第20話 雷都ライデン③
「ねえソラ君、どうするの?」
「どうする、って言われてもな……」
「やるとすると、面倒よ」
「だが、対処するしかないだろ」
ライデンへ向かう街道の途中にて、ソラは気になることがあり近くの山に登ったのだが……そこから見える光景が問題だった。
「また入ったわね」
「これで何体目?」
「30体を超えたところだ。多いぞ」
「中がどうなってるか分からないの?」
「流石に、ほとんどが範囲外になる。入り口付近しか探知できないな」
「そっか……」
直線距離にして5kmほど先、既に封鎖された廃鉱山に入っていくオーガ達。身体強化によって強化されたソラ達の目なら、この距離でもしっかり見通すことができる。
「さてと、行くか」
「そうね。入り組んでたとしても、近づけばソラが分かるもの」
「ダンジョンみたいに道が変わるわけじゃないもんね」
「ああ」
そして3人は駆け出し、しばらくして入り口近くまでやってくる。
「……ここにいる連中も予想以上に多いな」
「100くらいね。これだと、中がどうなってるか分からないわ」
「倒した後も問題だよね」
「処理が大変だな……死体は回収するとして、血は土魔法で埋めるか。多少通路は狭くなるだろうが、そのままよりは良いだろう」
「じゃあ、やるのね?」
「ああ」
その集まった場へ3人が突入すると、オーガの群れは簡単に一掃された。タンポポの綿毛ですら、風にはもう少し抵抗するのではないだろうか?
「奥は……何だこれは」
「どうしたのよ?」
「少し待ってくれ。調べてみる」
「あれ?見えない?」
「フリス?」
「奥の方にある魔力が何故か濃くて、どうなっているのか知覚できない。今原因が何か調べてるんだが……自然発生っぽいな」
「え?神気じゃないの?」
「ああ。地脈の影響で精霊、さらに魔力が集まりやすい場所みたいだ。排除するのは無理か……仕方ない、進むぞ」
魔力探知が使えなくても戦闘には問題無い。むしろ体格の大きなオーガは1度に1体か2体、後ろを合わせても4体程度しか来れないため、一方的な蹂躙になっていた。
「……どこに集まってるんだろうな」
「迷路になってて分からないわね」
「鉱山だもん。仕方ないよ」
「それは分かってるんだが……面倒なことに変わりない」
「まあそうね。それにしても、この感覚は久しぶりね」
「うん。ソラ君と一緒になってから、ダンジョンが簡単になったんだもん」
「悪いことじゃないだろ」
久しぶりの迷路ということで、3人は楽しんでいた。ただ、それから血の臭いが外されることはなかったが。
そんな時にソラは、坑道を支える木組みに目が向いた。
「それにしても、随分と古い坑道だな。何か知ってるか?」
「いいえ。鉱山に詳しいわけじゃないもの」
「近くだけど、流石に知らないよ」
「そうか。まあ、確かにそうだな」
「それにこんなに古いと、余程詳しくないと知らないと思うわよ」
「50年は昔なんじゃないかな?」
「そうなのか?」
「うん」
「木がかなり腐ってるもの。可能性は高いわね」
「なるほど」
町から離れており、廃れた鉱山のことを知っている者は少ない。もしかしたら昔は村か何かがあったのかもしれないが、今は魔獣が集まる場所でしかなかった。
「……止まれ」
「いるのね?」
「ああ。右側の壁の向こう、広間になっているところに30……いや、50くらいいるな。1体はかなり大きいから、恐らくキングオーガだろう」
「よく分かるね」
「気配を読むことは得意だからな。特にベフィアへ来てからは、ドンドン読みやすくなってる」
神としての成長があったためなのか、ソラの戦闘能力は成長し続けていた。魔法が無くても、地球にいた頃の自分が10人来たって圧倒できるだろう。
「それでソラ君、どうするの?」
「土魔法でこの壁を向こう側に飛ばして、土煙の中で突入する。一応被害が出ないように魔法は使っておくが、目は閉じて呼吸は止めておけよ」
「気配だけでも戦えるし、問題は無いわね」
「わたしも……少しはできるから」
「ならよし。俺の魔力もばらまいておくから、それが阻害される場所に何かがあると思えば良い」
「分かったわ」
「それなら魔力探知も使えるかもしれないね」
「ああ。それじゃあ、行くぞ」
そして打ち合わせ通り3人は突入する。ここでもまた、一方的な蹂躙だった。
「呆気なかったわね」
「うん。弱いもん」
「まあ、当たり前だな」
オーガの群れにキングが混ざっていようと、ソラ達の敵ではない。3人はすぐに後片付けに入ったのだが……その場には白っぽい丸い物がいくつも落ちていた。
「これは……魔水晶か?」
「そういえば、鉱山からも取れるって聞いたことあるわね」
「ダンジョンができる前は鉱山からしか取れなかったんだって」
「これができる場所だから、魔力が多かったわけか。すぐに見つかって良かったと思うべきだな」
「そうね。それで、少し貰っていきましょう」
「良いのか?」
「どうせ誰も回収しないなら、持っていった方が良いわ」
「そうすれば有効活用できるもんね」
「完全に商人の考え方みたいだな」
「悪い?」
「いや全く」
こんな道中であったが、3人は変わらず町へと進んでいった。
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「この町も変わらないな」
「変わる方がおかしいんじゃないかな?」
「感覚的なものだ。3国を回って、色々な文化に接したからな」
「それもそうね。でも、私としては今さらな気もするわよ?」
「それは気にするな」
「ソラ君だもんね」
「なんでそう納得する……」
日頃の行いのせいだろう。そう言われても仕方ないというか、ソラ自身がそう思っているのだから。
ライデンへ入った後、3人は屋台を巡りながら適当に話をしていた。初日で観光したいというのもあり、ギルドでしたのは登録だけだったりする。
「それと、もう少しで王都だが……」
「ソラ?」
「どうしたの?」
「……また、何か言われそうだからな。リーナはいないはずだが、ガイロンが何を言い出すか分からない」
「……確かにそうね」
「特に俺達は冒険者の最高位で、SSSランク魔人を倒した実績もある。多少の無茶はやれると思われるだろう」
「それで、ソラ君はどうするつもりなの?」
「無茶じゃなければ……いや、今の俺達に無茶なんてほぼ無いか」
「ええ」
「そうだよ」
「まあ、基本的には受けることになるな。絶対にできないこと以外は、だが」
「絶対にできないことなんて無いわよね?」
「魔王を封印しろって言われたって無理だからな?」
「何それ」
「ソラ君?」
「あー……これ、通じないんだったな。気にしないでくれ。前の世界にあったフィクションだ」
普段の生活には慣れても、魔王や勇者関連では若干の常識の違いがある部分もある。問題は無いのだが。
「さて、次は雷の精霊王か」
「そういえば、気をつけろって言われても意味が分からないわよ?」
「何で半殺しとかって話になったの?アレだけじゃ分からないよ」
「それはな……ちなみに、2人は精霊王についてどんなイメージを持ってる?」
土宮の帰りではこの話をしなかったために、理解されなかったのかもしれない。完全警戒のソラに対し、2人はいつもと変わっていない。
「そうね……会った以外には神話の話しか知らないけど、道に従って人を守る者よ?」
「つまり、正しい行いしかしないと?」
「うん」
「その前提から違うな。会ってきた精霊王は6人とも、感性は人と変わらなかっただろ?」
「確かにそうだけど、それがどうしたのよ?」
「つまり、精霊王が絶対に正しい訳じゃないってことだ」
「何で?」
「逆に聞くか、精霊王と同じ感性を持つ人が全て善人か?」
「……そういうことね」
「でも、それだけだと雷の精霊王が悪者になんてならないよ?」
「その上で俺が前いた世界の話なんだが……」
そこでソラはギリシャ神話のゼウスの話をする。すると、面白いように2人の警戒具合が上がっていった。
「……うん、悪者だね」
「ええ、女の敵よ」
「同意だ。あれほど自己中で傍迷惑な神なんて、向こうの神話にはいなかった。オリアントスもただのサボりでしかないからな」
やっぱりこういう感想を抱かれるらしい。そして雷の精霊王は同じ名前というだけで警戒されてしまった……デメテルからの忠告で確定しているのだが。
「そういうことだから、会った時は気をつけろよ」
「ええ、勿論よ」
「うん。任せて」
そうして意見は纏まる。雷の精霊王は気の毒だが……自業自得だろう。
と、そこでソラ達はとあることに気がつく。
「おいおい、嘘だろ……」
「そんなことあるの……?」
「あるんでしょうね……」
3人がそれを知覚した瞬間、絶句した。その原因というのが……
『あれ?聞こえるの?』
『あ、おーい』
「何で町の中で聞こえるんだよ」
精霊達だ。またではあるが、精霊王のダンジョンの周囲と同じくらいの精霊が町の中に集まっている。
そして、疑問への回答は至極あっさりしていた。
『何でって、ここにあるんだもん』
「……本当か?」
『うん』
「……大丈夫なのよね?」
『何が?』
「人が間違って入っちゃったりしない?」
『何で?』
「駄目だ、根本から理解されてない」
「みたいね……」
「うん……」
精霊の感性は人とは違うため、言っても理解されなかった。やはり精霊王とは何かと違う存在なのだろう。
「取り敢えず行くか。場所がわからないと対処の仕様がない」
「そうね。人が入れる場所だったら、何か対策をしないといけないもの」
「ソラ君が入り口を閉じちゃうとか?」
「まあ、そんなところだろうな」
精霊王のダンジョンは危険であり、SSSランク冒険者だろうと普通の人が入れる場所ではない。だが精霊達はそれを気にせずソラ達に話しかけていた。
『ねぇねぇ、他の子の所には行ったの?』
「ああ。ここが7ヶ所目だ」
「ちゃんと精霊王に会ってきたわよ」
『あはは、すっごーい』
『すごいねぇー』
「そうかな?」
『うんうん。ぼく達って、ここから動いたこと無いもん』
「そうなのか」
『そうだよー』
『王様が許してくれなくて』
『だからね、暇なの』
「でも、町の中だしまだ良いよね」
「ええ。他の場所は人気がなかったもの」
「嫌いじゃなければ、暇つぶしには良いな」
『そっかー。じゃあ、今度行ってみる』
『あ、わたしも〜』
『ボクもボクもー』
『みんなで行こ!』
「……いたずらはするなよ」
そんな風に話をしつつ、3人は精霊に導かれるままに進んでいく。そしてたどり着いたのは、1つの廃屋だった。
「この中か?」
『うん』
「ボロボロね」
「ずっとあるの?」
『そうだよー』
『古いよ〜』
「まあ、行ってみるか」
廃屋の中へ入り、指示されるまま地下への階段を下ると、そこには煌びやかな装飾がなされた門があった。
「……普通の人には見つからないようになっていて良かった」
「神気で隠されてるし、大丈夫だよね」
「こんな廃屋に来る人も……子どもは来るかもしれないから、どうにかした方が良いわ」
「なら、ドアを内側から土魔法で固めておこう。窓や壁もだな」
「お願いするわ」
「良い?」
「勿論」
そうしてソラはこの廃屋を封じ込める作業を始める。ミリアとフリスも見回りをしたりして手伝っていた。
と、その途中でフリスが思い出す。
「あ、そうだ。ソラ君、言い訳はどうするの?」
「あ……」
「……町の中だとそれが問題ね」
「そうだな……1度外に出て、城壁を超えてここまで来るぞ。神術を使えばどうにかできるはずだ」
別の意味で1番難しいダンジョンかもしれない。色々と気苦労が出た3人は、準備と休憩のために町の中心部へ戻っていった。




