第22話 王都ハウル④
「で、お前が来た訳か」
「ああ。陛下がSSSランク冒険者を呼ぶわけだから、下手な者を派遣するわけにはいかなくてな。結局、知り合いってことで自分で来た」
ネイブを経由し、ハウルへ戻ってきたソラ達。そして、門を潜ってすぐの所でライハートに捕まった。
「というか、なんで待ち構えられたんだよ。密偵なんてついてたか?」
「冒険者ギルドには通達してあったからな。ネイブを発った日から計算すれば、待っているこたもできる」
「近衛騎士団副団長が何やってるんだ」
「呼ぶのは俺の役割だが、常時門にいるつもりだったわけじゃないぞ?」
「まあ、当たり前ね」
つまり、この急な遭遇は偶然ということだ。ライハート自身としては、先触れでも出しておくつもりだったのだろう。
「とはいえ、早く会えた方が良かったことに変わりはない。来てくれるか?」
「勿論だ。というか、また何か頼まれるんじゃないかと予想してたしな」
「助かる。ただ、その話は陛下と会ってからだ。だがその前に、近衛と模擬戦をしてくれるか?」
「それはつまり、鍛えてくれってことか?」
「ああ。勇者とともに進むのが殿下とソラ達だけ、ってのは国の恥だからな。近衛を中心に、精鋭を集めて両国に送ることになってる」
「その精鋭の実力向上か。まあ確かに、今のままだと一般兵扱いされかねないな」
「まあ……その通りだ」
副団長としては思う所があるのだろうが、ライハートは飲み込んだ。事実だから仕方がないのだが。
「じゃあ、早く案内してくれ。お前がいないと手続きが面倒だろ?」
「分かった。来てくれ」
そのまま4人は王城へ向けて進んでいく。門は、ライハートのおかげで顔パスだった。
「そういえば、ジュン達は今どこにいるんだ?」
「この間ギルドを通して、共和国に入ったところだと聞いた。今はウェイブスでダンジョンに潜っているはずだ」
「あの町ね」
「大丈夫かな?」
「問題無いだろ。聞いた話だけだが最低でも、Sランククラスの実力は持ってるだろうな」
「その通りだ。6人でドラゴン2頭を倒し、Sランク冒険者になったらしい」
「あの話は事実か」
「知っていたのか?」
「共和国で聞いた」
「偶然よ」
「でもリーリアちゃん、楽しそうに話してたよね」
「リーリア……もしかして、アーノルド家のご令嬢か?」
「ああ、良く分かったな」
「ソラ……お前ら本当に冒険者なのか?」
「それ以外に何がある」
ライハートが言いたいことも分からなくはない。この3人の他に各国上層部それぞれと私的なパイプがある冒険者などいないだろう。
「この先で待っていてくれ。呼んでくる」
「何人の予定なんだ?」
「取り敢えず30人だな。全員を連れてくるわけにはいかない」
「それなら、ソラ君だけでも大丈夫だね」
「だが、連携も見せた方が良いだろ。3人でやるぞ」
「それだとすぐに終わりそうね」
「まあ、手加減して脱落しないようにすれば良い」
「俺は参加しないが……お手柔らかにな」
ジュン達への稽古を見ていた故、どうなるか分からないと思っているのだろう。そして、それは事実なのだ。
「ミリア、フリス、何かやりたいことはあるか?」
「無いわね。いつも通りで良いわ」
「うん。ソラ君がやりたいようにやれば良いよ」
「なら、そうだな……いや、変に形をとる必要は無い。いつも通りやるぞ」
「分かったわ」
「はーい」
いつも通りということは……そういうことだ。そして、そこでライハートが戻ってきた。後ろには近衛の鎧を着た面々が続いている。
「連れてきたぞ」
「分かった。すぐに始めるから、その辺りで準備をしてくれ」
護衛が主な仕事の私兵と、魔獣との戦いが入ってくる騎士を一概にまとめることはできない。それは王家の護衛が仕事となる近衛騎士でも同じだ。相手となる魔獣の数や強さは異なるとはいえ、北も南も変わらない。
違いは選ばれた精鋭か否か、それくらいである。そしてその精鋭というのは、実力だけで選ばれるのでは無い。
「なかなか良い面々が揃ってるな」
「……ソラ、殺気を飛ばすのは感心しないわよ?」
「ほんの少しだ。萎縮するかと思ったが、そうでもないな」
「やりすぎないでね?」
「分かってる。さあ、始めるぞ」
盾持ちが8人、クレイモア等の大剣持ちが6人、槍などの長物持ちが12人で弓持ちが4人。バランス良く集めたらしい。陣形も綺麗で、連携に関しては問題無いだろう。
ただ、ソラ達相手に効くかどうかは別だ。
「ミリア、突っ込め。フリスは後衛を撹乱。俺は正面から相手する」
「分かったわ。任せるわよ」
「お願い」
「ああ」
近衛騎士達も警戒したのか、構えを防御寄りに変更する。それを見て、まずソラが盾持ちに接近した。
「突け!」
「ふん!」
「やあ!」
「せい!」
盾の隙間から長物が突き込まれる。だが、その程度に遅れを取るソラでは無い。
「甘いな」
跳躍し、構えられている盾の上に飛び乗る。盾はすぐに倒れ始めるが、既にソラはそこにはいない。
「ど、どこに⁉︎」
「後ろだ」
そしてそのまま、盾持ち2人の天地がひっくり返る。勿論頭から落とすようなことはせず、さらに回転して横から落ちた。
「え?」
「はぁ⁉︎」
「油断するな」
さらに盾持ち2人を倒した所で、1度距離を取った長物持ち達や大剣持ち達がソラ目掛けて突き出してくる。だが彼らの後ろに、高速で回り込んだミリアが近づいていた。
「はぁ!」
「なっ、あが!」
「は、早い⁉︎」
基本的には、懐に潜り込まれれば長物は弱い。それは近衛騎士も変わらなかった。
ミリアはルーメリアスを持たず、手刀で制圧していく。ソラと比べれば拙いとはいえ、剣士の手刀も侮れない。
『わたしも始めるね』
「頼む」
「うわあ!」
「きゃあ⁉︎」
そしてフリスへ射かけようとした弓使いへ、フリスから魔弾が降り注ぐ。それは弓使いだけでなく近衛騎士全員へ降り注いでおり、魔法も使える面々がなんとか凌いでいる状態だった。全体の半分が使ってようやくといった形である。
そんな状態でまともに戦えるわけがない。
「うそ、だぁ……」
「そんな……」
「滅茶苦茶……」
「まあ、こんなところか」
「言ってた通りだけど、弱いわね」
「でも、連携は上手だったと思うよ」
死屍累々な惨状が練兵場に広がっていた。そして、その全てを見ていたライハートの目は引きつっている。
「無茶苦茶だな、ソラ……」
「こんなの普通よ」
「うん。ここが荒地になってないもんね」
「比較するにはおかしいかもしれないが、エリザベートで攻めよってきた魔獣の群勢と比べると、数十人の人なんて楽なものだ」
「……」
常識はずれではあるが、間違ったことを言ってるわけでは無い。そのせいでライハートは言葉に詰まってしまう。
「まあ、ここまでのことは求めてない。帝国や共和国の騎士団上層部クラスにするだけだ」
「なら頼む。それで、自分も試してくれ」
「やっても良いが……どちらかと言うと、指揮の方が重要じゃないか?副団長なんだからな」
「お前達がいなくても訓練ができる人が必要だろ?」
「まあそうか……分かった、準備してくれ。ミリア、フリス、壁際で見ていてくれるか?」
「ええ、良いわよ」
「頑張ってね〜」
「ああ」
ライハートは武器を持ち、ソラと相対する。油断無く盾と剣を構えているが……それでは足りない。
「反応が遅いぞ」
「っ⁉︎」
ソラの上段回し蹴りはなんとか躱したものの、直後の手刀はわき腹に直撃した。
「ライハート、この程度なんて言わないよな?」
「こいつ……当然だ!」
すぐさまライハートは起き上がり、ソラへ攻撃を仕掛ける。自信があったのであろうシールドバッシュからの振り下ろし、だがそれもソラは簡単に躱していた。
「甘いぞ」
さらにその盾ごと蹴り飛ばす。壁際まで飛ばされたライハートが起き上がる時には、首元に刀が添えられていた。
「負けたか……」
「中々良かった。問題無いんじゃないか」
「あんなボロボロにされて、問題無いなんて言えるかよ……最後のアレだって、自身あったんだぞ」
「俺達以外になら有効だ。今の反撃をするには……対人戦における先読み、身体制御能力、身体強化の効率的な使用等々、必要技能が多い。普通の連中なら、あんな反撃はできないはずだ」
「自分で言うか……」
「というか、一部の魔人以外には連携で対処すればどうにでもなる。俺達みたいな単独で多数を殲滅するようなことをしなければな」
「無茶苦茶なのは分かった」
「俺達みたいな例外は多くはない。安心しろ」
「できるか!」
予想通りといった具合に笑うソラをライハートは睨みつけるが、涼しい顔でソラは流す。ただまあそれを続けていてもラチがあかないので、ソラは本来の目的について聞いた。
「さてと、それで案内してもらえるのか?」
「あ、ああ……だがその前に、風呂に入ったらどうだ?」
「まあ……1国の王に会うのにそのままは駄目か」
「陛下なら気にしないだろうが、一応な」
「なら頼む」
「分かった。部下に案内させる」
「楽しみね」
「うん!」
「はしゃぎすぎるなよ。ああそうだ、使い方さえ教えてくれれば手伝いはいらないからな」
「勿論、そのつもりだ」
ここまで用意が良いのは、平民出身の部下とよくいるライハートだからなのかもしれない。
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「久しぶりだな、ソラ」
「ああ、久しぶりだ」
久しぶりにやってきた円卓の間で、ソラはガイロンと向かい合っていた。
ソラの両隣にはミリアとフリス、ガイロンの横には王妃のレイリアがおり、部屋の中にはライハートとアノイマスもいる。客が違えば、国際会議となっているかもしれない。
「久しぶりですね」
「はい、レイリア様」
「元気だった?」
「フリス!」
「良いですよ。リーナのお友達ですもの」
「はーい」
「まったく……」
ミリアがフリスに手を焼くのも久しぶりというか、2人ともかなりソラに染まった気がする。いや、実際そうなのだろう。だからこそ、こういった懐かしい場では昔に戻っていた。
ただ、ソラは思い出話に浸るつもりで来たわけでは無い。
「それより、本題に入ってほしい。無駄話をするために呼んだわけじゃないんだろ?」
「当然だ。ジュン達についてはどこまで聞いている?」
「ドラゴン2頭を倒し、ウェイブスでダンジョンに潜ってるらしいな。ライハートから聞いた以上のことは知らないが」
「それで間違いない。他は些細な話だ」
「なるほど。それで?」
「勇者の成長を鑑み……2年後の夏、魔王への一大反攻作戦を行うことが3国間で決められた」
「2年後ってことは……最低でもSSSランクにはなってるだろうな。丁度良い」
「そこで、だ」
ガイロンは言葉を切り、再び口を動かす。それによりソラ達は……
「魔王の支配領域、そこへ潜入し、調べてもらいたい」
予想していた中でも冗談に近いものを、実際に提示された。




