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異世界成り上がり神話〜神への冒険〜  作者: ニコライ
第8章 礎となりて

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第19話 魔王領⑦



「……これって、どうしてなのかな?」

「逃したく無いってことかもな。今までの被害場所から、大まかなルートは分かったんだろう。ダンジョンにいた時に抜かれたか」

「罠を張られたのね」

「ただ、あれだけの数となると……ほぼ根こそぎ集めた感じがするな。編成が雑で、寄せ集めの場所もある」

「たった3人に集めすぎよ」

「その3人のせいでどれだけの被害が出てるか、分からないけどな。幸い、ここは砦とはまだ離れている。騒ぎになる心配は無いぞ」

「やった!」

「でも、魔人が相当数いる可能性もあるわ。気を抜いちゃ駄目よ」

「うん。大丈夫だよ」


デイルビアから南へ1日進んだ場所。その丘の上から見える景色に、3人は驚きを隠せなかった。

なにせ見えているのは、数万はくだらない大量の魔獣達。恐らく魔人もこの中に混じっているだろう。負けるとは思っていないが、時間がかかることは確実だ。


「それで作戦だが……合図と同時に、神気でマークしたポイントへ順番に神術を撃ち込め。正確にな」

「誰に言ってると思ってるの?」

「言うまでも無いか。まあ、やってくれ」

「何をするのよ?」

「追い込み漁だ」


そう言うと、ソラは2人に対し具体的な説明を行う。それでミリアとフリスは納得したようだ。


「そういうことね。分かったわ」

「じゃあ、わたしはその後あっち?」

「そうだな、その方が良い。ミリア、あの場所にいてくれ」

「ええ、任せるわよ」

「ああ、任された」


そして3人は分かれる。フリスは丘の上に残り、ミリアは魔獣に近づいていく。そしてソラは戦場を見下ろす高空にいた。


「さてと……フリス、始めろ」

『はーい』

『ソラ、魔獣の一部が動いてるわ。気付かれたわけじゃないと思うけど……』

「把握している。この程度なら問題無い」

『そう。なら良いわ』


そう話している間にも、フリスは順次神術を撃ち込んでいる。それはソラが指定した通り、一見ランダムだが奥の方ほど多くなるようになっていた。


「動いたな。フリス、撃ち込む場所を大きく変えるぞ。ついて来いよ」

『うん、大丈夫』

「ミリア、もう少しで出番だ。良いな?」

『勿論よ』


神術の頻度が高くなり、逃げ場は狭まっていく。そして魔獣達は追い込まれるように、フリスのいる丘へ近づいてきていた。

ソラの目論見通りに。


「今だミリア、行け!」

『ええ!』


ミリアは隠れていた木の陰から飛び出し、魔獣の群れへ突っ込む。鎧袖一触とばかりに振るわれる双剣は、血の雨を残して駆け抜けていった。

また同時にソラも神術を切り、空から落ちる。こちらは着地寸前に神術を放ち、森と共に3桁に登る魔獣を消し飛ばすと、薄刃陽炎でもって蹂躙する。

魔人が出てきた所で、この2人の前では変わらない。切り刻まれるだけだった。


「フリス、今マークした場所に撃ってくれ。もう少し纏める」

『はーい。それで、わたしも前に出て良い?』

「そうだな……今のが終われば来て良いぞ」

『ありがと!』

『それなら、少しこっちに来て欲しいわ。多い所があるのよ』

『うん良いよ。ソラ君は大丈夫?』

「大丈夫だ。ミリアの方を援護してくれ」

『分かった』


言質を取ったフリスはやることを終えると、少しずつ前へ出て魔弾で支援を行う。その効果は高く、目に見えて魔獣が減るスピードが高まった。

そして、その最中。


『あれ?』

「どうした?」

『さっきから動いてないのがいるよ。真ん中の方』

「そうなのか?」

『うん。ずっと見てたけど、全然動いてないもん』

『よく気付いたわね』

『ソラ君みたいに考えてるんじゃないし、ミリちゃんみたいに警戒しなきゃいけなかったわけじゃ無いもん。これくらいはやらないと駄目でしょ?』

「そんなことは無いが、ナイスだ。場所は?」

『ここだよ』


フリスはソラと同じように、フリスは神気でマークを打つ。イメージがしづらいのかソラ程明確では無いが、2人ならそれだけで理解できる。


「なるほど……こうなると、指揮官の可能性もあるか」

『私が1番近いわね。行けるわよ?』

「いや、やめておけ。何か策があるのかもしれない」

『ミリちゃんなら大丈夫でしょ?』

「それでもだ。用心するに越したことは無いぞ」

『そう』

「それに……」

『それに?』


その時のソラの顔には珍しく、好戦的な表情が浮かんでいた。


「策があるならそれを食い破ってもみたい。その方が暇つぶしになりそうだ」


そしてそれを聞いたミリアとフリスも、笑みをこぼすことを防げなかった。


『珍しいわね』

『わたし達との時は見てるけど、いつもは何もさせないもんね』

「今回は確実に安全が確保できるからな。というか、この状態で確保できない方が問題だ」

『そっか。じゃあ、無かったらどうするの?』

「無かったら無かったで殲滅するだけだ」


結局のところ、ソラもまた俗物なのだ。殺しが好きとか、破壊が好きだというわけでは無い。争いが至上というわけでも無い。だが戦いの中でしか得られぬものもあり、それによって充実感を得られるのも確かだ。

その身が神と成っても、人である部分がそう簡単に変わったりはしなかった。


「取り敢えずはこのままだ。動きがなければ、こっちから行く」

『分かったわ。ただソラ?』

「ん?」

『1人で行っちゃ駄目よ』

「……やっぱり行きたいのか?」

『ええ』

『あ、わたしも!』

「分かった。その時になったら合図をする」

『やった!』

『早めにお願いするわ』

「それは相手次第だ」


相手がもしこの会話を聞いていたのなら、何を言っているんだと憤ったかもしれない。だが状況は、圧倒的にソラ達有利で進んでいるのだ。この程度なら何の問題も無かった。


「……動きが無いな」

『もしかしたら、来るのを待っているのかもしれないわね』

『それって、自信があるってことだよね?』

「確かに。これだけ俺達が派手に暴れているから、逃げる可能性は低いと考える可能性もあるか」

『そうね。なら、行くべきよ』

『わたしもだよ』

「分かった。行くぞ」


まだまだ魔獣も魔人も残っているが、これくらいならどうとでもできる。そのため、3人は中枢に対処することに決め、集合した。


「この先ね」

「ああ。ここまで来ても動かないか」

「気付いてるよね?」

「これだけの規模の群れを操れるなら、気付いていないとおかしい。特に隠してるわけでも無いしな」

「でも、待ち構えていても倒すだけ、なんでしょう?」

「当然だ」


ソラ達が進んだ先にいたのは、魔人が3人と、リョウメンスクナに魔天龍。2体の魔獣はどちらもSSSランクであるし、どうやら魔人も同じようだ。


「やはり来たか」


20mを超える巨体を起こし、肩の調子を確かめるように4本の腕を動かしながら、リョウメンスクナが呟く。


「はっ、逃げなかったのが面白れぇくらいだな」


2m近い背を持つ4本腕のマッチョな魔人が言い、2振りの大斧を軽く振るう。軽くと言ってもそれは当人基準、一瞬で木の幹が断ち切られた。


「ええ。派手にやっていたようですが、我々からしたら変わらない」


全身をローブで覆った魔人が言うと、杖を中心に魔力が活性化する。どうやら魔法使いらしい。またその顔は金色の甲殻で覆われており、まるで昆虫のようだ。


「ははっ、そんなこと言ったら可哀想だよー。せっかく頑張ったんだから」


右手にレイピアを持ち、左腕が数十匹のヘビでできた魔人が笑いながら言い、2人を宥める。ヘビは腕だけななく、彼女の背中からも大きなヘビが4匹出ており、どうやら全て制御されているようだ。


「そんなことよりも、早く終えてしまいましょう」


そう言いつつも8つの翼を羽ばたかせ、魔天龍は空へと飛び上がる。全長20m程度と古竜(エンシェントドラゴン)よりは小さいが、その肉体構成は人に近く、侮れる存在では無いだろう。


「雑魚だな」

「ええ、遅いわ」

「魔力も雑だもんね」


相手が普通ならば。


「よく言うぜ、人間(ヒューマン)が」

「分かっていないようですね」

「ねえ、やっちゃって良い?」

「ええ、早く……」

「なら潰れろぉ!」


魔人、魔獣によく見られる、人に対する侮りがあったのかもしれないが、これは予想できなかったようだ。

リョウメンスクナは上げた拳を振り下ろすが……


「な!あ⁉︎」

「ふん!」


その拳を片手で抑えたソラはそのまま投げ飛ばし、魔天龍へ叩きつける。


「あの野郎……!」

「早く退きなさい!」

「フリス」

「うん」


そしてリョウメンスクナと魔天龍の2体に対して100を超える雷が落ち、心臓や頭蓋などを貫く。


「ちぃ……」

「穿て……」

「この……」

「だから、遅いのよ」


そして3人の魔人の懐へミリアが飛び込み、双剣が振るわれる。四肢と頭部が胴体から切り離され、命はすぐに尽きた。


「まあ、この程度か」

「普通の魔獣だもん」

「当然ね。ソラと戦う方が為になるわ」

「それは俺の方が強いからだろ。まあ、俺も2人と戦った方が稽古になるのは事実だが……意味はあった」

「意味?」

「これで北にいる魔獣は大きく数を減らした。ジュン達を連れて来るにはこっちの方が良いだろう」

「確かにそうね。最初の状態でも守りきれなくは無いけど、追求を受けるのは確実ね」

「増えたりしないのかな?」

「強い魔獣程増えにくいはずだ。というか、簡単に増えるのなら、人が抗いきれないだろ?すぐに押し潰される」

「あ、そっか」

「それで、逃げた魔獣や魔人はどうするのよ?まだ減らせるけど?」

「もう1000もいない。無視して良いぞ」

「じゃあ、戻るんだね」

「ああ。後3日ってところか?」

「それくらいね。行きましょう」

「やった!」

「こらこら、そんなに急ぐな」


ずっと野宿、町に入っても警戒は怠れない状況であったから、急ぎたくなるのも無理は無い。注意したソラの足も、苦笑するミリアの足も、どちらも普段より速かった。













ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー














「そろそろだよね?」

「ええ、そのはずよ」

「もう少しで見えるはずだが、ん?……アレだな」


数日間森を歩き続け、境界へ近づいていく3人。すると、木々の間から石造りの巨大な建造物が見えて来きた。掲げられて旗を見れば間違いない。帝国の砦だ。


「やっとだね」

「ええ。ここまで来ると、気も抜けるのね。疲れが出たわ」

「あそこではまだ休めないぞ。もう少し頑張れ」

「分かってるわ。ただ、気を張らなくて良いのは楽ね」

「確かにな。それに、すぐそこに騎士がいるみたいだ」

「今見つけたばっかりじゃん。まだまだ遠いよ」

「それでも、今までよりは近い。そうだろ?」

「ええ」


そう言いつつも森を抜け、ソラ達は平原に展開する騎士や兵士達100人ほどの部隊へ近づいていく。そして向こうからも視認できる距離に達した時……


「何者だ!」

「止まれ!」


まあ、これも仕方がない。いきなり魔王の支配する森から人が出てこればこうなる。これが数日前にあの砦から出ていったのなら別だろうが

ソラ達は半年近く前、それも共和国の砦から森に入った。警戒されるのも当然だ。


「あ、やっぱりこうなるのね」

「どうするの?」

「ギルドカードを見せれば良い。これで良いか?」


ソラはギルドカードを取り出し、投げ渡す。近づいては余計に警戒される可能性もあるので、これもまた仕方の無いことなのだが……不意打ちだったというのに、騎士も良くキャッチできたものだ。


「こ、これは……」

「おい、マジかよ……」

「か、確認のために、砦へ来ていただいてもよろしいでしょうか?」

「ああ、問題無い。良いな?」

「ええ」

「うん」

「感謝する」


そのまま騎士達により、応接室らしき場所まで案内された。そして簡単な事情聴取がされたのだが、どうやら確認に手間取っているようだ。3人はかなりの時間待っていた。

そしてようやく、事情聴取を担当した、ここの砦の責任者だという女性が戻ってくる。


「確認が取れました。SSSランク冒険者のソラ様、ミリア様、フリス様で間違いありませんね?」

「ギルドカードの通りだ。やっぱり、半年もいないと死んだことになるのか?」

「お三方の場合はオルセクト王国からの正式な依頼がありましたので、まだ保留の段階でした。ですが、期間日を告げずに森に入った場合、1ヶ月戻ってこなければ死亡したものと扱われます」

「そうなのね。長く居過ぎたけど、良かったわ」

「まあこういう事情だから、半年の間に何があったかには疎い。何か教えてもらえないか?」

「ええ、勿論です。まず、勇者様のことはご存知ですか?」

「知ってるよ」

「分かりました。その勇者様達ですが、2つの町に襲撃した魔人を打ち倒し、魔獣から救ったとのことです」

「半年で2つ、多いわね」

「はい、今までに無い頻度です。ですが幸いにして、他にはありませんでした」

「勇者を狙った可能性もあるか……場所は?」

「まず1ヶ所はアイシティです。こちらはそこまで多くなく、勇者様達がいても大丈夫だったと考えられます」

「そう、それで?」

「そして、エリザベート程ではありませんが、帝都には大規模な襲撃がありました。その時は勇者様達の他に、SSランク冒険者のパーティーが中核を担ったとか」

「SSランクの?」

「リーダーの名前は確か……エルザ、だったかと」

「ああ、エルザ達ね」

「ヒカリの里帰りみたいなものか?巻き込まれたとはいえ、運が良かったみたいだな」

「うん。ジュン君達だけだと、あの時みたいなのは対処できないもん」

「え、えっと……」

「いきなり言っても分からないか。というかフリス、名前を言ったら不思議がられるだろ」

「はーい。ごめんね」

「は、はぁ。ですが……」

「勇者……ジュン達とは知り合い、というか友人だ。さっき話に出てきたエルザとそのパーティーメンバーも同様にな」


本当は師匠なのだが、それは言わない。


「友人、と……勇者様達とは何処で?」

「ハウルでだ。ただその質問は……」

「では、噂になっている勇者の師とは貴方達ですか⁉︎」


が、すぐにバレた。そしてあまりの勢いに押し切られた。


「そ、そうだけど……どうしたのよ?」

「やっぱり!勇者様には師匠がいるって有名なんですよ!私、感激です!」


どうやら、彼女は勇者(ジュン)達のファンらしい。ソラ達への尊敬はそのついでのようだが、それでも激しい。


「あ、あの!勇者様達の話を聞かせていただいても良いですか⁉︎」

「え、ええと……」

「ソラ君……?」

「……落ち着くまではかなりかかりそうだな。分かった、話そう」

「ありがとうございます!」


そしてソラの予想は外れず、話していた時間は待っていた時間よりも長かった。










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