第9話 闇宮①
「暗いな」
「真っ暗だね」
「ここにいるのは闇の精霊王よ。当然と言えば当然ね」
「確かにそうか」
ソラ達が勇んで突入した先、真っ暗闇だった。光魔法を使っても、明かりは灯らない。
とはいえ封じられているのは視界だけなので、この3人にはあまり意味は無かった。
「さて、警戒しつつ行くぞ」
「でも、この中だと私は役に立たないわね。お願いするわ」
「いや、ミリアも活躍できる」
「どういうこと?」
「こういうことだ」
ソラの魔力探知と気配察知、ミリアの気配察知、フリスの魔力探知。ソラはこの3人の感覚をリンクさせ、知覚の共通化を成し遂げていた。
ここを凌ぐだけなら、ソラの魔力探知をミリアに送るだけでも良いかもしれない。だがこの神術は、若干の差異がある各人の感覚を上手く繋げることで、1人の時よりも高精度な探知を可能としている。
「凄いわね、これ」
「俺達だからこそできるものだがな。神気に繋がりがあるからこそ、こんな無茶苦茶なこともできる」
「じゃあ、わたし達には無理?」
「俺が親みたいなものだからってことか?」
「うん」
「そんなことは無いと思うぞ。繋がりは一方的なものじゃなくて、双方向のものだからな」
「なら、頑張れば私もできそうね」
「ああ」
難しいかもしれないが、不可能では無い。そう考えていなければ、ソラは別の答えを言っていただろう。
ただまあ、この場所でゆっくりする時間なんて無い。
「っと、来たな」
「本当だね」
「ええと……この感覚ね。覚えたわ」
「早く慣れてくれよ。それでこれは……シャドウ系か?」
「でも、大きいよね。ビックシャドウかな?」
「いや、7割は動きが遅い。それはシャドウゴーレムだろう」
「……ついていけないわね」
まあ、魔力探知での魔獣の判別は慣れが必要だから、仕方ない。ソラとフリスが先導し、魔獣のいる方へ向かっていく。
「残り100m、曲がってはいるが一本道か」
「ミリちゃん、分かる?」
「道は分かるけど……足下がどうなってるかは分からないわね。戦うには辛いわ」
「慣れてないなら、見ているだけでも良いぞ?」
「それは嫌ね。場所は分かるんだから、残りは私の問題なのよ?」
「そうか。なら、無理はするな」
「ええ」
ここはかなり足場が悪く、しっかり知覚していないと走るのも難しい。そんな中で出てきたシャドウ系の魔獣は、その名の通り体が影でできており、普通の物理攻撃は効かない。この暗闇も含め、普通なら厄介な相手だ。
だが魔法の攻撃は効くので、3人は気にしていなかったりする。
「しっ!はぁ!」
付加をかけた刀と魔法で、蹴散らしていった。BランクのシャドウゴーレムやAランクのビックシャドウ程度、ソラの敵ではない。
「行くよ〜!」
また、フリスは光らないながらも雷魔法を放ち、シャドウ達を貫いていく。速く動くことはできないシャドウ達は、ただの的でしかない。
「ここ、ね!」
ミリアもおっかなびっくりではあるが、双剣に神術で付加をかけ、シャドウを切り裂いていく。ソラとフリスは心配しながら見ていたが、問題は無さそうだ。
「何とかなりそうだな」
「ええ、どうにかできそうよ」
「じゃあ、一気に行っちゃう?」
「ああ。そのうちミリアも慣れるだろうからな」
「早く慣れるわ。置いていかれたくなんて無いもの」
「俺達が置いていくことなんて無いけどな」
「物の例えよ」
「分かってる。言ってみただけだ」
「ソラ君、ミリちゃんを怒らせないでね?」
「そうだな」
「ちょっと?」
「さて、続けるぞ」
ふざけた言い合いをしつつも、3人は順調に魔獣の数を減らしていった。
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「しっ!」
「はぁ!」
「やって!」
暗闇の中を3人は駆け抜ける。魔獣が目の前から迫ってくるが、誰も気にしない。蹴散らすだけだ。
「フリス、右を頼む」
「分かった。前はお願いね」
「ああ、ミリア」
「ええ」
ソラの一閃がリーパーを斬り裂き、ミリアの双刃がムーンゼブラを切り刻み、フリスの魔弾が右の通路から来ていたダークセンチピードの群れを吹き飛ばす。
「ソラ君、アンデットだよ」
「結構な数だな……ミリア、大丈夫か?」
「ええ、あの時が変だっただけよ」
「なら良い。だが、俺がやるぞ」
「ソラ君の方が早いもんね」
アンデットはソラの光魔法によって消し飛んだ。Bランクのスケルトンライダーやメイジスケルトンにファントム、その2ランク上のデュラハンやリッチにレイスなど。多種多様なアンデットが襲ってくるが、3人に触れることはできないでいた。
「ふぅ……これで終わりか」
「そうみたいね。何も感じないでしょう?」
「うん、全然いないよ。でもミリちゃん、罠が全然無いけど大丈夫なの?」
「心配よ。でも、無いんだから仕方ないわ」
「暗闇だけでも十分な罠だ。それに、大掛かりなものは大抵魔力を使う。魔力探知に対して弱いからかもしれない」
「そうね。それが1番考えやすいわ」
「じゃあ、大丈夫なんだね」
「気を抜くのは駄目だが、心配する必要は無いだろう」
光が無いだけで、人の緊張感は大きく高まる。それはソラ達も例外では無く、緊張は精神的な疲労を溜め、失敗させやすくする。それを防ぐことも重要だ。
「っと、次か」
「これは……ドラゴンよね?」
「この大きさって、老竜?」
「恐らくな。他には……アークデーモンやヘルもいるぞ」
「SSランクばかりね。正念場かしら?」
「ああ。全て蹴散らす、良いな?」
「うん」
「ええ」
まだ距離があるため、3人は駆け出す。この距離でも魔法は撃てるが、魔力の消費が大きいためだ。
「俺がアークデーモンをやる。ミリアは老竜、フリスはヘルを頼む」
「確かにそれが良いわね。フリス、援護は任せるわ」
「うん。ソラ君、ミリちゃん、前はお願い」
前衛2人、後衛1人と分かれ、戦闘を開始する。魔力探知に慣れたミリアも、視界がある時と変わらない動きを見せていた。
「さてと……分かれててくれて助かった」
アークデーモンの共通点は肌が黒いことと人型なことくらいだ。性別だけでなく、性格や容姿も個体によって異なり、武器や戦い方も違う。
だからこそ、対応力の高いソラが相手取る。
「狙いが甘い!」
突き出される槍を避けると同時に体を一回転させ、短剣や短刀を持ったアークデーモンごと槍持ちを斬り裂く。さらに光魔法で後衛を貫くと、盾ごとアークデーモンを斬り飛ばした。
まだまだ多くのアークデーモンが残っており、SSランクだけあって抵抗もかなりのものが、その数は時間に比例して減っていった。
「多いな。でも、大丈夫だね」
ヘルは全身が黒い翼人のような魔獣で、高威力の闇魔法を使う。つまり、純粋な魔法対決を仕掛けてくる。
そして、それに最も長けるのはフリスだ。
「もっと行け〜!」
闇魔法を雷で打ち消し、風魔法でヘルの翼を捥いでいく。さらに水魔法で頭部を潰し、近づくものから倒していった。抵抗もあるので簡単にはいかないが、順当に数を減らしていく。
「私も負けないわよ」
ドラゴン系の相手にも慣れてきたため、一切の危なげ無く対処していった。老竜の首や四肢は太いため1撃で切断はできないが、半分切るだけで動けなくなる。ミリアの速度なら、魔法や爪を避けて攻撃することも可能だ。
時折進路上のアークデーモンやヘルを切り裂きつつ、ミリアは群れの中を駆け抜けた。
「これなら行けるわね」
互いの線が交差するタイミングで協力しつつ、3人で魔獣の数を減らしていく。SSランクなので簡単にはいかないが、安定していた。
だが……
『あれ?……ソラ君!後ろ!』
「後ろ?……ちっ、アンデットか。しかもこの魔力と大きさは……ドラウグルとワイトだな。謀られたか」
『マズいわね。ソラ、頼める?』
「任せろ。ミリア、フリス、前は頼むぞ」
『ええ』
『うん、お願い』
背後から来るアンデットは約300体。全てSSランクだ。
「数だけ集めてもな」
ドラウグルの見た目は少し腫れた黒いゾンビのようだが、こいつは体を巨大化させられる。さらに念動力のようなものも使え、アンデットとしては素早い。1体だけでも相当厄介な相手である。
またワイトは闇魔法を使う普通の魔法使いのようだが、触れた相手を昏倒させられる。魔法も強力で、地上では災厄のようなものだ。
「光れ、唸れ、撃ち砕け。光波砲」
ソラは威力を高めるために短く詠唱を加えると、極太なレーザーを放つ。これにより半数近いアンデットがチリとなった。
そして薄刃陽炎に光を付加すると、群れの中に突っ込んだ。振るう度にチリが増えるものの流石はSSランク、すぐさま殲滅できるという程では無い。
そこで、ミリアから連絡が入った。
『ソラ、こっちに来れる?』
「まだ少しかかる。問題か?」
『ソラがいなくなっただけだけど、戦線を前に進められなくなったわ』
「その場で留めれてはいるんだな?」
『うん。ミリちゃんより後ろには進んで無いよ』
『前から優先してるから、何とかなってるわ。ソラが来れないなら、フリスに魔法を頼むけど……』
「そうだな、やってくれ。効率良くだぞ」
『分かった。でも、早く来てね』
「ああ」
ミリアとフリスの方もかなり減っている。時間を少しかけつつも、ほぼ同時に殲滅し終えた。
「お疲れ。大丈夫だったみたいだな」
「ソラ君の方が大変だったでしょ?」
「いや、光魔法でやれる分楽だった。もう少し早くやれば最後くらいは手伝えたかもな」
「そっか。じゃあ行こ」
「ああ。そうだミリア」
「どうしたのよ?」
「ボタンが外れてるから、直した方が良いぞ」
「え?」
ミリアがボタンのある場所を触っていくと、1ヶ所だけ布しかない場所があった。軽鎧の下の、胸元のボタンだ。
「ちょっ……!」
「あ、本当だ。ソラ君良く気付いたね」
「少し注意を向けてみたら、中が見えそうになってたからな」
「見える⁉︎」
「いや、見えそうなだけだ。それに、俺達しかいないんだから問題無いだろ?」
「そういう問題じゃ無いわよ!」
指輪から糸と針と予備のボタンを出し、素早く縫い付ける。恥ずかしがって顔を真っ赤にしているというのに、暗闇で普段と違うというのにとても正確だ。
ただ、ミリアは気付いていなかったが、ソラもフリスも笑っていた。最近はミリアを揶揄えることが少なかったからかもしれない。
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「やっと着いたわね」
「実感は湧かないけどな」
「光なんて全然無いもんね」
「ここまで目を使わないダンジョンも珍しい。というか、他に1つだけか」
闇宮への突入から十数日が経ち、ソラ達はようやくボス部屋の前へとやってきた。魔力探知があるため探索はできていたが、視覚が無いせいで時間がかかっている。
また、目を使わない代わりに他の感覚は酷使していたが、3人にとっては微々たるものだったようだ。
「それで、私達がやれば良いのね?」
「ああ。俺ばっかりやるのもアレだからな」
「大丈夫かな?」
「危なくなったら助ける。好きにやれ」
「うん……うん、分かった!」
「ええ、行ってくるわ」
ソラが扉を押し開け、2人が突入する。その先では薄いとはいえ光が満ちており、中央には真っ黒な古竜が陣取っていた。
『他の者達を敗りし、我が主となりうる者よ。我と争うことを望むか?』
「残念ながら、お前の相手は俺じゃ無い」
「私達よ」
「がっかりした?」
『問題無い。主の伴侶もまた主、全力でお相手しましょうぞ!』
翼を広げ、魔力を練り上げる古竜。ミリアとフリスもそれに対抗して魔力を、そして神気を練り上げていく。
「さあ……行きなさい!」
ミリアは双剣に光を付加すると……何も無い場所で振るった。だが付加された光が半月状となって飛び、古竜の右後ろ足を半分切断する。
「わたしも……行っちゃえ!」
さらにフリスも頭上に巨大な光を生み出し、2つに分けて飛ばす。それらはミリアに気を取られていた古竜の両翼に着弾し、炸裂して全ての翼を消し去った。
使ったのは2人とも神術だが、それぞれに方向性の違いが出ている。これにはソラも興味深そうに見ていた。
「初めて使ってみたけど、威力はまだまだね」
「わたしも、予想より弱かったかな。もうちょっと強くしても大丈夫だね」
「確かにそうだな。その辺りの扱いは慣れていけ」
「ええ、勿論よ」
『ぐぬ、この!』
「ミリちゃん下がって!」
そのミリアが飛び退いた瞬間に、古竜からブレスが放たれた。それはミリアにかわされたもののフリスへ迫っていたが、彼女の出した神術、白磁の壁によって防がれる。
『何だと⁉︎』
「お返しだよ!」
そしてフリスは大きな白い炎を放つ。古竜はそれを避けるものの、指が1本触れただけで四肢の内2本を失った。
『なっ、これは!』
「終わりよ」
そして、ミリアに頭部を切り刻まれる。神気の込められたには敵わないらしく、それだけで古竜は体を崩し、魔力へと消えていった。
「良くやった。それにしてもミリア、飛ぶ斬撃はいつの間に使えるようになったんだ?」
「気付いたのは土宮の時よ。ただ、その時は1歩分も飛ばなかったわ。神気の操り方もそうだけど、かなり練習したわね」
「その割には、俺はそれをほとんど見てなかったぞ?」
「少しくらいはソラを驚かせたいもの」
「なるほど」
神気や神術というものは、魔法よりもさらに感覚的な面が強い。神気の操作が問題であるなら、ソラから隠し通すのも十分可能だ。
「それに、フリスは高威力の神術も使えるようになったみたいだな。今のは範囲を抑えてたみたいだが、上手い」
「うん。わたしは雷宮の時だったけど、神気が少なかったし、制御も大変だったから練習だけだったんだ。でも、これでソラ君と一緒だね」
「まあ元々、魔力の制御はフリスの方が上手かったからな。純粋な神術勝負だと勝て無さそうだ」
「そんなことないもん。ソラ君、わたしじゃ真似できない魔法だって作ったじゃん」
「攻撃系はほぼ全てコピーされたけどな」
「それはそうだけど……でも、神術だと違うかもしれないよ?」
「確かに。なら、競争だ」
「うん!」
そんなやりとりをしつつ魔水晶を回収し、反対側へ向かう。そこにある最後の扉を開けると、そこには黒い人型が立っていた。いや、全身真っ黒なだけでちゃんと人だ。
『ようこそ。私がここ闇宮を任せられた精霊王、ハデスだ』
「知ってると思うが、俺はソラだ」
『ああ、知っている。中級神と成られたようだがな』
「中級神?」
『その通りだ。ソラ様は中級神、ミリア様とフリス様は下級神と成っている』
「わたし達も?」
「自覚は無いわね」
「ミリアとフリスには何の予兆も無かったぞ?」
『それは御二人が従属神に近い特性を持っているからだろう。独立した存在とはいえ、長らく共にいたのだ。先に成ったソラ様の影響が無いとは考えづらい』
「そうなの?」
『そうだ』
「分かりにくいわね」
『いや、御三方が珍しい。普通であれば、従属神以外でこのようなことは起こり得ない』
「どういうことだ?」
『そのままの意味だ。他の神にとらわれることの無い、通常の下級神に成る場合では、自覚できる程度の何かが起こる。それが普通だ』
「なら、何で私達には無かったのよ?」
『それが分からぬから困っているのだ。少なくとも私は聞いたことが無い』
「誰かに聞かないの?」
『私が知らぬということは、他の精霊王も知らぬ。他にいるのはあの方だけだが……答えるわけ無いだろう』
「まあ、確かにな」
オリアントスのぐーたら具合は半端では無いようだ。ハデスの目は言外に、諦めを伝えていた。そしてそれにはソラも同意する。
「さて、俺達は休むつもりだが、良いか」
『勿論だ。むしろ、配下である私達のことは気にしないでほしい』
「配下って言われても難しいわね。そんな風に思ったこと無いもの」
『変える必要は無い。今のままで良いだろう』
「それで良いの?」
『ああ。我らは支えるのであって、命ぜられなければ動けないというわけでは無い。生みの親ならまだしも、他の方々が変に意識をする必要は無いだろう』
「なら、そうさせてもらうか」
ここで数日休んだソラ達は欠片を貰い、また十数日かけて地上へ戻っていった。




