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異世界成り上がり神話〜神への冒険〜  作者: ニコライ
第8章 礎となりて

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第2話 森都エシアス②



「それで……」


ギルドから出たソラ達は、すぐに取った宿の部屋に篭っていた。そして、この中には本来ならいるはずのない人影も1つある。


「何でここにいる」

「訪問して、招かれたからですが?」

「そういうことを言っているんじゃない。ここに来た目的は何だ」

「わたくしを弟子としていただきたいのです」

「……模擬戦をして、自分に足りないことを教えてほしくなったわけか」

「はい」


何故か面接に少し似た状況となってきたが、マイリアの方は本気だ。ソラ達3人がソファに座っているのに対し、マイリアは部屋の隅に置いてあった丸椅子をわざわざ持って来るほどである。それが正しいかどうかは置いておいて、心構えはできているのかもしれない。


「どんな厳しいことでも覚悟しております。ソラ様、どうかお願いいたします」

「本気か?」

「この身を捧げることも(いと)いません」

「却下だ。そんなものは覚悟なんて言わないぞ」

「例え話ですが」

「それでもだ」


俺が変な奴だったらどうするんだ、とソラは言いかけたが、口をつぐむ。そんな相手に弟子入りするほどマイリアは馬鹿ではない。会ってすぐてもそれくらいは分かっていた。


「分かりました。ですが、覚悟は決めております。修行が厳しくても、必ずやり通してみせます」

「そういうのは口に出すと軽く聞こえる。やめておけ」

「分かりました。ですが、他の言い方を知らないもので」

「変に(かしこま)る必要は無い。俺はそういうのは苦手だからな」

「はい」


師匠といっても何年も教え続けるわけでは無いので、ソラはこの方が良かった。つまり、この時点でどう答えるかは決まっている。


「それでソラ君、どうするの?」

「まあ見込みはあるし、良いんじゃないか?俺は防御より攻撃側だが、何とかなるだろう」

「ありがとうございます」

「だが魔法はフリスも上手い。参加させるが、良いな?」

「勿論です。フリスさん、お願いします」


ソラもフリスもマイリアとはスタイルが違うが、ソラの教え方ならどうとでもできる。


「さて、それじゃあ明日から始めるぞ。今日は帰れ」

「泊めてはくださらないのですか?」

「当たり前だ。というか、パーティーはどうするんだ?」

「待ってもらっています。彼女達もわたくしがいない状態で遠出するつもりは無いようで、毎日会うかもしれませんが」

「そうなんだ」

「なら気にしなくていいか。それで、明日はギルドで集合だ。良いな?」

「はい」


5人目の弟子がどうなるのか、若干楽しみにしているソラであった。













ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー












「何故森の中なんでしょうか?」

「何故って、注目されるからだ。昨日あれだけ人の目を集めたばっかりだしな」

「ソラ君、見込みの無い相手に教えるつもりは無いもんね」

「そんな無駄なことはしたくない」

「でもその割には、スカウトをしようとはしないわよね」

「見込みがあるってのは、能力だけじゃない。意気込みも含めてだからな」

「ねえソラ君、わたし達は?」

「当然、文句無しで1番だ」

「ふふ、ありがと」


エシアスから続く森の中を歩いていくソラ達。たがこうなると、話が進まない。


「……よろしいでしょうか?」

「ああ、すまない。慣れてくれ」

「止める、とは仰らないのですね」

「自制しようとしてできることじゃないからな。俺達はもう諦めた」

「その言い方は変よ。止めるわけないじゃない」

「だって楽しいもん」

「そうですか……分かりました」


マイリアも諦めるしかないことは分かったらしい。まあ実際、それが正解だ。この3人は3人だけで話し始めると他の人が入る隙間が無くなってしまったりするのだから。


「話が逸れすぎたな。取り敢えず精霊、特に主精霊について聞かせてくれ」

「はい。主精霊は、八大族長の家の者しか契約できません。契約できない者の方が多く、数世代に1人といった程度ですが、次期族長としては契約できて良かったと思っています」

「八大族長っていうのは何だ?」

「エルフ、ハイエルフ、ダークエルフの中で特に力が強い家の長ことよ。結果的にかもしれないけど、エルフの指導者みたいな立ち位置にいるわ」

「精霊術師じゃなくても、有名な人がたくさんいるよ」

「なるほど」


まあ主精霊と契約している時点で予感はあったが、その通りマイリアも良家出身だった。それを知っても、どうこうするつもりは無いが。


「分かってるとは思うが、次期族長だろうと何だろうと手加減はしないからな」

「勿論です。わたくしも冒険者、命のやり取りをしているのですから」

「なら良し。早速始めるぞ」


ちょうど森の開けた地点に着いたソラは、マイリアと正対するような位置に立つ。ミリアとフリスは少し離れた場所から見守っていた。


「まず最初は魔法に対する防御からだ。精霊は使わず、自分の魔法だけで対処してみろ」

「精霊魔法を禁ずると?」

「精霊魔法の利点は、使用者自身は魔力を渡すだけで良いことだ。精霊は使用者の意を()むとはいえ、魔法は精霊に一任される。だが、本当にそれだけで良いのか?」

「それは……」


何か心当たりがあるのか、言葉に詰まるマイリア。だがソラは止めずに話し続ける。


「その時最適と思う行動が精霊と違ってしまえば、その後の反応はどうしても遅れる。それを防ぐには互いの意思疎通も大切だが、戦術の骨子を合わせることも重要だ」

「戦術の骨子、ですか?」

「この状況ならどの魔法を使うか、この魔法の後はどの魔法を使うか、その選択を一致させるってことだ。もし魔力を渡しただけで伝えられるならそれが最適だが、何かサインを決めておくのも良い。どんな形であれ、望んだものを使ってもらえることが重要だ」

「確かにそうですね」

「だからこそ、ここでマイリアの戦い方を見せる。こういう機会じゃないと落ち着いて見られないだろ?」

『そうかな?』

『そうだよ』

『その通りです。お願いします』

「任せておけ。遅くなったが、始めるぞ」


精霊達も離れ、完全に1対1となる。それを見て、ソラは周囲に魔弾を浮かばせ始めた。


「防ぎ損ねるなよ?」

「分かっています」


そして放つ。それをマイリアは光の壁と土の壁で防ぎ、さらに風を操って逸らしていく。無詠唱もできるようだ。


「良いな。筋が良い」

「見込みがあるからこそ弟子にしたのでは無かったのですか?」

「改めての確認みたいなものだ。模擬戦だと、ゆっくり見れなかったからな」

「ゆっくり……」


なお弾速はソラ達基準でゆっくり、つまり一般人からしたらかなり速い。魔力の動きからどこに飛んでくるか大体分かるが、難しいことに変わりは無い。


「まだまだこれでも遅い方だぞ。数も増やしてくからな」

「え……」


宣言通り、どんどん魔弾の数と速さが増していく。マイリアもしっかり守っていくが……


「防ぎなさい!」

「良い目立てだが……そっちばっかりで良いのか?」

「っ、きゃ⁉︎」


その防御の資格を突き、魔弾が直撃する。まあ、当たっているのは風球だけだ。他のものでも水球はまだ安全だが、雪は降っていないとはいえ真冬に水を被るのはつらすぎる。


「うぅ……」

「悪くは無いが、真っ直ぐだな。いつも防御が同じ場所だ」

「どういう……?」

「壁が同じ所にしかできないのなら、迂回なんて容易い。もう少し変化をつけろ」

「分かりました」

「それじゃあ、続けるぞ」


マイリアへの直撃も増えるが、それも構わずソラはどんどん厳しくしていく。そして半数近くの迎撃ができなくなった頃、ようやく終わった。


「これくらいで良いだろう」

「ありがとう、ございました……」

「ちゃんと休めよ。明日は、そうだな……魔獣狩りだ」

「はい」


やはり辛かったのか、マイリアはその場に座り込んだ。その間、ソラは2人と話し合う。


「ソラ君、どうだった?」

「技術的にはまだまだだが、所々良い勘をしている。強くなるだろうな」

「それは良いわね。私と戦ってみるのも良いかもしれないわ」

「流石にミリアのスピードには追いつけないぞ。ただ、フリスは数日後に出番があるのかもな」

「そうなの?やった〜!」

「良いわね、フリスは」

「ただし、やり方は俺が言った通りにしろよ」

「うん!」


そしてマイリアが立ち上がってから、ソラ達は町へと戻っていった。












ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー










「あ、マイリアー!」

「元気ー?」

「レミーナ、ルリーシェ……何とか、ですね」


森の中、狩場へ向かっていたソラ達だが、そこでマイリアのパーティーメンバーと遭遇した。帰り道のようで、多くの荷物を背負っている。


「マイリアのパーティーメンバーだったな。野営した狩りからの帰りってところか?」

「ええそうです。それで……マイリアは大丈夫なんですか?」

「問題無い」

「そうかな?」

「大丈夫よ、きっと」

「……心配になるんですけど」

「気にするな。そういえば、自己紹介がまだだったか。俺がソラでこっちがミリア、反対はフリスだ。勝手にパーティーメンバーの1人を借りたような形になって悪かったな」

「私がミールで、こっちから順番にシェリア、レミーナ、ルリーシェ、ヒリアです。先にマイリアが話していたので大丈夫です。気にしないでください」


左から順に、片手槍と盾をもった人間(ヒューマン)、ナイフをいくつも腰に下げるダークエルフ、杖を持った妖精、多節棍らしきものを背負うドワーフ、杖を持ったエルフだ。

女性ばかりのパーティーもいないわけでは無いが、珍しい。この町でも目立っているだろう。それ故に模擬戦に野次馬が多かった可能性がある。


「先にってのは、ギルドでの模擬戦の直後か?」

「その通りです。上手な魔法の使い方を教わりたいと言っていました」

「ミール、止めてください」

「駄目だ。師匠には聞く権利がある」

「ソラ様!」

「マイリア、私にも聞かせてもらえるかしら?」

「ミリア様もですか⁉︎」

「ねえ」

「ん?」

「それも良いけど……要望がある」

「確か、シェリアだったか?」

「うん。後日で良いけど……マイリアを含めた全員と戦ってほしい」


この提案に対し、マイリアのパーティーメンバーの反応は早かった。


「3人対6人ってことか?」

「そう」

「良いね、それ」

「やりましょう」

「お願いします」

「悪くない提案だな。とはいえ……」


マイリアは防御役なため、パーティー戦の方が実力が際立つ。確かに有用な提案なのだが……


「3人だと多いよね」

「ええ、1人で十分よ」

「実際そうなんだよな……」

「というわけでソラ」

「お願いね」

「分かった。1対6だな」


この会話に5人は怪訝(けげん)な顔をするが、マイリアだけは納得したような顔だ。まあ、あれだけ力の差をまざまざと見せつけられれば、こういう反応も当たり前かもしれない。


「そうですね……それでも勝てないでしょうけど」

「えー?」

「そう?」

「そうです。絶対に無理です」

「マイリアがそこまで言うなんて珍しいわね。何があったの?」

「模擬戦見たけど、普通に強いだけだよね?」

「桁が違います……」


そして、ソラ達について詳しくない5人が怪訝な顔をし、疑問を(てい)するのも当たり前だろう。なので、マイリアは昨日の稽古について話し始めた。


「うわぁ……」

「凄い、ですよね……」

「……厳しい」

「大丈夫?」

「辛くない?」

「なんとか、ですね」


やはりこういう反応になった。ただまあ、ソラとしてはこれも面白い。


「お前達もどうだ?6人くらいなら面倒見れるが」


もしこの5人も弟子入りしたらソラのハーレムみたいだが……誰も勘違いしないだろう。ミリアとフリスが優先されているのは分かりやすいのだから。


「えっと……お、お断りします」

「もう行くから……マイリア、頑張って!」

「……ん」


だが5人は断り、逃げるように反対側へ去っていった。それをマイリアは呆然と見送る。


「見捨てられたな」

「仰らないでくださいませ……」


見捨てるのとは違うし、それはマイリアも分かっているだろうが、落ち着くには少し時間がかかるだろう。


「それで魔獣狩りだが、そうだな……狼系の群れ50匹くらいを1人でやれ」

「合計ですね」

「いや、1度にだ」

「……いますか?」

「いないかもしれないな。まあ、その時は追い立てて集める」

「えぇ……」

「怒ってるだろうけど、頑張ってね」

「危なくなったら助けるわ。心配はしなくて良いわよ」

「自分でやれる分だけやれば良い」


3人はこう言っているが、厳しくなるという確信をマイリアは持っていた。そしてそれは正しかった。










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