第16話 鬼の間②
「オラァ!」
「ハァ!」
「やっちゃえ!」
戦いは続いている。すでに倒された魔獣は1500を超えているが、まだまだ群れは途切れることなく3人に襲いかかっていた。
「っ!こっちは終わりが見えた!」
「本当⁈」
「ああ!さっさと片付けてそっちに加勢する!」
「頼むわよ!」
ソラの探知魔法は、3つの通路からやってくる魔獣の群れが終わり、残り各100程になった事を知らせている。
だが、その内の60%はオーガやオークなのだが。
「ああくそ!デカブツばっか来やがって!」
「ソラ君、大丈夫⁈」
「大丈夫だ、っ⁉︎」
オークが壁のように立ち塞がり、オーガが間から攻撃してくる。ゴブリンやコボルトもいるため、油断はできない。
しかし、フリスに声をかけたタイミングで10体の魔獣が一斉に攻撃をしてきた。何とか9体は殺したソラだが、他のオークの後ろに隠れて生き残ったオークの攻撃は止められず、ギリギリで避ける。その攻撃は床を割り、多数の石片を周りへと飛ばした。
「チッ、危ねえなこの野郎!」
当然ながら直ぐさまそのオークを殺したソラ。その後も魔法を多用しながら、次々と狩っていく。
「はぁはぁ……エアロランス!」
「無理はしないでよ!」
ミリアとフリスは危なげなく魔獣を倒しているのだが、段々とミリアの占める割合が増えてきた。フリスの魔力が尽きかけてきたのだ。
今までに集めてきた魔水晶を砕いて魔力を少しずつ回復させつつ、出来るだけ多くの魔獣を1撃で葬り去れるように疲労の溜まった頭で考えながら、魔法を放っている。
それでも、魔力の消費は厳しいものであった。
「フリス!」
「あっ……」
魔力が尽きかけた状態のため、判断力が鈍っていたフリスは、通路の縁から向かってくるオーガを見逃してしまっていた。
そのオーガはフリスを目標に棍棒を振り上げて……
「何してんだゴルァ!」
「ソラ!」
「ソラ君!」
「悪い、手間取ってた」
……ソラに蹴り飛ばされ、斬り殺された。
ソラが自分の方向を終わらせた瞬間にこちら側へと向いており、直ぐさまフリスの救援へと向かっていたのだ。
「フリス、少し休んでろ。こっちも後少しだ。ミリア、気合い入れろよ!」
「分かってるわよ!」
「ありがとう……」
「気にするな」
ソラとミリアの共闘により、残り約100体となっていた魔獣の群れも無事殲滅することができた。
「ソラ?右の頬が……」
「ん?あ〜、少し切ったか……石片でも掠ったかな?」
「ちょっと待ってて、傷薬出すから」
「いや、良いよ。リカバー」
「……何でもありなのね……」
ソラは自作の回復魔法を使い、頬にできていた切り傷を治す。流れ出た血は戻らないため、他の魔法で綺麗にしたが。
その後、通路の至る所に落ちている魔水晶を回収していく。
「戦ってる途中で砕かれた魔水晶が多いな……これなら回復は早いか?」
「ソラ、こっちは終わったわ。砕けたのが多かったみたいで、20個くらいしか無かったわね」
「こっちも似たような状態だ。30個しか回収出来なかった」
「これは仕方ないけど……この後はどうする?移動するの?」
「……いや、この場でフリスの回復を待とう。この辺りは魔力濃度が濃いからな」
「そういうことね。守るのなら、私達がいるし」
魔法を使うと魔力を消費するが、消費した分は周囲から吸収することで回復させられる。ソラとフリスが大量に魔法を使い、無数の魔力で出来た魔獣が消え、幾つもの魔水晶が砕けたこの場所は、他よりも濃い魔力に覆われている。魔力を回復させるのなら、場所を移動するよりも留まった方が良いのだ。
「ごめんね、2人共……」
「気にするな。寧ろあそこまで耐えていたから全滅しなかったんだろ」
「そうよ。私だって助かってたんだから」
「今は魔力を回復させるべきだな。ほら魔水晶、多分Cランクだ」
ソラはポーチの中から少し濁りの薄い魔水晶を取り出す。それを受け取ったフリスは先程と同じ様に砕いた。
「思ったんだが、どうやって砕いてるんだ?そんな簡単に割れるような物じゃないだろ?」
「魔水晶はね、魔力を込めて握れば簡単に割れるんだよ。込める量はそんなに多くなくて良いから、吸収出来る量の方が多いの」
「なるほど。魔法使いには必需品ってこの事か」
「フリスは魔力量が多いはずなのにね……あれだけ魔法を使ってて元気なソラはどれだけなのよ」
「さあな」
(といってもな……感覚的には5分の1も減ってないな……量が少ない分、神気の方が消耗は早いか?ベフィアに来たばかりの頃よりは増えてるみたいだが)
フリスも、ベフィアの中ではトップクラスの保有魔力量なのだが、ソラはそれを大きく上回る。魔法には神気が混ざっている為、威力も上がっていて、同威力なら魔力の消費は少ない。
はっきりと言えば、比較する事自体が間違っているだろう。
「……ん、よっと。ソラ君、ミリちゃん、もう大丈夫だよ〜」
「無理はして……ないみたいだな。じゃあ、こっちに行くか」
「このまま真っ直ぐいくの?」
「こっちの方が来た魔獣が多い。奥へと続く可能性は高いんじゃないか?」
「それもそうね。行きましょうか」
元気になったフリスも共に、再度ダンジョンの奥を目指して歩き出したのであった。
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「これは……ボス部屋の扉か」
「無駄に豪華ね」
「必要無いよね?」
「そう言うなって」
激戦の後に再度野営し、ソラ達はダンジョン鬼の間の最終階層第30階、その奥地へと来ていた。
3人の目の前にあるのは、巨大な観音開きの扉で、そこには緻密な紋様が彫られていた。ここが普通の遺跡であったらどれ程良かったことか。
「さて、準備は良いか?」
「当然」
「勿論だよ〜」
「それじゃあ、行くか」
ソラが先頭に立ち、全力で扉を押し開ける。そして、薄暗いボスの部屋へ一歩踏み出した瞬間ーー
「っ⁈」
ーー矢が2本、飛んできた。居合でギリギリ撃ち落としたソラは、部屋の奥を睨む。そこにはゴブリンとコボルトの上位が各種1体ずつ、オークとオーガが1体ずついた。
「こいつは……」
「どうしたの?」
「気を引き締めろよ。こいつら、ダンジョンの外の奴等より強いぞ」
「そう……本気じゃないとマズイかもね」
「うん……」
「連携はいつも通りで十分だ。良いな?」
「ええ」
「良いよ」
「よし、行くぞ!」
ソラの判断基準は矢の速度と魔獣達の体幹。武芸者としての実力を高めていく過程で身につけた観察眼は、相手の実力を他よりも上と判断した。
と言っても、元からソラ達との実力差は大きいため、大して影響は無かったりする。
「ふっ!」
「はあっ!」
「いけー!」
2000体以上の魔獣の群れと戦い、勝利した3人には、ボスとはいえど8体だけでは足止めにすらならない。文字通り瞬殺し、魔水晶を回収した。
「ふう、お疲れ様」
「言われるほど苦労して無いわよ」
「簡単だったね〜」
「それじゃあ戻るか。だが、油断はするなよ?」
「勿論よ」
「当然だよ」
そうしてソラ達は、元来た道を辿って行った。
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「外だ〜!」
「やっとか」
「結構かかったわね」
ボスを倒してから3回野営した後、漸くダンジョンから出る事が出来た3人。今は丁度夕方で、ハウルへ向かう集団が入り口の少し前に集まっていた。
「さて、何日経ってたんだろうな」
「宿に戻れば分かるわよ。預けた荷物は日毎に料金がかかるからね」
「疲れた〜」
「そんなに疲れてるようには見えないけどな」
「その通りね。帰りは楽だったし、寝てる間に無くなったんじゃない?」
「ん〜、分かんない。でも、疲れたんだよ?」
「少し休めば治る類だよな。早く休めよ」
「私もだけどソラもよ。意外と疲労が溜まってることもあるから、気を付けてね」
「心配してくれてありがとな。俺もさっさと寝るか」
3人がダンジョン踏破にかけた日数は7日、平均の半分以下である。
呑気に話しながら歩いていくソラ達がそれを知るのは、暫く後のことであった。




