても良いだろ。ただ、ありがとな。それと……心配性ですまない」

「今さらよ。覚悟なんて、とっくの昔に決めてたわ」

「うん。気にしなくて良いんだよ」

「……ありがとう」


人生を、これからの生を共に歩む者。巻き込むのでは無く、彼女達の意思で共に来る者。そんな存在がいてくれることが、ソラはそれが何よりも嬉しかった。










第8章END


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