第18話 魔鉱山②
「多分かなり強化されてるんだろうが……問題無いな」
「ええ、私1人でも勝てるわ」
「わたしとソラ君ならもっと簡単だよ」
「ああ。ただ、時間をかけるのも面倒だ」
ボス部屋へと入っていたソラ達を待ち構えていたのは、SSSランクの魔獣、クリスタルゴーレムだ。全種類の魔法を使え、頑丈さでは古竜を上回るとも言われている。言われているのだが……
「弱いね」
魔法は全てフリスが放った神気によって防がれ、
「仕方ないな」
直接殴ろうと駆け寄ると、ソラに右腕を斬り落とされつつ足を取られて投げられ、
「終わりよ」
着地地点に回り込んだミリアに蹴られ、粉々に砕け散った。
「案外脆かったわね」
「まあ、今の俺達からしたらこの程度だろう。それにしても、綺麗な蹴りだったぞ」
「ありがと。ソラのを見て覚えたのよ」
「なるほど。案外向いてるのかもな」
「そうかもね」
「あり得ないわ。ソラほど上手くはできそうにないもの」
「いや、俺は10年以上稽古を続けてたからだ。意識して続ければ、かなり上達するかもしれないぞ」
「そうね……いえ、やめておくわ」
「ミリちゃん、どうしたの?」
「私はソラほど上手く組み合わせられるとは思えないのよ。多分、剣ばかりになるわ」
「そうか。なら、無理強いはしない」
ソラは若干悔しく思っているが、本人の意思は尊重する。それに、気が変われば教えることもあるかもしれない。
また何より大きいのは、それよりも気になることがあったことだ。
「それにしても、やっぱりか……」
「どうしたの?」
「薄刃陽炎だが、何故かは分からないが斬れ味が良くなった気がする。予想より相当軽く斬れていた」
「魔力を込める量が多いとか、そういう理由じゃないのかしら?」
「何というか、説明できないんだが、違う気がする。本当に感覚的なものなんだが……」
「どうしてなのかな?」
「まあ良いわ。悪いことでは無いんでしょう?」
「ああ、それは間違いない」
悪いことであればまた何か勘が働く、ソラはそう考えている。というか自身のことなのだ、勘が無くても分かる。
「さて、奥には何があるだろうな」
「何か凄いのあるよね?」
「ええ、私も何か感じるわ」
「2人もなら、期待できそうだ」
3人とも、感じているのは大まかな感覚だけであり、詳しいことは一切分からない。そんな状況で開けた箱の中にあったものは……ただの金属の塊だった。
「何だこれは?」
「鉄……では無さそうね」
「でも、これだよね?」
「それは間違い無いんだが……もしかすると……」
近くで見ても、ただの金属としか思えない。何か特定の金属とは言えないが、特別な物とも思えない。
だが気づいたことがあるようで、ソラが魔力を通した。それは魔法にする寸前のもので、火属性が強く出ており……
「色が変わったわね」
「えっと……あ、もしかして」
「ああ、イロカネだ」
金属は赤色に変わる。この特性は、伝承に合ったイロカネの物と同様である。
イロカネは神話でしか確認されていない金属だ。3人はオリハルコンより特別な物と思っていたが、どうやら違ったらしい。
「これは魔力、そして神気に適合しやすい性質があるみたいだな。神器にするにはちょうど良い」
「強化もできるのよね?」
「ああ。代わりに、神気の消費は多そうだ。まあ、今なら問題無い程度だけどな」
「そっか。じゃあ、お願いしても良い?」
「良いぞ。ミリアも良いな?」
「ええ」
ミリアから双剣と軽鎧、フリスから長杖とローブ《ハウリルエル》を預かり、ソラは火と槌を出した。その白と金の炎はより力を増し、そして金槌の薄金色はより濃くなって白金色となっている。
それへ薄刃陽炎をかざし、構える……が、すぐに戻した。
「とは言え、そのままやるには何か足りないな……少し待っててくれ」
「どうしたの?」
「クリスタルゴーレムを狩ってくる。7……いや8回だな」
「それなら手伝いは要らないわね。待ってるわ」
「すぐに戻る」
出れば待機状態のクリスタルゴーレムがいるし、扉を出れば再出現するのだ。8体でもほんの僅かな時間しかかからない。
「これで良し」
「やっぱり魔水晶なのね。それで、何でなのよ?」
「今回に限ってだが、SSSランクの魔水晶を使った方が良いとも思ったからだ。他の魔水晶を大量に使うのも悪くないが、濁りは少ない方が良い」
「そうなんだ……あれ?だったらソラ君の魔力で良いんじゃないの?」
「俺の神気と魔力だけだと、短時間で注げる量には限りがある。魔水晶を使えば、それも克服できるってわけだ」
ソラの保有魔力・神気量は膨大だが、その全てを一瞬で使い切れるわけでは無い。魔法や神術なら全身から放出できるので大丈夫だ。だが神器の作成では、手や口など細かい制御を保ったまま放出できる場所が限られているため、効率化をするには骨が折れる。
そのため、大量の魔力を保有しつつ質が一定の魔水晶は、ソラにとって都合が良かった。
「さて……始めるか」
そう言うとソラはSSSランクの魔水晶を床に置き、それを中心にSSランクを18個、Sランクを72個置いていく。さらにそこへ神気を流し、全ての魔水晶を繋いだ。
「これを火に混ぜる……燃えろ」
「うわぁ……」
「神気をこんなに……」
そして魔水晶を基点に火を起こす。神々しさがより増したそれは、最早一瞬の芸術だった。
また結界も使用して神気と魔力を押し留めており、濃度はより濃くなっている。
「そう言えば、この火は2人の神気の色だな」
「それを言うなら、金槌はソラと同じよ。私達2人のというより、ソラのが2つに分かれたんだと思うわ」
「そうかもな。ただまあ、光の精霊王の言っていた意味は分かった」
「アポロンって……何だっけ?」
「俺達の神気の色が違うことを怪しんでいただろ?それのことだ」
「そう言えば……じゃあ、ソラ君のが分かれてわたし達のになったってこと?」
「もう少し言うなら、俺の神気に影響されて2人に神気ができたんだろうな。俺の眷属では無く、影響下にはあるものの別の神として、だ」
「それはよく分からないけど……分かるっているのね」
「眷属になっているのなら、神器ほどでは無くとも強い繋がりがあるはずだ。だがそれは無いし、2人の神器も俺との繋がりが段々無くなっている。可能性は高いだろう」
「でも、繋がりはあるんだよね?」
「ああ、それは間違いない」
「なら良いわ。一緒にいる理由が増えたもの」
「こんな物が無くたって、別れたりしないぞ?」
「それはそれ、これはこれよ」
ソラは理解できなかったが、話を切られてしまったため作業に集中する。薄刃陽炎を抜いて己の前に掲げると、神気を込めていった。そこへイロカネも添え、さらに神気を込める。
そして火の中に入れ、金槌で叩いた。今回は今までと違って1回で終わったが……顔に出た疲労の色はかなり濃い。
「ソラ⁉︎」
「大丈夫?」
「ああ……ふぅ、一瞬で終わらせるのは結構キツイか」
「そんなに?」
「普段の神術より勢い良く、かつ大量に神気を使うからな。どうしても消耗する」
「そう……無理はしないでよ」
「分かってる。心配させるつもりは無い」
1つ作り終えたことで火は消え、魔水晶も全て無くなっている。ソラは再度魔水晶を置き、準備を進めていった。
「それにしても……」
「ソラ君?」
「いや、予想以上に上手くできてると思ってな。もうこれは、紛い物じゃなく本物になってる」
「紛い物って……まあ、完全な神器とは言えなかったかもしれないけど」
「ただ比べただけだ。前のが悪いわけじゃない」
「でも、変わったってことなんだよね?」
「ああ。怖いくらいにな」
怖いもの知らずといった感じのソラだが、勿論恐怖を感じることもある。まあ、今回のこれは違うのだが。
「怖い?」
「本格的な神器を作るのは初めてなのにも関わらず、想定以上にスムーズにできている。違和感を覚えるほどにだ」
「原因は分からないの?」
「分からないな。感覚としては、神気の使い方に覚えがあるというかなんというか……」
自覚が無かったとしても、言葉にするだけでイメージできることはある。そしてそれの心当たりは……無いわけではなかった。
(もしかすると、あれか?確かにその可能性もあるが……そうだとしても、今は俺か)
元は他のものだとしても、今はソラのものとなっている。害のあるものでは無いはずだ。
「さて、2人のも順番にやる。待っててくれ」
「ええ、任せるわ」
「お願いね」
そう言って、ソラは双剣と長杖だけでなく、軽鎧とローブも手早く終わらせた。薄刃陽炎でかなり慣れたようだ。
そして、ミリアとフリスはできたばかりのそれらを着て、大興奮している。
「うわぁ〜、凄い良いよ!」
「ええ、今までとは大違いね」
「気に入ってくれてよかった。」
「でも、ソラには1個しか無いわよね?」
「いや、手甲足甲と2つの腕輪も使う。それともう1つ……」
「もう1つ?」
「新しく作るやつだ。もう構想はできてる」
慣れてきたのか、ソラの作業はさらに早く終わった。なお、手甲足甲の姿はあまり変わっていないが、2つの腕輪は大きく形が変化している。障壁を生み出すものは小さな盾に、魔法を強化するものは勾玉に変わっていたのだ。
ソラはそれぞれに時雨守と煉玉という銘をつけると、時雨守は左の手甲に、煉玉は紐を通して首から下げる。
そして新作のもう1つの神器は、すぐさま指輪に仕舞われた。
「これでメインは終わりだな」
「お疲れ様。でも、SSSランクの魔水晶はまだ8個あったわよね?」
「あ、そっか。どうするの?」
「ちょうど8つあるだろ?ついでに、これも使う」
「精霊王から貰ったものね?」
「ああ。属性の強化には使えるはずだ」
そうしてソラは魔水晶に精霊王の力の欠片を加えて、それぞれの属性に合わせた神器を取り出す。8つ同時に行うわけでは無いが、連続してやるつまひのようだ。
ミリアとフリスは急ぎすぎてはいないかと心配したりもしたが、ソラに何か不調があるようには見えない。
「形も大幅に変える。ミリアには使いにくくなるだろうが、良いか?」
「ええ、大丈夫よ。元々あまり使ってなかったし、今の双剣なら代用法もあるみたいだから」
「そうなのか?」
「そうよ。練習は必要そうだけど、すぐにものにできそうね」
「なるほど。じゃあ、さっさと終わらせるか!」
そしてソラは、一気に終わらせた。同時では無いとはいえ、連続して8つの神器を完成させる様は圧巻だ。
「慣れたのね、早いわ」
「ああ。まあ、もうほとんど意味は無いだろうけどな」
「もう終わっちゃったもんね」
「イロカネはまだ余っているでしょう?また作るかもしれないわよ」
「そうかもしれない。だが、次に必要な物は全て揃った。作るにしてもその後になるな」
「確かに、いつも使ってるのは全部変えちゃったもんね」
「ソラが要らないって言うなら、不要なんでしょうね。分かったわ」
そういうわけで、これで終わりだ。流石にこれだけ一気に作ったので、ソラの顔には疲労の色が見えている。
「さて、神器作りも終わったし、休むぞ」
「はーい。というか、ソラ君が1番疲れてるよね」
「まあ……そうだな。ミリア、大丈夫か?」
「試し切りはしてみたいけど、これは明日でもできるわね。良いわよ」
「助かる」
そんな風に話しながらも、3人は野営の準備を始めた。手慣れたもので、余所事をしながらでもすぐに形ができていく。
「ここを出たら、もう戻るんだよね?」
「今度こそな。流石にもう何も無いだろう」
「あるとすれば襲撃くらいだけど、問題になんてならないわね」
「ああ。ただ、報告は面倒だろうけどな」
「ソラ君、お願いね」
「ソラが1番上手いわ。頼むわよ」
「任せきりか。まあ良いが」
このダンジョンは攻略に時間がかかり、警戒していた期間も長い。久しぶりに気を抜ける場所に着いて、3人はかなりゆっくりできた。
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「やっと戻って来れたね」
「広かったもの。仕方ないわ」
「あんな面倒なダンジョンを用意する奴も大概だけどな」
「誰か分かってるのに言っちゃうんだ」
「分かってるからこそ言う」
「愚痴ね」
「嫌味だ」
聞いているか定かでは無いのだが。まあ、返答を期待しているわけでは無いのだから、問題無い。
「それで、この後はどうするの?」
「帰るだけだけど、日程を考える必要はあるわね」
「そうだな……1度デイルビアで休んだ後、南へ行くぞ。良いか?」
「それで良いわよ」
「はーい。それで、どっち?」
「帝国側だ。どちらに行っても変わらなさそうだしな」
「半年以上ここにいるものね」
「死んだって思われてるかもね」
「ありえそうな話だ」
まあ特定の町に長期滞在したことは無いから、大騒ぎになるほどでは無いだろう。そして万が一その時は……3人は大笑いするだけだ。




