第10話 魔王領③
「また来たか」
デイルビアを出たソラ達は、一路北へ向かっていた。
「でも少ないよ。20体くらい?」
「本当ね。でも……ソラ、魔人が混ざってるわよね?」
「ああ、3体は魔人だ。良く分かったな」
「練習してるもの。ソラ達に負けてられないわ」
ここは魔王の領域、魔獣がかなりの頻度で襲いかかってくる。だが3人ともが察知できるようになり、精神的にかなり楽になっている。
闇宮で使った知覚の共有化は、ミリアが味を占めたため今後も使うこととなった。五感まで共有すると酷いことになるので、1回試した後は使ってないが。
「終わったよ」
「こっちもね」
「なら、回収してから進むぞ」
この程度の魔獣なら、すぐに殲滅される。ただ、フリスには別に気になることがあるようだ。
「ねえソラ君、ここまで来たら制限しなくて良いよね?」
「どういうことだ?」
「神気や神術を使っちゃっても良いんじゃないかな?神術なら効率も良いから、消耗も激しく無いよ?」
「そうね。私達の練習にもなるし、丁度良いわよ」
「確かに……なら、次からはそうするか」
神術は感覚的なものとはいえ、実践も必要だ。他に人がいないここは非常に都合が良い。
「それにしても、多いよね」
「魔王が支配しているから強い魔獣が集まるんだとは思うが……確かに不自然なくらい多いな」
「私達相手にかき集めてるとしても、異常よね」
「何かあるのかな?」
「考えられるとすれば魔王だが……分からないな。何か別の要素が絡んでいるのかもしれない」
「……神話かもしれないわ」
「神話って?」
「精霊王達は、神話の時代には魔神が戦いで魔獣を使っていたと言っていたわ。魔王がそれと無関係とは思えないわね」
「魔王は魔神……いや、魔神の加護を受けているということか」
「その可能性は高いわ。第1、魔王が始めて出てきたのは神話の後だもの」
「魔神が倒された後、何かされて魔王が生まれたってことだよね……あるかも」
「仮説としてはかなり信憑性が高い……それを念頭に置いて動くぞ」
「うん」
「ええ」
全員が神となったことが判明した以上、神話を無関係と笑うことはできない。むしろ、神話に描かれる戦いで勝ち残れるくらいの実力が必要だ。
「あ、また来たよ」
「今度は大きいわね」
「恐竜系だろうな。これだと……パキアースとエレキトプスか」
「数はパキアースが30、エレキトプスが17だね」
「そうみたいね。ソラ、これなら私だけでもやれるわ」
「なら頼めるか?あの神術をもう少し見てみたい」
「ええ、良いわよ」
そう言うと同時にミリアは進んでいき、その後ろをソラとフリスは歩いていく。しばらくして魔獣が見えると、ミリアは駆け出した。
「やぁ!」
双剣に魔力を行き渡らせ、ミリアは突貫する。そのスピード相手ではパキアースもエレキトプスも障害とはならず、次々と切り裂かれていった。
「行きなさい!」
さらに飛ばされた火の斬撃は、パキアース2体を真っ二つにしても止まらず、その先にいたエレキトプスに食い込んだ瞬間に大爆発を起こす。それにパキアース8体、エレキトプス4体が巻き込まれ、消し飛ぶ。
「さらに……」
その一瞬の動揺を見逃さず、ミリアは跳躍する。そして双剣の片方に風、もう片方に氷を纏わせ……
「トドメよ!」
同時に射出した。その2つは寄り添って飛び、地面に達した瞬間に風と氷の刃をまき散らす。それにより、残っていた23体も全滅した。
「かなり自由度が高いのか。凄いな」
「まあね。でも、ソラやフリス程じゃ無いわ」
「でも、凄いスムーズに使えてるよ。形が限られてるからかな?」
「そうかもな。俺達は自由に作れる分、細かい制御を毎回行わないといけない。ミリアは剣を媒体とし、斬撃という形に限定することで、スピードと手数を誇っている。恐らく、威力も自在に上げられるだろうな」
「そこまでは分からないわ。ただ、できないとは思わないわね」
神術が感覚的だからこそ、期待を持つことができる。そしてそれは、もう1人にも当てはまることだ。
「次はわたしがやって良い?」
「ああ。俺から頼もうと思ってた所だ」
「じゃあ、あっちだね」
また魔獣がいたため、そちらへ向かっていく。そして見つけたのは、50体ほどのアースタイガーの群れだ。まだ1km以上距離があるが……
「火と光よ、空を駆けて打ち倒して。フレイムノヴァ!」
閃光に飲み込まれ、チリ1つ残らなかった。
「……凄い威力ね」
「それに射程も長い。これの倍くらいは余裕で届くんじゃないか?」
「うん、届くよ。でもそれだと、魔力探知じゃ厳しいと思う」
「そんな距離なら目視で良い。というか、その距離でも反撃してくるなら斬り込むべきだ」
ソラやミリアにとって、1kmなど指呼の距離以下だ。スナイパー対決に興じるくらいなら、駆けた方が速い。
「さて、最後は俺だな」
「うん、お願い」
「どんな神術を使うか気になるわね」
「なら、1番面白いのを使うとするか」
「狙うのはアレ?」
「そうだな……ヘルウルフが30体なら丁度良い」
そう言って、ソラは居合の構えをとった。
「導き斬り裂け、刃斬」
そして、ミリアと同様に斬撃を飛ばす。だがそれは途中で100近い数に分裂し、様々な方向から確かな誘導性を持ってヘルウルフ達へ襲いかかった。
勿論ヘルウルフ達が耐えられるわけもなく、殲滅される。
「何これ?」
「曲がったというか……ソラ、追いかけてたわよね?」
「ああ。」
「そんなことできるの?」
「できるさ。だからこそ、アレができた」
SF映画で時々見かけるクラスターミサイル、それを真似た神術だ。数と命中率を高めた結果、対集団における使い勝手が非常に良くなった。
ただ、欠点が無いわけでは無い。
「それにあの数……完璧ね」
「代わりに、1つ1つは弱い。ミリアなら10個当たっても問題無いだろう」
「避けきれないわ。少なくとも、半分は」
「私も、迎撃できるのは3割かな?神気が鋭いから、普通の神術だと負けちゃうもん」
「なるほど……決め手には1歩足りないのは事実だが、牽制だけでなく追い詰めたりもできるか」
「できるわね。というか、私達からしたら普通に決め手よ」
「なら、駒の1つとして使い方を考えておくか」
ソラが魔法や神術を作る際、日本で得た知識が役立っている。特に神術は自由度が高いため、現実では不可能なこともイメージから作り出せていた。
そんな風にしていると、目的地が近づいてくる。
「あ、シェーアってあれじゃないかな?」
「この方向なら間違い無いだろ。今日中に入っておくぞ」
「ええ。警戒しながらだとしても、建物の中の方が楽だもの」
「素直だな」
「私が捻くれ者なんて誰が決めたのよ?」
「誰も決めてない。さあ、行くぞ」
「ええ」
「うん」
道中にいた魔獣を蹴散らし、3人は元町へ入っていった。
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「何だアレは……」
デイルビアの後、衆治都市シェーアに着いたソラ達は、8日程町の中と外を探索した。そして見つけたのが……
「神殿、だよね?」
「でも、私達の知っている神殿の装飾とは違うわ。精霊信仰だと神殿は作らないはずだし……」
「それに、他にも何か違和感がある。調べる必要があるな」
「同感ね。どう考えても変よ」
「あと……結界かな?何かあると思う」
「ん?……本当だ。気付きにくくなってるが、あるな」
「……分からないわ。隠されてるってことよね?」
「ああ。取得情報は同じでも、解析には差が出るか。ならそれも共有、いやそれだと……」
「ソラ君?」
「何でもない。行くぞ」
「ええ」
距離はあったが、この3人からしたら大したことは無い。すぐに近くまで行くが……神殿の周囲にはデーモンがうろついていた。
「これって……守ってるわけじゃないよね?」
「ああ、住んでるだけみたいだ。とはいえ、こんな昼の森の中にデーモンなんて珍しいな」
「普段は洞窟の中とかだっけ?」
「一応本にはそう書いてあった。とはいえ、ダンジョン以外でデーモンの集団を見るのは初めてだから、何とも言えないな」
「そう言えばそうね。ロスティアの時は1体だけだったし……そうなると、ここにある何かが余計気になるわ」
「経験的にも、か……いや、今はこいつらを殲滅するのが先だ。やるぞ」
このレベルではソラ達の敵となり得ない。BランクのレッサーデーモンやAランクのミドルデーモンしかいない集団は、単純作業のように狩られていった。
「それで、これだな」
「ここまで来れば私にも分かるわ。確かに結界があるわね」
「でも、希薄だよね」
「ああ。この程度の結界なら簡単に……っ⁉︎」
ソラは結界へ手を出すが……触れた瞬間に慌てて手を引き戻す。
「ソラ?」
「何なんだこの結界は……」
「どうしたの?」
「中身を隠すことを目的にした結界かと思ったが、大違いだ。何柱も……恐らく、上級神10柱近くの神気が込められている。力技で破るのはほぼ不可能だ」
ソラの右の手の平は、火傷でもしたかのように爛れている。すぐに治癒魔法を使って治したが、驚きに関しては直らない。
「ただ……穴があるな。どんな種類かは分からないが……」
「分かるの?」
「俺の使う結界と似た所もあるから、何とかな。感覚でしか無いが、これは……」
「それで、解けそう?」
「分からないが……これを試してみるか」
刀を抜き、片手で顔の横に水平に構える。霞の構えの変形型だが、片手で振るうソラには丁度良い。
「……斬り裂け、薄刃陽炎」
そして突き出された剣先は……結界に弾かれることなく貫いた。そしてそれを下に押し下げると、結界に切れ目ができる。
「え?斬れたの?」
「早く入れ。すぐに閉じられるぞ」
「分かったわ」
急いで3人が切れ目を通ると、すぐに結界が閉じた。先ほどまであった切れ目の痕跡は一切無い。どうやら、完璧に近い自己修復機能があるらしい。
「それで、どうやったの?」
「破れないって言ったわよね?」
「力技ならな。今は術式の中にあった穴に突き入れて、そこから結界の流れに沿って斬った」
「そんなことできるの?」
「ああ、薄刃陽炎の神器としての能力を使えばって限定されるが。斬る能力だ」
「それだけ?」
「神器にしては控え目ね」
「今後どの程度になるかは分からないけどな」
今は弱くても、成長しないとは限らない。もしくは、使いこなせていないだけかもしれない。今後どうなるか……と考えることはあるものの、ソラは今もちゃんと見る人だ。
「じゃあ、わたし達のはどうなるのかな?」
「どうだろうな……俺みたいに別のものを司るわけじゃなく、ミリアとフリスの能力を補助する可能性が高いか?」
「分からないわ。まだなのかもしれないけど、ソラみたいに感じれるわけじゃないもの」
「そうか。なら待てば良い」
3人と同様に神器も成長している。ミリアとフリスはまだ方向性がつくほど成長していないのだろう。そう考え、ソラ達は神殿へ向けて歩いていく。
すると、また異なる感覚を3人は感じ取った。
「あれ?別の神気?」
「本当ね。でもこの感じは……鈍いわね」
「澱んでいるというか、濁っているというか……変だな」
「術式になってない?絞りかすかな?」
それぞれの感覚で神気をとらえる。これは仕方ないし、誰も気にしない。ただ、良い気分で無いのは確かだ。
そして3人は神殿の中へ入っていく。そこで見つけた物は……
「この石柱か」
「うん、間違いないよ」
「ソラ、ここに窪みがあるわ。何かをはめ込んでいたのかもしれないわね」
高さ2m、直径1mの石の柱だ。見た目はただの古びた柱だが、何者かの神気が込められている。
「これの存在理由が分からないな。結界の基盤というわけでは無さそうだし……」
「結界がこれを隠してたんじゃないの?」
「その方が考えやすそうね。どうなのよ、ソラ?」
「確かにそうだな……何者かが作ったものを結界が封じていた、といったところか。ただ、今はもう結界も無意味らしい」
「残り香だものね」
「まあ、残しておいても良い気はしないけどな。壊すぞ」
「うん、大丈夫だけど……壊せるよね?」
「問題無い」
ソラは左足を前にして右手を引き、突きの構えを取る。そして、神気を込めた拳を突き出した。
その1撃により、石柱は半分程にヒビが入る。だがソラは2発、3発と打ち続け、2桁となる前に石柱を粉砕した。
「これで良い。ただ、これ1つとは限らないか。いや……ミリア、フリス、予定変更だ。元王都より先にこれの対を探す」
「それは良いけど……対?」
「2つあるってことよね?何で分かったのよ?」
「勘だ。だがあれだけ強固な結界があって、それとは別の神気がある以上、神が関わっている可能性は高い」
「そう……なら信じるわ。行きましょう」
「すまない」
調べる順番を変えただけので気にする必要は無いのだが。それに、この程度のことをとやかく言う2人でもない。
ソラ達は再度結界を抜けると、再び北へ向けて歩き出した。




