第15話 岩都ロクシリア④
「……こんな所か」
「狙う相手を間違えたわね」
「わたし達が見えてなかったのかな?でも、無謀だったね」
次の町へ向かう街道の途中。前方にいた商隊が盗賊に襲われていたため、救援に向かったソラ達。盗賊は増援が3人だけだからと判断を間違え、抵抗したために殲滅された。
「大丈夫ですか?」
「は、はい……ありがとうございます」
ただ、ソラ達もやりすぎて商人に恐れられているが。
「では、俺達はこれで」
「あ、少し待っ!」
「進む方向が先なら、次の町で会えると思います」
そして3人は馬車に背を向け、目的地へ向けて歩き出した。ただ、ミリアとフリスにはソラの行動が不機嫌に思えたらしい。
「ソラ君、どうしたの?」
「ソラにしては愛想が無かったわね」
「いつも振りまいてるわけじゃないぞ。まあ、あの程度で恐れられてたら、迂闊に話せないからな」
「あ、そっか」
「エリザベートも近いし、言えないわね」
「ああ。さて、急ぐぞ」
トラブルの種になりそうなものなど、ソラ達からしたら置いていく対象でしかなかった。
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「この町も久しぶりだな」
「そうね」
「ハウエル君、いるかな?」
「流石にそれは分からないわ。他の町に行ってる可能性もあるもの」
「村に帰っている可能性もな」
ベフィアでの初めての弟子、と言って良いかは分からないが、ハウエルを鍛えた町だ。思い入れはある程度ある。
なお、ミリアとフリスは弟子といった関係では無いので、自然と除外されていた。
「手続きを頼む」
「はい。えっと、ソ……え?」
「どうした?」
「え、えぇ……え、SSSランク、ですか?」
「嘘は書いてないだろ?」
ソラの冗談は聞き流され、受付嬢の混乱は止まらなかった。だがそれでも手続きを進め、そこまで時間はかからずに終わる。
「驚いてたね」
「エリザベートの受付嬢は上手くごまかしてたが、ここは違ったな」
「あの戦いを経験したかどうかの違いよ。私達のことを知ってたみたいだしね」
「そうなのか?」
「ええ」
エリザベートではソラ達は有名だ。顔は知らなくても、とある冒険者が何をしたかはほぼ全員が知っている。それに、守ってくれたへの感謝も強い。
だがそういうものが強くない他の町では、驚かれるのも仕方がない。SSSに慣れているのは最前線の町、及び砦くらいなのだから。
「それで、この後はどうするの?」
「何か食べに行きたいわね」
「そうだな……昼には少し早い「師匠!」……ん?」
ソラのことを師匠と呼ぶ人物は、1人しかいない。ミリアの方も含めれば2人だが……ここでは数に入らない。
振り返った先にいた人物は、ソラ達の予想通りだった。
「ハウエルか。久しぶりだな」
「はい。師匠も変わりないようでなによりです」
「ハウエル君、元気だった?」
「お嬢も元気なようでなによりです」
「それで、どれぐらい強くなった?」
「この前グリフォンを倒して、Sランクに上がりました」
「Sランク?2年でなんて凄いわね」
「SSSランクの師匠達には敵いませんが」
「俺達が例外なだけだ」
「そう願いたいです」
弟子としては高すぎる壁だ。いや、壁というか要塞か。
「でも、何で知ってるの?話してないよね?」
「噂で聞きました。裏付けを取るのは大変でしたが……」
「色々な町にいるし、噂もまちまちだからな。まあ、知れたなら合格か」
「これも試していたんですか?」
「いや、偶然だ」
情報収集は重要だし、これもできれば言うことはない。意図していなかったとはいえ、試練になったことに変わりはないのだから。
「ちなみに、パーティーは組んでるのか?」
「はい。自分を含めて5人です」
「バランスは?」
「自分の他は片手剣と短剣、弓と魔法使いです。片手剣の彼は腕につけるタイプの盾も持っています」
「悪くない。後は大盾持ちがいれば完璧か」
「盾役が1人もいない師匠に言われたくありません」
一般的なパーティーなら必須とされる盾役。小型の盾なら2人いた方が良いと言われているが、必要無いパーティーも勿論存在する。
つまり、ソラのこれも冗談だ。
「俺達に盾なんて邪魔だからな。普通はいらないし、いる時でも土魔法か氷魔法で事足りる」
「自分達の魔法使いも使えます。そういった使い方はしたことが無いですが」
「どちらか単体……いや、2つか?」
「土と雷です」
「なるほど、それは良い」
地形を変えることのできる土と、速度と威力に優れる雷。上手く使うことができれば強い2つだ。本人にはまだ会っていないが、ソラはかなり期待していた。
と、まだハウエルには報告することがあるらしい。
「そう言えば師匠、半年ほど前に戦都まで足を伸ばした時なんですが、勇者様に会いましたよ」
「ジュン達に会ったのか」
「え、知ってるんですか?」
「ああ、ハウルで戦い方を教えてた」
「その割には技がなってないと思いましたが」
「基礎の基礎しか教えてないからな。弟子と言うには、関わりが少なすぎる」
「そういえば、勇者様には師がいると聞きました。師匠のことですか?」
「一応、俺のことなんだろうな……今度会ったら本格的に教えてやるか」
地獄のしごきが決定した瞬間である。ソラが覚えているかは定かでは無いが……ハウエルはあの6人の冥福を祈っていた。
すると、そのタイミングでギルドの中に4人の冒険者が入ってくる。ハウエルの様子からすると、知り合いのようだ。
「おーい、ハウエルー」
「こっちだこっち」
「あいつらは?」
「パーティーメンバーです。紹介します」
ハウエルを先頭に、その4人の方へ歩いていく。相手方も背後のソラ達に気付いたらしい。
「あれ?ハウエル、誰?」
「自分の師匠です」
「初めまして。ハウエルに戦い方を教えたソラだ。一応、師匠とも言えるか」
「そこは言い切ってください」
「1ヶ月も教えてないから微妙だろ」
「教わったことは事実です」
「なら、次からは言い切る」
漫才のような掛け合いに、4人に笑顔が出た。ミリアとフリスは苦笑しつつも、自己紹介を続ける。
「ミリアよ。双剣を使うわ。よろしく」
「わたしはフリス、魔法使いだよ。よろしくね」
「うん!よろしく!」
「こらパレス、この人はハウエルの師匠ですよ」
「良いじゃん、オル」
「まったく。では紹介します」
そう言って、ハウエルは4人を横一直線に並べさせた。周りの冒険者も何事かと注目している。先ほどソラ達が騒がしたのもあるだろうが、ハウエル達が有名なのもあるのだろう。
「彼はモルトラです」
「おう。よろしく、お師匠さん」
片手剣と小盾を装備した人間の男。ノリは軽いが、気概は十分、ソラはそう判断した。
「こちらはガイ」
「……よろしく頼む」
ダークエルフの短剣使いのガイ。口元までマフラーのようなもので覆っており、口数は少ないようだ。だが、ソラの見立てでは腕は立つ。
「彼がオルティア」
「よろしくお願いします、ソラさん」
エルフで、長杖を持つ魔法使い。魔力量は冒険者としては多いが、ソラと会ったばかりの頃のフリスよりは少ない。まあ、ミリアもフリスも例外的な存在なのだから仕方がない。
礼儀正しい口遣いは素のようだ。
「そして、彼女がパレスです」
「さっきも言ったけど、よろしく」
翼人の弓士。紅一点の彼女の得物は大きく、和弓とまではいかなくても身の丈ほどの長さを持つ長弓だった。今は器用に背中に括り付けている。
「それで、ハウエルに鬼の特訓をしたって本当?」
「地獄ってほど酷くないぞ」
「嘘です。」
「あの程度なら、貴族の私兵相手でもやったことある」
「……生きてました?」
「死んではいないぞ」
半死半生みたいな感じだったが。おそらく、ハウエルと同じ感想を抱くだろう。
ただ、ソラは自覚はしていたが、一切気にしなかった。
「ハウエル、食事に行くんだが一緒に行かないか?というか付き合え」
「命令ですか。いえ、良いですよ」
「奢り?奢ってくれる?」
「そうだな……まあ、良いだろう」
「やったー!」
「嬉しそうだね」
「フリスと同じね」
「確かにそうだな」
「お嬢も似てます」
「違うもん!」
同じだろう。表面的なものは似ていないが、奥にあるものは2人とも近いようだ。そんな話をしながら歩いていく。
ただ、そういうやりとりをしていたが、この町についてはソラ達よりハウエル達の方が詳しいに決まっている。
「それで、どこにするのよ?そんなに知らないじゃない」
「では、僕が良いですか?」
「オル?選ぶの?」
「はい。といってもいつも行っている場所ですけど」
「で、本音は?」
「……魔法について少し」
「まあ、時間はあるから良いぞ」
オルティアの本音も分かるので、ソラもフリスも否定はしない。そうして案内された店は、意外とギルドから近かった。
「ここです」
「ここって……お肉屋さん?」
「ここに来たかったんだ」
「確かに、ここは師匠も納得させられます」
「おいおい、俺達の金銭感覚は庶民側だぞ」
だがソラがこういった瞬間、ハウエルだけでなくミリアとフリスも、ソラに視線を向けていた。
「おい、なんだその目は」
「だって、ねぇ」
「うん、ソラ君だもん」
「必要なところには使い切りそうなイメージがあります」
「まあ……否定はしない」
つい最近、防寒用コートにも大金を出したばかりだ。普段からできるだけお金を使うようにしているのもあり、簡単に否定できることではなかった。
「ここは味だけじゃなないからな。量だって良いぜ」
「……うむ」
「だったらさっさと入るぞ。往来の邪魔だ」
モルトラとガイの話はあまり気にせず、妻と弟子に言われたソラは店の中へ入り注文する。しばらく待って出されてきたのは焼肉系の定食だ。ただ残念なことに、米は無い。
「美味しいわね」
「ああ、美味いな」
「そうでしょう。自分達もよく来ますから」
「お米に合う?」
「合うだろうな……」
「どうしたの?」
聞かれたので、ソラ達はほぼ順番にロスティアについて話していった。5人は興味を持ったようで、結構食いついてくる。
と、その途中でソラは思い出したようにハウエルに告げた。
「ああそうだ。少し後に1ヶ月以上町を開けるから、会えなくても気にするなよ」
「え、どうしてですか?」
「調査のためだ。魔獣の侵攻が無いかどうか、広い範囲で調べれば分かりやすいだろうと思ってな。結果は出て無いんだが」
これは言い訳にすぎないが、納得はさせられる。というか、何だかソラの予想とは違う方向にハウエルの思考は動いていた。
「なるほど……依頼を受けないでそういうことをやるなんて、凄いです」
「それに、綺麗な場所も見つかるからな。3人だけの思い出だ」
「……感動を返してください」
「勝手に感動したのはお前だろ」
「確かにそうですけど……」
確かに絶景はいくつか見てきたが……地獄のような光景の方が多い気がする。
そんなこんなで話していると、全員食事が終わっていた。
「さて、もう良いか?」
「あ、はい。すみません、こんなに長く話してしまって」
「いや、いい。俺も楽しかったしな」
「うん。ロスティアにも行ってみてね」
「はい。それでは会計は自分が……」
「駄目だ。師匠に金を使わせろ。決めたことじゃないか」
「ですが……」
「まったく。俺はお前よりランクは2つ上だぞ。当然、蓄えも多い。この程度なら一切問題無い」
「甘えなさい。ソラが私達以外にこんなこと言うの、そうないわよ」
「はい、ありがとうございます」
銀貨1枚にも満たない金額では、ソラ達の懐はほとんど痛まない。ソラが会計を済ませ、店を出る。
「じゃあ、無理はするなよ」
「元気でいなさいよ」
「頑張ってね〜」
「はい。師匠達もお元気で」
「元気でな」
「……感謝する」
「ありがとうございました」
「じゃあねー」
そしてソラ達はハウエル達と別れ、今日の宿を探しにいった。
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「結構良い場所ね」
「うん。それに、簡単に見つけられたもん」
「もしかしたらロクシリアには無いかもしれないと思ったが、あって良かったな」
とある岩山の頂上近く、町からは少し離れて魔獣もほとんどいないエリア。人はほとんど訪れないここ。3日前に見つけたこの先に進むため、丸2日ソラ達は準備していた。
『あ、また来たのー?』
「今日は挑むからな」
『そうなの?がんばって』
「むしろ手加減してもらいたいわね」
『王様によろしく〜』
「うん、伝えるね」
精霊王のダンジョンに続くと思われる洞窟が、3人の視線の先にあった。周囲にいる精霊達と話をしつつ、洞窟へ近づいていく。
「さて、準備は?」
「食料は十分あるわよ」
「魔水晶もだよ」
「水も十分、装備も問題無いな」
「私も確認したわ。行けるわね」
「行くよね?」
「ああ。行くぞ」
そしてソラ達は洞窟の中へ入っていった。




