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異世界成り上がり神話〜神への冒険〜  作者: ニコライ
第8章 礎となりて

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第15話 廃都ルーマ③



大半がアンデットキングとノーライフクイーンに当たったとはいえ、ソラの神術は壁にも当たり、粉塵を巻き上げていた。それが晴れ始めた時……


「ん?……人影か⁉︎」

「何で!」

「まだ来るの⁉︎」


神気も魔力も消費し尽くしているが、戦わないという選択肢は無い。諦めるという選択は、ソラ達はしない。

ただ、この場でこの意志は無意味だった。


『感謝する。死してなお使われていたこの身を、そしてモノとして使われていた民達を救ってくれたことを、感謝する』

『囚われの身であったわたくし達は、貴方方のおかげで救われました。ありがとうございます』


恐らく、アンデットとなった元の人格だろう。顔も先ほどまでは骨と皮ばかりだったが、今は生前のものと思わしき生者と同じものとなっている。


「……話せる、のか?」

「生き返ったの?」

『いや、死んでおる。この体に宿っていた力が浄化されたためなのか、元の思考が戻ったようだ』

「魂と会話してる感じなんだろうな。その見た目は浄化された力のおかげかもな」

『見た目とは何のことですか?』

「恐らくだけど、生前の姿になってるわ。お互いを見れば分かるわよ?」

『すまぬが、我らは会話しかできぬ。お主らの顔も見ることはできない』

「そっか。それで、魂が残ってるってことは、まだ何かあるのかな?」

「恐らくはあるな。ここまで強いとなると、呪いにまで昇華されているかもしれない」

『わたくし達には分かりません』

「私達だって分からないもの。仕方ないわ」


プロセスが不明過ぎるため、この状況の原因を解明することはできない。それに、欲しいのは過去の情報だ。


「それで、この町をこんなことにしたのは誰だ?魔王配下の中でも、相当な実力者だろうが」

『そやつの名はメイルーガ、四天王の1人と言っておった。見た目は生者だったが……あれはアンデットであろう』

『アンデットを作り出す技量もかなりのもののようでした。SランクやSSランクのアンデットにされた者も多く、わたくし達は……ですが、予想外の結果に驚いていたようです』

「そこまで分かるの?」

『アンデットとなっていたがこの通り、魂は留められていたからな。変えられてすぐのことだけは覚えておる』

「そう、ありがとね」

「そのメイルーガっていうのが元凶なんだね。絶対に倒すから」

『頼む。おおそうだ、あやつの側にはもう1人おったな』

「どんな奴だ?」

『それは分からぬ。だがあの話方では、かなりの実力者であることに代わりは無いであろう』

「そうなると、同じ四天王か……」


だが少なくとも、その四天王が意図して行ったことでは無いということは分かった。正確な技量は不明だが、実力がソラ達を上回ることはまず無いだろう。

それを聞いてソラ達が考えていた時、元国王は急に顔を歪めた。


『ぐっ……』

「苦しいの?」

『はい……怨念でしょうか。この町に取り残されたものが少しずつ、わたくし達の中に入ってきています』

『我らが意識を保てるのも、そう長くは無い。頼めるか?』

「ああ、送ろう。魂まで干渉できるかは分からないが、恐らく浄化できるはずだ」

『うむ、感謝する』

『ありがとうございます』

『だがその前に……我の最後の願いを聞いてほしい』

「何よ?」

『……頼む。この悲劇を繰り返させないでくれ』

「勿論だ」


ソラとしても、これを何度も見るなんてことは嫌だった。それに、これがいくつもあってはこの世界が危ない。もしも起こる予兆が分かれば、3人は全力で止めるだろう。


「炎よ、光とともにこの者を解放せよ。輪廻に揺蕩(たゆた)う魂に幸福をもたらせ。呪を、災いを、この者から取り払え……」


魔力も神気も少ないが、本気で詠唱をして、本気で祓う。それが長い年月を耐え続けた2人に対する礼儀だと、ソラは思っている。


「聖炎歌」


そして、白金(しろがね)の輝きが玉座ごと2人を飲み込む。その瞬間に見えた顔は、安らぎに満ちていた。


「……終わったわね」

「ああ。ただ、もう少しあるけどな」

「何をするの?」

「見ていれば分かる」


ソラは土魔法を応用し、玉座のあった場所に高さ1mほどの石柱を作り出す。そして、魔法で字を彫っていく。


「なになに……勇敢なる者達の魂 ここに眠る、ね。良いと思うわ」

「誰が作ったが分からなくなっちゃいそうだけどね」

「それは、ジュン達をここに案内すれば良いだろう。ここのことは、知っておいてほしいからな」


ゲームでしかあり得ないような場所だった。だがそれが現実に起きた。原因は不明だが、誰かに知らせるしか無いだろう。その点ジュン達なら、ここに来られる上に権威もある。1番の適任だ。


「さて、予想外過ぎたが、元の予定に戻るぞ。明日は休息、その後は町の再確認だ」

「それが終わったら、魔王城だよね?」

「ああ。だが、遠くから監視するだけだからな?」

「分かってるわよ。この3人で魔王を倒したら、どう言い訳をすれば良いか分からないわ」

「一応、聖剣でしたトドメを刺せないことになってるぞ?」

「そんなの嘘よ。今なら分かるわ」

「そんな都合の良いことなんてあり得ないもんね。もっと強い神様なら違うみたいだけど」

「魔王がそうなっている可能性は低いな。第1、あの聖剣に神気は感じなかった」

「なら伝承ね。でも、何でそんなことになったのかしら?」

「……考えられることは1つだけある」

「そうなの?」

「ただの仮説だし、聖剣を見ても実証できるとは限らない。だがこれなら、魔力だけだとしても実現は可能だろう」

「どうするのよ?」

薄刃陽炎(こいつ)と同じだ」


ソラは鞘ごと持ち、2人に掲げる。だが、ミリアとフリスは分かっていないようだ。


「……どういうこと?」

「分からないわよ」

「まあ、今はそれで良い。それに、俺達には関係の無いことだ」

「……まあ、そうね。魔王を倒せるのならそれで良いわ」

「良いの?」

「ええ。それに、ソラの目的は魔王じゃ無いわよ?」

「やっぱり分かるか」

「一緒に見てきたもの。分かるわよ」

「あ、そっか」

「察しが良くて助かる」


この町はアレがあったせいか、建物の損壊がほとんど無い。ソラ達は王宮の1室にて、ゆっくり休むことができた。












ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー












「……あれが魔王城だな」

「ほぼ予想通りの位置ね。報告が楽で良いわ」

「魔獣も魔人も多いけどね」

「それより、感じるか?」

「ええ。少しだけだけどね」

「うん。しっかり分かるよ」


ここはルーマから北東へ進んだ先にある、標高1500mほどの山の頂上だ。なお、ここから魔王城まではまだ100km以上ある。だが3人の身体強化の出力があれば、かなり詳細に観察することが可能だった。


「さて魔獣は……ここから確認できるだけでもSSランクが100体以上、SSSランクが3体か。あのクリスタルゴーレムは……門番だろうな」

「というか、あんな位置にいたらそれしか考えられないわよ」

「門の前に陣取ってるもんね」

「それはそうだが。それより、俺は他の2体の方が気になるな」

「リョウメンスクナと魔天龍ね」

「なんだかフラフラ動いてるよね。何をしてるのかな?」

「警戒にしては動きがおかしい。ただいるだけみたいだが……」

「その通りかもしれないわよ。魔王城の北側を見て」

「北?」


南に門がある魔王城に対して、北側は裏口に相当する。あるのかは分からないが……


「なるほど。反対側の構造が分からないが、あれならどう考えているか分かる」

「あからさまだもんね」


そこには魔獣や魔人が一切いなかった。警戒していると考えるとおかしい。つまり……


「警戒するまでも無いということか」

「というよりも、ここにいるのが魔王側の最高戦力だからだと思うわよ」

「じゃあ、周りにいるのは形だけ?」

「集団相手の戦力としては悪くないがな。ただ、ジュン達を入れても奇襲は難しくなさそうだ」

「森の中を隠れて進んで、城の前になったら一気に駆け出すのね」

「ああ。今がどうか分からないが、あいつらのスピードなら問題無いはずだ」


魔力量と上達予測、そして少し希望的観測が加わっているが、ソラにはまず間違いないという直感があった。

だがここは敵の本拠点が見える場所。まだ離れているとはいえ、長居をして良い場所では無い。


「さて、これ以上いても新しい情報は得られそうに無いな。降りる……っち」

「来たわね」

「偶然だよね」

「そのはずだ。一直線に来てるわけじゃないからな」

「どうするのよ?」

「そうだな……避けることもできなくは無いだろうが、削っておくぞ」

「ちょうど100体、魔王城とは反対側だから、派手にやってもバレないね」

「ちょうどあの辺りの崖下を通るな。上で待ち伏せるぞ」

「ええ」

「うん」


そしてソラ達は移動し、山の中腹で待ち伏せる。その間にも集団は近づいていた。まだ慣れの少ないミリアでも判別がつく場所に。


「魔人が5人と……ケルベロスが95体ね」

「ああ。それにしても、何でこんな所に登って来るんだか」

「何かあるのかな?」

「俺達以外に何もいないぞ。バレてるとは思えないし……」

「案外、適当に出て来ただけかもしれないわよ?」

「……それが正解な気がするから怖いな」


正直言って、ここに来る理由が分からない。拠点を造るにしては変な部隊編成だし、ソラ達のことを知っているとは思えない。ただ、敵が来るのなら3人は戦うだけだ。


「もう少しだね」

「ええ。ソラ、合図を頼めるかしら?」

「ああ、良いぞ。そんなことしなくても、同時に行けそうだけどな」

「そんなことは言わないものよ?」

「分かった。さて、3、2、1……今だ!」


この後、魔人と魔獣は蹂躙されるだけだったということを、ここに記しておく。












ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー













「ソラ、こっちは終わったわよ」

「分かった。フリス、そっちはどうだ?」

「ちゃんと分けて入れたよ。これで全部だよね?」

「ああ。他の部屋にもあったが、重要そうなのはここだけだ」


王宮の一室にて、ソラ達は書類を次々と指輪に納めていた。この書類には元ソルムニア王国の国家運営に関わっていたものの他に、魔王誕生初期の報告書なども存在する。ソラ達からすればただの紙だが、他の人からすると違う可能性もあるため、全て回収することにしたのだ。


「それにしても、魔王についてのものがこんなに多いなんて思わなかったわ」

「うん。すぐに滅ぼされちゃったのに、こんなにあるんだね」

「緊急事態だったからこそ、急いで調べたんだろう。自国の危機だし、当然だ」

「そうかもしれないわね。どれが有効なのかは分からないけど」

「俺達はもっと詳しいことまで調べたからな。ただ、3人だけでは分からなかったことがあるかもしれない。持って帰る意味はある」

「そっか。それで、もう行く?」

「そうだな。もう用は無いが……1日休息を取るぞ。良いか?」

「良いわよ。確かに、休める時に休みたいわね」

「じゃあ、ご飯お願い!」

「分かったわ」

「ミリア、向こうのキッチンを使うか?」

「ええ。火は任せるわよ」

「ああ、分かった」


キッチンへ移動し、ソラとミリアは料理を始める。ただ、フリスは暇なわけで……


「そういえばソラ君」

「どうした?」

「この町、これからどうなるのかな?」

「さあな。あの呪いにも似た術のせいでそのままの状態で維持されてきたが、それが解けたとなっては分からない。普通にこのまま朽ちるのかもしれないし、今までの分が一気にくるかもな」

「そっか。でも、本当になんでああなっちゃったのかな?」

「そういえば……可能性として石柱を上げたが、もう1つ選択肢があったか」

「どういうことよ?」

「魔王城で感じただろ?アレだ」

「確かに……あそこも含めると、完全に包囲されてるものね」

「でも……本当にあり得るの?」

「詳しい原理は分からない。ただ、この推測は間違いないだろうな」


気になることは多く、謎もまた多い。だが、現状では解明できるものが少なく、推測すら難しい。

とはいえ、それの優先順位は限りなく低い。


「さあ、できたわよ。そういう話はまた後にしましょう」

「はーい。それで何?」

「サラダとスープパスタよ。ソラは物足りないかもしれないけど……」

「いや、これだけあれば十分だ。ありがとな」

「ソラが手伝ってくれたもの。お礼を言うのは私の方よ」

「ミリちゃんもソラ君もありがとね」

「……まあ、フリスはそうだな」

「そうね。まったく」


もう慣れているとはいえ、フリスの言動は2人の苦笑を誘った。まあ、それが彼女の良いところだ。


「そうだ、ミリア」

「どうしたのよ?」

「調理道具が少し痛んでなかったか?やりにくそうだったが」

「良く分かったわね。確かに包丁の切れ味が落ちてるわ。でも、ここではどうしようもないわよ」

「いや、確定では無いが、俺が直せるかもしれない。貸してくれ」

「そう?なら後でお願いするわ」

「ああ。フリス、口についてるぞ」

「あ……ありがとね」


そして食事が終わり、後片付けも済ませた後、ソラはミリアから包丁を受け取った。それをチェックしていく。どうやら大きく欠けたりはしていなさそうだ。

この程度なら普通に砥石を使っても直せるだろうが、ソラは力を使い完璧にするつもりだった。


「良し、どうにかできそうだな」

「ソラの力、便利よね。羨ましいわ」

「いくつもやれる代わりに、制御は難しいぞ。俺としては、戦闘用は単純な方が良かったんだが」

「でも、ソラ君は上手だよ。魔法だって、ずっと前からわたしと同じくらいだったもん」

「2人に抜かされないよう必死だったからな。男として、負けるわけにはいかなかった」

「何よ、自分だけ戦うつもりだったのかしら?」

「いや……ただの自己満足、下らない執着だ」


自分ではそう言いつつも、ソラの心の中ではそれは大きな領域を占めている。ミリアとフリスを守るためなら、自分は修羅にすら成る、その覚悟を確認しながら。











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