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異世界成り上がり神話〜神への冒険〜  作者: ニコライ
第8章 礎となりて

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第7話 魔都デイルビア①



「あそこね」

「間違いない。地形も合ってるからな」

「うん。でも……」


晴れない暗雲が立ち込めるなか、ソラ達は最初の目的地近くまでやってきた。丘の上に登った3人に見えるのは、元々3国の国境として発展した、そしてある特産物で栄えた町。だが今は……


「廃墟だね」

「でも、完全に崩れている建物は少ないわ。町の中での戦闘は少なかったみたいね」

「そのせいで、魔人が隠れていても分からないがな」

「見つけるだけだよ。簡単だよね?」

「まあな。さて、行くぞ」

「ええ」

「うん」


丘を下り、ソラ達は町へ向けて一気に駆ける。その途中にも魔獣はいたが、邪魔となるような数や質では無い。


「そんなに強い魔獣はいないみたいだな」

「AランクやBランクばっかりね。これも本当は強いんだけど……」

「Sランクばっかりだったもんね」

「何だか、感覚がマヒしそうだな」

「もうしてるわよ。きっと」

「ずっとこんなのだもんね」

「確かに」


向かってくる魔獣を排除しながら、3人は進んで行く。そして城壁まで辿り着くと進路を変更し、朽ちた門を飛び越えて町の中へ入った。


「最初はどこに行くの?」

「領主の館だ。何かあるなら、1番可能性が高い」

「壊れてるかもしれないわよ?」

「そうなってたら他の場所に行けば良い。まあ、この様子なら損傷は少ないだろう」


迎撃戦そのものは町の外で起きたのだろうが、その後は分からない。もしかしたら、避難する人を追った追撃戦も町の外で起こったのかもしれないが、それも分からない。当時ですら生存者はほとんどおらず、今はもう生きていないのだから。


「……酷いね」

「家荒らしはしたみたいだな」

「大きな魔獣は入ってきてないのね」

「この壊れ方だと、ゴブリンやコボルト、時々オーガって所だろう。狼系は通りの方が動きやすいだろうし、魔人は一般人の相手はしないだろうからな」

「そっか」

「だが、気にしていてもどうにもならない。進むぞ」


町の中は外とは逆で魔獣は少なく、ソラ達の進みも早い。すぐに領主の屋敷だった場所に着いた。


「荒れてるわね」

「ある程度の戦いもあったみたいだな。領主は最後まで残ってたのか?」

「時間稼ぎでもしてたのかな?」

「可能性はある。何か(のこ)ってたら、必要に応じて回収するのも悪くないか」

「遺書とかね?」

「あれば、だがな」


遺す暇があったかすら不明だ。中がどうなっているかも分からない。だが遺されていたのなら、それを生かすべきだ。

3人が壊れた玄関から入ると、外より見た目が酷かった。


「ねえ、これって……」

「血、だな。時間稼ぎもしてたわけか」

「ここの領主は立派な人だったのね」

「兵士達も、死を覚悟していたんだろう。領民を守るためとはいえ、立派な人達だ」

「あ、ここ崩れてるよ。何かな?」

「中途半端な空間よね。何かあったかもしれないわ」

「屋敷の大きさ的に、部屋があったとは考えづらい。あるとしたら……階段か?」


上の階から崩れてきたのか、何かが埋まっていそうな空間がある。何かありそうだったので、3人は瓦礫を取り除いていく。

すると階段が見つかり、そこを進むと地下室の扉らしきものが見つかった。そして、ソラ達はその扉を開ける。


「うわ……」

「……酷いわね」

「ここへ立て籠もった後、出られなくなったのか。可哀想に……」


逃げ遅れたなのか、地下室には白骨化した遺体が5つあった。いずれも扉へ縋るような形で倒れている。さらに、扉には黒い何本もの線があった。恐らく、かきむしっていたのだろう。

またかろうじて残っていた布切れは、高価そうなものが2つ、耐久性のありそうなものが3つ。2つの骨は小さく、3つは大人のサイズだ。つまり……


「領主の娘と侍女……そんなところだろうな」

「ええ。間違いないと思うわ」

「ここって倉庫なのかな?」

「そうみたいね。食料はほとんど無かったみたいだけど」

「地下に倉庫か。何が……ん?これは……」


ソラは気になり、棚に入れられた箱を覗く。その中にはソラにとっては意外なもの、商家の娘であるミリアとフリスには常識のものがあった。


「魔水晶か?」

「ええ、そうね。これなら、DやEランク相当かしら?」

「この町だと、鉱山から取れてたんだったか」

「うん。昔はここだけで取れてたんだって。ダンジョンができてから少し落ち込んだみたいだけど、栄えてたんだって」

「だが、魔王に攻め落とされた、か……栄枯盛衰とは言うが、虚しいな」


だが、話だけで進むことは無い。3人は遺骨を1人ずつ箱に納めて仕舞うと、階段を登って1階に戻った。


「そういえば、ソラはどうして魔王と戦おうなんて思ったのよ?」

「ミリちゃん?」

「急にどうした?」

「前から気になってたのよ。ソラには元々無関係な戦いで、最後まで付き合わなくても無いはずよ。強くなるためなら戦う必要があるけど、今はもう関係無いわよね?」

「あ、そっか。どうして?」

「……俺は今まで、強くなるために戦ってきた。戦えば力は高まり、経験も積める。ミリアとフリスを守るためにも重要なことだった」

「そうね」

「だが今の俺達だけで考えてみれば、魔王なんてどうでも良い。それは確かだ。目の前に来たってすぐに倒せるだろう」

「うん。多分勝てちゃうと思う」

「だが、戦った方が良いと思うから戦う、それだけだ。勘みたいなものだが、必要性を感じてる。何故かは説明できないが……」

「いえ、いいわ。ソラの勘は良く当たるもの」

「まあ、それだけじゃないけどな」

「他にあるの?」

「俺はこの世界を、ベフィアを気に入った。魔王もベフィアで生まれたといえばそうだが、今を守るなら倒すべきだ。それで十分じゃないか?」

「ふふ……そうね。ソラらしいわ」

「ソラ君って優しいもん」

「そうか?」


屋敷の他の場所を探すが、それらしいものはほとんど無かった。書類の類いはあったものの、どうやら普段の仕事用らしい。一応回収したものの、今となってはあまり意味は無いだろう。

探索を終えた3人は外へ出て、周囲を見渡す。


「次は教会、もしくは衛兵の詰所、騎士団本部あたりだな。可能性は低いとはいえ、何か残っているかもしれない」

「教会以外は分かんないけど……探すの?」

「その周辺は特に被害が大きいはずだ。建物も特徴的だろうし、分かるだろう」

「それと、南門周辺へも行きたいわ。最後に戦いがあったかもしれないもの」

「確かに。町の周辺を調べた後、そっちに行くぞ」

「じゃあ、まずは教会だね」

「見えるからな。途中に何かあったら、そっちを先に調べるがな」


教会は基本真っ白な大理石、もしくはそれに準じた物で造られる。そのため、遠くから見ても分かりやすい。

ソラ達は屋敷に向かう途中で見つけた教会へ、話しながら向かう。


「ねえソラ君、この町にはどれくらいいるの?」

「そんなに長くいるつもりは無い。数日……5日くらいになりそうだ」

「でも、それは何も無ければよね?」

「ああ。この町にいる間に襲撃があってもおかしくない。警戒は怠るなよ」


エリザベートの時のような10万を超える大群が攻めてきても、蹴散らせる自信がソラ達にはある。だがそれがボタンを押して終わりなどという簡単なものでは無い以上、疲労は溜まる。いくら圧倒的な力を持つとはいえ無敵では無いのだから、油断はできない。

そんなことを考えていると、すぐに教会へ着いていた。


「こっちも血だらけか」

「それだけ沢山死んだのね」

「生まれる前だから分かんないけど、大変だったんだろうね」

「この規模の町だと、1万人以上が暮らしていたはずだ。多少減っていても、数千人での逃走なんて簡単にできることじゃない。犠牲は大きかっただろう」

「逃げ切れたのは数百人って言われてるわ。悲惨よね」

「そんな地獄を見たことが無いから、何とも言えないけどな」


3人が中を調べて外へ出ると、すぐ近くに良く似た、それでいてここより大きな建物があることに気づく。よく見るとそれは……


「っと、こっちの黒いのも教会か」

「と言うより、大きさからしたらこっちがメインみたいね。焼けたみたいだけど」

「松明とかが、倒れちゃったのかな?」

「いや、ここまで燃えるとなると、油を撒かれた可能性が高い。火魔法だと壊れる部分がもっと多いはずだ」

「そっか。なら時間稼ぎ?」

「恐らくは。抵抗して中まで誘い込んだ後、火をつけて混乱を引き起こす。確実に死ぬ作戦だが、この様子なら仕方無いだろう」


仕方無いが、納得できるものでは無い。無関係な人々とはいえ、何度もこんな状況を見て冷静でいられるほど、ソラは冷徹では無かった。


「……仇は討つ」


武道を修めたからこそ、ソラは非戦闘員への一方的な虐殺を嫌う。相手を尊重し、敵と認めた相手にのみ振るう殺しの技は、敵に成り得ない者へ振るったりはしない。

まあ、1度武器を向けられた相手なら逃げていても容赦はしないし、魔獣や盗賊など遠慮不要な相手なら武器を取る前に殺したりもするのだが。


「魔獣相手じゃ、今さらよ」

「町が落とされたのはここから北にしか無いけど、村が壊滅することは多いもん」

「知識として知っていても、実物を目にするとまた違うだろ?それだ」

「そう。確かに私も、これで良い気にはなれないわね」


だがそれでも、人を(あや)めることに忌避感を持たなくなっても、不必要に苦しめることを良しとはしない。それは未来永劫変わらないだろう。

そんなことを思いつつ、空を先頭に元教会の中へ入っていく。やはり外と同様に、ここも黒焦げだった。上を見上げても、元は荘厳な天井画だったのだろうが、今はもう見る影も無い。壁に描いてあったであろう宗教画も、見るも無残な状況だ。それを見ていた3人は……


「あれ?」

「フリス、どうした?」

「あそこだけ他より黒いけど……気のせい?」

「いえ、私にもそう見えるわ。何かしら?」

「あれは……神々の集合、だったか?」

「多分そうね。その中の1柱だけみたいだけど……」

「どの神様か分かんないね」

「かろうじて絵の種類が分かるだけだからな。詳しいやつなら分かるんだろうが……」

「流石に私達じゃ無理よ」


ソラもそうだがミリアとフリスも、宗教画には詳しく無い。ハウルで見た絵の印象が強いため大まかな種類は分かるが、細かい部分は忘れてしまっている。そして、何故そこだけ他より黒いのかも分からない。


「分からないなら、考えていても仕方無い。もう夕方だし、近くの無事な民家で休むぞ」

「そうね。衛兵の詰所と騎士団本部はまた明日にしましょう」

「はーい。それで、今日のご飯は?」

「いつも通りにスープとパン、お肉はあるから野菜も入れて炒め物……ソラ、お米はいる?」

「そのメニューなら少し欲しいな。頼む……いや、自分で作る」

「分かったわ。それならパンはやめて3人ともお米にしたいんだけど、良いかしら?」

「良いぞ。任せろ」

「わたしは警戒してるね」

「頼む」


一時の休息を取る3人。日頃の行いが良いからか、最初の夜は何も起こらなかった。











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