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異世界成り上がり神話〜神への冒険〜  作者: ニコライ
第7章 我が道行く新たな星

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第13話 共和国首都エリザベート⑨




「これは……」


アーノルド邸に着いたソラ達だが、そこは昼間と大きく変わっていた。私兵が屋敷内の至る所に配置され、篝火が煌々と焚かれている。さらに騎士団所属と思わしき面々もおり、明らかに何かあったようだ。


「ソラ様!良いところに来てくださいました!」

「もしかして、こっちも襲われたの?」

「も、ということは、ソラ様もですか?」

「ああ、3人組にな。睡眠薬も用意されていた」

「どこの者かは……」

「身元を示すような物は何も無かった。その筋の専門家だろう」

「そうですか……」

「それでこの様子だと、こっちもなのね」

「はい。10人の暗殺者が屋敷に侵入、私兵が迎え撃ちました。ただ、捕らえた者も自害してしまったため、情報は得られておりません」

「生かしておくべきだったか……」

「できたのですか?」

「やろうと思えば、できたかもしれない。こんなことになってるのなら、殺さなければ良かったな」


情報が足りなくて何もできないなど、最悪でしかない。それゆえソラ達はここへ来たのだが……ここでも不足しているとは思っていなかった。


「ソラ様、ミリア様、フリス様」

「マリリアさんも来たんだ」

「こちらへ。ご当主様がお待ちです」

「……誰がやったか分かったのか?」

「上の者しか知りませんが、予想はついております」

「行くわよね?」

「勿論だ」


そして3人はマリリアについて屋敷の中へ入っていく。案内された場所は当主の執務室だった。


「早いな。やはりそちらにも行ったか……」

「その通りです。俺達をアーノルド家の関係者だと思われたため、ということですか?」

「恐らくはそうだろう。本来なら無関係なことに巻き込んでしまい、すまない」

「いえ、問題ありません。それで、被害は?」

「犠牲が出たのは私兵だけで、他にはいない。リーリアもトーラも無事だ」

「良かったね」

「ええ、無事で良かったわ」

「……相手は分かってるんですか?」


ソラとしてはこれが重要だ。だからこそここに来たというのだが……どうやら、あるらしい。


「断定できる証拠は無いが、推測はできる。ハプソーグ家の次男だろう」

「次男だけですか?」

「当主と長男は不明だ。噂は無いが、やったとしても不思議ではない」

「そうですか……それで、首尾は?」

「朝になり次第、別件の証拠捜索ということで騎士団を突入させる。君達はそれに同行してもらいたい」

「ソラ君、どうするの?」

「行くわよね?」

「俺達は……」


ここの騎士団とはパイプがあるから、そうしたとしても問題は無い。だが、ソラにそうするつもりは無かった。


「……先に突入して、証拠を掴みます」

「なんだと?」

「騎士団が来ると分かれば、確実に証拠を消そうとするでしょう。その時だけは証拠の場所が明らかになる。そこを突きます」

「だがそれでは、君達が危険すぎる」

「エルダードラゴンより脅威となる存在がこの町の中にいるのなら、会ってみたいものです。俺達以外で、ですが」

「……分かった。許可しよう」

「ありがとうございます」


依頼の内容変更ということで、依頼主の許可も得た。無理矢理な気もしなくもないが……

そしてソラ達は執務室を出て、廊下を歩いていく。


「ミリア、フリス、勝手に危険度を上げてすまない」

「いえ、良いわ。ソラ、いつも通りにするつもりは無いんでしょ」

「バレてたか」

「顔で分かるもん」

「……そんなに分かりやすいのか?」

「私達には、よ。他には、バルクくらいじゃないかしら。それで、何をするのよ?」

「ちょっとな……神術で尋問できないか試してみる」

「拷問?」

「いや、精神に干渉できないか試す。上手くいけば儲けものだが、失敗したら試した相手は壊れるな」


ファンタジー系の物語では定番の1つである。だが科学的には、1人の人間でできることとは思えない。

それに、予想される結果からしても、人道に反していることは間違いないのだから。


「……そう、分かったわ」

「ソラ君の好きにして良いよ」

「反対しないのか?」

「私達の利益になりそうなことだもの。それに、敵対者に容赦する必要なんて無いんでしょう?」

「ソラ君が気にする必要は無いもん」

「……ありがとな」


もう既にソラは人で無いのだから、気にないでやることもできる。だが元とはいえ人として、そんな風にはなりたくなかった。自分勝手ではあるが、ミリアとフリスに認められ、ソラは安心している。

そしてソラはエリザベートの地図を広げた。


「朝と言ってたから、早めに行くべきだろうな」

「顔とか、隠した方が良いかな?」

「いや、既に俺達も関係者だ。無関係な人に見られるわけにはいかないが、相手に対して隠す必要は無い」

「そう。じゃあ、そのままで良いのね」

「取り敢えずはここから大通りを通って向かい、密偵がいないか確かめる。その後は、そうだな……ここの貧民街を通るぞ」


そしてソラが提案したのは、常道からは外れたことだった。


「貧民街?そういう場所は余所者に厳しいわよ?」

「怪しい物の取り引きに使われたりもするから、色んな組織が入っちゃってるよ?」

「だからだ。貧民街なら、新しく密偵を入れることは難しい。それに、色々な組織が暗躍してるなら、互いに牽制し合うだろ?」

「結果的に、情報の伝達が遅れるのね。それで、見た目はどうするのよ?」

「俺が光魔法と闇魔法で誤魔化す。武器やアクセサリーを隠してくすんだ色にすれば、無駄に目立つなんてことは無いだろう。顔も汚せば完璧だな」

「汚しちゃうの?」

「魔法だけだ。屋敷に突入する時には綺麗になってるぞ」


女性だから、汚れるということには2人とも敏感だ。血糊も早めに落としたがる。まあ、それはソラも同じなのだが。

そして3人は屋敷を出、門の所まで来た。


「町を調べてくる。ここは頼んだ」

「は!お任せください!」


まだ私兵達に周知はされていないようで、こう言っても怪しまれることは無かった。周囲を警戒しつつ、屋敷を出る。


「……いるな」

「どこ?」

「この先に3、屋敷の裏に2……これだけか」

「少ないわね」

「本当に、当主と長男は関係無いのかもな」


貴族1家、それも現在当主が大統領を務める家を敵に回すのに、監視がこれだけというのは明らかに少ない。ワザとだとしても、おかしすぎた。


「それでこの先は良いとして、屋敷の裏の方はどうするのよ?」

「フリス、2つの商家の間にある宿屋の3階に1人、向かいの屋根の上に1人、少し奥の酒場の屋根裏に1人いるんだが、分かるか?」

「えっと……この3人だね。見つけたよ」

「なら、見失うなよ。ミリア、フリスの指示で殺れ」

「捕まえなくて良いのね?」

「証拠を掴むことが優先だ。早くしろよ」

「じゃあソラ君、頑張ってね」

「2人もな」


3人はそれぞれ分かれ、対処する。ソラの狙った2人は、路地裏に固まっていた。予備か何かだからなのかもしれない。


「ちっ、なんだってこんな所なんだよ。何もやれねぇじゃねえか」

「こらこら、ここならやることはほぼ無いんだぞ?楽できるじゃないか」

「受けた仕事が楽なのは良いんだけどな……暇だっつうの」

「なるほど、仕事か」

「ああ、こんなんじゃ、っ⁉︎」


火の付加をかけた薄刃陽炎を一閃し、首と胴を切り離す。肉の焼ける臭いがしたが、血が流れるよりは目立たないだろう。


「仕事ってことは、私兵とは違うのかもしれないな……こっちは終わったぞ」

『最後の1人にミリちゃんが向かったところだよ』

『今、殺したわ。火を使ったから、血は出てないわよ』

「それで良い。宿屋にいた奴は外に捨てたか?」

『ええ。近くの路地裏にね』

「なら、貧民街の近くで合流するぞ。場所は覚えてるな?」

『ええ、勿論よ』

『うん、大丈夫だよ』


そしてソラ達は貧民街近くの路地裏で合流し……出てきたのは、乞食(こじき)のような3人だった。

髪は黒・金・銀から茶・赤茶・灰色に変わっており、第一印象は別人だ。さらにボロボロの布を被って、武器等の装備も隠しているため、一目で見分けるのは厳しいだろう。

顔の輪郭や眼はそのままなので、正面から見れば分かるかもしれないが。


「やっぱり、目立っちゃってる?」

「ああ。視線が多いな……失敗したか」

「これは仕方ないわ。早く抜けましょう」


ただ、急に出てきた余所者は目立つ。ここはそういう場所だった。幸いなのは顔まで布で隠しているため、外からは男か女か分からないことか。


「ん?」

「どう、あれ?」

「どうしたのよ?」

「なんかね、変な集団がいるんだ」

「住民じゃなくて?」

「それにしては動きがおかしい……行ってみるぞ」


無駄足になるかもしれないが、見逃して後で後悔するよりは良い。ソラの案内のもと、そちらへ向かった。


「あ?なんだてめぇら」

「お、そっちの2人女じゃねえか」

「おい、仕事があんだろうが」

「どーせ時間はあるんだし、楽しんじまおうぜ」

「そーだそーだ」


その辺りにいる不良といった感じの連中は……


「関係者だな」

「な?あがっ……」


一刀の下に切り捨てられていった。大した時間がかかるはずもない。


「数だけだったわね」

「むしろあれで強い方がおかしいだろ。それにしても、雇われのチンピラ……雇ったのは闇ギルドか?」

「その可能性は高いと思うわ。それなら、屋敷を見張ってた相手も一緒かもしれないわよ」

「あっちは本物の構成員だろうけどな」


そのままソラ達は貧民街を歩いていく。特段広いわけでは無いので、すぐに抜けた。


「抜けたわね」

「一気に行くぞ」

「うん!」


そしてその瞬間に布を指輪にしまい、走り出す。髪の色も元どおりになる。

そして3人は屋根伝いに進み、ハプソーグ邸の向かいの建物の屋上まで来た。夜が明けるまでにはまだ時間がある。


「さて、どこにいるか……」

「意外と静かなんだね」

「いえフリス、あれは警戒してるってことだと思うわ」

「その通りだ。ここから見えない所に私兵が大量にいる。裏口のあたりは手薄だから、そこから行くぞ」

「分かった」


3人は慎重に反対側へ行き、警備の薄い裏口から侵入する。そして一気に屋根へ飛び、音を立てないように伝っていった。


「気付かれないものね」

「いきなり屋根の上に登られるなんて、想定していないんだろうな。練度が低いとも言えるが」

「わたし達と比べたらみんな低いよ?」

「そう言ったらお終いっと、この下みたいだな」


そして屋敷の中心あたり、中庭に面した場所に来ると、その下から言い争う声が聞こえてくる。3人は耳をすました。


「シュテルン!何てことをしやがった!」

「うるせぇ!甘っちょろいやり方しかできねぇ兄貴は黙ってろ!」

「気付かなかった我らも我らだが、バレては元も子もないだろう。お前がやりすぎたせいだぞ」

「親父も兄貴もやり方がぬるいんだよ!邪魔なら消すしかねぇじゃねぇか!」

「それで失敗したのはどこのどいつだ!」

「騎士団も来るという話だ。シュテルン、我が家としては、お前を差し出す他無い」

「……なら俺も黙ってねぇぞ。おい、お前達!」

「なっ⁉︎シュテルン、貴様!」

「この家は俺が動かす。甘っちょろいのは牢屋にでもいろ!」


本当に当主と長男は無関係のようだ。私兵か誰か武装した人が部屋に入り、拘束しようとしているらしい。この2人は武の側では無いようで、抵抗もほとんど意味を成していないようだった。


「……傍迷惑な馬鹿息子だな」

「そうね。早く掃除してあげましょう」

「いや、もう少し様子を見よう」

「何で?」

「この様子だと、他にも協力者がいそうだ」


しばらく待って物音が収まると、新たな声が聞こえる。どうやら後から部屋に入ってきたようだ。


「……なかなか手が早いですなぁ、シュテルン様」

「……何故失敗した。確実に殺れると言っていただろう」

「あの冒険者達のせいで予定が狂いましてな、突入する人数が減ってしまったのです。私兵達も何故か強く、計画は頓挫してしまったのですよ。次善の計画も、何故か阻止されてしまいました」

「ふん、英雄だかなんだか知らないが、ただの人だろう。薬を使えば良いのだ」

「その薬が効かなかったのです」

「何?」

「気付かれていたのでしょうな。冒険者なら解毒剤を入手できてもおかしくはありません」

「バレたお前達が悪いんだろ。闇ギルドの名が泣くぞ」

「そう言われては何も言えませんなぁ」


ここまで重要な会話をされて、どういう経緯か分からないほど鈍くは無い。


「やっぱり闇ギルドか」

「なんか、会うこと多いよね」

「犯罪集団だからな。こういうことには首を突っ込みたいんだろ。それに、闇ギルドってのは総称だしな」

「でも、そのせいで壊滅するのよ。それで、行くんでしょ?」

「ああ。さっさと終わらせるぞ」


そう言ってソラは屋根から飛び降りる。そして庭木の幹を蹴り、目的の部屋へ向かった。


「な、なん⁉︎」

「寝てろ」


そのまま窓から部屋に入って即刻次男の頭を揺らし、脳震盪を起こして倒す。闇ギルドの幹部らしき男……黒ローブの人物は扉のすぐそばにいた。


「……まさかいたとは思いませんでしたよ」

「さっきの会話も聞かせてもらった。観念するんだな」

「そうですね。ここまで掴まれては何も言い返せません」

「なら……」

「ですがねぇ!」


煙玉を使い、逃げ出そうとした。だが魔力探知を使えるソラとフリスには無意味であり、取り出す時間だけで十分だ。


「どうした?」

「なっ、扉が……」

「魔法を使える冒険者なら、結界くらいは使うだろ?」

「ちぃ!」

「駄目ね」

「遅いよ」


結界で部屋を覆われ、逃げ場が無くなる。そしてミリアに腹を蹴られ、フリスから雷撃を喰らい、何もできずに轟沈した。


「これで終わりね?」

「後は書類を探すだけだな。隠されたものも含めてだから、面倒だが」

「起こして案内させる?」

「あんなヒステリックになりそうなやつ、相手にする方が面倒だ。言った通り、神術を使う」


まあ、普通に尋問をする場所では無いので、その方が良いだろう。


「我が声を聞け。我が声に従え。我が声に命ぜられろ。我が名のもとに、心を差し出せ……」

「あっ、がっ……」


精神を乗っ取るなどというトンデモナイものでは無く、自白剤に近い使い方だ。ただし精神にかけていることは間違いなく、ソラの集中度合いは途轍もなく高い。

そして、かけられた側は酷い顔になっていた。顔の筋肉全てが弛緩したような状態、涙腺が緩んで涙が出、舌などが動かずヨダレも出ている。


「うわぁ……」

「酷い顔ね」

「さて、お前の犯罪の証拠はどこにある?」

「ぐ、が……金庫、3」

「金庫が3つ。どこだ?」

「執務室……机、本棚……床……」

「それで、金庫の開け方は?」

「それは、あがっ……ガアァァァ!!」

「うるさい!」


顎を蹴り飛ばして止める。舌は噛んでないし、首も無事だ。ただ、ソラも憔悴している。

そして、叫び声を上げられたのが悪かった。


「ソラ君、大丈夫?」

「はぁ、はぁ……やっぱり、人の精神ってのは複雑だ。もう少し入り込もうとしただけでも、負荷が大きい……ちっ」

『おい、今のなんだ!』

『執務室の方だぞ』

『急げ!シュテルン様に何かあったら俺達は終わりだ!』

「気付かれたみたいね。どうするのよ?」

「闇ギルドの構成員じゃないなら、ここでの人死にはマズい。できるだけ生かしておけ。骨折くらいなら問題無い」

「面倒だよね」

「それは言ってやるな」


騒ぎとなり、私兵が集まってきた。ただ、その直後に何事も無くなってしまう。私兵達は視認すらできなかったかもしれない。


「アーノルド家の私兵より弱いわね」

「うん。全然反応できてなかったね」

「次男の謀反に付き合ったのは野心ばかり大きな連中ってことか。恐らく、精鋭は牢屋にいるか、人質を取られて外にいるってところだろうな」

「計画性の無い人についていくなんて、とんだ大馬鹿ね」

「そう言ってやるな。聞いてるかもしれないだろ?」

「だからよ」


私兵を制圧したソラ達は、執務室にあるという金庫を探していた。何らかの特殊な隠し方をされていたようだが……片っ端から力技でどうにかしている。


「あったわよ」

「見つけたよ」

「こっちもだ。それじゃあ、騎士団が来る前に逃げるぞ」


そしてソラ達は朝靄の中、屋敷から逃げ去った。証拠は机の上にまとめて置いた状態で。








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